過去からの遺産
投稿者名:AS
投稿日時:(03/ 8/18)
△月□日
私は女だてらにトレジャーハンターだ。 遺跡の発掘、古文明の調査、探索を生業としている。
そんな私が遂に踏破したこの遺跡…すでに財宝の類は朽ちてしまったのか皆無であったが、私はそれにも勝る宝。 古代人の手記を発見したのだ。
大変興味深いではないか…私はこの遺跡の発掘に成功した最初の人間として、人類史上最初にこれを読むというのか。
はやる気持ちを抑えて、ゆっくりと手記を紐解く。 こ、これは…!
この手記は、人であって人でない者、その者の人ならざる手により記されたーーだと!?
そもそも…この遺跡は、かつてこの地に強力な力を持って君臨していた女帝が住まう宮殿だったという。
その女帝の死後は、遺された宝を狙う盗人どもが侵入することもあったとされているが…それを撃退してきたのはなんと、その女帝の怨霊と言われている…。 いやはや、その女帝はなんともがめつい女であったのだろうなぁ。
まぁしかしだ、その女帝も伝承によれば、人であって人でなき勇者の手により天に還されたとされ…今はその姿を拝むことも永劫ない。 やや残念だ。 女帝は絶世の美女という証言も遺されていたのだが…。
おっと…感慨深げに独白してる時でもないな…さて…おそらくこの手記は勇者が女帝を祓った時に遺した物であろう。 どれどれ…。
○月×日
今日は湿度も高く暑い日です。
この蒸し暑さと湿度では、私を住処とする女性達の心身に影響する恐れがあります。
まぁ私が気を揉むまでもなく、彼女たちの夏対策は万全でしょうが…万が一にも夏バテなど起こされないよう、空調などには細心の注意を払いましょう。
おや。
ミス・おキヌが朝食の支度を始められた様子…いそいそとエプロンを着こなしチョコチョコと台所を駆け回ります。 思考的には女性に近い私でも、ほんわかと心が和みますね…はっ、見とれてる時ではありません。
家事に関しては、例えその道のエキスパートに比肩するミス・おキヌであっても、些細なミスから火災を起こす可能性はゼロではありません。 ここはじっと見守り、注意を怠ってはなりませんね。
おや…ミス・おキヌが、食器を取り出してから火にかけてある鍋のほうに振り向いた時、食器棚に微かにミス・おキヌの肩が触れました。 棚が少し揺れ、それだけにも関わらず今にも食器が落ちそうです。
彼女は気がついていない…無理もない、楽しげにいそいそと歌を口ずさみながら料理をする彼女に、こんな些細なミスを気付けなどとそれは酷というもの。
しかし現実に…ああ、こうしてる間にも食器が宙に…もはや彼女に声をかけても、食器が粉々になるのは避けられないでしょう。 こうなればやむをえません。
私は自分の身体を強く揺さぶりました。 食器が落ち砕けるのは、ミス・おキヌの手落ちではなく、天災というならば彼女の心も痛まずに済むでしょう…。 やや偽善的でもありますが。
「どわぁぁぁぁ!!!」
おや? 今窓の外を地面に向けてダイブされたのはミスター・横島?
どうやら私が身体を揺すったことで、建物の外に張り付いてたところを振り落とされてしまったようですね。 しかし…一体何をしていたのでしょう?
おっと…まぁミスター・横島は『頑丈』ですし、大丈夫でしょう。 それよりもシャワーを終えて出てくるオーナーが身体を冷やさぬよう、適切な温度を保たねば…。
△月○日
今日は過ごしやすい日ですね…湿度も平均、風も心地よく、陽当たりも良好。 外を歩き散歩するにちょうど良い一日です。
おやおや…今玄関口から散歩に飛び出していかれたのは、いつも元気な人狼族のミス・シロですね。 それに引きずられるようにしてミスター・横島も勢いよく二人仲良く笑顔で散歩に行かれました。 気のせいかミスター・横島のほうは笑顔が引きつっておりましたが…。
現在の時刻で散歩に行かれたということは、戻ってらっしゃるのは夕飯時ですね。 ミス・おキヌの手料理に瞳を輝かせるミス・シロの嬉しそうな表情は、私にもその嬉しさを分け与えてくれる貴重な宝物です。
私がそんな物思いにふける内に、そろそろミス・シロ達が戻られる時間になりました…はっ。
大事な事を思い出しました。 今の今まで忘れているなんて…迂闊な。
最近気になり始めた事なのですが、ミス・シロはどうも玄関で脱いだ靴を揃えないままにして、食卓に向かってしまうのです。
そうした悪い癖は皆に伝染します。 少しばかり越権行為であるかもしれませんが、ミス・シロに靴を揃えることをきちんと覚えていただかなくてはならないでしょう。
しかし、喜び勇んで戻ってこられるミス・シロに、そんな説教をして水を差すのも気が引けますね…。 あの笑顔が曇るのは不本意です…。
そうだ! 乱暴かもしれませんが、玄関口の重力を倍にしましょう。 拙速な動きさえ封じれば、考えが及ぶ時間も出来、ミス・シロも靴の揃え忘れを思い出してくださるでしょう。
時は来たり。 ミス・シロが帰宅されました。
重力増加!
おや…ミス・シロはいつもと変わらぬ機敏さで、玄関口の増した重力など意にも介さずに食卓へ駆け込まれてしまいました。
勿論靴は脱ぎ散らかしたままです。
おかしいですね…重力負荷の増加を可能とするする私の機能は、オーナー達が私を手に入れた時からも、調整を怠ってはいないのですが。
試しに実験も兼ねて…玄関口の重力をさらに倍にしてみます。
「たっだいま〜…まったくシロのや…ぶぎゃっ!!」
プチ! あ…潰れた。
えぇと…まぁミスター横島は『頑丈』ですし、大丈夫でしょう。 それよりも、恐るべきは人狼の心身。 次には重力云々の乱暴な手段は控えて、平和的に靴を揃えていただくよう、していただかなくては。
×月△日
今日は雨が降り積もる一日。
雨にも関わらず、今日はオーナー、ミス・おキヌ、ミス・シロがお出かけしております。
この事務所に残っているのは、ミスター・横島とミス・タマモのお二人のみ。 今ミスター・横島は仮眠中であり、ミス・タマモは読書に勤しんでおられます。
おや?
ミス・タマモが本にしおりを挟んで、キッチンに向かいました。 そうやら紅茶を煎れるようです。
あ!
いけません! ミス・タマモ!
その紅茶はオーナーであるミス・美神が、今はすれ違いも多く別居していた父親に振る舞うと、大切に保管しておいたもの…!
ああ…しかし、私には止める術はありません。 家のことは家に住まう人達で解決しなくてはならぬもの。 それが人間?模様ならなおさらです。 私が口を出すわけには参りません。
こうなれば…せめて、ミス・タマモにだけオーナーの怒りが降り注がないよう、便宜を図りましょう。
ほんの少し。 紅茶の香りがミスター・横島の鼻腔をくすぐるように、窓を開け風を入れます。
ひくひくと鼻を動かし、ミスター・横島が目を覚まされました。
「なんだかいい匂いが…まるでこうルシオラを抱きしめたみたいな…」
大変危険な発言です。 そういうことは声に出してはいけません!
まったく…貴方に少なからずの好意を、形それぞれとはいえ抱いてる方達がいないからよかったものの…修羅場にならぬよう、今の発言は私の胸に秘めておきます。
と、私が戦々恐々してる間に、ミスター・横島はミス・タマモに自分も紅茶を飲みたいと申し出たようです。
よかった…これでミス・タマモだけがお怒りを受けることはないでしょう。 二人でお怒りを受ければ、例えオーナーの怒りであってもそれほど苛烈にはならない筈です。
あ、オーナーが帰宅されました。 ……。 オーナーのお怒りは、何故だかミスター・横島だけが受けることとなりました。
「よ〜〜こ〜〜し〜〜ま〜〜っっっっっ!!!!!」
うぅむ…まぁミスター横島は『頑丈』ですし、大丈夫でしょう。 それよりも、あんな恐ろしい怒りとそれに伴う仕置きは…これからオーナーがお怒りになる状況は作らぬよう、私も有事には口を挟むことを自分に許可しましょう。
さて。
明日もまた皆さんが穏やかに、健やかに過ごせますよう願って、ひとまずこの手記を終わります。
△月□日
私は静かに『手記』を置いた。
手が震えている。 いや全身が震えている。
懐から手早く、タバコを取り出す。 心を落ち着けるためタバコをくわえてから、私は空を仰いだ。
無造作に、携帯を取り出して連絡を入れる。この私…遺跡発掘を生業とするトレジャーハンターの中でも、世界の五指にその名を連ねる名家・美神一族の後継である私は、一族の知られべかざる記録を、永劫の禁忌とする事を決意した。
その後…この遺跡が、あらゆる権謀術数と特殊な霊力を総動員することとなった美神一族の所有地とされたのは、言うまでもない。
今までの
コメント:
- 一読して思ったのは・・・
「なんじゃこりゃ(笑)」
う〜ん、別に禁忌とするような事でもないと思うんですけど(^^)
横島は「頑丈」なんですね、人工幽霊壱号君。
しかし、暗躍(?)してるなあ。
ところで、テーマがイマイチ良く分からなかったんですが、これは人工幽霊壱号の話なんですか? (ウルズ13)
[ 戻る ]
管理運営:GTY+管理人
Original GTY System Copyright(c)T.Fukazawa