ザ・グレート・展開予測ショー

天使で悪魔な小生意気!/(終)


投稿者名:ロックハウンド
投稿日時:(03/ 9/13)


 朝食のメニューはいつもと変わらない。
 御飯に油揚げとワカメの味噌汁。卵焼きに海苔、お新香、梅干し、佃煮、昆布。
 今朝のメインはメザシにアジの開きである。食後の玄米茶の香りは特筆ものだ。
 いただきますの挨拶で食事が始まるのもいつもの事である。

 今日の話題は人界の面々。美神除霊事務所の面々から始まり、パピリオのホームステイに及んだ。
 曰く、今日から1週間、人界での滞在を許すというものである。
 それを聞いた時のパピリオの反応たるや、ロック・コンサートのグルーピーも遜色ないほどの騒ぎ様であった。
 BGMがあればその場で踊り出さんばかりの勢いである。

 すっかり気を良くしたパピリオであった。話題はいつのまにか修行内容から体を鍛える話へ、そして身体つきへと転じていた。
 理由は言わなかったが、かっこいい=ないすばでぃ、という思考経路を有するパピリオは将来のヴィジョンを語っていた。
 夢見がちな表情のパピリオに、懸命に笑いを堪える3人である。


 「んーと、そうでちゅねぇ・・・・・・。ないすばでぃになったら・・・・・・」


 綺麗な服を身に纏うのも良い。パンツ・ルックのスーツを着込んでドライヴとしゃれ込むのも良い。
 ウィンドウ・ショッピングに赴き、道行く人々を振り向かせられたら、結構楽しいかもしれない。
 でも、とりあえずの野望は、今のところたった一つだけだ。パピリオは自信に満ちた表情で、居並ぶ仲間達に告げた。


 「イケナイこと、してみたいでちゅねー♪」


 口に出したとたん、頬をピンク色に染め、とろけるような笑顔へと変化するパピリオである。
 が、小竜姫は湯飲みを落っことし、ヒャクメはメザシを吐き出し、ワルキューレは思わず箸をへし折ってしまった。
 ジークは呆気にとられており、老師は呵呵大笑するのみである。


 「な、な、何を言っているんですか、パピリオっ!?」

 「ほえ?」


 アジの開きを思いっきり頬張っていたパピリオは、小竜姫が赤面している理由など、既に念頭になかった。



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            天使で悪魔な小生意気!/余


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 「イケナイことって、そりゃーもちろん『デート』に決まってるじゃないでちゅか♪」


 一気に力が抜け、崩れ落ちる女性陣であった。
 ジークは淡々と空いた食器をまとめ、老師は口中で呟くように『アホ』とのたまっている。


 「まー、小竜姫も、ヒャクメも、ワルキューレも『きゅーと』な恋、するんでちゅね♪」


 食器を片付けながらパピリオは他意なくそう語った。見れば老師とジークも既に片付けへと入っている。


 「ごちそーさまでちたー! さーて、おでかけの準備準備ー♪」

 「ごちそうさん。さて、ジーク。ちょっくら肩揉みでもしてくれんかの」

 「は、少々お待ちを」


 畳の上でうごめく女性陣を尻目に、3人は思い思いの方向へと散っていった。


 「い、痛いトコ突かれちゃったのねー・・・・・・」

 「い、いいんですっ! 修行に色恋沙汰は無用なんです!」

 「・・・・・・因果な家業を選んだと言えばそれまでなんだが」

 「でも、こういう仕事やってると、異性と知り合う機会なんて滅多に無いのねー・・・・・・」

 「出会いかぁ・・・・・・改めて考えると、結構、私たちって不遇かも・・・・・・」

 「第一条件としては・・・・・・私より強い奴でなければ、絶対に許さん」

 「なに、父親みたいなこと言ってるのねー?」

 「不可能のような気がしますけど・・・・・・」

 「お前が言うな、小竜姫!」

 「強くて、一途で・・・・・・」

 「人を外見で判断しなくて、優しくて・・・・・・」

 「いざとなったら命を捨てることさえ厭わない・・・・・・」


 食事もそのままに、沈思黙考の境地に飛び込んでしまった三人の女神であった。


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 ♪ にゃにゃっと! キミの膝の上にいるように
 ♪ うにゃうにゃ! 甘えたっていいじゃないでちゅか
 ♪ それでもっ!  淑女(れでぃ)になるしかないんでちゅから
 ♪ だいじょーぶっ! わたちの場合はっ!


 歌を口ずさみながら、嬉々として旅行の準備を始めるパピリオである。
 お気に入りの小型革製トランクに最小限の荷を詰め込んでいく。
 衣類などは美神除霊事務所に保管されているし、お遊戯に必要なお小遣いも貰ってある。
 ないしょで老師からも新しいゲームを『密輸』するよう頼まれているし、手付金も既に懐の中である。

 着替えもいつも以上に気合が入っている。
 髪を櫛とブラシで梳かし、女の子向けのベレー帽を被り、似合いの角度を良く確かめる。
 服はお気に入りのノースリーブの白のブラウス、プリーツの入った藍色のミニスカートを手早く身に付ける。
 薄手のスエード製紺色ベストを羽織り、足元は黒のニーソックス。靴は艶めいた黒の光沢を放つローファー。
 一見して、実年齢よりはちょっと年上に見える女学生風のいでたちだが、少しばかりの背伸びはしてみたいお年頃なのだ。


 「よしっと! んじゃ、行ってきまーちゅ!」


 準備は万端。手荷物はトランク一つと小型のウエストポーチのみ。
 美神除霊事務所までは鬼門たちが車で送ってくれる。既に門前で待っているはずだ。
 部屋から勢いよく駆け出し、食堂の前を駆け抜ける。一同への挨拶は欠かさない。


 「あ、気をつけていくんですよ。美神さんたちによろしくね」

 「ほえ? あ、行ってらっしゃいなのねー」

 「ん? あ、ああ、気をつけてな」


 老師とジークは庭から声を掛けてきた。


 「気をつけて、パピリオ」

 「用心していくんじゃぞ、パピリオ。坊主にもよろしくな」


 機会があったらまた修行に来るよう、パピリオに横島への伝言を頼んだ老師である。
 年齢は17歳、GSとして成長期真っ只中の彼は鍛え甲斐があるように思われた。
 パピリオとしても横島と一緒にいられることは、何より嬉しい。老師の頼みに否やはなかった。


 「うん! ヨコシマにもちゃんと伝えるでちゅよ!」


 笑顔を残し、一目散に廊下を走り去るパピリオである。
 相変わらずの沈思黙考に浸っていた3人の女神は、パピリオの声に意識を揺らがされた。
 『ヨコシマ』という名に。

 スロットのように回転する思考は、一人の少年をモンタージュさながらに浮かび上がらせた。
 バンダナをつけ、へらへら笑いを浮かべた少年。
 神族、人、魔族、妖怪を問わず、まずは心の赴くままにスキンシップを試みる少年。
 かつて魔族の少女の為に、我が身を顧みず魔王に戦いを挑んだ少年。
 姓は横島、名は忠夫。彼女達の脳裏で三者三様ではあるが、彼のピンナップが展示されていた。


 「え・・・・・・・・・・え・・・・・・・・・・・ええええええっっっ!!??」

 「ま、まさかっ・・・・・・う、うそでしょっっ!!??」

 「ば、バカなっっ!!??」


 期せずして、同時に同様の思考ルーチンを辿ってしまった三人である。


 「あああああああああああああああああ!!!!!!」


 三人とも頭を抱え、部屋中を転がりまわっている。相当にショックだったようである。
 その悲鳴は外で日向ぼっこをし、ジークに肩揉みをさせている老師の耳にはっきりと届いた。無論ジークの耳にも。


 「姉たちは何を騒いでるんでしょうか、老師?」

 「放っておけい。自分の新たな価値観を発見でもしたんじゃろうて。若いうちにはよくあることよ」


 キセルを一吹かしすると老師は笑顔を浮かべ、青空のはるか彼方へと視線を投げかけながら、やけにしみじみと呟いた。


 「青春じゃ」


 老師の後姿を呆然と見やりつつも、ジークにはさっぱり理解できていなかった。
 理解できたところでまず信じられなかっただろう。
 あの姉が、男のことで心を乱されているなどとは想像の範疇を越えていたからである。

 建物へと目をやるジーク。相変わらず女性陣の慌てふためく声は響き渡っている。
 ジークは頭を振りつつ思いを馳せた。まだまだ自分には知らないことが山のようにあるなぁ、と。


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 ♪ キミに、カナしくって、ツ・ラ・イのが
 ♪ 気持ちよかったりなんかちたりちて♪


 「えらくご機嫌じゃな、パピリオ」

 「無論でちゅ。こんないい日はまたとありまちぇん」


 鼻歌交じりで喜色満面である。
 鬼門たちも可笑しげに顔を見合わせていたが、ふと思いついたように助手席に座る左の鬼門が質問した。


 「のう、右の。先ほど出立間際にな、小竜姫様たちの叫び声らしきものが聞こえたような気がしたのじゃが・・・・・・」

 「なに? いやワシはとんと気付かなんだが」

 「そうか。ワシの聞き間違いかのう・・・・・・?」

 「そうじゃろう。ワルキューレ殿や斉天大聖老師さまも居られるのじゃ。敵の入りようなんぞないわい」

 「うむ、きっと聞き間違いじゃな」

 「そうじゃそうじゃ」


 のんきな門番たちであった。
 一方、小竜姫たちの騒動の火種を巻いた張本人たるパピリオは、鬼門たちの話なぞてんで聞いていなかった。
 これから過ごす人界での日々に胸躍らせている。

 またシロやタマモと遊べる。おキヌの手料理が食べられる。美神とドライヴに行ける。
 そして・・・・・・横島と遊びに行ける。『デジャヴー・ランド』も『デジャヴー・シー』へも行けるかもしれない。
 パピリオは我知らず微笑んだ。わくわくと、どきどきが止まらない。


 「にゅふふふ。待ってるでちゅよ、ヨコシマ――っ!!」

 「わっ、し、静かにせんか、パピリオ! そんなに慌てずとも・・・・・・」


 突然の大声にハンドルを切り損ねる右の鬼門である。
 どこへ行こうと騒動の種を尽きさせない、天使の笑顔を持つ魔族で子悪魔的少女。
 それがパピリオであった。









                   おちまい

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