ザ・グレート・展開予測ショー

なぁ (1)


投稿者名:馬酔木
投稿日時:(03/ 8/ 8)



 なぁ、ピート



 ありがとう、な。
 お前とはケンカみてえな出会いで、その後も、散々ケンカもしたけどよ。改めて言うと、ほんとに照れるけどよ。
 やっぱりさ、良い仲間で、良い友達だったと思うんだよ。
 おれはさ、お前に会えて良かったよ。







 おれ達が四人で事務所開いたのは、お前が高校出て二年目の春だったっけか。


 お前は色々あってGメンになれなくて、それどころか、試験も受けさせてもらえなくてよ。それでも生まれた島に仕送りしなきゃならねえからって、門前払い覚悟で採用試験に応募するか、私設の事務所開くかで、随分悩んでたよな。
 俺は俺で、日本で本格的に仕事始めたいって思ってたから、あちこち走り回ってて。
 横島も、いい加減甘えてられねぇって独立考えてて。
 タイガーだって、今年こそ資格試験に通るぞって、気合入れてたよな。



 みんな、我武者羅だったよな。
 そりゃ、あの頃の後も死ぬほど忙しいってことは何度もあったし、あの頃よりずっと無茶なことも何度もやったけどよ。
 あんまり忙し過ぎて悩み過ぎて、記憶がすっぽ抜けたみたいになってるのは、あの頃だけなんだぜ。
 我武者羅が四人集まって、力を合わせて、何とか形のあるものにしようとして。
 無茶苦茶走り回ったよな。さっきも言ったみたいにさ、事務所開くまでの半年間って、忙し過ぎて覚えてないけどよ。俺の人生で「すげえ大変だったなあと思うことベストテン」の半分ぐらい、あの半年の中に詰まってた気がすんだよなあ。
 その時まで何でも結構自分でやれるつもりだったけど、考えてみたら俺達全員、日本の法律じゃあ、数えで二十歳になったばっかのガキの集まりだったんだもんな。
 お前は七百歳だっつっても、法律の前じゃガキだったもんな。
 大変だったよな。悔しかったし、辛かったし、色んなことにムカついて、それでそん時、改めて思ったよな。
 今まで色々やってきたことが最後には全部上手くいってきたのはさ、やっぱり、保護してくれてた奴らがいたからだって。「無くしてわかる有難味」って、マジに思ったよな。
 でも、ここで甘えたらダメだっておれ達みんな思ってたから、頑張ったよな。
 それでもやっぱり、あの保護者連中が色々裏でちょこちょこやっててくれたのかも知れねえけどさ。
 初めて自分達の事務所の中に入った時、おれ達、飛び上がって喜んだよな。
 普段あんまり大声出さねえお前も、笑って手ぇ叩いてたよな。
 やっと、自分達で頑張ってきたものが形になった。これから頑張ろうって、おれ達はその日が人生の頂点みたいに笑ってたよな。
 あれは単なる出発点で、そこから頑張っていかなきゃならねえんだってアタマでわかってても、心はすんげえ興奮してて、おれ達はもう大騒ぎだったよな。やっぱ、ああいうのが「若い」ってことだったんだろうなあ。



 本当は、その日が人生の頂点になる、なんてことは、やっぱり全然無くてさ。




 いくら師匠が高名だとか、世界の危機を救ったメンバーだとか言っても、やっぱり駆け出しは駆け出しで。
 ヤな仕事、いっぱいあったよな。
 腹立って腹立って、どうしようもなくムカつく内容でも受けなきゃならねぇって仕事、いっぱいあったよな。
 そんな中でもおれ達、頑張ったよな。


 事務所始めて少しして、最初のワァーッて騒いでたのが落ち着いて、現実ってもんが見えてきて、ちょっと辛くなってきた時の、さ。一番ムカつく仕事、おれ、今も覚えてるぜ。

 どっかの国から日本にやって来た、イカレちまった呪い屋を退治しろ、ってやつ。
 あの仕事が来たのは、おれとお前が留守番してた時だったよな。
 あれさ、「退治」って言ったらまだ格好良いけどよ、要は、あれだよな。アタマおかしくなっちまった霊能者のなれの果てを、世間に内緒でぶっ殺しちまえ、ってことだったよな。
 それで、もっとムカついたのはさ。その仕事が、Gメンからの秘密の依頼だった、ってことだったよな。
 お前が試験受けられなかったおかげでGメンになれたような、親がちょっとばかり偉いさんで、ちょっとばかり霊能力があっただけでエリート面してる下らねぇ連中が、「汚い仕事はお前らがやってくれよ」ってツラ下げて依頼に来た時、おれは本当にムカついた。本当にムカついたんだ。
 高そうなスーツ着て、外面だけは良さそうに、人殺しの依頼だってのにヘラヘラしながら頼みに来やがったあいつらの顔面に一発入れて、裏のゴミ捨て場に放ってやったらスカッとするだろうなって、何度も思ったさ。
 でも、それでも、Gメンからの仕事、だったからさ。

 お前、断れなかったんだよなあ。
 おれも、断れなかったんだよなあ。




 横島とタイガーは、あれでも、普通の家でわりと普通に育った奴らだったからさ。
 あいつらには仕事の中身内緒にして、おれ達二人で行ったんだよな。
 本当にすんげぇヤな仕事だったから、あれがいつの季節で何月だったかなんて覚えてねぇけど、確か、雨降ってたよな。
 港の倉庫に追い込んであるから後はよろしくって言うムカつく連中はさっさと帰りやがって、おれ達二人、ずぶ濡れで倉庫に駆け込んだ。
 呪い屋は、すぐそこにいたよな。
 パジャマみてえな白い服着て、裸足で、泥だらけになってて。
 ぶつぶつ言いながらおかしな幽霊呼び出したりしてるけど、ちょっと気弱そうで、どこにでもいそうなガキだった。

 おれは怖くなったよ。

 香港でスイーパーの真似事やってた時とか結構汚い仕事もしたし、一応は仲間だった勘九郎だってこの手でぶっ倒したおれが、よ。
 相手がガキだったことで、急に怖くなっちまったんだ。
 そんでもって、本当はオレ、人間だけは殺したことがなかったってことに、気づいちまってよ。
 勘九郎は殺せたじゃねえか―――ああ、でも、そういや勘九郎はあん時もうバケモンだったなあとか、色々考えちまって怖くなったんだ。
 それでももう相手に飛びかかった動きは止まらなくて、ガキの腕を少し掠めちまって、そしたら泣き喚いて赤い血を流すのが見えて、よけいに怖くなった。
 どうせ殺すんなら早く楽に、って思ってるのに、足が動かなくってよ。
 わけのわかんねぇこと喚いて飛びかかってくるガキにもう一発入れたら、また腕を掠めただけで。
 血だらけになって転がるガキにブルッてるおれの前で、赤い花が咲いた。


 ごめんなぁ、ピート。


 呆気に取られてたおれの前で、お前のきれいな爪がガキの首に刺さってた。
 首の血管がきれいに切れて、血ぃ撒き散らしながらもんどりうったガキを、お前は抱っこしてやったんだよな。
 ガキの血で服とか顔とか真っ赤っかにしながらお前は、ブルッてるおれを見て、笑ったよな。
 すげぇ優しく笑ったよな。
 おれの顔見て怪我は無いかって聞いてきて、ぼくは長生きしてるから、色々見てるから平気って笑ったお前を見ながら、おれはただブルッてるだけだった。
 動かなくなったガキを抱っこしてやったまま倉庫から出るお前の背中を、おれは覚えてる。
 イヤな仕事だったから早く忘れようと思ったし、回りからもそう言われて、忘れよう忘れようとしてきたあの仕事の中で、あの時のお前の背中は絶対忘れられなかった。忘れたくなかった。
 ただぼうっとお前を見送っちまったおれは、あれからしばらくして思ったよ。
 殺したガキを抱っこしてやってたお前を、おれも抱っこしてやれば良かったって。


 お前、笑ってたからすぐにはわからなかったけど。
 おれ、ビビッちまってたから出来なかったけど。


 あの時、血まみれだったお前の手を繋いで、抱っこしてやれば良かったと思うよ。


 ごめんなぁ、ピート。


 でも、おれは結局その時はただビビってただけで。





 あの後、仕事の中身に気づいた横島達と、Gメンの方でその依頼に気づいた美神の隊長さん達に、何で言ってくれなかったってめちゃくちゃ怒られたよな。


 それで、さ。ピート。
 おれ、あの時のお前を抱っこしてやるのは出来なかったけど、いっこだけ、お前のために出来たかなってことがあるんだ。




 おれ達が殺したあのガキ、な。呪い屋なんかじゃなかったんだ。
 生まれつきちょっとばかし霊力持ってたせいで、幽霊ばっかり見えておかしくなっちまって、本当は、Gメンに保護されて日本に来て、制御できない霊力の封印してもらって、心の病気も治してもらえる筈だったんだってよ。
 なのに、保護してたGメンの連中が馬鹿だったせいで色々あって、空港で大勢に怪我させちまったんだと。
 結局、な。殺すしかなくなっちまったGメンの連中が、自分達のミス隠すのに、おれ達にあんな依頼してきたんだよ。
 そいつらは勿論お役御免になったらしいけどよ、それで、あのガキが生き返るわけじゃないもんなあ。
 おれ、この話、隊長さんから聞いたんだ。
 横島もタイガーもお前も知らねぇ。おれだけに、って。
 おれだけに、なんだ。
 おれ、あの時はブルってて何も出来なかったけど、さ。
 その意味がわからねぇほど馬鹿でもねぇからよ。
 隊長さんから聞いたこの話は、墓場まで持ってくよ。
 お前が殺したのはガキじゃねぇ。お前は、イカレちまった呪い屋を楽にしてやったんだ。それで良いんだ。
 おれ、あの時本当にブルッちまっててお前に何も出来なかったからさ。
 この秘密ぐらいは、おれが背負っていくからさ。


 だからあんな嫌な仕事もう思い出すなよ。


 お前があの後しばらく、雨の日には何かぼうっとしてたのを、おれは知ってる。


 だから、この秘密はおれが墓場まで持ってくから、もう忘れろ、な。








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