ザ・グレート・展開予測ショー

タマモの食いしん坊放浪紀〜西条編〜


投稿者名:ダテ・ザ・キラー
投稿日時:(03/ 8/ 3)

 私は、腹を撫で擦りながら歩道をとぼとぼ歩いていた。
 巣――確か名目は美神除霊事務所。私にとって、それは意味のある言葉ではない――で
食材という名の栄養の備蓄が底をついた。まあ。そこに至るには紆余曲折があったけど。
 それはこの際置いておいて。それを説明したところで、私の気は晴れないのだから。
 今は生命の抜本的危機、早い話が食料の獲得が万事に優先される。
 なにしろ、人ですらない私がタダメシにありつける場所というのは、限られてくる。

 これは、その時の、人間がいうところの『手記』みたいなものだ。
 私は霊力を辿れるから、自分の指で木の葉をなぞるだけで『記録』が残せるから。
 美神さんがあんまりしつこく訊くから、まあ一度話す手間は同じだし
聞きたいのなら聞いていけばいいんじゃないの。
 私は人間のことを知らないけど、そうでないあんた達にも、意外なこともあるもんだ。
 私の印象は、人間も動物だから食事をして睡眠をとって、そしてそれ以上に多くの
時間を割いて、役に立たなくて面白いものを探してるんだろうってこと。
 だって『ゆーえんち』とやらは面白かったもの。
 でももっと違った、変わったこともしている。
 例えば、愛と誠って言葉、知ってるだろうか。まずはその話をしてみよう。

 いろいろと迷ってもよかったけれど、それをしなかったは、候補地が近かったからだ。
 ヂャッ
 薄っぺらいドアは、見た目に相応しい簡素な音を立てて開く。
 事務所の木のドアの音は味があって悪くないのに。
 このドアはバネ仕掛けでもあるのか、見た目より反発があるのも減点対象だ。
 私に逆らうとは、無生物ごときがずいぶんといい身分じゃないか。
 その部屋では数人の男女が不可思議な検算や書類の整理をしている。
 うち、一人の男がこちらに気づいて、口を利いた。
「お嬢さん、ここは関係者以外立ち入り禁止ですよ」
 ああそうかい。私は鼻で嗤う。
 悪いがそちらの都合で私を縛りたいなら、あんたも相応のツケを払ってもらおう。
 だが、そう言ったところでこの男が取り引きに応じる義理はない。
 皮肉なことに、力ずくで突破してしまうのが一番楽だろう。
 それでも、一番利巧な方法というのは、莫迦を相手にしないことだ。
「おい、君!?」
 単細胞なやからというのは、とかく気が短くなければいけない。
 それだからこそ莫迦なのだから。この男もそのくちらしい。早くも口調を荒らげた。
 だから。
「なにを騒いでいるんだね?」
 奥から、聞き覚えのある声があがった。
 だから。莫迦というのは相手をしない方が利巧だというんだ。
 ちゃんと私の役に立ってくれる。呼び鈴かお前は、なんて言いたくもなるが。
「ああ、彼女は通してかまわないんだよ。身内も同然だ」
 身内とは呼ばなかった。なら、別にややこしい話をして否定しなくてもいい。
 だいたい私はその身内も同然――それでもまだ果てしなく胡散臭いけど――の西条は
まだしも、そこいらに転がってるもちろん比喩だけど人間なんか信じていない。
 ほいほい身の上話など聞かせられないし、聞かせたくない。
「今日はどうしたのかね」
 西条は率直に尋ねてきた。こちらには都合がいい態度といえる。
「うん、込み入った事情があって、事務所のご飯がないの。なんか食べさせて」
 私も率直に切り出す。包み隠したって結局は話すんだから。
「いいとも。お安い御用だ」
 私は二つ返事というのを生で聞いたのは、これが初めてだったろうと思う。
 もちろん、前世の記憶を持たない私だからだろうけれど。
「そりゃあ、社会常識を見聞している君に安易に施していいわけはないのだろう。
が。小さいことだとも。キュートなレディとテーブルを囲む機会の方が大事だ」
 判りやすい世辞をどうもありがとう、と。さすがに言う気にはなれなかった。
 レディじゃなくて。妖怪だってば。
「それじゃ、早速魔鈴君の店へ……と、これは流石にまずいか。
また彼女が令子ちゃんに喋ったら前回の今回で、今度こそ僕の信用は失墜するかも。
いやいや待てよ。これは浮気などではなく、あくまでも善意と真摯の気持ちによる親切で
だからしてここで変にこそこそする方が両方に申し訳が立たなくなる。
でもなぁ、女の子ってなんでもゴシップにしたがるからなぁ……。
そもそも、僕と令子ちゃんの信頼関係はその程度で崩れ去るほど脆いものだろうか?」
 早速...と切り出してからのこの長考。
 私は口喧嘩をさせたらわりと沈着だけど、元来さほど気の長い性格はしていない。
 むしろきっぱりと短気だと言ってしまおうか。だからこれには参った。
「どっちでもいいから早くしてよぉ。お腹が空き過ぎて苦しいくらいなんだから」
「うーん……仕方ない。紳士はレディを無用に不安にはさせないものだ。
魔鈴君に内緒で別の店へ入った方が、どこへもカドは立つまい」
 私にはよく判らないことだけど。
 自分を正当化するために思いつく限りのことを言っている雰囲気は伝わった。
「了解。そんじゃど」
 私は、そこで言葉を一度止めた。中途半端と言うなかれ。
 物事は因果応報。今から順序良く理由を説明するから。といっても、そう難しくない。
「私に内緒で……なんですか?」
「う゛……」
 西条に、背後霊みたいな者がへばりついて詰問していた。
 背後霊みたい、などと私が言うからには、それは背後霊に似てて、だけど確実に
背後霊という可能性だけはない存在ということだった。
 私が背後霊の匂いを嗅ぎとって、結論に迷うわけがないのだから。
「この有様は、なんのマネかね?」
 西条が、背後霊ではないというだけで正体不明の何かに喋った。
「ただいま遠隔対話魔法の実験中です。通話料が要らない電話って便利かなと」
「この悪趣味な外観はとても娑婆では使う気が起きないんだが……」
 そうだろうか。死神を背負っているようで、少し可愛らしく思えるけど。
 まあ、人間の美的感覚は時々狂っているからなあ。
 個人的に『ゆーえんち』というやつの造りは結構趣深いと思うが、あとはダメだな。
「それはそれとして、ナンパですか密会ですか子供ですかぁ!? 信じられません!!」
「ちょっと待ちたまえ。盗み聞きとは趣味が悪いじゃないか」
「そんなこと言って!
私達との友情を反故にするよーなことを企てる先輩が悪いじゃないですか!」
「いや、まあ、それはそれとして」
「ごまかされません!!」
 自分はごまかしておいて、ずいぶん勝手な女だ。
 しかし、西条はそこをまぜっかえすつもりがない様子。
「悪かった、申し訳ない! 二度と隠し事はしないと誓う!!」
 なんて、平謝りした。
 彼が女性に、無差別に、特大級に優しく接するのは口先だけではないようなのだ。
 他人に優しくして、なにが嬉しいんだか知らないが。
 自分のポリシーを自分が苦しい時に曲げないという部分には若干シンパシーを感じる。
 だけどきっとこの誓いは破られるけどね。
 さっきだってこじつけで自分を正当化したんだから。
 彼の場合、世の中がちょっとばかり汚れていても、全体を見ればそこは美しい。
 同じように、自分のやることに一個でも美点が見つかれば、彼は彼自身を許す。
 他人に優しく、自分にも優しい男だな。
 彼らの言葉を拝借して、それはそれとしておこう。
 どうやら、西条は当分解放される予定がないようだ。
 メシを喰い損ねた。この深刻な事実に、私は独力で立ち向かわねばならない。
 だから、彼らのことは放っておいて、私は次の場所へ向かった。


続くかも。いちおー、まだ話す時間はある。
でも、ここで終わるかも。ここで終わらせても大丈夫だし。

今までの コメント:
[ 戻る ]
管理運営:GTY+管理人
Original GTY System Copyright(c)T.Fukazawa