雨(その9)
投稿者名:NATO
投稿日時:(03/ 8/ 3)
負け犬は傷を舐め合うという。
もう傷は増えないから。
勝った犬は時折できた傷を擦り付ける。
痛みを記憶し、もう増やすことの無いように。
勝ち続けている限り、傷は減らない。
勝ち続けていれば、血液は死なない程度に凝固し、傷はやがて消えない形として残る。
そして人は、その痕に魅かれる。
くちゅ、ぺちゃ、ぺろぺろ。
いったい幾度の戦いを経たのか。
幾日の日を経たのか。
場所は再び山の中。
一心不乱に私は彼をなめ続ける。
意識を失い、されるがままになっているヨコシマの傷跡を私は癒していく。
どうしてだろう。流れ込んでくる血の味すら、愛しいと思えてしまうのは。
コイツの体を見て気がつく。いつの間についたのか、ものすごい数の傷跡。
どう考えても致命傷のようなものから、つい最近の瘡蓋から。
ひときわ目立つ体を貫く大きな痕。どうしてこれで生きているんだろう。
まさかほんとにコイツ不死身なのかな。などと思いながら、どうしてか癪に障って、なんとしても治そうと躍起になって舐める。理由はわかっているのだけれど。
結局その傷は治るどころか小さくもならず、ヨコシマは目を覚ます。
「うわ!!何で俺上半身裸なんだ!?」
ふと私に気付く。沈黙。
「・・・まさか俺、お前になんかしたか?」
青ざめているヨコシマ。面白い。ここで私がうなずいたら、コイツはどうするのだろう。
「流石にそこまでの体力は残って無かったようね。もう少しだったんだけど。」
半分正直に、半分希望を含めて私は言う。
何か分けのわからないことを口にしながら木に頭を叩きつけているヨコシマに問う。
「どうしてそこまでしてくれるの?」
今回だけじゃない。美神さんやおキヌちゃんは気付いていないのだろうか。
一年間で全GSの二割が消えていくという過酷な職場で、後方支援で防御に薄いおキヌちゃんや、無謀とさえ言える美神さんが大きな傷を負っていないということを。
開業してすぐにヨコシマが入り、おキヌちゃんもそのあとに来たらしいから、本当に気付いてないのだろうけれど。
「う〜ん。さあな。」
ヨコシマは気の無い返事を返す。
「さあって、そんなことでたくさん傷ついて、いつか死んじゃったらどうするのよ!」
私は急に腹ただしくなる。守られてうれしいと思ってしまうから。生きていてほしいと思っているから。
「そんな何でもかんでも怪我を引き受けてるわけじゃねーよ。結構失敗もあるしな。」
そんな気配を察したか、横島が言う。
いや、この男に察すると言う事など出来はしない。タマモの顔色に驚いただけだろう。
そしていつも通り笑って流そうとする。そうする事で人との間を置く。出来るだけ相手を傷つけないように。
いつからだろうか。平凡な高校生だったはずの彼が、こんなにも悲しい事を身につけてしまったのは。
「でも!!」
そんな横島を感じとって、あるいはその奥を知るがゆえに口をつぐむ慣習が出来ている事務所。
極力触れなければいい。そうすればこれ以上好かれる事はなくとも嫌われもしない。
でも今は事務所の中でなく、目の前の相手ももはやそれで満足できず。
「決めちまったからな。すべてを守るって。」
微笑。私が始めてヨコシマに興味を持った顔。見れば見るほど引き込まれて、それなのに何か締め付けられるような、寂しい笑顔。
「どうして?」
この話から逃げようとする自分を抑え、私は言う。この一言が限度だったけれど。
「・・・そうだな。お前には、話しておくべきなのかもしれないな。」
知る者は逃げ、知らぬものに教えるような事ではなく。横島自身誰かに話したかったのかもしれない。それが、何を生み出そうとも。
あんまり人に喋るなよ。と釘を刺して、横島は蛍の話をした。
切なく、悲しい、灯りをともした蛍の話を。
「・・・それで、すべてを守ることにした?」
しばしの沈黙の後、タマモが恐る恐る問う。
「ああ、本当に守りたかったものはもう居ない。正直絶望したよ。どうしていいかわからなかった。だから、俺はすべてを守ることにしたんだ。それをあいつに誓った。」
「・・・ふざけないで!!」
今までの
コメント:
- 今回は短いです。いや、切れなくて・・・。適当に切ったらこんなふうに。すいません。
次回は少しハードボイルドっぽくないかもしれません。
タマモ。横島を癒すとしたら彼女が一番適任かなと思い、ヒロインにしましたがどうでしょうか。
追伸
かぜあめ様、えび団子様、いつもコメントありがとうございます。御二人にはとても勇気付けられています。後数話ですが、読んでくれる有りがたい人がいる限り、できるだけ頑張って書こうとおもいます。 (NATO)
- 横島くんの台詞が切ないですね〜
「全てを守ることにした」この言葉をつぶやいた彼の胸中を考えると・・(泣
でも・・本当にこの話って自分の考える横島×タマモの理想像に近いんですよね〜
すごく続きが楽しみです〜。
最後のタマモの叫びも意味深ですし・・。
投稿お疲れ様でした〜次回もがんばってくださいね。 (かぜあめ)
- たった今気付いた!負けたものは傷が増えない・・・勝ったものは傷が消えない。
読んでて衝撃が走りました!言われてみれば、その通りですよね!!
微妙な所に感動した私(笑)あと、タマモが横島くんをペロペロしてた時に
『どきっ♪』と感じたのは私だけでしょうかあ〜?!いや、読まれた方は皆感じた筈っす!次回に期待で〜す♪ (えび団子)
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