ザ・グレート・展開予測ショー

マカレルモノ迷う、少年も迷う。


投稿者名:ダテ・ザ・キラー
投稿日時:(03/ 8/ 1)

 今日も今日とて、美神除霊事務所の仕事は盛況。
 今日は奇特なことに、主役は横島。
 ズンッ、ズダッ、ドッドッドッ
 重低音響くゲームセンターで、その苛烈な戦いは続く。
 ランプが代わる代わるに点灯する。
「ひゅう! やるじゃねぇか小僧」
 幽霊が言う。存在がかすかな汗を拭いながら。
 その姿は赤黒い筋肉質の身体に黒のドレッドヘア。
 いわゆるダンサー的なイメージをかき集めたような。
 明らかに現実味のない、キャラクターらしき幽霊。
 音ゲームのツクモガミといったところ。
「あんたもな!」
 横島は、返事はする。
 汗を拭わないのは、リズムが乱れるのを嫌ってだろう。
 だが、集中力では横島が優っている。
 一見、横島の方が余裕が無さそうだが、それは違う。
 曲に集中すればするほど、汗を拭う余裕など関係ない。
 汗など感じるぐらい身体が退屈するような域は超えた。
 リズムに乗って踊るとは、本来そこまでトリップすること。
 まあゲーム相手にそこまでするか、という説はあるのだが。
 横島はゲームをゲームと思わないプレイングが好みだった。
 つまり真剣勝負。
「このままやってちゃ埒があかねぇや」
 ドレッドヘアが言った。横島は不敵に応じる。
「負けてくれるのか?」
 当然相手は、まさか、と答えるだろう。
 実のところ誰も聞き取れなかった。聞くまでもないからだ。
「ちょいとリズムを上げて、決着としたいんだがな」
「この上があるのか?」
 この筐体は知り尽くしていた。
 だから有り得ない事は知っていたので、リズムを崩さずに聞く。
「ああ、俺様のオリジナルエディションだ。
はっきり言って難易度は今の百倍。どっちかが潰れるデスマッチ」
 横島は、踊るステップは止めずに考えた。
 性格には、考えるふりをした。
「いいぜ。ここで逃げたら男じゃないよな……!」
 久し振りに自分がカッコいい展開に、横島はすっかり酔っていた。
 それに、ここまでのダンスレベルを見れば判る。
 この百倍の難易度で、潰れるのはドレッドの方だろう。
 横島と違って、ドレッドはこのレベルですでにミスがある。
「先生カッコいいでござる!!」
「ホントに! いつもこんなにカッコよかったらいいのに!!」
 シロとキヌは即席応援団なのだが、微妙に傷つくことを言っている。
 タマモもいるにはいるのだが、椅子に座ってぐったりしている。
 遊園地と違ってBGMが大きすぎるのが気に召さないらしい。
 感覚器官が人間以上に発達していれば、無理もないことだが。
「ここらで俺が美神さんにとってかわって主役になるのも悪くない!」
「誰が誰にとってかわるですって!」
 パッカァン
 横島の後ろ頭に金属性の灰皿が突き刺さる。
 それとともに、横島のステップにブレが生じた。
「うわ!? 危ね!!」
 ババンッ
 空中でステップを踏み換えて(左右の足の落ちる順番を逆にして)、
なんとかノーミスを保つ。
『すっごーい……』
 二人の応援団が思わずうっとりと息を漏らした。
「なにすんですか!? 命賭けの霊能勝負に!
冗談かましていい場合じゃないでしょーが!!」
 画面に背を向けステップ踏みつつ、横島が抗議した。
「あんたに説教されたくないわよ!
先にくだらないこと言い出したくせに。
それともう一つ、勝負内容の変更を軽く受けるな!!」
「へ? でも、難易度が上がった方が俺には有利ですよ」
「それは間違いないの? どっかに思考の見落としはない?」
 美神が言い終えるより早く、曲が変更された。
「遅いぜ。小僧の承諾は、もう取った」
「しまった……!」
 歯噛みする美神。
「うわ……なんじゃこりゃああああああああ!?」
 横島のスコアが、ズルズル後退してゆく。
 ステップの指定が曲のペースとまるでデタラメなのだ。
 それを、ドレッドは小さいミスはあるが危なげなくクリアする。
「そいつはマシン本体でしょ? ってことは、
どんな難易度も『ノルマの得点』きっかりにクリアするんじゃない?」
「げ……」
 しまった。迂闊。横島の思考が過去の失点で塗り潰される。
 こうなったが最後、音ゲーは立ち直りが利かない。
 ガタガタと音がするかのように、横島のランキングは失墜した。
 結局問題のゲームは、それから三時間後、小笠原エミが攻略して
除霊完了と相成った。こうなると問題は横島だけのものではない。
 美神除霊事務所の看板に傷がついたことになる。

『おつかれさまでしたー』
 事務所に帰って、ひとまず儀礼的に全員で挨拶する。
 実際に動いたのは横島だけだが。しかし現在、横島は気にしなかった。
 一人働かされた不満などものともしない、大きな挫折感があった。
(俺は)
 千鳥足で茶の間を後にする。
(俺は、失敗した……)
 いや、失敗ぐらいいつものことなのだが。
 これには少し訳があった。除霊を始める前の美神達の言葉である。

「任せたわよ。ゲームは専門分野でしょ♪」
 美神令子は、横島の能力に当て込んでこの依頼を受けたのだという。
「なぬ? 先生の晴れ舞台でござるか!!」
「あ、そうそう、そうなの。横島さんて前にもクレーンゲームで...」
 シロとキヌはゲームに関して免疫がないから、ひたすら横島を絶賛した。
「眠い。どうせ横島が勝つゲームなんて観ても面白くないし」
 タマモでさえここまで横島に期待をかけていたのである。

(他人にこんなにアテにされたことって、人生でまだ二度目かもしんない!?)
 頭を抱えて、横島は廊下でうずくまった。
(こんなに期待されて、それを裏切るなんてぇぇぇぇ……)
 そのまま廊下でじたばたと暴れてみた。とにかく忘れたかったのである。
「あー、しかもよりによってエミさんに仕事奪われた!
具体的な損害額は俺の生活水準でははかり知ることもできそうにないが
まず間違いなく、俺では責任を取りきれん……ま、まさかクビ!?」
「そんなわけないでしょう」
 いつの間にか美神が、かなり不審な物体を見る目で、彼を見下ろしていた。
「わあ!? また思っていることが声に!!?」
「あのねぇ、あんたなんて所詮は半人前のおちゃらけスイーパーなんだから。
そんなのに仕事を割り当てた、あたしが責任取るの。
そのための徒弟制度でしょ? いまさらなに言ってるんだか……」
 ボロクソな言われようだが、普段の美神なら愛のムチという名の折檻である。
 諭して言っている分だけ、気落ちした横島に優しく接していると言える。
 しかし横島は、かえってその優しさに気落ちした。
 もう、期待されてないのだと。半人前のおちゃらけで賑やかしだと言われた。
 ゲームは得意だったのに、その得意なゲームで負けたのだ。無理もない。
 今後、当分は横島の地位は荷物持ちに転落ということか。
 霊能力はあってなきが如し扱いもやむなし。
 短い。あまりにも短いシンデレラドリームだった。
 一瞬だけでも、美神と対等以上と錯覚する極みまで登りつめたというのに。
「極楽大作戦の主役の座が、遠のくぅぅぅぅ……」
「うるさい! 初めから近づいてなんかないって言ってるでしょ!!」
 結局美神のピンヒールで踏みつけられる横島であった。
「いいこと? 私がいる、この主役の座が、この地球儀で日本にあるとするとね?」
 横島が見ていることを確かめてから、その日本に指した指を、地球儀から離す。
 そして地球儀を支える手も離して地球儀をその場に置くと、美神はキッチンまで
マイペースに突き進み、窓を開け、奥に見える電柱を指差した。
「あれが横島君の位置だから」
「めちゃめちゃ圏外とか以前の位置じゃないですか!
ボキャブラ天国でもそんな場所指定しないですよ!!
っつーか意味ないなこの地球儀も!!」
 横島が一通りツッコミ疲れて肩で息をしていると、キヌがとりなす。
「ああ、そうですよ! 横島さんは場を明るくしてくれるから必要ですね♪
っていうかボキャブラなんて古いですねぇ。せめてダーツの旅にしましょうよ」
「それは俺を“ツッコミにしか存在意義がない”って遠回しに言ってるか……?」
 しかしキヌの努力というのは往々にしてから回ることがあった。
「でも、ほら」
 今度はタマモが割って入った。
「いないけどいてもいいよって奴、あるよね。なんて言うんだっけ?」
 シロがぽんと手を打って答えた。
「みそっかすでござるな」
 その一言が、横島のなけなしの理性を吹き飛ばした。
「うわぁぁぁぁぁぁん!! みんな嫌いじゃあああ!!!
美神さんの銭ゲバ、おキヌちゃんのおぼこ、タマモのみそっかす、シロのチビナスぅ」
 みっともなく泣き喚いて、横島は玄関から飛び出していった。
「こら横島! 待ちなさい!!」
 後を追う美神。その背後では三人がそれぞれになにごとか囁いていた。
「お……ぼこ……」
「チビ……あぅ」
「……ふあ。先に寝てるわれぇ」

 横島はアパートに行くのも億劫で、駅のベンチに突っ伏していた。
「もういやだ……バイト辞めてやる……除霊なんて臆病な俺には向いてないし……」
「ちょっと! それこそいい迷惑よ!?」

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