ザ・グレート・展開予測ショー

魔鈴さんのお料理天国


投稿者名:Kita.Q
投稿日時:(03/ 7/26)

「極楽に・・・行かせてやるわっっ!!」
 美神の振るう神通鞭で雑魚霊は真っ二つにされ、今日の仕事が終わった。
「今日も無事に終わりましたね・・・」
 横島は時計を見た。あと少しで9時になるところだった。
「そんじゃ皆さん、ボクは用事があるんで、これで失礼しまーす!」
 しょっていたリュックをシロに押し付け、横島はあっという間に姿を消した。
「用事って・・・もう夜の9時なのに・・・」
 美神は時刻を確認し、露骨に眉をひそめた。


「るんるるんるる〜ん、るんるるんるる〜ん♪」
 すっかり夜になり、人通りのほとんどない道を、横島は『ロー○ンおにぎりのテーマ曲』を歌いながらスキップしていた。警邏中の警察官に見つかれば間違いなく職務質問されるだろうが、今の横島はまったく気にしていない。
 
(今日は楽しい食事の日だからね)
 
 ここ最近、横島は月に二三度の割合で、魔鈴の店に食事に行くようになっていた。出費はバカにならないが、彼女が笑顔で迎えてくれることを考えれば、決して高くはないと思う。

 しかも、・・・しかも彼女は、前回行ったとき、横島にこう言ってくれたのだ。
「あらかじめ、今日来ると電話して下さったら、特別メニューをご用意しますよ?」
 おいおい聞いたかよ、特別メニューだってよ!

(しかも、そう言ったときの彼女の様子は・・・)

 胸の前で軽く指を組み合わせて、ちょっと上目っぽい感じで、・・・ちょっと頬が赤くなっていたっけ。

 こう言うと、年上の女性には失礼だろうけど、やっぱ魔鈴さんってかわいーよな!

 彼女の店に行く前に、横島はきちんと電話を入れた。そのときの彼女のはずんだ声を思い出し、横島は頬をゆるませた。


「あ〜あ、もう着いちゃったよ」
 魔鈴の店の前で、横島はため息をついた。
 もう少し妄想にふける時間があればと思いながら、店内の様子をうかがってみた。もう客はいないようだ。静かである。魔鈴は厨房にいるのか・・・。

 ここで、横島は良からぬ考えを起こした。以下、彼の妄想である。


 魔鈴さんは厨房で、俺のための特別料理を作ってくれている。勝手口から入った俺は、しばらく彼女が立ち働く姿を眺めていた・・・
「あら、横島さん。・・・いつからそこに?」
「いえ、ついさっき来たばかりで。料理をする魔鈴さんを見てみたくなったのです」
「そうですか、でも残念。もうほとんど仕上がってるんですよ」
 言葉を交わしながら、ふと気付いた。
 いつの間にか、こんなにも彼女との距離が近くなっていたなんて・・・
「・・・魔鈴さんっ!!」
「あっ、いやん、だめ!・・・ここじゃだめ、私の部屋に・・・抱いていって・・・」


「なんちて!なんちて!」
 横島は、おキヌが以前『汚物を見るような目で』見たヤバすぎる笑顔を浮かべ、超自己中心的な妄想を完結させて、立ち上がった。裏の勝手口にまわり、ドアノブに手をかけた。鍵がかかっている。
「ひらけ〜、ゴマ!」
 文珠で鍵をはずし、音を立てないように気をつけながら、横島は室内に身をすべりこませる。
 (楽しまなけりゃ、今夜は生きる値打ちもない・・・ってな)

 薄暗い厨房の中を注意しながら進む。
 魔鈴と、彼女の使い魔の黒猫の話し声が聞こえてきた・・・


「さあ、本日最後の仕事よ!」
『魔鈴ちゃん、気合が入ってるニャ〜』
「そりゃもう、私としても、前から作ってみたかったメニューだもの!まずは・・・サラダから作っていこうかな?」
 魔鈴は一般的な野菜の他に、香草・薬草を切って、器に盛り付けていった。そして、その上に何か黒い粒を振りかけた。
『その黒い粒はなんなのかニャ?』
「これはね、タクラマカンサバクアリの頭よ」
 さすがの横島も、ギョッとした。そんなもん食って平気なのか?
『えー?そんなの食べて平気なのかニャ〜?』
「大丈夫よ。サバトでは、おばあちゃんたちに大好評だったもの」
 大好評って、そりゃ魔女だからじゃないのか・・・。
 不安になってきた横島にはまったく気付かず、魔鈴は作業を進めていった。


「うん、ちょうどいい具合に仕上がったわね」
 魔鈴は鍋をあけて中身を味見して、満足げな表情を浮かべた。
『いい匂い、チキンスープだニャ〜』
「ご名答。でも、ここからが違うのよ♪」
 彼女は、棚から小さな瓶を取り出し、ウインクした。
『それは、なにかニャ?』
「うふふ。これはね、南米のアマゾン川だけに生息するヒルを天日干しにしたあと、黒焼きにしてすりつぶしたものよ♪」
 横島は慌てて口元を押さえた。派手に噴き出しそうになったからである。
 ちょっと待ってくれ!俺はヤモリの黒焼きとヒルは大嫌いなんだぁ!
『ちょっと待って、魔鈴ちゃん』
「ん、どうしたの?」
『ボク、ヒルは嫌いだニャ〜』
「あら、そうなの。・・・じゃあ、ベンガルトラウツボの肝のペーストを入れましょう」
 
 待てやコラ!他人が食うものと思って適当に作っとらんか!?
 ひょっとして魔鈴さん、俺のこと嫌いなのか・・・?


「うん、上手く焼けたわね!」
 オーブンレンジの中のハンバーグに串をさし、魔鈴はうなずいた。
「付け合せは何にしようかな。・・・うん、これにしよう!」
 魔鈴が取り出したものを見て、横島の顔から血の気が引いた。
 キノコである。しかし、茎の部分に人の顔が浮き出た、なんとも不気味なシロモノだった。
 彼女は、まずキノコの傘の付け根と石付きの部分を包丁でカットした。その途端。
 
 厨房の中に、すさまじい、この世のものとは思えない悲鳴が響き渡った。
 横島は心臓を押さえて、思い切り体をのけぞらせた。

『な、な、・・・今の悲鳴はなんなのかニャ・・・』
「ああ、このキノコは包丁で切ったり、フライパンで焼いたりすると、今みたいな悲鳴をあげるのよ。マンドラゴラの根みたいに、悲鳴を聞いて命を落とすようなことはないから安心して」
 事実、魔鈴本人は平気そうな表情で調理を続けている。

 しかし、横島は声を出すことも出来ず、胸元を、虚空をかきむしり、奥歯を噛み締め、そこら中をのたうちまわることになる。魔鈴があやしげなキノコを全部カットし、フライパンでしっかり火を通しきるまで。


「はいっ!これで全部完成!」
 魔鈴は額の汗をぬぐって、ホッとため息をついた。
「横島さん・・・喜んでくれるかなぁ・・・」
 彼女は顔を少し赤らめ、かすかなつぶやきを漏らした。

 横島は厨房の隅にうずくまり、必死に呼吸を落ち着けようとしていた。目は落ち窪み、顔は完全に土気色となり、全身から噴き出した汗が冷たくなっていくのを実感していた。

 もうダメだ、帰ろう、後で電話して具合が悪くなったと言えば、魔鈴さんも納得してくれるだろう、とにかく、僕はもう限界デス・・・。

「あら、横島さん!」
 突然の声に、横島は飛び上がった。顔を上げると、魔鈴が不思議そうな顔で覗き込んでいた。
「やだ、お店の入り口から入ってくれればよかったのに。・・・でもグッドタイミングですよ、今さっきお料理が完成したばかりなんです。さ、こっちへ・・・」
「あ、ちょっと待って、待ってください・・・」
 魔鈴は有無を言わせず、横島を店内に引っ張り込み、席につかせた。そこには“予約席”という札が掛かっていて、冷たい水が入った瓶が置いてあった。
 横島はコップに水を注ぐと、一気に飲んだ。生き返ったような心地がした。
『その水、おいしいでショ?』
 使い魔の黒猫が魔鈴と入れ替わりに入ってきて、横島に話しかけてきた。
「ああ、なにか力が湧き上がってきたような気がする」
 お世辞抜きの横島の言葉に、黒猫は大きくうなずいた。
『その水は特別製だニャ。ニワトリの体液が混ざってるニャ』
「ごぶっ!・・・くはっ、かはっ・・・」
『っていうのは冗談で、魔鈴ちゃんがおまじないをかけた水なんだニャ。ありがたく飲むがいいニャ』


 料理を前にして、横島は生唾を飲んだ。テーブルの向かいに魔鈴が座り、テーブルの上に座った黒猫とともに横島の様子を見守っている。
 逃げ場は、なし。
「さ、どうぞ。召し上がってくださいな」
 期待のこもった眼差しで、魔鈴は横島を見つめている。

 お父さんお母さん、先立つ不幸をお許しください。美神さん、僕は貴女を師匠に持つことが出来て、本当に幸せでした。おキヌちゃん、ひじきの煮つけ、里芋の煮っ転がし、きんぴらごぼう、ナスのしぎ焼き、五目ずし、大変おいしゅうございました。シロ、俺が居なくても、しっかり修行に精進しろよ。タマモ、短い時間だったけど、悪くなかったぜ。

 横島は、思い切り悪く、例のキノコのソテーをフォークで突き刺し、口に放り込んだ。そして、思わず息を止めた。
「美味しいですか、横島さん・・・?」
 チキンスープ、サラダを次々と口に入れた。やがて、横島は頭を垂れ、肩を震わせはじめた。
「どうしたんですか、横島さん・・・?」
『あ、わかったニャ!お腹が痛いんだニャ!』
「違う、感動してるんだよ!!めっちゃ美味いって!!」
「本当ですか!?横島さん!!」
「本当です。本当においしい。・・・俺のために、こんな俺のために・・・」

























 





 おいしい料理は、人を感動させ、改心させる力さえ持つ・・・かどうかは定かではない。

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