ザ・グレート・展開予測ショー

魔人Y−56


投稿者名:NAVA
投稿日時:(03/ 8/ 5)





<ユーチャリス地下、積層型立体魔方陣前>


「一体、どんな変化が、この魔方陣に?」

魔鈴の当然の疑問。解析するドグラ・マグラは答えず。カオスもまた、肩を竦める。

「分からんよ。じゃが………もうひとり、招かれざる客のようじゃな。」

鋭い鷹の視線で、虚空を見つめるマリア。次第に虚空に歪みが生じ、ひとりの女性が姿を現す。その魔力と存在感は圧倒的であり、同時に、見る者すべてを魅了する。口唇から紡がれる音色は冷徹な響きを持ち、彼女はカオス達に目もくれずに積層型立体魔方陣を見つめる。


「なーるほど。システムか。そんな物が存在してたなんて………。アシュタロスも横島も、抜け駆けしてたわけだ。」


魔神リリス、降臨。








言葉の暴力。
その最たる物が、リグレットにぶつけられた。

思考を停止したリグレットの代わりに、令子が激怒する。
女心――――とはまた違った次元の話ではあるが、リグレットは横島に文字通りに身も心も捧げていた。
それを全否定する台詞。

令子は激しく怒りの炎を燃やし始める。

「こんのぉ外道がぁ!!!!!!!!!!!」

防御も構えも一切、関係ない渾身の一撃を振るう。神通棍自体が彼女の怒りを具現化したかのように、鋭く、苛烈な一撃は確かに横島に襲い掛かった。

助平な奴だとは思っていた。だけど、優しい奴だとも思っていた。

だから、彼の言葉は許せなかった。今なら、結婚詐欺師の方が好感が持てるような気までした。
それを阻止したのは、横島本人ではなく、タマモの狐火。

「何で――――?!!!!!」

冷ややかなタマモの視線を浴びて、令子は一気に激昂から冷める。

『連環は横島の死とともに発動する。』

それは彼女達にとって、負けであった。
怒りをぶつける先を失った彼女は、奥歯をギリッと噛み締める。
すぐ目前に横島がおり、軽く振り下ろすだけで、神通棍は横島の命を奪う。
それほどに高められた出力(怒り)なのだ。
だが、ぶつけられない。
横島は無表情にその様を眺めており、リグレットは未だに身じろぎひとつしない。
そして『封印する。』と言い放ったタマモは静かにリグレットを抱きしめる。





「……………………。」


タマモが何事かを呟いた途端、リグレットの瞳に光が戻る。








「だ、誰ですか?」

「リリス。魔神であり、夜魔の女王の異名を持つ最上級魔族。」

魔鈴の疑問に、澱むことなく言い放つカオス。

「ま、魔神?」

彼女もアシュタロスを知る人間の一人である。その言葉には恐怖感が滲み出ている。

「今の今まで、ずーっとワシらの話を聞いておったし、ワシらを含む美神令子達GSが忍び込む時からずっと後をつけて追ったようじゃな。じゃが………、事ここに至っては、大したことではない。すぐに始末するからのう?」

ニヤリと笑うカオス。
対してリリスは苦笑いを禁じえない。いくら不老の身体を手に入れようとも、基本的には人間なのだ。勝負にすらなるまい。今、横島相手に令子達が戦えているのは、飽くまで横島が弱っているからだ。横島に気付かれずにユーチャリスを探索するには、魔神クラスの存在でなければ不可能。デミアン達の動きを陽動として忍び込んで、やっと姿を現したのだが、想像以上に事態は動いていた。
そう、彼女にとって都合の良い方向に。システムの存在は初耳だったが、見れば発動に必要な条件はほとどんと整っている。術者の死=横島の死であるのなら、その成果を横から奪えば良い。今、彼女は心の底から、横島に感謝していたのかも知れない。目の前に積層型立体魔方陣があり、機械人形と人間がふたり。さらに演算能力しかない兵鬼が一体。肝心の横島は戦闘中であり、一体、誰が自分の行動を阻めると言うのか。


「ヨーロッパの魔王カオスか。私も聞いたことくらいはあるけどね。人間如きが魔王を詐称するのかと。どうやって私を倒そうっていうのかしら?」

その余裕の微笑みが驚愕に変わるまで時間はほとんどかからない。

「ふむ。魔王か。別に自分で名乗ったことはないんじゃがの。どこからか真実は伝わるものじゃ。しかも歪曲してな。」

「???」

「ああ、気にするな。お前如きにバレるほど耄碌はしとらんよ。――――のう?マリア。」

「イエス、ドクター・カオス。」


即座に、最大機動力でリリスに襲い掛かるマリア。
だが、リリスは微動だにせず、殴りかかるマリアの右腕をいとも簡単に掴み、そしてへし折る。
直後に魔鈴の霊波砲がリリスを襲うが、リリスはマリアの身体を振り回して、霊波砲の軌道を変えてしまう。

そしてそのままマリアを魔鈴の方へ投げ飛ばす!

躊躇う魔鈴。

このままでは、マリアの体重で自分が潰されてしまう。いや、あの勢いでは圧死してしまうだろう。
その躊躇いが、彼女の行動を鈍らせ、避けることも、防ぐことも出来ぬまま、彼女は目を瞑る!!




ガスッ!!!!!!!!!




目を見開いた魔鈴が見たのは、マリアを平然と受け止めるカオスの姿。

「さすがにその状態でリリスの相手はきついか?」

「………イエス、ドクター・カオス。」

「ならば………セラフィム・システムの発動を許す。滅殺しろ。」

「セラフィム・システム・発動・承認。メタ・ソウル・解放・します。」

マリアの瞳が妖しく光り、視界がホワイトアウトするほどの圧倒的な光量が部屋全体を覆い尽くす!
だが、それで目を閉ざしたのは人である魔鈴のみ。
魔鈴の瞳が元に戻る間にも、誰かと誰かが――――恐らくはマリアとリリスが戦う音が響き渡る。


「エクセリオンウィップ・発動。」

抑揚の無い声が聞こえる。

「ク――――ッ?!!!!」


バシュッ!!!!


何かが消滅する音が響く。


「セラフィムウィング・解放。」

圧倒的な霊圧(?)が、魔鈴の方にまで届く。
思わず身じろぎする魔鈴を庇ったのはドクター・カオス。

「スマンな。未だに制御プログラムは未完成なのじゃよ。だから必要以上の威力になってしまう。」

「何故にマリアさんから霊力が?!」

目が見えなくとも、霊力と魔力が飛び交うのは理解出来る。
その片方がマリアであることも。

「ふむ。聞きたいか?」

カオスのニヤリとした表情さえ見ていれば、魔鈴は決してイエスとは言わなかっただろう。
それだけ邪悪で得意げな表情だったのだが、不幸にして魔鈴は目がまだ見えていなかった。

「そうか、そうか。世間一般で言うところの霊力とは言わば魂の波動、力じゃ。だからこそAI制御のアンドロイドには魂が存在しない=霊力がないと思われ勝ちなのじゃが………マリアにはメタソウルがある。」

「メタソウルとは、完全に無垢なる魂。実のところ、メタソウルを使ったアンドロイドの作成で一番難しいのは、その魂の力を如何に制御するのかなのじゃ。」

「要するに、無垢なる魂を如何に穢れた魂に貶めるかが重要なのじゃよ。それが従来のアプローチでもある。というか、普通の人間には封じ込めることなど不可能なのじゃ。」

「どうやってワシがやったのか。何故にワシが可能だったのか。それは後で説明することにして、要するにワシはメタソウルを穢すのではなく、封じ込める秘術を編み出した。」

「マリアが今まで霊力を使わなかったのは、そのせいなのじゃよ。そう、こんなこともあろうかと!!!こんなんこともあろうかと!!ワシは封じ込める手法を採ったのじゃ!!!」

やっと見えるようになった魔鈴の瞳に映ったのは、『こんなこともあろうかと!!』という科学者の一度は言ってみたい台詞NO.1を言えて満面の笑みを浮かべるカオス――――ではなく、6枚の光の翼を雄々しく広げながら、リリスと戦うマリアの姿。
光の鞭――――恐らくはエクセリオンウィップ――――を振るいながら戦う姿は戦乙女そのもの。
思わず溜息を吐きたくなるような、その神々しい姿に魔鈴が見惚れていると、リリスがついに怒声を上げる。


「機械人形風情が――――ッ!!!!!良い気になるなッ!!!!!!!!!」


言って膨大な、それこそマリアを一撃で消滅させて尚余りあるほどの魔力を溜め、放とうとするリリス。
しかし、マリアは動じない。素早く“積層型立体魔方陣”を背後にする位置へ移動する。

「――――クッ!!!!!」

積層型立体魔方陣に価値を見出しているのは、リリスも同様のこと。そしてこの時点でやっと彼女は気付いた。いや、気付いてしまった。
彼女――――リリス――――は、全力で戦えない。戦えば積層型立体魔方陣を破壊してしまう。
よくよく考えてみれば、積層型立体魔方陣を破壊して益があるのは、目の前の機械人形ではないか!!!

普段、冷静な存在がヒートアップしてしまうと、中々に冷められないものである。
彼女もご多分に漏れなかった。




背後に忍び寄るカオスに気付かず、あっさりと、“魔力砲”に撃たれた。




「カハッ………な…………ぜ?」

息も絶え絶えにリリスが呆然と呟く。
たかが人間に何故自分が?ただの魔力砲ではないか。この珠の肌はその程度で傷付くほど柔ではない。いや、何故に人間が魔力を?
リリスの脳裏を占める疑問を見透かしたかのように、カオスが嘲笑する。

「お前が言ったばかりではないか。ヨーロッパの“魔王”と。お前達にとっての魔王とは誰だ?大阪弁の入った奴のことか?」

言われてみれば、リリスとて影しか見たことが無い。その圧倒的な存在感によって、その場に居ることを疑ったことも無いのだが…。

「ま……さ……か?」

身体が節々から消滅していく。

「昔、地獄炉でシステムに干渉する実験を行った馬鹿が一人おる。そ奴は失敗したのじゃが、どうしたわけか、魔界の至高の存在の意識に触れてしまう結果となった。そしてその馬鹿は、その至高の存在の意識・知識を一部転写され、全くの別人となってしまったのじゃよ。そしてそれは、その馬鹿と至高の存在――――魔王――――の意識の合いの子が生まれる結果となった。その存在は、言わば魔王の人界における端末となってしまったのじゃよ。」

「そ、そんな話は………。」

滅び行く自分を自覚しながら呻く。

「一々、知らせる必要もあるまい?」

傍らの、聖母の名を持つアンドロイドを眺めながら、魔王カオスは呟いた。

その言葉の意味を悟り、呆然とした様子の魔鈴とドグラ。



間違いなく、今、世界の中心はユーチャリスであった。




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