ザ・グレート・展開予測ショー

おだまり。


投稿者名:みみかき
投稿日時:(03/ 9/ 7)


 ちゃんっちゃちゃら〜♪(BGM)
 注>この作品はhazuki嬢の「ひだまり。」のオマージュ作品のつもりですが
 あまり出来が良くありませんので、広いこころでお読みください(笑)。


 諦めきれない想いがある。
 たとえ誰かが泣いたとしても。
 だって、人のこころだけはどうしようもないのだから。




 空気が澄み始めて、空も高くなってきたけど
 まだ夏が残した風は、ゆうらりと膝元に纏わりついていた。
 下校のチャイムが鳴ると、わたわた帰宅部の部員は校門から雪崩れてきた。
 その校門の脇に、少し前の型の、空色の見覚えがある車を少女は見つけた。

 「ヘイっ、かぁのじょ!俺とドライブしない?」
 二十歳前後の眼鏡をかけた青年がへらへら笑っている。
 去年の秋あたりから、横島は少し視力が下がったので眼鏡をかけだした。
 本人は、親父に似るとイヤだと抵抗していたのだが。
 まあ、本人の希望はともかく、彼の周囲の人間は、彼が濃く父親の遺伝子を継いでいる事を
 これで再確認したのだが。

 ふう、と息を吐き出してナビのドアを開けると
 タマモはさも当然のようにシートに掛けた。
 「お客さん、どこいきましょ?」
 「別にいいわ、どこでも」
 右のウィンカーを鳴らして、横島はとりあえず流しながら目的地を考える事にした。
 「暑ぅ〜い。この車クーラー無いの?」
 「あるけど、入れるとエンストすんの」
 「ダサぁ。ホント貧乏なんだから」
 「文句は美神さんに言って。自然の風があるだろーが」
 「髪の毛バサバサになるからヤ!」
 横島はタマモの学校に来る前にコンビニで飲み物を買った事を思い出して
 ダッシュボードから缶をふたつ取り出し、一つをタマモに渡した。
 「ヌるいじゃない、これ」
 タブを上げる前に不満を鳴らした。
 いつも聞きなれた理不尽大王さまのお言葉を聞き流しながら
 話をどうやって切り出そうかと横島は考えていた。
 高速に乗ると、僅かに開けた窓から勢いよく空気が入ってきた。
 コンクリートや煤煙の嫌なにおい
 林の優しい涼しさや夕焼けのぬくもりが、交互に不規則に入ってきた。

 舌をお茶で湿らすと、タマモが視線を前方に向けたまま訊いてきた。
 「シロのことでしょ?ききたい事は」
 横島は自分の決断の遅さに内心舌打ちをした。
 当然タマモは自分が何のために呼び出したか理解っているのに。
 「うん」
 やはり運転に集中しているふりをしながら、横島は答えた。
 それでも、横島はどういう風に訊き出したらいいのかわからない。
 「心身共に健康そのもの。3度のメシもドコに収まってるのかわかんないくらい食べてる。
 声もデカいし、バカみたいに笑ってるし。アレ一回献血車で血と一緒に元気も抜いた方が
 少しはマトモな女になるんじゃない?」
 横島は黙って運転している。
 ちらりと右に振りかぶって車線を変えた。
 「でも……、ききたいのはそんな事じゃないんでしょ?」
 僅かな沈黙が車内を包む。
 タマモが2口ほどお茶をすすると、ようやく横島が口を開いた。
 「あいつが落ち込んでいても、俺に出来ることは何もないんだ」
 「落ち込んでないと、本当に思ってる?」
 タマモが制服のボタンをくりくりといじりながら尋ねる。
 少し声が低く聞えた。
 「いんや。俺の前でも泣いてたから。あいつは泣かないつもりだったんだろうけど」
 「元気にならないと、やってらんないんでしょ?一生懸命カラ元気出してる。
 まあ、周りは助かるけど。痛々しくてもどんよりしてるよりかマシだわ」
 「あいつ演技力ないからなぁ」
 車が夕方の渋滞に掴まりだした。
 遠くに行き過ぎてもしょうがないので、高速から下りる事にした。

 「ひょっとして、悪いことしたとか想ってる?」
 ハザードを点けたまま、車を海に懸かる橋の中ほどで停めている。
 ラジオを点けようかとも思ったが、タマモが勝手に消すんだろうし、きっと五月蝿いだけだ。
 「いや。いつかは言わなくちゃいけない事だし、シロをそこまで馬鹿にしたくない」

 シロだって理解ってた。
 それを横島もタマモも、美神も彼らの回りも理解ってた。
 もうシロの番までは回らない。
 何より横島のシロへの気持ちは、おそらくはシロのそれとは違う。
 例え誰かが自分を想っていてくれても、美神が欲しかった。
 欲しくてたまらなかった。
 そりゃシロだって愛しい。抱きしめたいし、髪だって撫でたい。
 でも美神のそれとは違う。
 人生が丸ごと持っていかれるような、命が溶けてしまうような
 その自分の感覚さえ、相手に要求したいエゴイズム。
 それが横島を圧倒している。
 その気持ちを否定したくなんかない。
 そう、だからこそ
 自分にその気持ちを持ち続けてる可愛いシロに
 見下ろした結果は出したくなかった。
 彼女は単純で率直で熱くて、誇り高い。
 だから、彼女が決着を求めてきたとき、自分と彼女の気持ちにちゃんと対決した。
 納得もした、つもりだった。
 俺を押し倒して、顔を舐めていたあの頃じゃないんだから。

 「シロと逢ってないんだ、あんた」
 別に責めている訳じゃない。
 でも、少しちくんとした。
 ハンドルに両手でしがみ付いていた。
 「悪いとは思っている」
 「あんただってシロだって、今は時間と距離がいるんじゃない?
 気持ち悪いわよ。引きつって変な挨拶なんかしそうだもの、今逢ったら」
 横島は顔を上げない。
 「でも辛いんだよ。腹括ったつもりなのに。犠牲にしても仕方ないって想ったのに。
 今でもあいつ側に置きたい、守りたいって。調子良すぎるよ、実際」
 「なるようにしか、ならない」
 お茶を飲み干したらしく、空になった缶をくるくると弄んでいる。
 「シロだってわかっていた。そこに気持ちを整理しただけ。
 あんたたちが互いを切りたくないんなら、勝手に戻るわよ」
 ハンドルに縋っている横島に顔を向けて、タマモが打ち明ける。
 「あんたら、馬鹿なんだから。そう思う」
 タマモはしばらく、横島の背中を眺めて待っていた。

 横島が顔を上げてタマモの方を向いた。
 その横島の眼をみつめて、タマモは少しだけ息を吸い込んだ。
 それでも顔をそらさないでいると、横島はサイドシートに左手をついて重心を預けた。
 その、むずかゆい微笑が近づくと、右手でタマモの豊かな金髪を包む。
 シートの裾をぎゅっとタマモは握っていた。
 怒りではなく、恥ずかしさからではない、何かから耐えるために。
 その横島の手は掻き回すでなく、金毛を挟むように地肌を指の腹で撫でている。
 頭から伝わる温もりに、おもわず眼をつむってしまった。
 まるで仔犬じゃないか。
 首の力が抜けていくのを感じて、タマモは想った。

 しばらく好き勝手にに髪を絡めていると、タマモが両手で横島の手を止めた。
 すごく細い指なんだな、と思う。
 陽が落ちて暗くなった車内で、タマモの印象の強い瞳が覗き込んでいる。
 横島が何か言おうとする前に、細く静かな声は尋ねてきた。
 「ねえ………」
 宝石のような艶やかな唇から紡ぎ出される言葉。


 「もう美神さんとは、シたの?」


 ぶうぅぅぅーーーっ!!
 「ああっもう、汚いわねぇ!!」
 「いきなり訊くなあぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
 「だって美神さんにはちゃんと言ったんでしょ?結果を訊いただけじゃん!」
 「ストレートすぎじゃっ!もうちょっと、こう……」
 「あ、でもいいわ。今のでわかったから。あんたどーせ嘘つくようにできてないもの」
 真っ赤になって頭をかきむしる横島。
 「くあああああっ、えーやないか!二人とも大人なんやから!
 大体、そんな事訊いてどーするんや!」
 「どーもしない。少女の好奇心よ。おめでとさん。んで、どーだったの?(はぁと)」
 今度はガンガンとハンドルに頭をぶつける横島。
 その度にクラクションが鳴っていた。


 「さてと」
 事務所の車庫でエンジンを止める。
 まだタマモとシロはここに住んでいる。
 ヘッドライトの反射する中、タマモがドアを開ける。
 ふわっと風が車庫になだれ込んできた。
 タマモの制服と美しい金髪を躍らせた。
 「タマモ、お前パンツ地味だな」
 まだシートに座ってた横島にはありがたいモノが拝めたみたいだ。
 一瞬裾を抑えたタマモは、上目使いで横島を睨むと
 「大丈夫よ、あんたずっとセクハラ男なんだからっ」
 押さえてたスカートをまた翻して、タマモは玄関へと駈けて行く。
 横島は暫く彼女が走っていった跡を見つめていた。
 キン、キンとエンジンが冷えていく度に囁いている。

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