ザ・グレート・展開予測ショー

#まりあん一周年記念『ヒト』(完結編5)


投稿者名:hazuki
投稿日時:(03/ 8/11)

神様。
おねがいですから─





カオスは、揺り椅子に体を沈めながら、じっと虚空をみていた。
手元にあった本は閉じられており、なにか苛立ちさえ感じさせる表情で、虚空を見つめている。
旅のしたくはもうできている。
椅子のしたには、少し大きめのトランクが二つほどおいてあり、それをもって旅立つだけだ。
元々、一つのところに住むことはなく旅から旅へと、移り歩く暮らしをしてきたのだ。
旅の支度などお手の物である。

「まだか…」
ぽつりと、カオスはひとりごちる。
長い時間がたったわけではないのに、何故だろうか?
カオスは激しい焦りを感じていた。

マリアがついているから、滅多なことにならないと、わかっているのに。
二人を見送ったあとにあふれ出る不安がある。

それに、ジムが別れを言いたいといったの子供のことも、カオスは知っている。
頭がいいとはいえないが、誠実で優しい、そして友達思いの少年だ。
その少年が、ジムを傷つけることなどありない。
カオスは、そう知っていた。

なのに、不安が、消えない。
胸のなかに澱のように、なにかがたまっていく。



「……考えすぎかの……」
カオスは頭を左右に振り、ため息のようにそう言う。
ぎいっと軋んだ音をたてて椅子がなる。
カオスは眉間を指で抑え、すこしだけ、目を瞑った。



ふと、カオスは何かの気配を感じ目を開けた。


「ドクター・カオス」

目の前にあるのは、血まみれの、マリアの姿。
そしてその腕のなかにいる少年。

そしてひどく喧しい、警告音。



心臓をつかまれた感じというのは、こんなことを言うのではないだろうか?

痛すぎて呼吸もできない。

嘘だとわめきちらしてしまいたい。

が、それをするには、カオスはあまりにも経験をつみすぎていた。


蒼白な顔ながらも、冷静な表情で言う。

「マリア、オマエは後回しじゃ、ジムを寝室のベッドに回せ」


「イエス・ドクター・カオス」



べっとりと血で汚れた衣服を鋏で破り、そこから現れた傷に、カオスは絶句する。

「動脈をやられとる」

肩の、首へと近い部分への動脈をばっさりと切られていたのだ。
まだ息はあるがこのままではヤバイ。
失血死しなかっただけでも、奇跡的なのだ。

これを、なおすとするならば、最低でも、外科手術と大量の輸血が必要だ。
薬を上げるだけでもきりが無い。
そのうえ今の時代、外科手術など認知されてるわけもないし、輸血に至っては、口にするだけ無理だろう。


それにここには、設備が無い。
腕も知識もあるのに、それを生かす事の出来る設備も、道具がない。

天才と、あらゆる分野において、この時代のカオスは間違い様も無く、そう呼ぶに相応しい才の持ち主だろう。
だが、一人の人が天才でも時代がついてこれないならば、その人物は異端と呼ばれるものである。



カオスはぐっと拳を握った。

「〜〜〜〜〜〜!!!」


知識があっても、腕があっても、救えない。
ぎりっと歯を食いしばり、滲みそうになった涙を必至に堪える。

震えそうになる手を抑え、止血をし、そして痛み止め(元々ジムのためにカオスが調合したもの)を投与する。

なおすことのできない、自分ができることは、これだけである。

たった、これだけ。

血の気を失った顔は、苦痛に歪み、いつもきらきらと輝いていた瞳は、閉じられている。
出て行くときは、確かに元気だったのに。



そっと、ジムの頬に慈しむように、敬うように、そして壊れ物を扱うようにカオスはその手のひらを這わせたとき。


「どおした…の……かおす?」

細い…いつもの元気な声とは較べられない程細い声が、きこえた。


つづく

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