ザ・グレート・展開予測ショー

ジャッジメント・アフター1 (後)


投稿者名:たつる
投稿日時:(03/ 8/30)

「じゃ、またねヨコシマ」
「ヨコシマもこっちに遊びに来るでちゅよ?」
「それではみなさん、また会いましょう」


 彼女たちはそう言って『門』をくぐって行った。


「行っちまったか……」
「横島クン……」
「……あの……美神さん」
「ん?」

「やっぱり俺としては一人で満足するわけにはいきませんっ!!
 これからもひきつづき俺のなぐさみものにっ!!」
「……死ねっ!!」


― バキャッ ―


「横島さん……さいてぇ……」


 脳天から煙をあげる横島を一瞥して、おキヌはそう呟くのでした。



  ※   ※   ※   ※   ※   ※   ※



「で、今日の仕事なんだけど―」
「う、やっぱ今日も仕事あるんスねー」
「……何か文句でも?」
「いやいやいやいや! 滅相もございません!」
「あのね……横島クンの都合にいちいち合わせてらんないの。解る?」
「そ、そりゃ勿論」
「横島さん、もう平和ボケしちゃってるんじゃないんですか?」
「う……な、なんか二人ともやけに冷たくないですか?」
「「別にィ」」
「そ、そうスか」


 むっつりとした顔のまま、二人は異口同音に言い放った。
 
 横島忠夫は考える。
 ―な、何だ? この妙な雰囲気?
 ―さっきのアレだっていつものことじゃん?
 ―俺が美神さんにセクハラしようとして、ボコられて……
 ―ここまで尾を引くことなんて……

 脂汗を垂らしながら考えるが、答えの出てくる気配はない。
 

「ほらっ! さっさと準備するっ!!」
「はっ! はいーっ!」



  ※   ※   ※   ※   ※   ※   ※



「つ、疲れた……」


 夜、事務所からの帰り道。
 横島はよろよろと歩きながらぼやいた。
 時折転びそうになりながらも、右手に持ったビニール袋だけは落とすまいとしている。
 何が入っているのやら。


「な、なんか今日はまた一段とコキつかわれたような……」


 今日の除霊。
 美神さんはお札ケチっていつも以上に俺の文珠に頼るし。
 おキヌちゃんは「調子が悪いんです」とか言ってヒーリングしてくれないし。
 一体何事?


「ま、まぁ二人ともたまたま機嫌が悪かっただけだよなっ。
 明日になれば大丈夫さっ。わはっ、わははは……」


 この男、彼女らの行為がヤキモチによるものだとは思ってもみない。
 美神はともかく、おキヌにいたっては以前告白までされているというのに……
 普段の自分の行動に思うところがあるのか。
 それともただ単に鈍感なだけなのか。
 
 
「それより今夜は……」


 むふっ、と笑みを浮かべる横島。
 右手に持った袋を見てますますにやける。
 その袋とは、とあるレンタルビデオの店のもの。
 それでもってその中身とは―


「久々に新作を借りられたしな〜♪」


 つまりはそういった、アレなビデオ。
 金に余裕が無いくせにこういったものに余裕で投資するのは如何なものか。


「ごめんなルシオラ……でもっ、おあずけくらった男には仕方ないことなんだ!
 俺だって高校生なんだ、若いんだっ!
 こういうのは愛情とか善悪抜きで、必要なんだっ!」


 一応自分の彼女ともいえる相手に対する罪悪感はあるらしい。
 が、罪悪感よりも欲望が勝ったようで……
 この場にいない愛する女性に謝ってみたりする。
 自己弁護というか自己正当化?
 どうでもいいが、今は夜で、ここは公道である。
 夜ということもあって人通りも少ないが、もうちょっと周りに気を使うべきだろう。


「フンフン♪ フフフンフン♪」


 さっきまでの疲れもなんのその。
 横島は鼻唄まじりで帰路に着くのだった。



  ※   ※   ※   ※   ※   ※   ※



「たっだいま〜♪」


 一人暮らしなのだから返事など返ってくるわけもないのだが……
 それだけ浮かれているということだろう。
 

「あ、おかえりなさいヨコシマ♪」
「おうルシオ……らぁーーーっ!?」
「ど、どうしたの? そんなに驚いて?」
「え? あ、あれ? おまえ妙神山にいるはずじゃ?」
「夕ごはん一緒に食べようと思って……来ちゃった♪」
「来ちゃった……って」
 
 
 そんなに簡単に行き来できるのか?


「……迷惑だった……かな?」
「そんなことは絶対に無い!!」


 横島即答。
 ただ、内心「ちょっと今は困るかなー」なんて思ってたりする。
 右手に持っているものを見られてはいけない。


「そう、良かった……あ、早くあがってよ」
「あ、あぁ」


 そういえば玄関に立ち尽くしたままだった。
 袋を持った右手を背にまわして靴を脱ぐ。


「あら? 横島、何を持ってるの?」
「ぎくっ」


 律儀に自分の心情を声に出す横島。
 そんな彼の態度に何かぴん、ときた彼女はこう言った。
 

「……ちょーっと見せてもらえるかしら?」
「いやいやいやいや!! これは非常に大切なもんだからっ」
「ヨコシマの大切なものなら、きっと私にとっても大切なものよねぇ?」
「あーうー……えーっと、そうだ!! これは美神さんからの預かりものだからっ」
「『そうだ!!』ってなんなのよ」
「あー今のナシ。取り消し。実はこれは……」
「見せて」
「……」
「見・せ・て?」
「……どうぞ」


 ニッコリ笑顔で言われたら渡さないわけにはいかない。
 だって怖いから。


「……ふーん」
「うぅ……かんにんやぁ……仕方なかったんやぁ……」
「……よし、許すっ」
「……へ?」
「まぁヨコシマだって男のコだもんね。少しくらいしょうがないわよ」


 それに私がおあずけしてるっていうのも原因だろうし、と心の中で付け加える。
 ……だからといって、そんなに寛容になる気はないが。
 やっぱり好きな男がその……こういうのを見るというのは……複雑なかんじなのだ。


「うぅ……ごめんなルシオラ」
「そう思うんだったら、もうこんなの借りてこないでよ?」
「うぐっ……」
「せめてウソでも『うん』って言えないのかしら……」


 苦笑してため息をつくルシオラ。
 まぁ仕方ない。
 自分は彼のこんなところも含めて好きになってしまったのだから。


「じゃ、これはここに放り込んでおくからね?」


 そう言って押入れに手をかけるルシオラ。


「あっ! ルシオラっ、ちょっと待―」
「え?」


― ドサドサドサっ ―











 山のような本とビデオテープ。












「……」
「……」


 沈黙が、痛かった。


「……ヨコシマ?」
「ハイッ!?」


 底冷えのする声で名を呼ばれた横島は、きおつけの姿勢で返事をした。


「覚悟は、いいカシラ?」









  ※   ※   ※   ※   ※   ※   ※



「くぅ〜、ルシオラちゃんめ〜」


 パピリオは急いでいた。
 今夜はヨコシマのところで、三人でごはんを食べる予定だったのだが……
 ルシオラはパピリオを置いてさっさとヨコシマのもとへ行ってしまったのだった。
 無情というなかれ。
 愛しい人に早く会いたいと思うのは当然のことだろう。


「抜け駆けは禁止でちゅよっ!?」


 この台詞をルシオラが聞いたら文句……というかお説教の一つや二つではすまないだろうが、
 その本人は今ヨコシマの家だ。


「―着いたでちゅっ!」


 ノックするのもまどろっこしく、急いでドアを開ける。


「ヨコシマっ!」


 そこでパピリオが見たものとは








「―バカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカ
 バカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカ……バカァッ!!」


「る、ルシオラちゃん?」


 ルシオラの無呼吸連打を喰らって吹っ飛ぶ横島の姿だった。
 パピリオ呆然。


「る、ルシオラ……」
「……なによぉ」

 
 仰向けに倒れた横島は、かろうじて動く顔だけ起こしてルシオラに話し掛ける。
 ルシオラは、ちょっぴり涙目。


「ごめんな」


― ガクっ ―


 そう言い残して横島は気絶した。
 パピリオはますますわけがわからない。
 わからないがとりあえず今すべきことは……


「ヨ、ヨコシマ!? 大丈夫でちゅか!?」


 そう、ヨコシマの安否を確かめること。
 慌てて駆け寄ろうとした時に、何かが足にぶつかった。
 それはくるくると回転しながら滑り……横島にぶつかって止まった。


「ん? ……こ、これは」


 それは横島の宝の一角。
 煩悩の片鱗。
 それを見たパピオラは何かに気づいて辺りを見回した。


「なるほど……謎は全て解けまちたっ!!」


 カッ! とパピリオの背に稲妻が走った。気がする。
 しかし、そんなオーバーアクションをしてみても誰も見ちゃいない。
 一人は気絶してるし、もう一人は……なんかいじけてる。


「この部屋に散らばったエロ本とビデオの数々―」


 ……今まで濁して表現してきたのに。
 こどもというのは恐いもの知らずである。


「そのほとんどがっ……きょ―」
「眠りなさい」


― ごん ―


 一撃必中。
 パピリオはその場に昏倒した。
 眠らせるだけなら幻術とか使えば……とツッコミをいれる人間はあいにく今は存在しない。
 「きょ―」の後にはどんな言葉が続くはずだったのだろうか。
 きっと、ルシオラのコンプレックスを刺激するようなものだったのだろう。


「……さ、二人が寝てる間に夕ごはんの支度しなきゃ♪」


 いそいそと台所へ向かうルシオラ。
 横島の遺産は全てデリートすることを心に決めている。

 倒れたままの横島。
 朦朧とした意識のまま、「こんな生活も悪くないかなー」なんて思ってたりする。
 初めて彼女ができた男には、何が起きても幸せなのだろう。

 倒れたままのパピリオ。
 なんというか……今回一番の被害者っぽい。

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