ザ・グレート・展開予測ショー

カスカとタマ砕く師弟


投稿者名:ダテ・ザ・キラー
投稿日時:(03/ 8/ 1)


 また美神だった。息を切らした様子もない。
「え? ど、どうやって追ってきたんです!?」
「走って追って来たに決まってるでしょ」
 けろりとした口調の答えが返ってくる。
「前にあんたが押し倒してきた時に教えなかった?
あたしが本気になったらあんたの体力じゃ逆らえないって。
こーゆーのって、釈迦の掌って言うんだっけ?」
「いや、孫悟空が捕まった時はもっとスマートなイメージがあるんですけど……」
 しどろもどろにツッコミながら、確かに走って追ってきたとしか思えない相手を見る。
 美神令子の体力に、自分のそれが多少及ばないことは自覚していたが、それでも。
 こうして平然と走ってこられるまでは、まるで勝負にならないとは夢にも思わない。
「……とんでもねえ女」
 ぽつりと呟いたのは、横島ではなかった。横島を見下ろした真顔のまま、続ける。
「なんだけど、GSって命賭けだから。強みになることなんて、あればあるほどいいでしょ」
「……」
 今の横島にとって。GSの話題は興味がなかった。今日は本当にショックだったし。
「他人が聞けば、そりゃあバカな理由なんだろうけど」
「んー。かなりカッコ悪いわよね。ゲームで自信喪失しちゃって」
「げ!? また声に!!」
「あんたも難儀な男ねぇ」
 笑うでもなし、同情するでもなし、心底バカにしたように、彼女は見下ろしていた。
 というか、実際バカにし切っていただろう。今思えば。
「勝負がなんだったかなんて、関係ないですよ。俺は得意分野で負けたんだ」
「ふーん」
「そりゃ、油断して敵の術中に嵌まったのでなければ、勝てた勝負ですよ。
でも、実際には俺は術中に嵌まったし、負けたし、エミさんに助けられた」
 普段の横島なら、言い逃れをしようとも思っただろう。
 だが、男が自分の最大の長所を否定された時、自分に嘘をつくほど惨めで
格好のつかないことはない。横島にとって、『霊能』と『ゲーム』がそれだった。
 両方の要素があって、負けた、その事実は、自分には偽れない。
「……まあ、何度も言うように、あんたは半人前の新米のみそっかすだから」
「さっきと微妙に違うんですけど」
「細かいことよ。大事なのは、あんたはあんたが思うほど一人前じゃないってこと」
 美神はそう言うと、横島の頭を片手で押さえつけた。
「あたしの方が上でしょ」
「そりゃ、そうですけど。いててててて……」
 頭をかくんと上に向けられ、つまり、頭を後ろ方向へぐいぐい押し込まれる。
「ほら。抜け出せないでしょ、勝てないでしょ?」
「いたた……ぎえ、ぎゃあああああああッ! マジ痛いです、折れますって!!」
 美神はようやく横島を――横島の頭を解放した。
「最強なんかじゃないことを、証明したでしょ。勝てた勝負? 負けたじゃない」
「だから俺だってそうだって言ってますよ!」
「解ってないわね。半人前のみそっかす、ホントは負けることのが多いの!」
 今までで一番大きな声で、美神が言う。
「そう簡単に勝てるわけがないでしょ。自分の身分を言ってみなさい」
 呆然とする、半人前で未熟で新米で思い上がっていたみそっかすは、ただ聞いていた。
「あたしのおこぼれで勝ち星重ねてただけで、自分の実力と勘違いしないようにね。
あたしは特別、あたしは天才、あたしは――美神令子。どう。違う?」
 横島は、緊張をといて、ふぅっ、とため息をつく。
「……やっぱり、普通のセンスじゃできない仕事みたいですね」
「そりゃそうよ。って、あんたのこと言ってるんだとしたらおこがましいけど」
 大人の女性が無邪気な男の子を演じようとした様子が見てとれる類の笑顔。
 にぃっと悪戯っぽく広がったその口元が、また忙しなく動き出した。
「半人前は、たまにはシャレで済む範囲で負けを経験しとくのも悪くないわ」
「美神さんは?」
「バカ。あたしはこの業界の最大手よ。いまさらみっともない失敗なんて……」
「そうじゃなくて、美神さんが神父の弟子だった頃」
 横島の顔を、彼女はしばらくぽかんと見つめていたが、やがて険悪な表情になる。
「えぇ。あるわよ。そりゃあね。でも……あー、思い出したらムカついてきた」
「自分の失敗に?」
「それもあるけど、むしろ先生の言い草よ。あいつなんて言ったと思う!?」
 それまでの冷静さはどこへやら、長い髪を掻き毟ってヒステリックに叫んだ。
「“素人に毛が生えた程度にしちゃよく無事で済んだ方だ。
美神なんていっても君は君の母さんじゃないからな。”なんて言ったのよ!!」
「そのー……それに腹立ててるのに俺にも似たようなこと言うんですか……」
「バカね、大違いよ!」
 美神はなおも声のトーンを高める。どこまで高い声がでるのだろうか。
「あたしはあんたみたいな凡人以下のマイナス霊能力者を半人前って言ってるわ!
あの野郎、言うに事欠いてこの天才のあたしに素人に毛が生えた程度と評したの!!」
 言われてみればそのとおりで、確かにあの人当たりの良い神父にしては珍しい暴言だ。
 もっとも美神の本音、マイナス霊能者、というのを聞くと素直に頷けないが。
「だいたいその頭で毛が生えた程度なんて比喩を軽々しく使ってんじゃないわよ!」
「うわ……そりゃ最低の暴言なんじゃ……」
「そう思うでしょ!?」
「神父がじゃないですよ」
 横島はなんだか段々疲れてきた。なんでこんなすごい人をたしなめてるんだろう。
 そもそもなんでこんな大騒ぎしてしまってるんだろう。恥ずかしい。
 冷静に思い返してみると、まず横島がゲームで負けた事で騒いで。
 それで、美神はいきなりやってきて彼に説教だかなんだか判らないことを言った。
 次に横島が彼女の過去を訊いて――。そうか、と。得心した。
 これは横島が原因だ。
 彼が落ち込んで、師匠として彼女が励ましてくれていたのだから。
「と、一番大事なこと言い忘れてた!」
 美神令子が、予告なく再始動した。
「あんたに抜けられると、うちに迷惑甚大よ!
あんたはなんだかんだいって、うちであたしの次に経験積んでるスイーパーなんだから。
解った? いくらアルバイトだからって、ほいほい辞められるなんて思わないでよね」
「美神さん……!!」
 その言葉に感無量。横島が飛びつこうとしたまさにその時、
「あんたは丁稚。滅私奉公して当たり前。でしょ?」
「でしょじゃなくて……」
 非情なまでに痛烈に、非常に不必要な言葉を付け足した。
「丁稚って言うなーッ!!!」
 横島の絶叫が星空を震わせる。

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