天上天下唯我独尊。
投稿者名:hazuki
投稿日時:(03/ 8/24)
美神の事務所に、一件の法外の値段で舞い込んできた依頼があった。
その依頼自体は、ひどく簡単な
それこそ拍子抜けするほど簡単なもので。
廃墟ビルに巣食う、一匹の悪霊を退治してほしいというものである。
そんな仕事に、この不況のご時世に、ありえないといっていいほどの報酬であった。
もちろん、報酬金額第一な美神が、この仕事を断るわけもない。
二つ返事で請け負ったのだが─
ああそうか。と
美神は、その高額な報酬の理由を知った。
この幽霊は『殺された』霊なのだ。
しかも、この会社、つまりは依頼主にである。
美神は鼻を鳴らし
「そーゆうこと」
と不機嫌にいってのけた。
どーりで他言無用ということを誓約する契約書を書かされたわけねと一人ごちる。
そりゃまあ自分のところが『殺した』なんて外聞が悪すぎる。
幽霊と『成仏』させるということでつれてきたおきぬも蒼白になり美神を見る。
「美神さん…」
おきぬは、感応能力(元幽霊だということもあるのだろう)が美神よりも高いために美神よりもダイレクトに感じるらしく、泣きそうな顔で美神をみている。
「ま、ここにずっと縛られたんじゃかわいそうでしょ?」
美神は肩を軽くすくめ、そう言う。
「でも……いいえ、そうですね」
ぐっと涙ぐみながらおきぬ。
笛を構え、美しいけれど少しだけもの哀しい音色を響かせていく。
音は、霊波に代わり辺りを埋め尽くしそして、成仏できずに悪霊と成り果てた哀れな魂を癒しあるべき道へと促す。
死霊使いの、いやおきぬのもつ能力だ。
そんな心洗われるれる様を眺めながら、美神は唇を歪めひっそりとおきぬには聞こえない程の声で呟いた。
「さあて、どおしよおかしら」
と。
云っておくが美神は、ピートや唐巣神父のように正義感が強いわけでもなければ、優しいというわけでもなない。
けれど、気に食わないと、思ったのだ。
自分なら、高額の依頼料を払えば口を噤むと思われたのも、おきぬをなかせたのも。
はっきしいって気に食わない。
事件自体は、一年ほど前に時効を迎えている。
法的にどうこうすることはもうできない。
まあするつもりは、無いが。
数日後。
美神は事務所で一枚の調査報告書を眺めながら美神は電話の受話器をとった─
更に数日後。
美神は、その事件の依頼主へと呼び出される。
ある会社の役員室の豪奢な椅子に男は座っていた
声を震わせ、さぞかし良いものを食べたのであろう、でっぷりと肉付きのよい体の壮年の男性がそこにはいた。
頭はもう禿げ上がっており、その姿はどうみても鑑賞の堪えうるものではない。
が、権力をにぎっている為か、にじみでる貫禄─いやこの場合は威圧感と呼ぶべきものがある。
「これは、なんだね」
ぴらりと、一枚の紙を差し出し男性。
「さあ?」
にっこしと満面の笑顔で美神。
その一枚の紙には、ある男性のことが、もういなくなった男性のことを細かく調べ上げた調査書があった。
それは、美神が調べ上げたものであり、そしておきぬが成仏させたひとのものである。
「これが、どうかしました?もう二十年近く前にここにいた社員の単なる経歴じゃないですか?」
よどみなく、すらすらと美神。
「それを、何故いまキミが調べるのだい?」
いっそ、なごやかとすらいえる見せかけの口調で男。
言外に、無事でいたいのなら、何もするなといっているのは明白である。
普通ならここで、驚くかひやりとするか
少しはそれなりのリアクションをする。
が、美神は嫣然と微笑み
「さぁ」
といった。
そして、付け加えるように、
「好奇心が旺盛で、ほんのすこしだけおしゃべりだからでしょうか?」
と言う。
これの意味するところは明白である。
「……好奇心猫を殺すというだろう?」
低い、地を這うような声で男
「ご心配なく私は猫ではなく…トラですからね」
がくすっと美神は笑い云う。
あんたなんぞ相手にもならないと、云っていること明白である。
かっと頭に血が上ったのか、男は椅子から立ち上がろうとしたが、動かない。
「こんなふうに動けないものに、殺されることなんぞ考えた事ありません」
くすくすと軽やかに、美神は笑う。
手には小さな光る珠を持ち。
そしてゆっくりと、近づきとんっとある一定の金額を書いた紙をそこに置く。
それは、先ほどの依頼料よりもなお高いものである。
「−!」
にっこしと、美神は赤く色づいた唇を上にあげ
表面上だけはこの上も無く完璧な笑顔で、
「口止め料で」
とのたまわった。
後日。
「あ、おきぬちゃん、このお金振り込んどいてもらえる」
書類を眺めながらぽんっと通帳を渡し、美神。
「はい」
アイス珈琲を持ってきた、おきぬはなんともなしに受け取る。
が、ふとそのひとの名前を知りばっと顔を上げおきぬ。
「美神さん…この名前って……」
「あ、うん。この前の人の遺族にね」
書類の山をうんざりしつつ美神。
「美神さん……」
じわっと涙を浮かべおきぬ。
「今日、酢豚が食べたい」
おきぬの方をみず、美神。
「もちろんとびっきり美味しい酢豚つくりますからねっ」
ちなみに『口止め料』の半分ほどが美神の懐にはいってたのはここだけの話。
おわり
今までの
コメント:
- スイマセンよってるんです
よってるんです美神さんの話かきたいなあとおもったらいつのまにか(つд`)
ああっすいませんすいません(駄目
でコメントくださっているみなさまありがとうございますです
てーかこんな話誰が読むんだ? (hazuki)
- >けれど、気に食わないと、思ったのだ。
自分なら、高額の依頼料を払えば口を噤むと思われたのも、おきぬをなかせたのも。
>ちなみに『口止め料』の半分ほどが美神の懐にはいってたのはここだけの話。
美神さんの行動が非常に「らしい」とおもったので賛成です。
最近は悪役化している話が多いですけど、こういう人なんですよね美神さんって。
実際原作でも外道な事まではしてませんし。 (柿の種)
- 横島や地獄組組長には別の意見がありそうですがw>外道でない美神
それはさておき、悪役にならないギリギリのさじ加減、御見事です。 (MAGIふぁ)
- 「金さえもらえりゃ、どんなマフィアとも契約する」美神さんを考えると、ちょっと違うかな、という気がします。
もともと除霊の依頼というのは、故意もしくは過失の加害者からの依頼も数多く含まれるものでしょうし。 (赤蛇)
- 横島や地獄組組長には別の意見がありそうですがw>外道でない美神
ま、地獄組組長は過去の報い。横島君の方も自分の意思でいるってことで我慢してもらいましょう。弱みを握って離れなれなくするとかの本気でさいて (柿の種)
- 横島や地獄組組長には別の意見がありそうですがw>外道でない美神
ま、地獄組組長は過去の報い。横島君の方も自分の意思でいるってことで我慢してもらいましょう。弱みを握って離れなれなくするとかの本気でさいて (柿の種)
- 途中で投稿してしまいました、すいません。
続きで
弱みを握って離れることが不可能にするとか、本気で最低なことはしてませんし。
アシュタロス戦以降は悪霊をおもちゃにするとか、タマモ抹殺の汚れ仕事を横島に押し付けるとか、ユニコーンを殺そうとするとか結構外道なこともしてるけどさ。 (柿の種)
- 美神さんの今回の具体的な行動理由は、殺しということをした会社(依頼主)の行動ではなく、おキヌを泣かせた、自分のことを金で口封じできると思った、という会社(依頼主)の態度だとおもったのですが。
そして、最後の美神さんのそのお金の半分を懐に、という行為。美神さんらしさが存分に出ていたと思います。
なんかえらそうにいろいろとかいていますが、読み間違えていたらすいません。ただ、私は、こういうふうによんで、これはいい作品だなぁ、と思ったので。
投稿お疲れ様でした。 (小天狗)
- 魔鈴を狙撃しようとしたり。←ギャグシーンでは外道な美神(周囲からのフォロー有り)
猫又親子を見逃したり。←シリアスシーンでは外道でない美神(ギャグ落ちのフォロー有り(笑))
広い視野で見ればバランスは取れてるんですよね。
今回は、依頼主側が最初から腰を低くしていれば、美神もビジネスとして割り切ったように思えます。
口止め料の要求と遺族への振込みは、人情と依頼主への嫌がらせと実益(笑)を兼ねて、といったところかしら。
善人ではないが悪人でもないあたり、彼女らしいです。
投稿お疲れ様でした。 (dry)
- 「殺された」と言う言葉にはどれくらい重みがあるのでしょうか。敢えてそれに挑戦し、暗雲を晴らす形で締め括ってくださったhazukiさんに拍手です♪ ええ、最初の辺りで危うく反対票に偏りかけたなんて事は無いですよ。ははは(滝汗)。本来、『指図』されることが大っっっ嫌いなイメージの美神さんが「他人の身勝手な都合のために使われる」なんてことに反発するのは言わずもがななんですよね。主役の美神さんにおキヌちゃんが入ることでいい味出しています。「おきぬをなかせたのも。」の部分は優しさで涙が出そうでした(笑)。 (マサ)
- 今ちょっと読むテンションではないので後日に回さしてください。申し訳ない。
>タマモ殺すヨゴレ役
違う。それ、絶対間違ってます。だって公的にはタマモの処分は認められたものであって
横島が殺そーが、美神が殺そーがおキヌちゃんが殺そーがどこからも文句は出ない。
加えて。その後のうどん食してるシーンでの会話で、現実的に横島に任せれば
タマモは保護されるであろうことを予期していたと解りやすく言っています。
これで他人にも自分にも、タマモを倒して汚れる根拠はゼロだと言えると思います。
少なくとも美神は助けるつもりでいたことを理解していただきたく思います。
この時に言及すべきはむしろ国家に対して詐欺を働いている点です(苦笑) (ダテ・ザ・キラー)
- 性格の悪い金持ちからぼったくる(?)美神が素敵です♪
善人ではないけどそれほど悪人でもない、美神はそんな感じが良いですねーw (紫)
[ 戻る ]
管理運営:GTY+管理人
Original GTY System Copyright(c)T.Fukazawa