ザ・グレート・展開予測ショー

式神の星


投稿者名:dry
投稿日時:(03/ 8/ 8)

     『バッド・ガールズ!!』より





 六道女学院霊能科教諭の鬼道政樹は、翌日のクラス対抗戦に備えて会場の見回りをしていた。
 下校時間はとうに過ぎ、部活や自主トレーニングに励んでいた生徒達は帰宅していたため、敷地内は静かなものだった。

「異常無しやな」

 結界を点検し終え職員室に戻ろうとしたところで、観覧席の方から声を掛けられた。

「マーくん、ここにいたの〜」

 彼をマーくんと呼ぶ人間は一人しかいない。六道女学院の理事長の娘、六道冥子だった。
 過去のトラウマのおかげでちょっと顔が強張るが、直ぐに表情を改める。もはや彼女に対してわだかまりは無い。

「ああ、冥子はん、久しぶり。ここには何の用で?」

「明日は仕事で来れそうにないから、せめて会場だけでも見ようと思ったんだけど〜」

 それだけの為にわざわざ来るような性格でもないと思うのだが。何やら大事な話がありそうだと鬼道は感じた。

「ボクを探してたみたいやね。なんか話でも?」

 観覧席へ飛び移る。彼女にベンチに座るよう促し、自身もその隣に腰掛けた。
 冥子はしばらく言いにくそうしていたが、意を決したか、鬼道の顔を真っ直ぐに見る。

「マーくんは冥子のこと、どう思ってるの〜?」

「ど、どうって!?」

「私達、お友達よね〜?でも、マーくん忙しくてあまり遊んでくれないし、何だか再会してからよそよそしい感じがするの〜」

 意表を突いた科白についどもってしまう鬼道だが、続く発言で脱力した。
 単なる友情の確認であって、それ以上の意図は無いようだ。如何にも彼女らしい。

「別に冥子はんが嫌いな訳と違うよ。お互い、もう子供やないからね。あの時みたいに遊ぶ訳にもいかんて」

 十二神将に遊ばれるのはもう勘弁、というのが最も大きな理由だが。まだ納得できないのか、冥子は言い募る。

「でも〜、私達のせいでマーくん苦労してきたんでしょう〜?」

 六道冥子に対する印象を鬼道は改めた。彼女なりに反省しているのだろう。
 冥子の不安を取り除くべく、鬼道は心の内を少しだけ語ることにした。

「大変やったけど、気にすることはないで。そうやね、そのことについて話そうか」



「ボクがあれから特訓を始めたんは、前も言った通りや。鬼道家に伝わる訓練法を色々と試したもんや」

 例えば、手のひらサイズの簡易式神を家の外壁に開けた穴から外に出し、立ち木などの目標物に当てる。
 そして、もう一度穴を通して家の中に戻す練習を何度もやらされた。
 式神の状態を、視覚ではなく霊波によって感じ取るのが目的である。
 冬場に塞いだ穴の隙間から寒気が入り込んでくるせいで、父子そろって何度も凍死しかけたのはご愛嬌。

「式神を操るには、感覚の共有は大事な要素の一つやからね。全ての行動を式神任せにせず、使い手のサポートでより的確に動ける訳や…冥子はんにしてみれば当たり前のことやったな」

「そんなことないわ〜。私、そういう訓練ってあまりしたこと無いから〜」

 確かに冥子の場合、式神任せにした方が無難だろう。天才の言葉にちょっとがっくりする鬼道だが考え直す。
 彼女はオカルトの知識に乏しい訳ではないはずだ。気を使っているのかもしれない。

「他には基礎体力を養う為に、鉄下駄履いてタイヤを背負った格好で石段を昇り降りしたり、霊力制御の技術を高める為に、式神使い養成ギプスを四六時中身に付けたりしたなあ」

 式神使い養成ギプスとは、筋力ではなく霊波によって伸縮するバネで作られている、言わば上半身用エキスパンダーである。
 式神使いにとって、霊波のコントロールと霊力のペース配分は最重要課題だ。まさに、鬼道の修行にうってつけと言えよう。
 慣れない内は何度も肉を挟んでとても痛かったり、体育の授業の着替えで同級生にばれて変態扱いされたりしたものだが。
 それでも修行を続けたのは、父の育成の成果か、あるいは彼自身の復讐心のなせる業(わざ)か。

「それだけ六道家が嫌いだったの〜?」

「当時は確かにそうやった。こんなに辛いのも六道のせいやって。せやけど今は違う。父さんの代では六道家がきっかけかも知れへんけど、その前から凋落気味やったみたいやしな。たまたま不満のぶつけどころが冥子はんのとこだっただけで、まあ逆恨みみたいなもんや」

 父はともかく、鬼道自身は冥子のせいで三日三晩生死の境をさまよったのだから、その怒りは決して不当ではない。
 しかし、果し合いの最後でお互い水に流したことを、今さら蒸し返すつもりは無かった。

「だからもう恨んではおらんよ」

 父に付いて行けなくなった母が蒸発しているのだが、それについては沈黙を守る。彼女に言ったところで詮無きことだからだ。
 この若さで一度人生の全てを失った反動か、どこか達観した感のある鬼道であった。
 少し安心した冥子は、珍しくうがったことを言ってみた。

「それにしても、マーくんとっても強いから、私と違ってGSとしても成功できるんじゃないかしら〜。一緒にお仕事ができたら嬉しいわ〜」

 実は鬼道もGS免許を持っている。修行と実益を兼ねて、除霊の依頼を受けられるはずだったのだが。

「確かにそういう道もあったけど、鬼道の名を出すと依頼人が寄り付かんのや」

 この業界、ネームバリューも重要なのである。長年の貧乏生活も故あってのことだった。父が事業に失敗したせいだけではない。
 その一方で、除霊の成功率は高いが損害率も高い冥子に依頼が来るのには、六道の名の恩恵が大きい。
 一説では六道夫人が裏で色々と苦労をしているらしいが、真偽のほどは不明である。

「こうやって後進の育成をしとる方が自分の経験を生かせるし、性にも合っとる。せっかくの申し出やけど、すまんな、冥子はん」

「謝ることはないわ〜。ここに来れば、マーくんとはいつでも会えるんだもの〜」

 霊力や霊波を制御する技がGS全般に共通する必須技能であることは、GS資格試験の内容からも伺える。
 式神使いとしての才能は冥子が上だが、技術で比較すれば鬼道の方が有能なのだ。霊能科の教師は、彼に向いた職業と言えた。

「歪んだ青春時代やったけど、それがこうしてまっとうな仕事ができるようになっとるから、人生どうなるか分からん」

 六道家とは色々あったが、その縁で、今ではそれなりに充実した日々を送れている。だから、気にすることはない。
 そんな意味を込めた科白だが、彼女には十分伝わったようだ。冥子は気が置けない親友にするような笑顔を彼に向けた。

「じゃあ改めてお願いするわ〜。マーくんはずっと冥子のお友達でいてくれる〜?」

 普通なら同年代の男性にかなりのダメージを与える発言だが、相手はあの六道冥子。
 口元をほころばせながら、鬼道は素直に応じた。

「ああ、友達や」



 話に一区切りがついたところで辺りを見回せば、日は既に落ちようとしていた。

「いい加減、暗くなってきたことやし、帰ろうか。なんなら家まで送ってくで?」

「ありがとう、マーくん〜」

 会場をあとにする二人。鬼道は職員室に荷物を置いたままになっていたので、一度、校舎に戻らなければならなかった。
 当然のように冥子もついてくる。
 すれ違った警備員に軽く会釈をし校舎内に入ろうとして、何を思ったか鬼道が振り返る。

「君、警備員にしてはやけに若いようやけど、ちょいとこっち向いてくれへんか?」

「ナ、何カオカシイデショウカ?」

 帽子を目深にかぶっているので顔の判別が付きにくいが、警備員らしき男は明らかに動揺している。
 ここは仮にも女子高である。教師として教え子を守る為にも、不審人物には警戒する必要があった。

「悪いけど、話を聞かせてもらおうか…。いくでえ、夜叉丸!」

 先日、足を吊ったことへの汚名返上のつもりか、やけに気合いが入っている鬼道。
 式神に取り押さえさせて、場合によっては警察に突き出すつもりだったが、相手は予想外の反撃に出た。
 懐から何かを取り出し地面に叩きつける。ただでさえ暗い中、さらに視界が利かなくなるほどの煙が発生した。

「煙幕か!?くそっ、逃がさへんで!!」

 一瞬早く、夜叉丸が不審人物を捕まえる。相手は必死に抵抗しているようだが、そう簡単に放しはしない。
 このまま煙幕が薄れるのを待てばいい。そう鬼道は考えていたが、大事なことを一つ忘れていた。

「クビラちゃん〜…やだ〜、何も見えないわ〜。マーくん、どこ〜?」

 霊視ができないと聞いて、この煙が微弱な霊気を帯びていることに気付くが、それどころではない。
 冥子は視界を塞がれた中で一人ぼっちにされている。加えて、人の激しくもみ合う音が聞こえてくるのだ。
 彼女の声が次第に涙まじりになってきた。よくない兆候である。

「…ふぇっ…、ふぇっ…」

 暴走されては堪らない。鬼道は声を頼りに冥子の位置を探し当て、その肩に手を置く。

「冥子はん、ボクはここや!なんも怖いことはあらへん!!」

「ふぇ〜〜〜ん!」

 いきなり彼女に抱き締められて目を白黒させたものの、惨事は免れたようだ。
 鬼道の胸に顔を埋めて泣き出す冥子だが、十二神将が出てくる様子は無い。
 煙幕が晴れる頃には落ち着いたようなので、鬼道はそっとその身体を引き離し周囲を見渡す。

「逃がしてしもうたか…。一体、何者や?」

 冥子の声に動揺して夜叉丸の制御がゆるんだ隙に、相手は抜け出したのだろう。
 彼女を六道邸に送るついでに、理事長にこのことを報告しようと鬼道は考えた。



 恋愛をするには精神年齢の幼い冥子と、彼女との関係をあくまで友人と捉えている鬼道。
 一見すると恋人同士のようなこの二人が本当にそうなるかどうかは、本人達にすら分からないことであった。





 …その夜。

「『服』と『煙』か。下見のつもりが予想外の損失だな。文珠抜きで明日は大丈夫なのか?いやっ、何としても成功させてみせる!」

 某アパートの一室でバンダナを頭に巻いた少年が、『女子高生のハートを掴む計画』の実行を改めて決意していたとか、いないとか。
 結局、実害が無かったため、不審人物の正体は永遠の謎となる。





     了

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