ザ・グレート・展開予測ショー

時の渦


投稿者名:ライス
投稿日時:(03/ 8/27)






























 ねぇ、ここは何処なの?


 学校の帰り。
 何かが光ったかと思うと、目の前が真っ白になって、
 気付けば、見た事も無い所だった。


 ねぇ、誰か居ないの?


 そこには家も道も景色も何もなかった。
 それ以前に自分が浮いているのか、立っているのかも分からない。
 ましてや、上下左右、東西南北に至っては分かるはずもない。
 周りはなにやら、大きな紫色の渦がゆっくり蠢いている様にも見えた。


 お母さぁーーーーーーーーん………!?


 誰も来ない。
 今思えば、当たり前だったろうが、その時は藁にもすがる思いだった。
 その奇妙な場所の薄気味悪さに私は怖くなったのだろう、
 次第に母を呼ぶ声は泣き声に変わっていった。


 おかあさ、…………ウェッ、ビェェェ〜〜〜〜〜〜ッ!?


 私は一人孤独に大泣きしていた。
 何も聞こえない、静かな空間。
 それが幼い私には耐え切れなかったのだろう。
 しかし、それも長くは続かなかった。



 ナンじゃ、五月蝿いのう………?


 フェ?



 現れたのはみずぼらしい老人。彼はなぜか大きな鎌を持っていた。
 老人は泣き続ける自分に近寄って来る。
 私も老人に気付くと、途端に泣くの止めた。



 なんじゃ、お前は?何処からやって来た?


 わかんないの……。


 分からんのか?じゃあ、ココがどういう所かも分からんか。


 ………うん。


 名前は?


 みちえ………。みかみみちえ……。


 やはり、時の漂流者の末裔か……。まぁ、いい。ついてまいれ。


 ………。


 どうした?早く来んか?


 知らない人にはついて行っちゃダメって、お母さんが……。


 大丈夫じゃ、取って食ったりはせんよ。さぁ……。



 老人は私に手を差し伸べる。
 私は恐る恐る、その手を握った。
 そして、私達は紫の靄の中を歩き出した。



 ここはな、『時の渦』という所じゃ。


 ときのうず?


 そうじゃ。ココは時巻く場所。いわば、時間の根っこみたいな所じゃ……。


 ふ〜ん。



 そういう場所だから、ココには時間がない。
 というよりは、お前さん達の言葉を使えば、止まっている方が正しいかの?
 根っこと言うたのは、ココはどの時代にも繋がっているという事だからじゃ。


 どういうふうに?


 ん?例えば、こういう事じゃ……。


 老人は鎌を振りかざすと、近くの靄を切り裂いた。
 すると、靄はペランと下に垂れ、中から映像が見える。
 覗き込むとそれは見覚えのある風景。自分の住む街だ。
 そして、私自身が映った。



 あ、わたしだ!


 これはココに来る前の時間じゃの。……やはり、雷に打たれて、ココへ来たのか。


 エ?


 お前さん達、時の漂流者、つまり『能力者』は雷の力で時を『跳ぶ』のじゃ。
 まぁ、自分から雷に辺りに行くか、引き寄せるモノを持たん限り、
 この能力には気付かんし、気付かないまま一生を終える者もいるのじゃがな。
 それに因果律を覆す程の能力だから、そう多くは居ないはずじゃ。
 で、お前さんはというと……、あー、傘の柄が金属だったんじゃな……。



 裂け目に映る私は傘を指していた。無論、雨が降っていたからだが。
 ゴロゴロと鳴る雷雲の残響が、ひっきりなしに近付いてきたのは覚えている。
 そして、一番近くにそれが鳴り響いた時に、光に包まれここに来ていたのだ。
 するといつの間にか、画面の私は雷に打たれて、姿を消していた。



 と、言うのが事の顛末なわけじゃが……、小さいお前さんに説明しても良く分からんじゃろうて。


 
 老人はポリポリ頭を掻きながら言った。
 確かに何で自分が此処に居るのか、どうやって来たのか、
 当時の私にとっては皆目見当もつかなかった。 
 親も友達も居ない空間で、見知らぬ老人と二人きり。
 そんな折に、ふと目に付いたのは彼の持つ鎌。
 私はその幼い想像力であるイメージを連想する。


      
 ……おじいさん、もしかして死神?


 ん?死神じゃと?ワシがか?フハハ……!ワ、ワシが死神とはな!!


 ……違うの?



 額に手を当て笑う老人に私は拍子抜けした。
 おまけにあんまり老人が良く笑うので、少しムッとしたのを覚えている。
 老人は笑うのを止める。



 ハハハ………。残念じゃが、ワシャ、死神ではない。
 それにお前さんはちゃんと生きておるし、
 ここは天国や地獄といったものとはまた別の世界じゃ。


 じゃあ、その鎌は……?


 あぁ、これか?これはな、魂を刈り取るのではなくて、時を『割く』鎌じゃ。


 ???


 ここは時の根っこのような場所だとさっきも説明したが、
 ここはあらゆる時の源流であり、時は幾つもの支流に分かれておる。
 同じ人物が人生の選択をする時にワシは鎌を振るい、時を『割く』。
 すると、その時点から、同じ人物がそれぞれ別々の人生を歩むことになる。
 それをお前さんたちは「パラレル・ワールド」なんと言っておるようじゃがな……。 
 まぁ、流石に一人一人は難しいから、あれこれとやりくりはしとるがの。
 それでも、時の支流は何千、何億と存在する。


 ………??


 分からんか、まぁいい。しかし、だ。お前さんは『能力者』じゃ。
 『能力者』は時を駆ける、つまりあらゆる時代を渡り歩くことが出来る。
 その力は本来、あってはならないのだが、黙認はされておる。バランスを保つためにな。
 ……気をつけるのじゃ。お前さんには困難な人生が待ち受けておる。


 先のことが分かるの?


 まぁな。ただそれを本人に喋ることは出来ない。
 運命とは自分で切り開くモンじゃからな。
 しかし、お前さんは運がいい。なにしろ最初の能力発動でワシの所に引っ掛かったのじゃから。
 普通はある時代に漂着して、その時代で人生を終えるモノじゃが、天命かも知れんな……。


 ……どういうこと?


 それは言えん。
 さぁ、親御さんが待っているじゃろう。
 元いた時代に送り返してやろう。
 


 老人が指をパチンッと鳴らすと扉が現れた。
 そして、彼は扉を開き、私を引き寄せた。



 さぁ、これで元の場所に戻るはずじゃ。
  

 ありがとう、おじいさん……エェト、名前は?


 ん?名前か?
 ……クロノス。
 ワシの名はクロノス。
 そんなことよりも、ホレ、時間がないぞ?扉は一定時間しか開いていないからの。


 うん、じゃあね〜〜〜!?


 雨の日には気をつけてな〜〜っ?



 ……そして、私は扉の中へと入ると、ふたたび光の中に包まれていく。
 それから後のことはよく覚えていない。気が付くといつの間にか、家の前に着いていた。




 と、そこで私は目が覚めた。カーテン越しに朝日が差し込んでいる。
 どうやら夢のようだ。





「一体……。」

 妙に生々しいリアルな夢だった。それもその筈だ。
 実際、体験したことなのだから。
 もう忘れかけていたが今頃になって、夢に出てくるとは思わなかった。

「クロノス……。何か聞き覚えがあるわね、何だったかしら?」

 気になった私は朝食の後、書斎の本棚の前で記憶を辿りながらある本を取り出した。
 それはギリシャ神話の本。

「確か、この本に載っていたような……。」

 パラパラとページをめくっていくと、確かにその語句はあった。


『クロノス:時間の神。
      ゼウス、ハデス、ポセイドンなどの父親。
      時間を自由に操るという。
      偉大な力を持っている為、冥界のさらに奥深くに封印されているといわれている。
      また、鎌を持ち、時間を刈り取るということから農業の神ともいわれている。』 


「……そう言えば……」

『雨の日には気をつけてなぁ〜〜っ?』

「忘れていたけど、アレはよく考えると、
 雷のことじゃなくて、チューブラーベルのことだったのかしら……?」

 他にも彼は多分、私の未来を分かってて、『困難な人生』と言ったのかも知れない。
 でも、私はその困難を自分で切り抜けてきた。
 彼の言うとおり、『運命』を自分で切り開いてきた。
 切り抜けてきたおかげで、今は夫もいるし、娘もこうして二人もいるわけだし。
 今の自分もあるわけで……。

「……まぁ、いっか♪」

 私はパタンッと本を閉じると、本棚に戻し、部屋を出て行った。


 クロノスには多分、これからも、会うことはないだろう。
 でも、あの場所で私を見守っていてくれているのだと、そう思いたい。
  


「さぁて、ひのめを大きい娘のところに預けにいきましょうか!」


 私は今もこれからも、変わりなく元気に生きて行きたい。
 そう思ったある朝の出来事。
 
   
 終わり。
 
      

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