ひのめ奮闘記外伝U(最終話(B))
投稿者名:ユタ
投稿日時:(03/ 8/30)
(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・う・・・・・そ・・・・・これで私って最後・・・・・・?・・・・)
グングンと遠ざかる展望台と赤い空。
自分の体を叩きつける風を感じながら心で呟いた。
(・・・・・まぬけじゃすまないなぁ・・・・・はは・・・・何か・・・・)
こんなとき気絶できたら楽だろうなと思いながら蛍は静かに目を閉じた。
暗黒の闇の中・・・・様々映像が浮かんでくる。
一般的に走馬灯を呼ばれるその映像に蛍はしばし酔いしれた。
物心ついたときからの楽しい思い出、悲しい思い出・・・・家族で笑い、怒られ、友人と遊び、ケンカもして・・・
およそ普通の少女として送ってきた1コマ1コマが瞬時に描かれる・・・・
そして、それを見終わった瞬間、頭に浮かぶのは・・・・死の恐怖。
(・・・・・・・・・・いや・・・・・・・・・死にたくない!終わりたくない!生きていてたい!・・・・・まだ・・・・みんなと一緒にいたい!!)
瞑った目からポロポロと流れた雫が風に流される。
温かい涙・・・生きているという証、それがもう数秒後には死の雫に変わろうかとしたそのとき!
ギュっ!!
「!!?」
蛍の体が何か抱きしめられガクっと止まった。
いきなり落下速度が0になったせいで一瞬息苦しさを感じたが何が起こったかと薄っすら目を開けていく・・・・
「・・・ま・・・ママ」
「ぐっ!・・・・蛍・・・無事ね?」
自分を左手で抱きしめる母の姿に蛍は目を丸くする。
そう、令子は蛍がバランスを崩したのを見た瞬間駆けつけほぼ同時に屋上からダイブしたのだった。
なら、どうして蛍を抱きしめ空中で停止していられるかというと・・・
「・・・・・・・・じ、神通鞭!!!?」
そう令子の右手の神通棍から発せられた霊力の鞭、それが二人を支えていた。
どこに巻きつけてあるかは分からない、ただ上空に見える屋上までその鞭は延びているのだった。
スキーのストックのように『輪っか』がついているおかげもあって何とか持ちこたえてはいるが令子の表情を見る限りは長く持ちそうにない。
「・・・・ママ」
「下を見るんじゃないわよ!!」
霊力と体力と握力を急激に消費している令子は顔を歪めながら蛍に叫んだ。
「もう・・・・いいよ・・・・私・・・・」
「あんた!もう一度言ったら頭突きするわよ!!
蛍!あんたの命が自分だけのものだとでも思ってるの!?
あんたがいなくってどれだけの人が悲しむと思ってんの!?
横島蛍は・・・・・・世界に一人しかいない!ママの蛍は世界に一人しかいないのよっ!」
「・・・」
「何があっても助ける!どんことをしてもッ!!」
「・・・・・・・・・・・・・ママ」
その瞬間令子の心の声・・・・・・・いや、気持ちが蛍の心へ流れ込んでくる。
────命に変えても助ける
────ルシオラの生まれ変わりでもそうでなくても大切な自分の娘
────命をかけて産んだ娘
そして・・・
そんな娘に拒否されたという悲しい感情・・・
「・・・・あ・・・」
ここで蛍は自分が先程言った言葉を激しく後悔した。
自分だけが悲劇だと思っていた・・・でもママだってずっと不安だった・・・
生まれてくる子供をパパが本当に子供として見れるのか、そんな夫を支えていけるのか・・・
いっつも不安でそれでも立派に妻としても女としても母としても苦労してこなして・・・
それなのに・・・・
「・・・・・・・・・・・・・・・ママ・・・・・・・・ごめんなさい・・・・」
「小遣い3か月減給で許してあげるわ」
「いいっ!?」
「じゃあ、あとは私達の大好きなパパが助けてくれるよう祈るわよ」
「くす、うん!」
絶望的な状況でかわされる母娘の会話に心からの笑顔をこぼす二人だった。
■
「と、父ちゃん」
「お父さん・・・・・」
不安そうな忠志と令花の声・・・蛍と令子が屋上から飛び降りたという生涯忘れぬ状況に困惑している・・・のもあるが、
屋上は屋上でえらいことになっていた。
「ぐ・・・ったく・・・令子の奴えらい方法取りやがって・・・・」
毒づいた横島の額から脂汗がにじむ。
くいしばった歯がギリギリとなり、踏ん張った両足がプルプルと震える・・・そして、
────神通鞭が巻きついた両手、両腕からはスーツが破れ出血していた。
飛び降りる瞬間巻きつけるものがないと悟った令子は、
同じく蛍のもとへ駆けつけようとした横島にアイコンタクトを送ると神通鞭をいきなり夫へ巻きつけたのだ。
ただ、二人分の体重を支えるため当然出力は増大する、普通の人間なら腕が輪切りになってるところだが、
横島はそうならないよう、それでいて防御力を高めて神通鞭を弾かない程度の霊力を腕に廻したがそれでも微妙な調整までは出来ず腕は傷ついた。
しかし、そのくらいですむのは『文珠』という制御にの難しい能力を持つ横島ゆえだろう。
(・・・・・とはいえ、このままじゃ動くことも出来ん・・・一歩でも動いたら一気に持っていかれそうだ・・・)
先程からどうやって二人を助けようかとプランを立てるがそれも今の状況からでは難しい。
下手すれば一瞬で妻と娘を失うことになる、そんな焦燥がさらに横島の頭を混乱させる。
(くそっ!落ち着け・・・・こういうときこそ冷静になれ・・・・掌をふさがれた今の状況じゃ文珠は使えん・・・
かと言って救援も見込めない以上文珠しか・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・、そうか!!?)
横島は何かを思いつくと心配そうに自分を見つめる忠志と令花のほうへ振り向いた。
「忠志!令花!よく聞け!」
いきなり名を呼ばれ戸惑う息子と娘を見つめながら横島は指示を出す。
「今父ちゃんの上着の右ポケットに文珠が二つ入ってる!それを取り出して一個ずつ持つんだ!!」
忠志と令花は父の指示通りに動くと取り出した文珠を握り次の父の言葉を待った。
「よし!次に忠志は『転』、令花は『移』という文字を思い浮かべながらギュっと握ってみろ!」
「え〜と・・・」
「えい!」
二人が文字を思い浮かべ握るとキィィィンという甲高い音と共に文珠が輝きだす。
ちゃんと文珠にも指示された通りの文字が・・・浮かんでない。
「お兄ちゃん・・・・それ『転』じゃなくて『軽』になってる」
「うえっ!あれ・・・え〜と・・・」
「もう!『車』って書いてその横に『ニ』と『ム』でしょ!?」
「いや〜、俺漢字苦手でさ〜〜」
小学3年生の妹に漢字を教えてもらう小学6年生の忠志。
漢字が分からないと使えないのは文珠の意外な弱点だった。
「忠志・・・お前帰ったら漢字ドリル3pやれよ」
「いや!ちょっと待って!ほら、次は何すればいいの?父ちゃん!?」
必死にごまかしながら次の指示を求める忠志。
取りあえず今のことは母親にはバレないゆおにしなければ強く思いながら父を見る。
その表情は神通鞭が巻きついてる苦痛だけじゃない、何か辛い覚悟を決めて苦しんでる顔だった。
「・・・・いいか・・・次は・・・」
「「・・・・・・・・・・・・・」」
「どっちかが文珠を持ったまま母ちゃんか姉ちゃん触れてくるんだ・・・」
「へ?」
「それって・・・・・もしかして・・・・」
一瞬父が何を言っているかよく理解できずにいた二人だがそれを助けるように横島が続ける。
「ああ・・・飛び降りてくるってことだ・・・」
「「!!!?」」
「いいか、文珠『転』『移』を同時発動すればどちらかを到着定点にして移動することが出来る。
つまりどっちかがここに残って到着点を作り、もう一個の文珠で移動する・・・・・・・、今はこれしかない・・・・」
父の言葉にシーンと沈黙する二人。
当然と言えば当然の策だが、下手すれば死にかねない策。
横島だって本当はそんな危険なことをさせたくない、しかし自分がこの場から動けない以上二人にまかせるしかないのだ。
(・・・マジかよ・・・そりゃあそれしかないかも知れないけど・・・・・下手すりゃ・・・・でも・・・だけど・・・死にたくねぇ・・・こえぇよ・・・)
実際死ぬかもしれないということを目の前にして恐怖に縛られる忠志。
母や姉を助けるためとは言え小学6年生には相当キツいプレッシャーがかかるのは当然だろう。
こういうときに限って『あれもやっておいて、アレもしておけばよかった』と後悔するのは人の性(さが)。
そのとき・・・
「令花が・・・・・行く・・・」
「なっ!?」
忠志は妹の当然の発言に目を丸くする。
「バカ!令花!死ぬかもしれねーんだぞ!」
「分かってるよ!令花だって恐いよ!でも・・・・・・・でもお母さんや蛍お姉ちゃんにも死んで欲しくないもん!!」
「・・・・あ」
ポロポロ涙を流し体を震わせる令花に忠志は何も言えなくなる。
それと同時に忠志は自分がとてつもなく格好悪く思えた、年下の妹が決意を固めたのにと。
「じゃあ・・・・行ってく・・・」
ガっ・・・
歩みだそうとした令花の肩をつかんだ手・・・・それは・・・・。
「バ〜カ、妹が兄よりでしゃばんなよ・・・こういうおいしい役は兄ちゃんにまかせとけっつーの!」
「お兄ちゃん・・・・」
ニカっと笑ってみせる兄・・・・でも本当は恐くてたまらないのが自分を掴んだ手の震えから分かる。
それでも・・・・いつも自分にいじわるしてばかりの兄だけどこういうとき頼りになるから大好きなんだと思う令花だった。
「父ちゃん・・・・・・・・・上手くいくよな・・・」
「・・・・・・・・・・・・・あったりまえだろーが!お前は俺の息子なんだぜ」
「それが不安だけど・・・、まあいいや行って来るわ!」
ピっと親指を立てて展望台屋上淵まで歩んでいく忠志・・・
ヒュオオオオオオオオオオ!!!
そぉっと頭を出して下を見てみる。
地上150m・・・もう少し強い風が吹けばすぐにでも落ちそうな位置に立ちながら忠志は二人を確認する。
風に揺られながら命綱といえるべき神通棍を握りながら令子と蛍がぶら下がっている。
時間的にも令子の体力が尽きるのはもうまもなくだろう。
「やっぱこえぇ・・・」
ガクガクと震える足・・・もはや自分がちゃんと立っているかも分からない感覚に襲われる。
でも・・・・今二人を助けるのは自分しかいない!!
そう決意を固めギュッと文珠を持つ右手を握り締め・・・・・・・・・・・・・・・・・飛んだ!!
「うああああああああああああああああああああ!!!!!!!」
最終話(C)に続く
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