ザ・グレート・展開予測ショー

『キツネと仕事とウェディングと エピローグ その2』


投稿者名:かぜあめ
投稿日時:(03/ 8/ 1)


〜『キツネと仕事とウェディングと エピローグ その1』〜





それは世界が崩壊する様に似ていた。

全ての黒を巻き込みながら、男の欲望を具現化した『城』が・・・壊れていく。



「――・・・じきに・・ここもやばくなるな・・。」

ポツリとした声。
とめどなく降り注ぐ粉塵に・・横島は少しだけ顔をしかめた。
先程とは質のちがう『死』がじょじょに近づいてくる。
決して歓迎できる代物ではないのだが・・、それでも青年は留まらねばならなかった。


「あの小娘は・・・・もうここを出たのか?」

力なく、悪魔がつぶやいて・・・、


「・・そうするように言ったんだが・・、聞かねぇだろうな・・。多分、扉の前で待ってるんじゃないか?」


横島は、参ったとばかりに苦笑する。
先に行け、と告げた時の・・・あの傷ついた顔。
自分はつくづく・・、女の泣き顔とかそういった類ものが苦手らしい。

「・・・・何故、この場に残った?心配せずともじきに私はお釈迦だぞ・・。」

・・ここに来て、振動はさらに激しさを増している。
唇をつりあげながら、男が辺りを見回した。

「・・同類のよしみ・・か。
 教えてくれないか?あんたが堕天したワケってやつを・・・。」

ぶっきらぼうな口調。・・しかし横島の表情は真剣そのもので・・。


「聞いてどうする?ケチでもつける気か?」

「・・そうだな。とびっきりのケチをつけてやるよ。
 今まで悩んでたのが馬鹿らしくなるぐらいの・・・すごいヤツをどかーんとな・・・。」


・・・そして・・。

「意地でもあんたを外に連れて帰る。こんな暗い穴倉からはおさらばして・・、話は全部それからだ。」


―――・・・・・。




青年の言葉を聞き・・、悪魔はもう一度、唇をつりあげた。

               

               ◇



「?」
        
かすかに聞こえた物音に、 タマモはすぐさま振り向いた。
倒壊する柱の向こうから、一直線に駆けてくる青年の姿を捉えて・・・。


「横島!」

考えるより早く足が動いていた。
そのまま、彼の服にしがみつく。

「悪りぃ。待たせた・・・って今日はそればっかか・・。」

「・・・バカ!心配させないでよ!」

うつむきながら叫ぶタマモ。
もしかしたら、本気で泣かせたのはこれが初めてかもしれない。

・・。



「ほれ。分かったから落ち着け・・。ここで死んだらシャレにならんぞ。」
少女の涙をぬぐいながら、おどけた調子で横島が言う。

・・まぁ・・女に抱きつかれて終わるというのは・・、
極めて自分らしい死に方のような気もするが・・・、それでもやはりシャレになっていない。
       
横島は軽く嘆息した。

・・嘆息して・・・、それから・・・


「よっこらせっと。」
・・両腕でタマモを抱え上げる。

「・・・きゃっ!!・・な・・ちょっと・・どういう・・・」

「だぁあぁぁ!!けが人は大人しくしてろっての!!もしくはダイエットしろ!重いんだよ!」
バタバタ、と暴れるタマモをなんとか押さえつけて、彼は再び走り出した。



次々に粉砕する回廊。形をうしないつつある階段。
そこはまるでたちの悪いおとぎの国のようだった。

一瞬だけ・・・お姫様とそのナイトよろしく、寄り添う自分たちの体勢を見やって・・、・・苦笑する。


――姫とナイト?自分と彼女がか?

冗談だとしても・・、どうしてそんなことを考えたのか・・。


・・・・。
頬を染めながら、自分に頭を預ける少女。
彼女はやはり疑うことなど知らず・・・・・・。

・・・。

笑みが苦笑から自嘲へと変わる。



オレではつり合わない。あらゆる意味で。

その時、横島は心の底からそう思った。

                  ・
                  ・
                  ・


「分からないことがあるんだけど・・。聞いてもいい?」
横島を見上げるように、タマモが言う。

「ん?」
珍しげ遠慮がちな口調・・・。横島は軽く眉をひそめた。

「あの時、悪魔に言ってた・・オレ『たち』って・・・。どういう意味なの?」

「・?・・聞いてたのか?。」
最初から教えてくれればいいのに・・と、横島は少し恥ずかしそうな顔をする。

内容が内容だ。
我ながら、タマモには面と向かって言えないようなことを、ベラベラしゃべった気がする。
彼は返答に窮するように頭をかいて・・・、



「アイツとオレは・・どこか似てる・・。そういうことだよ。」


・・そう・・つぶやいた。

「・・・・・。」
なにか言いたげなタマモに・・、青年は言葉を続けていく。

「だから憎かったんだろうな・・。オレのことが・・。」

それは・・、問いの答えとは似つかないものだった。
もしかしたら独り言なのかもしれない。

「憎い?」

聞きなれない言葉に耳を疑う。

「憎いから・・、オレを呼ぶことに意味があったんだ。殺すことで否定して、その上でお前を手に入れたかった。」


自分と悪魔。どこに接点があったのかは定かではないが・・。

おそらく、あの男はどこかで見てしまったのだろう。
同じ匂いを持ちながら仲間に囲まれ、のうのうと暮らす自分の姿を。

悪魔はそれに耐えられなかった。・・裏切りのように映ったのかもしれない。


・・・・。





遠くを見つめる横島は・・、いつの間にかその表情を消している。


タマモは思う。

もしも、横島を殺すことに成功したとして・・、それで悪魔は救われたのだろうか?

横島に向けられた叫びは・・怒りではなく、悲しみで・・・・。

ひょっとすると彼は・・、心のどこかで望んでいたのかもしれない。
誰かが自分を止めてくれることを・・・。





「――・・あいつ。戻ってくると思うか?・・」

横島が寂しげに顔を歪める。
来ないことは分かっていた。静止も聞かず、あの男は建物の奥へと姿を消したのだから・・。


「・・・心配なのね・・。」


「・・悪りぃ・・。お前はひどい目に合わされたんだよな・・。」

少しだけトーンの落ちた横島の声に・・・タマモはゆっくり、かぶりを振る。

「・・気にしなくていい・・。そっちの方が横島らしいから・・。」



・・・。

それっきり、2人はなにも言わなかった。










































「・・・君は本当に、これでよかったの?」

命の尽きかけた堕天使の眼前に、1つの影が舞い降りた。

蒼い影。

それは蒼でありながら黒で、透明でありながら混沌とした・・・・そんな存在だった。


「・・ああ・・。あんたか・・。」
男が親しげに笑う。

「君はあの青年を拒絶したね。そして、彼はまた1つ、守りたいものを失った。」



生き残るという選択肢もあったのに・・


「・・馬鹿を言え。今更、私にどう生きろというのだ。」



もうじき外を光が包む。男には少々、眩しすぎる光だ。

・・彼は・・いい加減、疲れていた。このまま眠っていたかった。

・・・・。

瞳が閉じられる。
夢でも見ているのか・・、男の顔はとても安らかで・・・・。



「・・・悲しいね。君も・・・彼も。」

最後にそんな声を聞いた気がした。




〜エピローグ その2へ続きます〜




〜あとがき〜

・・エピローグに次回作の伏線を張っちゃあだめですよね?(爆)
こんにちは。かぜあめです。
悪魔の過去はちゃんと考えていたのですが・・、悩んだ末、こういう形で落ち着きました。
それではその2をどうぞ。

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