GS辰彦(後)
投稿者名:ロックンロール
投稿日時:(03/ 8/29)
気が重い。――それは事実だった。
依頼を受け、そしてここに来た。依頼料はそれ程高額でもない。――ただ、恐らく相手となるであろう『人物』の事が気にかかっただけである……
「やっぱり……どっかで見覚えあったのよね……」
令子は嘆息した。
――そして、神通棍には霊気――
「『元』ゴーストスイーパー、近藤辰彦……」
唇からは、容赦のない言葉が滑り落ちる。――嘲りでも、罵倒でも、侮辱でもない……それでも、恐らくはこの世で最も残酷な言葉。――事実という言葉――
「私が……ゴーストスイーパー、美神令子が……極楽へ、逝かせてあげるわ……」
★ ☆ ★ ☆ ★
その女性の登場は、辰彦を驚愕させるには充分なものであった。
(何……だっ!?)
神通棍による、鋭い突き――それを、間一髪で飛び退って避ける。――発光する棍には必殺の殺気が篭っていた。……紛れもない。この女は、自分を殺すつもりで来ている……!
(何なんだ……!? 操られてるのか……それに、『元』って……!?)
自分はGS。駆け出しとは言え、紛れもなく認可されたGSだ。
「何なんだ!? 俺はGSだ――アンタと同業者だ!! 解らないのか!? 操られてるのかッ!?」
叫び――そして気付く。先程、背後に立っていたもうひとりの白髪の女。いない――?
回りこまれている――
「大地に神あり! 神に力あり!! 力を示せ、大地の神よ!!」
――揺れる。
その嘆願は、限りない物理的圧力を以って大地を振動させた。――局所的な、地震。現在辰彦が使用できる精霊術の中でも、かなり上位の部類に入る術である。
瓦礫の中に、既に女の姿は見えない――
(良し、今のうちに霊を――)
ゾブ。
それを、感覚的に理解する事は出来なかった。――恐らく、それ以上の何かが介在しているであろうその動きを、感覚で理解する事など無理な話であった――
――――!?
「な……!?」
腹から、光の剣が生えている。
……同時に、背後に気配。――先程回りこんでいた、白髪の女。こちらが起こした地震をものともせず、自分に気付かれる事なく肉薄していた――?
「狼に……この程度の子供だましは通用せんでござる……」
何故か、傷みはなかった。
「……何故……?」
そこに、感情という名の精神は介在しない――
そして――――
「解ってるでしょう? アンタは一ヶ月前に、除霊に失敗して死んだ。今のアンタは幻影――地縛霊よ……
」
その言葉にもまた、感情の介在する余地はなかった……
★ ☆ ★ ☆ ★
「初めての除霊で、アンタも緊張していたんでしょうね――アンタはこの部屋の前で、開いた扉の真ん前で……一ヶ月前の除霊の翌日、遺体で発見されたわ……」
痛い……
それが、令子が率直に思う今の"彼"、近藤辰彦の境遇であった。――あまりにも、近藤はGSとしてルーキーでありすぎた。――そして……それが彼の徒となった。
「アンタが元々除霊する対象としていた霊は、綺麗に除霊されていたわ。多分アンタが、最後の力を振り絞って倒したんでしょうけど――いずれにしても、今度は自分がここに縛られてしまった……という訳ね」
唇は滑る。……余りにも滑らかに。――背後から近藤を貫いているシロが喘いでいるのも見える。霊力を振り絞った状態を持続するには、限界に近いのであろう。
「シロ、放しなさい。多分、彼は暫くは暴れはしないわ……」
近藤は――立っていた。シロに貫かれた……その態勢のまま。
霊波刀に貫かれた胸には、傷も残っていない。元々霊能力の素質のあった人間が霊となると、その霊のキャパシティーは飛躍的に上昇する。出来れば、暴れさせる事なく除霊したいところではある。シロが霊波刀を収めた事を確認し、令子は再び唇を開いた。
「依頼内容は、毎晩毎晩、『廃病院』の中で暴れまわる霊――つまり、アンタを除霊してくれという事。ランクはSS(ダブルエス)。アンタは結果的に、悪霊になる事でこの病院を決定的に潰してしまったのよ……」
見据えた近藤は、ピクリとも動かない。その視線は確かにこちらを見据えているのだが、独特のシャーマンの衣装――腰蓑――に覆われた身体は、話し始めた位置から数ミリたりとも動いていなかった。
――いや……
「……俺は……生きているんじゃないのか?」
動いた。
「アンタ……思い出した。美神令子、業界トップのGSだろ?――なんで、こんな低ランクの除霊に関わってんだよ…… なぁ、これは俺が先に受けた仕事だろ? そんで――」
その身体から、かすかに立ち上る霧が見えた――
完璧に、地縛されている……
既に彼は、自らが死んだ日の体験――即ち、除霊を延々と繰り返すだけの幽霊と化している。――機械的な、亡霊。永遠の連続作業を――
「……わかったわ……」
止むを、得ない。
今更ながら、横島やおキヌを連れて来なかった事に胸を撫で下ろした。特に、横島。彼の事情からすれば、この男――近藤を除霊し切る事は出来まい――
ここは――私の仕事。
念を込める。
――そして、結界が作動した……
★ ☆ ★ ☆ ★
その光は、問答無用で辰彦自身の身体をも飲み込んでいた――
「結界!? 何で!?」
足元の確認。――そして、悟る。先程瓦礫を崩してから、白髪の少女に捕まるまでの間……美神令子は結界を張っていたのだ。精霊石を利用した、特注の五柱結界を……!
(クソ……クソッ!! 何で俺が……こんな、ゴーストスイーパーじゃなかったのか!?)
今では、既に辰彦自身にも確信できるようになっていた――
廃墟の中を歩いていて猶、利いているように思えた空調。
リノリウムを歩いていたはずなのに、足が立てたジャリジャリという足音。
「俺は……何で……っ!!」
そして、既視感。――当たり前だ。既に自分は、何度もその場面を再現していたのだから。――そして、何度も同じように"殺されていた"に違いないのだから――!!
「俺……俺は……やっと、資格を取れて…………GSに、なって…………! そんで、これから…………」
「……これが、ゴーストスイーパーよ。この世界は……こういう世界なのよ!! アンタみたいな若手が、こうやって、こうなって……っ!!」
美神令子の声には、多少の涙が入っているようにも思えた。――既に、何がなんだかわからなくなって来ていたが――――
「……美神殿、拙者は…………」
「見ときなさい……シロ。武士なら、わかるでしょう?……これがGSなのよ。……こうなる事も、GSなのよ!!」
辰彦の意識は、もうその会話を捉えきる事は出来なかった。
自らの全てが、否定されてゆく感覚。――そして、その事実。野望も、希望も、悲憤も、目標も――――
そして――――
全てを抱いて、葬り火は燃える――――
★ ☆ ★ ☆ ★
「美神殿……」
「――ん?」
「何で、いつもみたいに問答無用でやっつけなかったんでござるか?」
「――ま、ね。たまには、ね……」
「たまには?」
「んー、アイツ、GS免許取得したのが横島クンと同期なのよね……」
「――! 先生と!?」
「だから……ま、『もしかしたら横島クンも、私という『偉大な』先生がいなかったらこうなってたかも知れないな〜』なんて思っちゃって、ちょいと奮発しちゃった訳……そんだけよ」
「精霊石って、五個も使うと赤字だったと思うのでござるが……」
「……たまにはいいでしょ!」
「……美神殿」
「――ん?」
「何で、先生たちやタマモは『しこく』に除霊に行ったのに、拙者だけこっちに連れてきたのでござるか?」
「それはね……」
「それは?」
「…………」
「それは? 何でござるか?」
「……アンタが、一番こーゆーのに鈍感そうだからよ!!」
〜終……もしくは、始まり〜
今までの
コメント:
- こんばんわ。休暇中に、身体に溜まりに溜まったダーク成分を抜きに掛かっているロックンロールですm(_ _)m
本質を書いて見たいと思いましたが……楽しんで読んでくだされば幸いです (ロックンロール)
- あの原作で勘九郎に負けてしまったあの「彼」なんですね(^^;
一瞬引いてしまうようなタイトルでしたが、さすがはロックさん。私の期待通りの作品でした。
華やかなGS業界の裏の厳しい現実を、見事に表現していたと思います。
最後美神さんが連れてきたのがシロではなく、横島クンであったら、彼女はどういう言葉をかけていたのでしょうか?
ロックさんらしい斬新的な良作だったと思います。 (マリクラ)
- ふぅ・・・(謎)美神さんの心意気に打たれた私がここにいます。
自分が死んだのにも気がつかずに現世を機械的に――――規則的に・・・
ただ希望を求めて。確かに悲しいお話でした(泣)けど、私が何故?
この作品に賛成票を投じたのか。理由は一つです、客観的に見てもこう言う展開は『ある』と心底思ったからです。横島くんの様に偉大な先生がいなかったのも一因ですけど、GS自体が困難且つ美神さん曰く命張ってる仕事!何だから不慮の事故なんてのは至極当然だと思います。って言うか『ない』方が可笑しいです。にしても横島くんを連れて来なかったのは正解です、人情ですね。唯、この辰彦さんは私的に・・・おキヌちゃんの癒しで成仏さしてあげたらなあ。と思いました♪ (えび団子)
- 素直にいいと思える作品でした。
原作ではGSという職業の長所が目立ちましたが、
命をかける職業である以上こういう悲劇も起こるのが当たり前なのでしょう。
それを割り切りつつもどこかに悲しみを持つ美神、
そしてそれを学ぶシロ・・・悲しいけど納得のいくお話しでした。
せめてゴーストスイーパー辰彦の魂に幸あらんことを・・・ (ユタ)
- いい死にネタですね。GS…ゴーストスイーパーとして死に近い分、こういう話もあっていいですが、扱いが難しい。それを上手く使えていると思います。 (MAGIふぁ)
- どちらかといえばマイナーに部類されるキャラクターを使って、GSの世界を描き出す。
成仏される側を通して、メインキャラクターの心情を描き出す。
物語の内容もすばらしく、その手腕に脱帽するばかりです。
すばらしい物語でした。投稿お疲れ様でした。
|д゚).oO……「しこく」編が、この後にあるのだと下衆のかんぐりしていいですか?(笑) (矢塚)
- 物語の都合とは言え、原作のレギュラーメンバーは皆トップクラスの実力の持ち主でしたからね。
色々な意味でプロフェッショナルとして相応しくない者には、容赦無く死が降りかかる世界。
辰彦の、理性的なようでいてしっかり狂っている描写に、何とも言えないやり切れなさを感じます。
投稿お疲れ様でした。 (dry)
- 自縛霊っぽさが良く出ているなぁ、と。いや自縛霊になど会ったことないですけど、それっぽいなぁ、と感じさせるとでも言いましょうか。良い話でした! (紫)
- 巧いわ。 ほんのちょい前に某所で、オリジナルの中で退魔師が実は幽霊だったってネタを扱ったのですが、コレが巧く機能しなくて(苦笑) こうやって、ちゃんと機能した話を見ると、研鑽が足らんなぁと実感させられます。
美神がシロを連れ出した事を喜んでいいのやら、その理由に嘆くべきやら(^^; …私はシロも、好きなキャラなんで。 (逢川 桐至)
- GSって一瞬の油断が死を招きそうな職業ですからね・・・実際影で多くの犠牲者が出ていそうです。
自縛霊になった彼もその一人だったのですね。
美神のキメ台詞でこんなに悲しい気分になったのは、初めてのような気がします。
辰彦にとっては残酷な言葉なのですが、それが真実で唯一彼を救う方法で・・・
悲しいですけど、いいと思える作品でした。 (ヴァージニア)
- 除霊は厳しいお仕事なんですね(涙)
美神さんや美智恵さんたちも、きっとこんな事をたくさん乗り越えてきたんでしょうね…。
周りのひとたちを喪いながらも、一番前でがんばって……そうして、今の強い美神さんたちになったんでしょうか…。
その強さを受け継いで、横島君やおキヌちゃんたちにも、いつまでも死なないでいてほしいです。ホントに。
辰彦さんのご冥福をお祈りします…。 (猫姫)
- GSという仕事に付く上では、恐らく多くの人はその危険性を理解しているのでしょう。横島などは例外の部類に入るのだと思います。
辰彦も危険性を理解していなかった事は無いでしょうが、その覚悟も理解も地縛される事によって失われてしまう。彼の人生の一部だけがこびり付いてしまう事に何とも言えない辛さがありました。
シロに「鈍感そう」とも言いながら、この辛い除霊に真っ向から向き合える強さをシロの中にしっかりと見出している美神が印象的でした。
美神の事務所オーナーとしての顔も出されており、主題も、それを彩る物もとても素晴らしいものでした。
投稿お疲れ様です。辰彦の冥福と、全てのGSの無事を祈って… (志狗)
- 皆様、コメントどうもありがとうございます。
タイトルがアレ(笑)だったという今回の話ですが、実際、私は大抵は本文を書き終わってからタイトルを決めます。――今回は、本文のイメージがこれになってしまったというだけw
ちぃと騙しがはいってましたが、皆様果たして上手く騙されてくれたのでしょーか…… それでは、コメント返し参ります
マリクラさん江
毎度毎度、丁寧なコメントどうもですw 横島でなく、シロ。そこには意味があったりもするのですが……w (ロックンロール)
- えび団子さん江
お褒めいただき恐縮です。おキヌは(他に理由もあるのですが)敢えて登場させませんでした。『優しさ』そのものを展開の中に顕す彼女は、この展開には向かないと(私が)思った故です。
MAGIふぁさん江
コメント、ありがとうございます。死にネタをただ死にネタとしてだけではなく、その先の何かを表現したいと思っている、今日この頃です。
矢塚さん江
恐縮ですw 全くの他人の視点からGSメンバーを描写するというこの手法は、拙作『Ghost』でも使用したのですが、今回は、それを発展させてみました。……ちなみに、しこく編は現在製作中ですw
dryさん江
本作の主役にして準主役である辰彦クンですが、彼を何処まで『霊』として扱うかは迷いました。……結局、このような形になってしまった訳ですが……コメントありがとうございます。 (ロックンロール)
- 紫さん江
自縛霊と地縛霊の違いって何なんだろう…… 辰彦は、自らを縛るのではなく、その状況に縛られている――という感じにはしたかったのですがw コメント、感謝です。
逢川 桐至さん江
恐縮ですw シロを連れ出した理由は……まぁ、照れ屋で恥ずかしがり屋の美神令子の愛だとでも思っていてくださいw
ヴァージニアさん江
実は凄く悲しい言葉のような気がします……美神令子の決め台詞。――何となく、現世利益を頑なに盲追する理由も、こんなところにあるのではないか……と勘繰ってみたりw (ロックンロール)
- 猫姫さん江
いつまでも死なない人など、存在し得ません。――だからこそ、生には意味が生まれるとも言えます。この話では、主にシロにその役目を演じて貰いました――素敵なコメント、ありがとうございます
志狗さん江
……私が表現したかった事を、素敵な言葉で以って表現してくれた若頭に溢れんばかりの感謝を捧げます。人生の一部――よくよく考えれば、これほど悲しいものもありません。人は全てであって人であり、人であって全てである――その意味を、失ったものであるのですから…… コメント、ありがとうございます (ロックンロール)
- ……………………ユタさん江
抜かしてた訳ぢゃナイヨ!?(汗)
近頃は、暗い話を書く際に、意識してその暗さを別な方面に転化させようと試みています。――今回の話でそれが上手くいったのか……それは、読者の判断に頼るしかないのですが…… コメント、ありがとうございます。
さて、次は何を書こうか…………
(ロックンロール)
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