ザ・グレート・展開予測ショー

奮闘記 傍系番外編 (後編)


投稿者名:トンプソン
投稿日時:(03/ 8/22)

礼拝堂へは、二つほど下がる。
主のおわす十字架に祈りをささげる男がいた。
いわずと知れた唐巣枢機卿である。
幾十年の月日は彼を初老と呼ぶ年齢にさせている。幸い髪の毛の後退が、我々の知る頃と変化が無いのが幸いと言える。
とはいえ、白が六割、黒が四割であるが。
気配に気が付いたか。
「おはよう。迷える子羊よ」
夜なのにおはようとは。
言葉は枢機卿が続ける。
「大体のあらましはお友達から伺いましたよ。京華君」
「そうですの」
「一つ、質問をよろしいですかな?」
「よろしくってよ」
相手は自分たちを陥れた男である。ライバルなんかよりもずっと憎まなくてはいけないはずなのに。だが・・。
精々ぶっきらぼうに応答するのが関の山である。
だが、そのようなことを一切気にしない枢機卿である。
「私は現在GS協会の長を君の一族から奪った張本人の一人です」
「・・・」
拳に握力が加わる。
「何度か写真なりで顔をしっているでしょう。私がにくいですか?」
「・・・・・いいえ」
唐巣枢機卿の眼鏡の奥にある目が少し大きくなる。
「・・すいません。少し憎いですわ」
「私が怖いですか?」
そう。今のたたずまいで到底最高クラスの霊能者には思えない。よもすれば先ほどのレジット神父のほうが強そうである。
「いいえ。それはありません事ですわ」
「正直でよろしいです」
手を打ちながら言う。
「貴方がひのめ君を憎んだのは貴方にとっての幸せを奪ったと思うからです」
私にとっての幸せとは?
「貴方は家系的な重圧に加え、お母上の死、それから逃れたかったのです」
それは友達が何度となく言ってきた言葉である。知っているといいたいのか。
「ですが・・」
くすりと笑う枢機卿は言葉を続ける。
「転嫁という意味はわかりますね。ひのめ君も、似たような美神家の重圧を持っている」
そうなんだ。そんな事は気が付かなかったと、京華。
「同性の似た物同士はいがみ合うのは世の常です。些細な喧嘩も主も許しましょう」
・・・。
「ですが。なればあえて、いがみ合うのを引きなさい」
「そ、それは!」
出来るわけが無いと言いたい。
「本気で争うのは大変です。ですがその争いを引くのはもっと大変です」
一呼吸。
「茨の道です。ですがその先にあるのは、現状で可能な幸せです」
今まで無意識の拳が緩む。
「幸せ・・ですか?」
「はい。そう、その顔がいいのです」
自分がどんな顔をしてるのか?ガラスを鏡代わりに見る。
笑顔だ。私笑ってる?でも今にも泣きそうな笑顔だ・・・。
「そう。茨の道を選ぼうとする貴方に主はちょっとだけ力を貸すでしょう」
そんな具体的な事は無理では?
「・・。もう一度だけ、先ほど寝ていた屋根裏へ行きなさい、私の意味がわかるでしょう」
そういってもう一度十字架に祈りをささげた枢機卿であった。
「どうぞ」
不意に声を出したレジット神父に、ちょっぴり、驚いた京華であった。
不思議なことに、階段を降りたときに派生したきしむ音がなくなっている。
ドアをあける。
そこに女性がひとり。
「・・・・・・・・マミー!!!」
不思議なことだらけの極めつけが母親がいるではないか!
思わず抱きつこうとする。無理であるとは感覚がわかっていた。母親は自分の幻影だと。
だが。
弱弱しくも抱く感触は人そのもの、匂いが母親そのものなのである。
「マミー、わたしね、わたしね!」
何を言おうか、言いたいことはたくさんあるのに。でも何も言えない。これが幻影でないのに。
おでこにキスをされた。
「ねぇ、ママのいう事聞いてくれる?」
「・・うん」
「お願い、貴方は可愛い女の子なの」
「うん!」
「だから争うことで、戦うことで自分を見つけるのは止めて」
「・・うん。ママの言うことだから」
「そうよ。ママは見ていたわ。がんばっていたわね」
「うん」
すすり泣きが本泣に変わる。
「だから、もっとがんばって、綺麗な肌を台無しにしいないでね、ママとの約束よ」
「うん、うん。うん!!」
抱きしめる力が弱弱しくなってきた。
離さない様に、京華は力を込める。それに答え母親、フラウも力を込める。
「あのね。ママ・・ママ」
「・・・貴方とともに、ママの子よ。京華・・」
もう力が抜けていく。せめて何かにと思い母親の髪の毛を掴んだ。
どういう原理であったのか。
窓が開き、風が抜けるともう何もいなかった。
「・・神のご加護を、貴方が茨の道を、少しでも歩まれることを祈りつつ神と子と精霊の名においてアーメン」
数分後、矢張り足音のしないレジット神父が来た。
「今のマミーは・・幻影?」
「手を御覧なさい」
指と指の間に挟まれていた、髪の毛は母親の色そのものであった。
「幻影はテレビと同じ、見えるけど触れない物。貴方は母親に会えたのです」
不意に。
レジット神父に抱きつき、わんわんと声を殺すことも忘れなく京華である。
「自宅へ送りますよ、さぁ、泣き止んで」
「はい」
車はイタリア国の大使館ナンバーであるが、その様なこと、女子高生にわかるはずもなかろうか。
特にしゃべることもしなかった二人であったが、車を降りたとき、ありがとう御座いましたの、快活のある声は、
十代の女の子である証拠となる。
その声を聞いた神父も満面の笑みで返し、十字を京華のために切った。
再度同じ道を辿る神父であり、車を教会の前に止めた。
「お疲れ様です。神父」
神との対話を終えた枢機卿の出迎えであった。
「いえ。人の道をさとすのが神に仕える我等の仕事、疲れなどは」
無いと言えるのか。
「それにしても、神父もとんだ場面に出くわしましたね」
「まことに持って、美神一族を調べていたのですがね、喧嘩に出くわすなんて」
車の助手席に一枚のバチカンの印が載せてある文書の下書きがある。
タイトルに「美神家における魔側の干渉調査」とあった。
バチカンは、霊的な動向を監査する側面もあるのだ。今回レジット神父の目的はどうもこの文書にあるのではないか?
いくつか書かれているが、「干渉は見られない」との文字は読者諸君に安寧をもたらす事が出来れば幸いである。
「さてと、仕事が終わったので、明日からどうしますか?」
「えぇ、休暇を貰ってますので、友達に会いに行きますよ。今回の仕事は隠してですが・・ノ!」
「おやっ?かつてのなまりが出ましたね!」
「こ、こりゃいかんケン!」
教会前が二人の笑い声が響く。
クリスチャン名レジット神父、英語表記で『REGIT』反対から読めば、『タイガー』
そう。かつてタイガー寅吉と呼ばれた精神感応を得意とした彼である。
詳しいことは省くが彼の能力を最高まで高めれば「主」と言われる存在を確認できるのである。
その彼が聖職者になる道は意外と近かったのである。

〜ひのめ奮闘記より、傍系番外編、FIN!〜

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