こんな彼女の終わり方
投稿者名:紫
投稿日時:(03/ 7/31)
とても良い天気だった。窓からは心地の良い風がそよそよと吹いてくる。
その部屋は白かった。病室なのだろうか、部屋一面に白い壁紙が張ってある。
窓際には大きめのベッドが置いてある。
そこには一人の少女が横たわっていた。肌は白く、病的なまでに青白く、しかし美しい。
白いベッドに浮き出るような、漆黒の髪をボブカットにしている。
側には一人の老人がいた。薄くなりかけた白髪を持った男性。
ベッド脇にひざまずき、少女の手を握っている。
そして眠っている少女の顔を見つめていた。
部屋の中の何物も、なんの音も立てない。
外は喧噪に満ちているが、この部屋の中だけは穏やかな静寂に満ちていた。
――――――ぱきん、ぴし
ぱちり、と少女が目を開けた。大きく澄んだ瞳が老人を見つめる。
二人はしばし無言で見つめ合う。
「――――ねえ」
「うん?」
少女が老人に話しかけた。その声の調子は何かを確認するかのようである。
「私たち、何もやり残してないわよね?」
老人はしばし思考を巡らした。
「――――ああ、俺達は、全部やったよ。何もやり残してなんかいない。……わかってるだろ?」
「うん……わかってる」
――――――ぴしり、ぱし
今度は老人から話しかけた。
「五十年……いろんな事があったな」
「うん……そうね」
思い出話をするつもりらしい。
「最初に会ったときは、さ。とてもこんな事になるなんて思わなかったよな」
「ふふ……あの時は、ね」
二人とも苦笑いを浮かべる。
「その後ちょっと落ち着いて……俺とお前で働いて」
「三年くらい経った頃に、結婚したのよね」
「くくっ……あの時の騒ぎは、今でも目に焼き付いてるよ」
――――――ぱき、ぴきん
「その二年後に、あの子が生まれて……あなた、大騒ぎだったわね」
「まあなぁ……あの時だけじゃないぞ、俺は子供や孫が生まれるたびに大騒ぎだ」
「……それもそうね」
彼らの大勢の子供や孫の姿を多い浮かべながら答える。……本当に、多い。
「みんなは?」
「隣にいるよ。俺のわがままで。……お前と二人で話がしたかったんだ」
「ちゃんと、最期にはみんなの顔を見せてね」
「わかってるよ」
――――――ぴき、ぱしり
「最近は、ひどかったよな。俺とお前で歩いてると、親子か、悪いとジジイと孫にしか見られないんだから」
「ふふ……寿命が延びても、外見年齢が変わらないとは思わなかったわ。……一緒におばあちゃんになれなくて、ごめんね」
「いや、かまわないぞ。俺は若い方が好きだ」
真顔でそんなことを言う。
「ふう……まったく、もう」
「俺らしいだろ?」
「ま、それもそうね」
――――――びしっ
「あ……」
目覚めてから、だんだんとその美しい肌に広がっていったひび割れが、ついに額にまで起こった。
「そろそろ、みたい」
「……わかった」
老人は部屋のドアにむかって、そろそろだ、と少し大きい声で告げた。
するとどやどやと、大勢のヒトが部屋に入ってくる。皆、何となく彼ら二人に似た面影を持っている。
そして、それぞれが悲しみの表情を見せている。
「みんな」
少女が最期の声を出す。
「私は、幸せよ」
「ありがとう……そして」
「さようなら」
くしゃり、と。
その姿が一瞬歪んだかと思うと、虚空に消えた。跡形も残さずに。それまでそこにいたのが嘘のように。
何人かが、わっと泣き出した。それを慰めるものもいた。
しかし老人は涙も流さず、今回ばかりは家族に声を掛けることもなく。
彼女なら聞いてくれるだろうと確信して、言った。
「俺も幸せだよ」
「ありがとう」
――――開け放たれたドアと窓とを通って、一陣の風が吹いた。
今までの
コメント:
- 老後の横島かあ……元気そうだな……。にしても、最期の時親族しかいなかったですか?
……まあ、おじいちゃんおばあちゃんになった極楽メンバーを見るのも悲惨ですけれど。
どっちにせよ、彼女は穏やかな臨終が似合うんですね。
(言えないよなあ……子孫が多いなんてとこで、重たい話なのに笑っちゃったなんて) (ダテ・ザ・キラー)
- 癒されました。なんていうか理想的で、すごく癒されました。おもわずため息が出ました。「畳の上で死ぬ」っていうのは、こういうことを言うんだろうなあ…って思います。物理的に「畳の上」で最期を迎えても、心残りとかが多かったらこうはいかないでしょうね。大往生…憧れますね。いつか自分も大往生を迎えられるでしょうか…。 (WEED)
- うーむ、心に染みとおります。お見事です、紫さん。
大往生ですね。羨ましいことです。
晩節を汚すことなく、誠実に生きる人の姿ほど心を打つものは無いと考えているハウンドですが、ここにはまさしくそのワンシーンがあります。良いものを見せていただきました。賛成の一票を投じさせていただきます。 (ロックハウンド)
- 感動しました・・・。横島くんがらしいですね、心温まると言うかすっきり身体に染み込むお話でした!ありがとうございます♪ (えび団子)
- 寿命問題での立場(普通なら人間の横島が先に死ぬ)を逆転させたあたりが、私的に上手いと感じました。
或いは、彼女のイメージ(蛍=儚い)に起因した最期なのかもしれませんが。
「共に白髪の生えるまで」とはいかなくとも、「死が二人を分かつまで」ですね。
原作とは違いお互いに満足し、納得した上での別れ。
投稿お疲れ様でした。 (dry)
- ううぅ……ダークだ。
ダークだけど………幸せだよぅ!!
こんな風に
大好きな人と一緒にいながら最後を迎えられたら………と思う今日この頃です。 (ハルカ)
- 賛成です。
タイトルで提示された「こんな彼女の終わり方」に賛成。
もしも原作でルシオラが生き延びていたのなら、
このような生、そしてその終わりにも、諸手を挙げて賛成したいと思います。
感動しました。 (斑駒)
- あ・・・・・・・・何か凄い胸に来ました。
変なコメントですいません・・・・ただ・・・感動と悲しみを足したような・・・そんな気分です。 (ユタ)
- はじめまして。
跡形も残さずに、けれど、思い出は彼らの中にいつまでも残るのでしょう。
お互いに心残りもない別れ。人と魔族の違いで、一緒に年を重ね、変化していくことはできない。しかしそれは、外見上だけのことなのでしょう。
うまく文章にできないのがもどかしいですが、感動いたしました。
投稿お疲れ様でした。 (小天狗)
- 死別。本来ならば悲壮感漂うもの。
であるにも関わらず、読後に感じるのは寧ろ満足感。
・・・見事です。 (L)
- なんて言っていいか・・・上手い言葉が浮かばないのですが、しんみりとしたいい話でした。
「こんな彼女の終わり方」良いです。 (NGK)
- 多分多くの考えを持つことができ、多くのお話が出来るであろう「別れ」のお話。
紫さんの描いた一つの終わりは、とても幸せで素敵な終わり方の一つなのでしょうね。
ここに辿り着くまでの二人の歩んだであろう、見返せば幸せの思い浮かぶ道のりに…乾杯。
投稿お疲れ様でした。 (志狗)
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