ザ・グレート・展開予測ショー

天使で悪魔な小生意気!/(2)


投稿者名:ロックハウンド
投稿日時:(03/ 9/13)


 「よく寝る子はよく育つっていいまちゅけど、こんな生活じゃ、わたちの『パピちゃん・ないすばでぃ計画』が台無しでちゅ」


 『早起きは三文の得』という諺にはまったく無視の方向を選択しているらしい。
 鬼門たちとの討論で、早々に門前での掃除を打ち切ったパピリオは、次の場所へと向かっていた。
 この面倒くさい労働を手早く終了させるためには、一刻も早く作業に取り掛かり、一見して綺麗に見せかける。それしかない。
 考えが前向きなのか後ろ向きなのかはともかくとして、次の担当区域である植物、池等が広がる庭園への門を目指す彼女である。

 一度、庭園で山の動物達や虫達と遊んでいたら、見回りにきた小竜姫に怒られてしまったことがあった。
 理屈はわかるが、憩いの一時を邪魔されたのは腹ただしかった。
 以来、どのようにして、小竜姫の監視の目をごまかすか、ということに楽しみを見出しているパピリオである。
 退屈な労働への見返りにはそのくらいの悪甘い楽しみがあってしかるべきだ。パピリオは切にそう思う。


 「まさか、『ぜんとゆーぼー』なこのわたちの発育を、小竜姫たちが邪魔しよーとしてるんじゃ!? こ、これは、要注意でちゅ」


 早起きへの愚痴は、小竜姫たちの陰謀説にまで及んだようである。
 ちなみに、パピリオの中では『ないすばでぃ』の価値判断としての順位(ランク)が存在している。
 出会った、もしくはデータ上の人たちを基準としたものであるが、自分としては大いに価値があると思うパピリオである。
 人間、魔族、神族を取り混ぜた彼女のランクの中で、小竜姫はベスト10の外に位置していた。
 成長途上にあるパピリオとしては、ベスト3以外の『ないすばでぃ』に興味はない。


 「まー、そんなことしても、わたちの勝利は確実でちゅのに・・・・・・。ふぅ、あわれな人たちでちゅ」


 哀れみの表情を浮かべ、溜息まで漏らす始末である。ただし口元は笑っているが。
 『人たち』というところから、その脳裏には小竜姫だけでなく、他の人物も思い浮かべているようである。


 「それにしても腹が立ちまちゅね・・・・・・・・・・・何で掃除なんか・・・・・・・」


 ようやく本題に戻ってきたらしく、あっという間にもとの仏頂面に戻ってしまった。
 庭園への門をくぐり、小島をつなぐ橋の上であくび交じりの背伸びをする。やはり眠気はまだ残っているようだ。


 「だいたい『ろーどーきじゅんほー』に反してるでちゅ。ああ、王子ちゃまはいつ来るんでちゅかね・・・・・・」

 「うふふふ、あなたがちっちゃいうちは無理かもねー」


 語尾を延ばす癖のある話し方は、パピリオもよく耳にしていた。そして、その話し手が誰かも知っていた。
 神族の少女、ヒャクメのものであることを。



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            天使で悪魔な小生意気!/続


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 ヒャクメへと投げかけるパピリオの視線はあっさりとしたものだった。
 あ、そういえばこんな人いたなぁ、という感じが一番近いだろう。
 これでも努力して、投げかけられた台詞を気にしてないように見せかけているのである。
 『ちっちゃい』と言われた事が、さすがに腹に据えかねたようだ。だから、パピリオからの返答もひねくれたものとなった。


 「おはよーでちゅ、ペス」

 「おはよー・・・・・・って、い、いーかげんにヒャクメって呼んで欲しいのねー・・・・・・」


 しょぼんとして肩を落とすヒャクメである。
 かつてヒャクメは、アシュタロス戦役の際に囚われの身となったことがあった。
 捕らえたのはパピリオであったが、もともと動物収集癖があった彼女は、躊躇せずヒャクメを檻に放り込み『ペス』と名付けた。
 その後、横島も捕らえられ、二人ともども虜囚となったことも、今となっては懐かしい・・・・・・のは、パピリオだけだが。

 ヒャクメとしては、いいかげんにずっと本名で呼んでほしいところである。
 小竜姫から聞いたところでは、横島はすでに本名で呼ばれているとの事だそうだ。
 なのに、なぜ自分はいまだに、時々ではあるがペス呼ばわりされるのだろう、とは本人ならずとも思うところであった。

 とはいえ、基本的に2人の仲が悪いかといえばそうではない。むしろ良い方であり、会話にも花が咲くことが多かった。
 内容は主に、恋愛ごとだの、人界のトレンディー・ドラマだの、好きな雑誌のネタだの、似たもの同士といえる二人である。
 今日も今日とて、初っ端はやや気まずい始まりであったが、話題が結婚に移るにつれて互いの表情に笑顔が広がっていった。
 このまま和やかな空気に包まれて終わりかと思いきや、そうはならなかった。いつものことではあるが。


 「小竜姫やヒャクメの例もあるでちゅから、早めにお嫁に行ったほうが得だと思うワケでちゅよ、わたちは」

 「・・・・・・なにが、言いたいのー?」

 「ムゴいことは言いまちぇん。でも、まー、パピリオには『よゆー』があることは確かでちゅよね」

 「わーん、パピリオのいじわるー! 小竜姫に報告してやるのねー!」


 土煙を上げつつ走り去るヒャクメである。
 心なしか、『どちくしょーっ』という叫び声が聞こえたような気もするが、きっぱりと無視である。
 気にしている暇はない。さっさと掃除を終わらせなくてはならないのだ。と、あくまでクールなパピリオであった。


 「ないすばでぃに同情なんてしないでちゅよーだ」


 あかんべーをヒャクメに投げかけるパピリオである。やはりと言うべきか、ナイスバディがここにも関係していた。
 パピリオの価値観に巻き込まれたヒャクメこそ被害者と言うべきだが、パピリオとしては口喧嘩だろうと勝てば官軍であった。

 ちなみに、パピリオにとってないすばでぃは胸の大きさだけではない。トータル的なバランスこそが重要なのである。
 そんな『パピリオ・ないすばでぃ・ランク』内において、ヒャクメは堂々たる第3位にランクインしていたのだ。
 ゆえに彼女に『ちっちゃい』呼ばわりされれば、ウラミ、ツラミにニクシミもひとしお増そうというものである。
 微妙なお年頃のパピリオであった。


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 妙神山の面々は知りようもなかったが、斯様なまでに、パピリオがナイスバディに固執するわけは、前回の人界旅行にあった。
 犬塚シロに対して、密かにほのかな対抗心が芽生えてしまったのである。

 過日、人界に赴いた折に、パピリオ、おキヌ、シロ、タマモ、横島の5人でショッピング・モールへ出向いたことがあった。
 真夏の暑い最中、横島を荷物持ちとし、女性用のカジュアル・ウェアを求めてフロアをさまよう一行。
 嬉々として衣類を物色するタマモとパピリオをよそに、シロとおキヌは下着談議に花を咲かせていたものである。
 横島は離れたところで一人荷物番をしながら、フロアに設置された冷房に当たって、呆けた顔で涼んでいた。

 だが、そんな和やかな雰囲気も長くは続かなかった。
 シロの一言がタマモとパピリオ、そしておキヌの微笑みを強張らせてしまったからである。


 『最近、なんだかTシャツの胸の辺りとか、ジーンズのお尻の部分とかが、少し苦しくなってきたんでござるよ』


 天地を揺るがす落雷の轟音が確かに聞こえた。
 脳内だけの出来事だと言われても、そのときの彼女達には認識できなかったかもしれない。
 おキヌ、タマモ、パピリオの3人ともども、丸まった目と口が埴輪同然であった。
 また、おキヌはともかく、あれほどの驚愕と嫉視を見せたタマモの姿を、パピリオはそれまで見たことがなかった。
 横島がいぶかしんで、首をひねりつつこっちを眺めやっていたのを目の端で捕らえていたことは覚えている。

 以来、パピリオは帰山してからも、こっそりと情報収集とトレーニングに勤しんでいた。
 箪笥の引出しの奥には、人界から持ち帰った一冊のハウツー本が大事に収められている。
 タイトルは『必見必勝!! 〜嗚呼、これでわたしもキレイになれる!〜 疾風怒濤の美容法・幼稚園児から淑女まで』。
 定価2.300円と高価であったが、横島を拝み倒して財布になってもらった。


 『お前なー、貧乏にたかってどうすんだよ。小竜姫さまに小遣いもらってきたんだろ?』

 『オトメゴコロがわーっかんないヤツでちゅねー、相変わらず』

 『なんかわからんけど、ただ、たかっとるよーにしか見えんのだが・・・・・・?』


 憎まれ口を利きつつも、若干心が痛まないでもなかったが、これも『先行投資』ということで我慢してもらおうと考えている。
 女が綺麗になるのは、好きな相手のため。ならば男は女のためにせっせと貢ぐべきである、とおキヌと美神が話していた覚えがある。
 ちなみにこの格言の前半はおキヌ、後半が美神の言であったことは言うまでもない。
 内容の真偽の程はともかくとして、まぁ、これも情報のうちと、パピリオはしっかと記憶した。


 「やるでちゅ、やってやるでちゅ! シロにも、誰にも! ぜったいぜったい、ぜーったい負けないでちゅからねぇっ!」


 切実な思いのこもった叫びであった。
 魔族にも思春期というものがあるかどうかは不明だが、やはりお年頃の悩みは存在するようである。
 思い返すうちに彼女の身の内に宿った炎が再び再燃してきたらしい。
 爛々と目の輝くさまが半端ではない。


 「パピリオっ! ごー・ふぁいと・うぃん!!」


 身体は小さくとも、気宇は壮大。
 今日も箒を片手に握り締め、崖の上から朝日に向かって、パピリオは誓いの雄叫びを上げるのであった。
 ただ、どう例えても、虎やライオンというよりは、子猫の雄叫びではあったが。


 「パピリオ、朝御飯が出来ましたよー」


 小竜姫の穏やかな声が響く。
 少女の熱い思いとは裏腹に、今日も妙神山は穏やかな一日を迎えようとしていた。









                     続く

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