ザ・グレート・展開予測ショー

あおぞら。


投稿者名:hazuki
投稿日時:(03/ 9/ 4)

息が止まるほどの、苦しさなんてしらなかった。

ぽつんっと最後の一滴が雨が地面へと滑り落ちる。
そして残るのは、アスファルトにたまる水溜りと、その空気。
雨のあとに現れる、汚れをすべて洗いながしたような独特の空気。
涼やかで、そしてどこか心地よいわずかな─時間。
雨雲のあとに出てくる青空も清々しい。


だがその、清々しいといえる時間は僅かしかなく、すこしの時間がたてば直ぐに元のうだるような熱さを感じる。


ほんのすこしの時間の、もの。



「……ふつー降るかあ…このタイミングで」

その呆れたような声で横島。
全身びしょ濡れになり、手にはもっていたであろう、花束をも濡らしながらの言葉である。
東の空はまだ青々としているが、西の空は少しづつ赤くなっていっている。


「いやまあ…らしいといえばらしいけどな」


ちなみに、今横島がいるのはすこしばかり、見晴らしのよい丘である。


今日は、特別な日というわけではない。
なんでもない、普通の日で。
いつものとおり仕事にいって、学校にいって─
そんな中にふと、その丘にきたのだ。

ひどく見晴らしがいいその場所は、密かに横島は気に入っていて。
─いつか『彼女』にも教えたかった。
場所。
教える事ができなくなってから、くる事はなくなっていたけれども、それでも
見たいなあ、と思ったのだ。
この景色を、彼女と。


もういない、そんなことは分かっているけれども。




強く、そのひとがいないことを意識するのはこんな時だ。
『そのひと』としたいことを、ふと日常のなかに織り込んでいるとき。
当然のように、できると─できるはずもないのに、無意識のうちに考える。
そして出来ないと、そのひとがいないと、その度に、思い知らされる。
それと同時にぎゅっと、心臓がつよく痛むのだ。
慣れることない痛みが、襲う。

呼吸すらままならない、痛み。


失う─ということはこおゆうことかもしれない。
こころに、消えることない、穴をほがされるようなもの。

そのひとからもらった、あたたかいものと切ないほどの悲しみ。

そのひとと出会えなければよかった等と、思えないけど。
それでも耐える事が難しい痛みが襲う。



「たいがい、往生際がわるいんかなあ…俺も」
横島は濡れた草のうえに腰を下ろし、よこに花束をおきひとりごちる。



花束をおくることも、この景色をみることもなかったひと。




誰におくるともない、花束と誰に教えるともしない場所。
送りたいひとは、教えたいひとは、もういない。



「やっぱ早すぎだよ…ルシオラ」

横島はひっそりとそう呟き、ゆったりとその空をみた。
青い空に紺色の帳が落ちるまでずっと─

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