ひのめ奮闘記外伝U(最終話(A))
投稿者名:ユタ
投稿日時:(03/ 8/30)
夕陽は赤く、紅く、赫く大都会東京を染めていく。
そしてその真紅の世界に照らされていく人工の光。
まるでエッセンスのように照らされる光。
あと数時間もすればその光が闇の中で輝き、万人を感動させるのだろう・・・
蛍はときおり聞こえる風鳴りに耳を澄ましながらそう思った。
────────東京タワー・展望台屋上に座りながら。
■
カンカンカンカン・・・
金属の階段を駆ける音、一人、二人、三人、四人。
言わずと知れた横島、令子、忠志、令花の4人だった。
かなりの早さで階段を上っているため令花が少し遅れがちだが、
ときおり忠志がそれを手助けしなんとか置いてかれないようにしていた。
そして・・・
ギィッ────
先頭の横島が乱暴に屋上のドアを開けると強風が4人を襲う。
横島達は風の強さに少し目を細めながら探し人・・・横島蛍を探す。
取りあえず、忠志と令花をその場に残し付近を捜索する横島と令子。
もしかしたらこんな所にはいないのかも・・・そう思ったときだった・・・。
「蛍!?」
夕陽に照らされたその後姿に横島は思わず声をあげた。
その声に気づいたのだろう、蛍は少しだけ肩を上げるとゆっくりと立ち上がり横島達のほうへ振り向いた。
「・・・・・パパ・・・、やっぱりここだって分かったんだ」
「あ、ああ・・・」
横島は蛍の無機質な声に思わず戸惑ってしまう。
ここまでの経緯、読心能力とアシュタロス事件を蛍が読んだことは令子や忠志から聞いている、
しかし別れたのは2、3時間前なのにまるで別人のような娘の様子に思わずゾクっとしてしまうのだった。
「パパ・・・・私が何でここに来たと思う・・・?」
「・・・・それは・・・」
「前世がルシオラだから?パパとルシオラの思い出場所だから?ルシオラの死に場所だから?」
蛍は少女に似つかわしくない微笑を浮かべながら言った。
「勘違いしないでよ・・・・・・・・・別に東京タワーだからって、夕陽だからって別に何とも思わないわよ・・・
ここに来たのだってファイルに挟まってたパパの手記を見て知ったんだから。
私は・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・────ルシオラじゃないんだから」
冷たく何事も拒否する蛍の目。蛍の精一杯の嫌味、心からの皮肉。
「蛍・・・・お前・・・」
いろいろ語るべきことがあるはずなのにいざとなると言葉がなぜか出ない。
今の蛍に自分の言葉が本当に届くのか?さらに蛍を追い詰めてしまうのではないのか?
逆に自分が追い詰められたような感覚に陥ったとき・・・
ガンッ!!
横島の頭部に激痛が走った。
「あんたね!難しいこと考えないで思ったこと言やあいいのよ!ったく」
「あいつつ・・・」
妻の強烈な拳骨と言葉に目から火花を飛ばしながらも不思議と混乱した頭がスッキリしたような気がした。
横島は後頭部をなでながらゆっくりと蛍の目の前まで歩む。
「・・・・・蛍・・お前はさ・・・・ルシオラ────」
「聞きたくない!!!」
「!!?」
いきなり出だしを挫く蛍の声に横島は思わず目を丸くする。
「・・・・・・・・・・・私・・・恐いよ・・・・
今、私が思ってることも・・・、何かを好きになるって感情も・・・・、誰かを想う気持ちも・・・
全部ルシオラのものじゃないかって・・・。
・・・違う・・・
そんなことないって自分に言い聞かせるけど・・・・やっぱり自分はルシオラじゃないかって・・・
きっと・・・パパ達もそう思ってるんだよね・・・・」
「違う!俺たちは!」
「だったら!!私のアルバムを見たときに何で『ルシオラ』って言ったのよ!!?
どうせ・・・私のことルシオラの代用品とでも思ってるからじゃないのッ!!?」
「それは!」
「蛍!いいかげんにしなさい!本当にパパが・・・ママたちがアンタのことルシオラとして見てるとでも思ってるの!?」
「うるさいっ!どうせ・・・どうせマ・・・・
あんただって私のこと生まれてこないほうがよかったと思ってるくせに!
生まなきゃよかったと思ってるくせいにッ!!」
パンッ!────
乾いた音・・・頬を叩かれたことを蛍はすぐには気づかなかった。
ジンジンと熱くなる左頬、自分が父に叩かれた・・・その事実に気づいたのは右手を左に払った父の怒った表情を見たとき。
「蛍・・・。ママに謝れ・・・お前は今、母親に一番言っちゃいけないことを言ったんだ」
静かに諭したつもりだった・・・・・・でも・・・
────パパが叩いた
────今まで一度も私のことぶったことないのに
────ブッタ・・・タタイタ・・・イタイ・・・
そんな思いだけが蛍の心に広がっていく。
何か悔しくて、悲しくて、どうしようもない感情の奔流にジワァと涙が浮かび肩を震わせる。
「ひっく・・・パパなんて・・・ぐすっ・・パパなんて・・・」
もはや涙で視界が歪んで横島の顔はまともに見えない。
それでもキッと突き刺ささるような視線を向ける、
もう頭の中も胸の中もグチャグチャになって何が悪くて、誰が悪くて何が悲しくて・・・そんなことも分からなくなってしまう。
それは蛍が・・・・・・・・・・────あまりにも純真だから。
子供らしく幼く・・・だからこそ傷つきやすくモロい・・そして取る支離滅裂な言動と行動。
「パパなんて大っ嫌いだああ────ッ!!」
泣き声と共に吐き出される少女の叫び・・・・、ここまでは普通。
しかし、忘れてはいけない・・・彼女には令子の血が流れているということを。
そう・・・
足を横島の股間目掛けて蹴り上げたのだった。
比喩的表現(↓)
高校球児が金属バットで硬球を打つような・・・
トライアングル(楽器)を鳴らすような・・・
時代劇ドラマで刀がぶつかり合うような・・・
スイカを割るような・・・
ドタッ。
その場に倒れこむ横島。
いまだかつて実の娘に股間を蹴られるという父親はいるのだろうか・・・走馬灯を見ながらそんなことを思う横島だった。
「あ、あなた!?」
「お父さん!」
その光景に思わず駆け寄る令子と令花。
ちなみに忠志は遠目から股間を押さえてガクガクと震えている・・同じ男同士痛みが分かるのだろう。
そして、蹴り上げた当の蛍は・・・
「うっうっ・・・うええぇぇぇえええ!!!」
パパを蹴った・・・。
ちょっとした(?)行為が罪悪感を心に沸かせ少女を走らせる。
ルシオラ、パパ、ママ、家族、前世、転生、・・・・もう頭ん中グチャグチャでわけ分かんないよ!
「蛍!止まりなさい!!!」
「!!?」
令子の声にピクっと反応し足を止める蛍。
怒られる!?・・・いや、そうではない。
今、蛍が立ってる位置・・・それはあと50cmほど前に行けば展望台から地上へ真っ逆さまの位置だった。
「今そっちに行くから動いちゃだめよ!」
「来ないでー!それ以上近づいたらここから飛び降りてやるから!」
「蛍・・・あなた本当に生まれてきて後悔してるの?本当に私の子じゃないほうがよかったの・・・?」
「それは・・・・・・・・だって・・・わたし・・・」
母の言葉が蛍の胸に突き刺さる・・・本当はもう分かっている・・・
みんなが・・・父が・・・母が・・・自分のことをどう想っているのか・・・でも・・。
恐い・・・。「もし」「たら」「れば」・・・・心を読める蛍にはそんな恐怖がまだ付きまとう。
「いいかげんしろよ!バカ姉貴!!」
「た、忠志」
「俺はほた姉の前世の話もアシュなんとかって奴の事件もよくしらねーよ!
だけどな!前世が何者でも関係ねえじゃん!
ほた姉はほた姉だろ・・・・・いつも理不尽なことで怒ったり、俺のことよくいじめたり泣かしたりするけどさ・・・
それでも俺は・・・ほた姉が・・・・・・・・・姉ちゃんでよかったと思ってる・・・・」
「・・・・・・・・・・・」
「そりゃほた姉はガサツで乱暴で、胸小さいしスポーツブラだし猫かぶりでファザコンで、俺のこといつも殴って、
俺はそんなほた姉に仕返しで輝樹(真鈴の弟)をはじめとした同級生にほた姉の生写真売ったり、
ほた姉の分のおやつも内緒で食べたりするけど、それでも俺はこれからもほた姉と仲良・・・げふぅ!」
蛍の投げた靴が忠志の顔面にめり込んでいた。
そんな息子に「何やってんのよ」と頭を抱える令子、そのとき・・・自分のズボンをギュッと引っ張る誰かに気づく。
「令花・・・」
「お姉ちゃん・・・」
まさか令花まで私の悪口言わないわよね〜?と少し不安になりつつも幼い妹の声に耳を傾けた。
「・・・・令花も・・・お姉ちゃんの前世ってよくわからないけど・・・
いなくなっちゃヤだよ・・・ぐすっ・・・・令花・・・まだお姉ちゃんにいっぱい教えてほしい・・・こともあるのに・・・ひっく・・・
一緒にたくさんお出かけしたい・・・・一緒にいたいよぉ・・・うっぐっ・・うわああああああん!!」
小学三年生の妹はその場で泣き崩れ母に抱きつく。
大好きな姉がいなくなってしまうかもしれない、そんなことを思うだけで涙が溢れて仕方がない。
蛍自身もそんな妹の言葉を聞き、姿を見てさらに涙腺が緩んでしまう。
「でも・・・・・私は・・・・・・私はぁ・・・」
自信がもてない・・・弟と妹がここまで言ってくれてるのに・・・
でも、少しだけ・・・ほんのちょっとだけ一歩を歩もう・・・そういろんな意味で一歩だけ・・・
蛍がそう思った・・・そのとき!
ゴオオオオオオオオォォォォ────────ッ!!!
一陣の強風が蛍の前方、つまり令子に後方から駆け抜けた。
地上から150m、その強さは普段感じているものは全く違う。
まるで嵐のような風勢は両足で立っている令子がバランスを崩すほどだった・・・だから・・・
タイミングよく片足をあげてしまった蛍は・・・
「きゃっ!」
短い悲鳴をあげてヨロヨロと後へ後ずさる。
バランスを取る、人間の当たり前の条件反射・・・よろめいた蛍の右足も地につこうとしたのだが・・
「・・・・え・・・」
そこには何もない。
蛍は一瞬『階段を踏み外した』ような感覚を味わう。
今回は踏み外したじゃすまないが・・・・
「ほ、ほた姉!!」
忠志の声が聞こえたと思った瞬間、
蛍の視界が急激に変わる────口をあんぐりと開けた3人、東京タワーの登頂、そして赤い空・・・
つまり・・・・
東京タワーの展望台屋上から蛍が落ちたのだった。
最終話Bに続く
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