ザ・グレート・展開予測ショー

八年後の、夏の日


投稿者名:Kita.Q
投稿日時:(03/ 8/25)

ひまわりの黄色が、目にまぶしい。
いくらハンカチで汗を拭いても、後から後から汗が吹き出てくる。
太陽の光の熱と、地面から立ち上る湿った空気の暑さで息苦しい。


横島がロシア南部で消息を絶って、一年になる。
令子が、横島をオカルトGメンの依頼で『仕方なく』貸し出したことを後悔し続けた一年でもある。
八方手を尽くして、令子は横島の行方を捜した。最初は人目を気にしつつ、「まあ、あんなのでもいないとさ、それなりに働いてもくれるヤツだし」と笑う余裕があった。しかし、一ヶ月・二ヶ月・半年と経つうちに、次第になりふりかまわないものになっていった。


令子の助手は、今では横島ただひとりなのである。おキヌも、シロも、タマモも、それぞれの道を歩んでいる。おキヌはネクロマンサーの力とヒーリング能力を高めるためイギリスに留学、シロとタマモは六道女学院を卒業後、それぞれ人狼の里、殺生石近くの森へと帰っていった。


「そりゃあ、あんたたちも横島クンのことは心配だろうけどさ。だからといって、あんたたちが今の自分たちの仕事をほっぽりだすようなマネは許されないわよ。・・・まあ安心なさいな、横島クンが殺したって死ぬようなヤツじゃないってのは分かってるでしょ?」


横島が消息不明になったことを聞きつけ、血相を変えて事務所に集結した連中を前に、令子は安心させるつもりで言った。――――――   


あのときのことを思い出すと、いつも令子の胸は痛む。おキヌたちの非難するような目を思い出すたびに・・・。


そんなときだった。「ロシア南部の農村で、横島によく似た東洋人を見た」という知らせが令子の元にもたらされたのは。



背の高いひまわり畑を抜けると、そこに一軒の家が建っていた。まるで令子が来るのを待っていたかのように扉が開き、男が出てきた。

「よこしま、クン・・・!」

彼はギクッとしたように声の主を見た。

「美神さん。―――――」

横島の、驚きと照れくささが混じったような顔を見て、令子の胸は、自分でも驚くほどに高鳴った。

「元気そうじゃない・・・!」
「わざわざ来てくれたんですか!?」

案外のんびりした横島の表情を見て、令子は必死で怒りを押し殺した。というのはうそである。
安堵感の方が圧倒的に高かった。無事でいてくれた、ただそれだけでよかった・・・。

「ことがことだけに、みんな心配していたのよ。・・・なんにせよ、連絡ぐらいしなさいよ、日本にはいつ帰れるの?」
「・・・すみません。俺、もう帰らないつもりです」
「え」
「実は―――――」

だしぬけに扉が開き、甲高い声が響いた。

「あなたー!お弁当忘れてるわよー!」
「ありがとう。あ、紹介しますよ美神さん。彼女ソフィアっていいます。実はボク、こっちで結婚しちゃいまして、エヘエヘエヘエヘー♪」

弁当を受け取り、強烈に抱きつかれ、いってらっしゃいのキスをされる横島をみて、令子は頬をヒクつかせた。

ソフィアは、令子がギョッとするほどの巨乳である(←ここ大事)。横島に抱きついた拍子に、効果音が聞こえそうなほど形を変える『それ』を見て、令子の視界がグニャリとゆがんだ。

彼女は令子を横目で見ると、「フフン!」と笑った。

「ロシアだって、アメリカに負けず劣らず、若い巨乳は珍しくないデース。日本の、30歳−αでタレぎみのオバハンに比べれば・・・ね?」

そのセリフを聞いた瞬間、令子の視界は真紅に染まった。



「ちょっとあんたっ、何がいーたいわけっ!!!!??」(←四倍角のつもりで見てください)






























「はっ・・・・・・」

令子は周囲を見回した。目に見えるのは、いつもどおりの事務所内の風景である。

(ユメか・・・・・・)

いまいましげに頭を振ったとき、横島がドアを開けて入ってきた。手に何か包みをもっている。

「どうしたんです、美神さん」
「・・・どうもしないわよ!」
「そうですか。ところで、お茶でもいかがです?クッキー買ってきたんですよ」
「あ、ああ、そうね。いただくわ・・・」




横島が入れた紅茶をすすり、ようやく令子は人心地がついた。
夏の真っ盛り、冷房の効いた室内で、あたたかい紅茶を飲むというのが、令子のリラックス法である。
テーブルの向かいで、横島はクッキーをかじっている。


八年。


(横島クンが、髪をオールバックにしたのって、いつごろだったっけ)

そんなに以前のことではない。しかし、正確にいつごろだったか、どうしても思い出せない。
服装も、ジーンズの上下から、スーツに変わった。今は夏だから、ワイシャツにネクタイであるが。


横島の金回りは、あまり良いとはいえない。同年代の一般サラリーマンと比べても同じか、むしろ低いぐらいである。見かねた美智恵が、令子に苦言を呈することもある。令子が、GS界屈指の力を持つ横島を安月給で抱えているというのは、最近は業界の物笑いのタネにすらなっているのである。


しかし、令子は横島の待遇を変えようとはしない。不思議な心理からだった。


(もし、横島クンの待遇を、彼の実力に見合うまでに引き上げたら、その瞬間、彼は自分の目の前から姿を消してしまうのではないか。―――――)


なぜそうおもうのか、令子は自分でも分からない。間違っているのではないか、ともおもう。

(どうかしている・・・)

令子は、のんきな顔つきで紅茶をすする横島を見た。







「横島、おまえよぅ、いい加減に美神令子と手を切れよ!」

酒の席で、酔っ払った雪之丞(いまや、弓式除霊術の若先生だ)から、ときどき言われることがある。
そんなとき、横島はこんなふうに答える。

「世の中ナメくさったあの女をさ、合意の上で押し倒してやれば、落差が激しくて燃えるやろなー♪
・・・ってさ」

もちろん、本心はまるで違ったものである。じゃあなんだ?と聞かれても困るのだが。


恩義などではない。周囲が思うほど、俺は美神さんのキツい講習をありがたがってるわけじゃない。
義務感などではない。だいたい義務ってなんだ?自分がいようがいまいが、美神令子は美神令子じゃないか。

自分の感情を正直に話して、どれだけの人が正直に信じてくれるだろう。




ふっと、横島は視線を上げた。令子と、視線があう。

「なんです?」
「なんでも、ないわよ」

怒るかとおもいきや、令子は憂鬱そうに視線をそらした。






「丑三つ時までは?」
「あと十五分です」

令子は装備品の確認をして、ふっと息をついた。

やっぱり私って仕事が生きがいなのよねー。ずいぶん以前にいったこの言葉は、今もほぼ同じである。強大な悪霊や悪魔との息詰まる戦い、そして莫大な報酬。いくら不景気といえど、交渉しだいで大金を引き出すことができる。美神令子は変わっていない。


変わって、いないのだろうか?


横島は令子の顔を見て、少し眉をひそめた。

(どうも、クリアじゃないな)

口に出せば、彼女はムキになって否定するだろう。何か心配事があるような顔をしている。ここ最近ずっとだが。

「横島クン」
「なんです?」
「考え事してないで、仕事に集中しなさいよ!」
「俺は大丈夫ですよ」
「・・・え!?」

令子の顔色が変わったのを見て、横島はしまったとおもったが、手遅れだった。

しばらく令子は横島をにらみつけていたが、やがて口辺を歪めた。

「あんたも、頼もしくなったわねぇ」
「・・・・・・」

横島は下を向き、・・・やがて小さく笑いはじめた。

「なにがおかしいのよ!?」
「美神さん。俺は、ここにいてはいけないんでしょうか」
「え・・・・・・!?」

狼狽した令子に構わず、横島は時計を見た。

「美神さん、時間です」

周囲に、かすかな臭気と冷気が漂いはじめている。




























仕事を終えて自分の部屋に帰ると、横島は着替えないまま布団に身を投げ出した。そして以前、唐巣神父に話した言葉を思い出した。

「一度でいい、あの美神さんを正々堂々と食事に誘って、なんの違和感もなく美神さんがOKしてくれればなあ。・・・なんてね、最近考えるんです」

横島の顔に、少しずつ笑いが広がっていった。

(まだ俺は、それを実現させるための魔法の言葉を見つけられないでいる。―――――)

もっとも、言葉いぜんの問題かもしれないなあ・・・などと考えながら、横島は目覚ましタイマーをセットし、目を閉じた。

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