ザ・グレート・展開予測ショー

東の国から愛を込めて(最終話)


投稿者名:Maria's Crisis
投稿日時:(03/ 8/26)

目を開けると、あの天井の模様が視界に広がっていた。
そして、私の顔を無表情に見下ろす老人の顔・・・。

なにか、妙に懐かしかった。

「どれくらいの時間が過ぎたの?」
私は老人に尋ねる。

「分かりやすく言えば、一秒くらいじゃな」

「全然分かりやすくない・・・」
私は寝返りをうって、窓の外をみつめる。外に広がる穏やかな風景は確かに時間の流れを感じさせないものであった。

「私・・・、夢を見てた。パパとママの夢」

「いや、それは夢ではないのじゃよ。お前さんの両親も実際にそこに存在しておったのじゃ。すべてがうつつな夢なんじゃよ」

「何、それ・・・?」
私は再び寝返りをうち、側に転がっている小瓶を手に取る。
「全然分かりやすくない・・・」

「新時空消滅内服液・・・。本来は暗殺用の魔法薬なのじゃが、医療用に改良するには苦労したぞ。というのもな・・・」

「もういい。さっきも同じ話を聞かされたばかりよ」

「そうじゃったけかな?」

「一秒しか経ってなかったんでしょ?あれから」
そう言って、苦笑いを浮かべる私に、老人も苦笑いで応える。

「要するに、過去に遡ってそこで強い縁っていうやつを強めれば、元通りの体に戻るってわけだったんでしょ?」

「そうじゃな、お前さんの病状はおそらく特殊な霊基構造の何かのトラブルだと思ってな。おそらくこのままでは消滅してしまう危険性があったんじゃ」

「で、この薬ならどんなトラブルも解決できるって話だったけど、その縁っていうのが具体的にどういうものなのかもよく分からないままだったし、失敗したらそのまま現世からも過去からも消滅してしまうと言うし・・・」

「ま、一種の博打じゃな!」そう言って、高笑いする老人。

「もうちょっとさあ・・・。マシな薬って作れないの?」

「絶望的な死の淵から生を掴み取るということは、並大抵なことじゃないのじゃよ。そんな簡単に何事も上手くいくなんぞ、ただの理想にすぎんわい」
老人が思い深げにそう語る。

「・・・・・」

「まあ、お前さんの両親にはこんなことは言えんかった。危険すぎるからのう・・・。絶対に反対するに違いない」
そして、苦笑いを浮かべる。
「特に父親はこの薬で苦労したことがあったからのう」

「うん、パパから聞いたことある」

慌てふためいていたパパの様子を想像し、二人で笑いあった。



「でも、実際に私がこうして在るってことは、その博打に勝ったわけよね?」

「そういうことじゃが?」
老人が訝しげに相槌を打つ。

「なんか・・・、どんな縁でどういう風に強めたのか、自分でもよく分からないんだけど・・・」

「?」

「もう必死だったから・・・。あれこれ考えることができなくて、自分が思ったことをそのまま行動しただけなの・・・」

「ふむ・・・それでいいんじゃよ。というのはな―――」

・・・と老人が言いかけた時、病室のドアが開き、パパとママが飛び込んできた。



「よかった!無事だったんだね!?」

そう言って私を抱きしめてくれるパパ。それを見て大粒の涙をこぼすママ。

「うん、ただいま、パパ、ママ♪なんだか不思議な気分だけどね」

「ああ、よかったぁ!ところで、どうやって治してもらったんだい?」
そう言って、私と老人を交互に見渡すパパ。



ふと、側に立つ黒マントの老人と目が合う。

にこりと、私に微笑みかける老人・・・。

そうね・・・。この薬のことは内緒ね。





















―――数日後。私はまだ大事を取って、入院生活を続けていた。

見飽きてたのは天井だけだったけど、今はそのレパートリーも増えて、こうして眺めている窓からの景色にも自然とあくびが出るようになった。

あれから普通の医学的治療はもちろん、心霊治療においても体に異常は発見されてない。
「新時空消滅内服液」・・・あのドクターカオスって本当にすごいのね・・・。
おかげで、退院までそう時間はかからなそう・・・。

そこへ、コンコンとドアがノックされ、ママが嬉しそうに入ってきた。

明日で退院。

飛び上がるほど嬉しい朗報だった。

喜ぶ私を見て、ママも一緒になって喜んでくれた。

「さあ、荷物の整理しちゃいましょうね」鼻歌交じりにママはテキパキと荷物をまとめ始める。

「はぁ〜、やっと遊べる!」私はベッドの上にダイブ!

それを見たママが、女の子がそんなことをしてはいけません、といつものお説教。
私は愛想笑いで受け流し、ふと顔を上げてみた。

全然気づかなかったけど、当たり前のことで、ベッドサイドにこの病室の患者名が書かれてあるネームプレートがぶら下がっている・・・。

私の名前。





―――「横島 蛍子」





そう言えば、聞いたことなかったなぁ・・・。



「ねえ、ママ〜?」

「どうしたの?」

「あのさぁ・・・」
私はベッドの上で起き上がり、ママにそのプレートを見せながら尋ねた。

「ケイコのケイ、蛍っていう字。これって、私の前世に由来されてるんだよねぇ?」

「あら、パパから聞いたの?」
ママが一瞬懐かしそうな表情をして、笑顔を返した。

「うん、小さい頃よく聞かせてもらったの。パパが若い頃にした大冒険だったんだってね!」

「そうねぇ、あの時は色々あったわ。パパのことを命がけで助けてくれたのが蛍の化身の女の子だったの。そして、その女の子があなたの前世なのよ」

「だから、私の名前に蛍ってあるんだよね?」

その質問に、少し苦笑いを浮かべながら、ママが首をかしげるしぐさをする・・・。

「あれ?違うの?」

「いいえ、半分は正解。蛍っていう字をつけたのはその通り。でもね・・・」

ママがまた懐かしそうな表情で・・・、私に・・・、いえ、他の誰かに向けたようにつぶやいたようにも見えた。

「蛍子って言う名前はね、パパとママに手紙をくれた人の名前から頂いたの」

「・・・え?」

ママはにっこりと笑顔を私に向けると、再び荷物をまとめ始める。

その笑顔にどういう意味があるのか・・・、私は考えないことに決めた。





















―――翌日、退院の日。



私って、一体誰なんだろう・・・?



あの時、あの場所へ私が行かなければ、私は生まれてこなかったのかもしれない。
パパとママの間には何か大きな隙間があったから・・・。
でも、私がパパとママに手紙を渡せたから、二人は結婚できた。それはたぶん、間違いないと思う。
そして、私が生まれた。

その過程を導くために、いいえ自然の摂理なのかしら?だから、私の体に霊的なトラブルが生じたのかも・・・。

過去と未来は決して連続していないと聞いたことはあるけど・・・。
ああ・・・なんか頭の中がこんがらがってきた・・・。
要するに「縁」なのよ。何って言うか運命なのね。ドクターカオスが言っていたのはきっとこのこと。

・・・と、そんな考えても仕方ないことを考えていた。

そう仕方ないこと。すべては過去の出来事だから。



あれから時は流れ、私は今、パパとママに心から言えること、心からの想いを一通の手紙―――たった三行だけだけど―――にしたため、こうして手にしている。

あの時に手渡したのと同じ手紙・・・。
なんか、芸がないって言うか、何って言うか・・・。でも、これが私の本当の気持ち。何年経とうが何年前のことであろうが変わらない。



ふと、見つめる窓からの光景。見飽きたはずなのに、不思議と新鮮に感じられる。



パパとママ。
過去のパパとママ。現在のパパとママ。未来のパパとママ。

大好きな二人に、時間を越えて、この想いを届けたい。



―――廊下から私を呼ぶ、ママの声・・・。迎えにきてくれたんだぁ。



私は大きく返事をすると、手にしていた手紙を細かくちぎり、窓の外へばら撒いた。

風に乗って、散り散りになって運ばれる私の想い。










きっと届いてくれるといいなぁ・・・。














そして、私はこの病室を後にした。















―――――『東の国から愛を込めて(最終話)』―――――















『 パパとママへ










     私を産んでくれてありがとう。










    ―――遠い遠い国から愛を込めて   蛍子より 』



 完

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