けむりのむこう 中編
投稿者名:赤蛇
投稿日時:(03/ 7/27)
「あら、えべっさん。いらっしゃい」
店のおばちゃんは突然現れた神様にも慌てることなく、至極当たり前のように応対していた。
恵比寿のほうも白地に赤餅紋の裃と大きな福耳が異彩を放っているだけで、気づかなければ他の常連客と同じと言ってもよい感じだった。
「えべっさん、おかげさんで今日の最終、松井のアタマでバッチリや」
「そら、よかったのー。だけど、賭け事のほうはホンマはわしとちゃうで」
「今年こそは景気回復、あんじょう頼んまっせー!」
「あかんあかん。わしやのうて、仙さんに頼んどくんなはれ。『神様、仏様、星野様』や!」
「アンタかて神様やないの」
「そういや、そやったの〜〜」
「かなんで、ほんま」
「たはーー!!」
何の衒いもなく自然に繰り広げられるコテコテの上方漫才のようなやりとりに、カルビが焦げるのにも構わず横島達はただ呆然と見入っていた。
ポカンと見つめられる間の抜けた視線に気付き、恵比寿が飄々とした感じで声を掛けてきた。
「こりゃあ珍しい奴に会うたのう。元気しとったか?」
そう言いながら、呼ばれてもいないのにいそいそと座敷に胡座を掻く。小脇に抱えた、妙にウソくさい鯛がびちびちと跳ねた。
「何や、今日の連れはお犬はんにお狐はんか―――――おかみはん、わしにもビールね」
「はい、YEBISU」
シロの「狼でござる」というお約束の抗議はさらりと聞き流して、手酌でグラスによく冷えたビールを注ぎ、一気にあおった。
「ぷはーーっ! 最初の一杯がこたえられんのーー」
もはや七福神の威厳もどこへやら、どう見ても隣近所に住むおっちゃんにしか見えない。
「あ、あの〜、恵比寿さま、何でこんなトコに?」
我に返った横島が恐る恐る尋ねた。
ちなみに大阪では、神様だろうが仏様だろうが歴史上の偉人であろうが、いちいち畏まって”様”などはつけず、気軽に”〜さん”と呼ぶ。
仏法最初の仏寺である四天王寺なら”天王寺さん”、住吉大社ならもっとくだけて”すみよっサン”というふうに。大阪天満宮などはURLまでtenjinsan.comである。
そういう意味では、横島は東京生活が長かったことを窺わせる。神様をさん付けで呼ぶなど、思いもよらないのだ。
(どうして私だけ呼び捨てなのね〜〜〜〜〜)遥か天界で滂沱の涙を流すヒャクメであった。
「何でと言うてもなぁ、ここいらはわしの地元やさかい」
厳密に言えば地元は戎神社の総本山たる兵庫県の西宮だが、それと同じくらいに繁盛している今宮の社も地元ということになるのだろう。
「せやから地域の住民との相互理解を深めるためにやね、日々こうして見回りを重ねて―――――はふはふ」
聞いていればもっとものようだが、勝手に人のカルビを焼いて杯のほうを重ねている姿を見ると、とてもそうには見えなかった。
「なるほどっ! 縄張りの平和を守るためには毎日の散歩―――いや、『ぱとろーる』が欠かせないのでござるな? 拙者も同感でござるよ、恵比寿殿!!」
「ん? あ、ああ、何やようわからんが、そうゆうこっちゃ。ところで―――」
生焼けでシロが持っていくのを防ぎつつ、じっくりと両面を焼きながら横島のほうに目を向ける。
「今日はあの強突張りの姉ちゃんはどないしたん? まだ一緒に仕事しとるんやろ?」
恵比寿の言葉にタマモは微かに身を硬くする。タマモは七福神とは面識がないが、それでも誰の事を言っているかは容易に察しがついた。そうなれば当然。。。
「あと、寿老人達お気に入りのあの娘はどうしたんや? 前会うた時は仲良うしとったやないか。・・・ひょっとして、何ぞあったんか?」
無神経と言えばあまりに無神経な言葉だか、こうもあけすけと聞かれては横島も苦笑して答えざるを得なかった。
自分がなかなか聞けなかったのに、どうしてこうあっさり聞けるんだろう、そう思うとタマモは少し腹立たしいと同時に、少しうらやましくも感じた。
「・・・いや、別に何もないっスよ。今日はなんというか、その・・・」
「何や、煮え切らんのう。ケンカでもしとるんやったら別やけど、そうでないんやったら連れて来たりぃな。こちらの―――シロはんにタマモはんか、この二人かてあんたらと一緒のところにおるんやろ?」
「ええ、まあ・・・」
「それやったら誘ったらなアカン。神魔や妖と別け隔てなく付き合うとるんは立派やけど、人との間に壁を作っとったら本末転倒やで?」
「そうでござるよ!」
「そうよ!」
思わず声をあげてしまい、少々気恥ずかしそうに顔を見合わせるシロとタマモであった。
今までの
コメント:
- 予想に反してなんか長くなってきてしまいました。
落とし所が難しくなってきた不安も隠せません。
一応、あと一回で纏められると思いますので、もうしばらくお付き合いください。
あと、恵比寿さんの言い回しには気を配ったつもりなのですが、変な関西弁になってしまったら申し訳ないです。 (赤蛇)
- お付き合いしますとも♪恵比寿さん・・・あんた神さまなのか?なんて言ってみたりして。店のおばちゃんやお客さん、かなり普通っすね(笑)ってことはこの神さん常連ですか?!うああ、凄い店やあ〜。神さんの立ち寄る伝説の店ですね♪
次回に期待しております♪♪ (えび団子)
- ・う〜ん近所のおっさん風でもやはり神さんですね、いいこと言います。
・余談ですが(えべっさん)て言葉は地方では(どざえもん)と意味が同じらしいですね。
・あと関係無いですが家の近くに布袋屋と言うパン屋があります、もちろん名前の由来は(布袋)ここのパン屋が美味しいんですよ^^・・・・ごめん関係ない事言って^^: (マヤちゃん)
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