なぁ (2)
投稿者名:馬酔木
投稿日時:(03/ 8/ 8)
でもさ、あの大変だった頃も、楽しいことはあったよな。
なぁ、ピート。覚えてるか。
事務所開いて、一年半ぐらいだったっけか。
タイガーも資格試験合格して、まとまった数の仕事が入ってくるようになって、ちょっと落ち着いてきた頃だったよな。GS協会の広報から、取材受けたの。
同期の若手が四人も集まって事務所開いてるのって、珍しいとかでさ。
師匠が有名だってのもあって、俺ら、期待のルーキーとか言って、実は結構注目されてたんだよな。
取材に来たのがなかなかキレイな姉ちゃんだったのもあって、横島なんか大騒ぎしてさ。
それで最後に四人揃って写真を撮ってもらうことになった時、横島を前にやって並んだら、ちょっと注文付けられたんだよな。横島じゃなくて、お前が前に出てくれ、って。
あれだよな。取材の姉ちゃんみたいな若い女から見たら、やっぱりお前が一番かっこ良く見えるもんな。
男から見てもお前のツラはキレイなんだからよ。そりゃ、前に出して写真撮りたいよな。
あの取材の時は、それぞれの師匠とも一緒に、ってことで、令子や唐巣のオッサンも来ててさ。
おれ達の中じゃ何となく横島が一番の所長みたいになってたから、取材の姉ちゃんが何のかんの言っても、やっぱり横島を前にして撮ってもらおうと思ってたら、令子が言ったんだよな。
「ったく、ジャリガキ四人の事務所に所長もくそも無いでしょ。それに、あんた達とピートじゃ、ルックスで言えば三バカとツルみたいなもんなんだから、ピートを前にしなさいよ。横島が所長でも、看板はピートで良いじゃない」
ったく、今思い出しても、ひでぇ言い草だよなぁ。
ジャリガキっつーのでもひでぇのに、おれ達の顔とお前の顔比べて、言うに事欠いて「三バカとツル」だぜ?
でも、ま、確かに、おれ達にぴったりの呼び名だったかな。
だってやっぱり、どんなに文句つけてもお前は一番顔が良くて、かっこ良かったもんな。
それまでどんな仕事も真面目に引き受けてきたのもあってか、あの取材の後は、あちこちから良い仕事をもらえるようになったけど、やっぱりお前が「看板」やってくれたお陰もあるんだと思うぜ。
だって、おれみたいなひねたヤツとか横島やタイガーみてぇなヤツが看板だってのより、お前みたいな小奇麗で坊ちゃんぽいやつが看板だって方が、回りも依頼に来る仕事の中身、考えるよな。
なぁ、知ってるか。横島のやつも、「顔の綺麗なやつは得だよなあ」とかお前の前ではぶちぶち言ってたけど、「おれらの中に、ツルがいて良かった」とか笑ってたんだぜ。
その後、おれ達は色んな仕事やっていって、何か、気がついたら、令子やエミとかと一緒に「黄金の世代」なんてすげぇ有名になってたんだよな。そんでもって、「あのルーキー四人の事務所は最強」「元祖黄金世代の師匠達に鍛えられた、奇跡の世代」「ダイヤモンド・ルーキー」だとか何とか言われて、色々誉められたけどよ。
身内とおれ達の間じゃあ、おれらはやっぱり事務所開いた頃の「ジャリガキ四人組」で、「三バカとツル」な四人組だった。
おれら、結構上手い具合にかみ合ってたんだろうな。
初めての客や女相手の応対はお前が出て、実際の報酬の交渉なんかは横島がやって。依頼人がちょっと物騒な連中なら、交渉やってるお前と横島の後ろにおれとタイガーがついてガン飛ばしてよ。
悪霊相手に戦う時だと、おれとお前が前衛に出て、横島が全体の指揮とって、タイガーが後衛でサポートするって感じでさ。
それが、いつ頃からだったかなあ。
おれ達全員守るみたいに、お前がひとりで前衛に飛び出すようになったのは。
おれ達が、それぞれ嫁さんもらった頃から、だったか。
それまで住んでた事務所のビルから、おれらが順々に出てってよ。
最後、事務所の管理者名義がお前だけになっちまった時、お前、「みんなの部屋、もう物置に使いますからね。せいぜい、離婚なんかして出戻りしないように仲良くね」って言ったんだよな。
新婚相手に不吉なこと言いやがってって、おれらは冗談めかしに笑いながらお前を小突いたけど、あの時おまえ、我慢してたんだな。
おれらが結婚して、嫁さんと一緒に浮かれてた中でお前、我慢してたんだよな。新婚の家に邪魔しちゃいけないって。
そんで、大事な旦那に怪我させちゃいけないって、お前、気ぃ張ってただろ。
おれら、浮かれてて気ぃ回らなくて、ごめんな。
そういうとこ、やっぱり、女の方が聡いよな。
お前がひとりで前衛に突っ込んだり、新居に来い来い言ってるのに全然遊びに来ないってこぼしたら、おれ、かおりに叱られたわ。
そりゃ来ないんじゃなくて、新婚家庭に遠慮して来れないんだってな。
悪かったな、ピート。
おれらが嫁さんもらって浮かれてる時、お前はひとりきりだったんだよな。
でも、自分が結婚するときおれ達は、どうしてもお前に、「お前も早く嫁さんもらえよ」って言えなかった。
だって、な。式の時に、さ。
色んな連中がいっぱい集まってくれた結婚式の会場見回して、おれら、思っちまったんだよ。
お前だけ、変わってない、ってな。
小竜姫とか、ワルキューレはいいよ。あいつらは神様とか悪魔ってやつで、その世界に近いところで暮らしてんだからさ。ちょっとぐらい年取らなくても、周りもみんな同じなんだからよ。
でも、おれらと同じ人間の枠の中で暮らしてるお前が全然変わってないってのは、何か、怖かったんだよ。
事務所始めた頃はみんなガキんちょで、それから何年か経っても、令子や唐巣のオッサンに言わせりゃ、まだまだ「ジャリガキ四人組」だったからよ。
ずっと一緒にいたから、わかんなかったんだなあ。
おれらが嫁さんもらって子どもも出来たってのに、お前だけ、まだひげも生えねぇガキの姿のままなんだってことによ。
それに気づいちまって、おれらは怖くなったんだ。
勘違いすんなよ、お前が嫌いになったとかそういうわけじゃねえぞ。
ただよ、怖かったんだ。
ずっとつるんでたガキジャリ四人組で、これからもずっと一緒に行けると思ってたのによ。
手を繋いでたと思ったのに、何か、お前だけぽつんと置いてっちまったような気がして、怖くなったんだ。
今までの
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