『キツネと仕事とウェディングと その4 後編』
投稿者名:かぜあめ
投稿日時:(03/ 7/26)
〜『キツネと仕事とウェディングと』その4 後編 〜
「――・・決着だ・・。」
紡がれる言葉は残酷な響きを持って部屋を飛び交った。
――・・そうこれで終わり。これで終わりだ。
悪魔は勝利を確信する。
GSとはいえ、敵は手負いの人間一人。自分の絶対的優位が覆ることなどありえない。
・・そんな・・どこか言い聞かせるような心のつぶやきに、悪魔は小さく首を振った。
「何か言い残すことはあるかね?横島クン・・。」
本気で遺言など聞くつもりはない。
ただ・・目の前の相手の、絶望の声を聞きたかっただけだ。
・・聞いて、胸の不安を打ち消したかった・・。
しばし、沈黙が起こり、やがて横島はおもむろに口を開いた。
・・・。
「『私一人が特別強い必要もない。・・仲間がいるから。』・・・か。」
しかし・・届いた言葉は・・・。
「・・なんだと?」
本当に・・、本当に意外なもので・・・。
「オレ『たち』には・・絶対言えない台詞だと思わないか?」
先程のタマモの言葉を引用しながら、低く、低く、横島はつぶやく。
「・・私が聞くのは遺言のはずだが・・。」
腹立たしげな悪魔の様子。・・実際、彼は狼狽していた。
――・・何だ?・・一体コイツは何を言っている?
「・・どんなに必死になってる時でも、ちらっと頭をかすめることがあるんだ。
もしかしたらいくら頑張っても、もう間に合わないんじゃないかって・・。
だってそうだろ?事実、一度は間に合わなかったんだから。」
「・・・。」
「仲間以前に・・自分も信じられないオレたちが・・。あんな台詞吐けるはずない。」
少しだけ悲しげに歪められた瞳。
・・いや、それよりも悪魔を捉えて離さない言葉を・・この男は口にした。
(・・・『たち』?)
この男は確かに今・・、オレ『たち』と・・。
「何を言っている?戯言はいい加減、聞き飽きた。」
「戯言じゃないさ。オレをこの場に呼んだ本当の理由もそれなんだろ?・・・アンタは・・。」
横島の口が、その先を・・真実を、答えを紡ごうとして・・、
また、それらが声が耳元をかすめようとして・・。
気付けば・・、
「黙れぇぇぇ!!」
気付けば、悪魔は叫んでいた。
全てを打ち消す・・・叫び。しかしそれは悲鳴に近い。
「・・タマモはオレたちとは違う。
いつも前だけを見つめていて、絶対振り向いたりしない。」
そういえば、自分にもそんな時期があった。
彼女と・・ルシオラと出会い、・・失うまでは。
「んでもって・・、アイツがこれから何かを失う必要もない。
アイツはいつまでも前だけ見てりゃいいんだ。そのためにオレがいる・・。」
左肩の出血を抑えながら、横島が立ち上がる。
そう・・ここからが本当の決着だ。
「・・ご苦労さん。オレの長い遺言は・・これで終了だ。」
「・・・・。」
「あ・・・っと。これは追加なんだけど・・
『タマモを守ろうとしてるうちに、最近もう一度信じられるようになってきた。
もしかしたらオレは・・守りたいものを何でも守れる・・スーパーマンなんじゃない かって・・』
追加しといてくれ。」
「・・・世迷い言を・・。」
「・・かもしれない。タマモには内緒だぞ?」
いたずらっぽく彼は言う。
・
・
・
「・・聞こえてるわよ・・。・・バカ。」
壁にもたれて座りながら、タマモは、ぽつりとつぶやいた。
目の前にいるはずの青年はいつもと同じ・・、やはり遠い存在で・・。
しかし・・悲しみだけは伝わった。
きっと横島は泣いている。背中ごしで、表情を見ることはできないが・・。
それでも彼は泣いているのだ。
「・・横島・・。」
自分は今まで・・、彼の何を見てきたんだろう?
・
・
・
「ここに文殊が4つある。1つは攻撃に使うとして・・、残り3つはなんだと思う?」
地下が崩壊する。限界近く揺れる景色で・・、横島は静かに微笑んだ。
「・・何をしようと同じだ。お前は私を殺せない。」
「ああ・・そうだな。確かにオレにはアンタを殺す気はない。」
「・・言っていろ・・。」
・・・。
瞬間。
悪魔が急激に距離をつめる。増幅し続けた妖気を解放した。
「消し飛べぇぇぇ!!」
黒い波動。
周りの全ての空間がメキメキと音を立てながら破壊され・・・。
ソレは・・いびつに膨れ上がり、横島の体を正確に捉える。
今度こそ避けられない。
奴を待っているのは絶対の死だ。私は欲しいものを手に入れる。
あの妖狐の小娘も・・他の女たちも・・みんな私が手に入れて・・。
手に入れて・・・。
・・・。
・・・・・。
不意に・・悪魔の胸に、なにか空虚なものが飛来した。
それは彼が何十年も・・、何百年も目を背けていたこと。
直視するのを避け続けていたこと。
――・・手に入れた先に私を待つもの・・・。それはなんだ?
・・・。
「・・消し飛ぶわけにはいかねぇよ。
なんだか知らんが、オレもアイツの・・大切なものの1つになっちまったみたいだからな。」
――!?
『何か』に気を取られて・・、気付くことが出来なかった。
彼の目の前には・・・・。
「・・避けた?・・貴様・・。何故・・。」
・・あの青年。自分とは違い、堕ちる手前で踏みとどまった・・強い青年。
・・。
(・・これは・・超加速か・・。)
青年の掌には燦然と輝く3つの文殊。
なるほど・・こういう使い道もあるわけか・・・・。
・・・。
・・・・・・。
敗ける・・・。とうとう私は敗ける。
「・・ククッ。切り札は最後まで取っておくもの・・か。」
自分が放った言葉をもう一度なぞってみる。
聞こえてくるのは青年の必死の咆哮で・・・。
光が流れた。
〜エピローグへ続きます〜
『あとがき』
悪魔が何を求めていたのかは・・次回横島君に語っていただきます。
みなさん、読んでくださってありがとうございました。かぜあめです。
うちの横島と西条は何気に仲がいいのが慣例ですね(笑)
それにしても・・悪魔さん、救いようのない悪役にする予定が・・文章化してみたらこれはこれで同情の余地ありなんでしょうか?
さて・・次回はついに最終回です。がんばります。
・・・そういえば・・あの横島に恋しちゃった花嫁さん・・。これからどうするんでしょうか?(笑)
今までの
コメント:
- この悪魔がこころの奥底で求めていたのは、敗北と死でしょうか? 目的を遂げた先にあるべきモノは、達成感とかその類では無いようですね。もし、それが空虚なモノであるとすれば、自身の終焉を求めているのでしょうか。堕天に至った経緯が知りたいところです。( ←ハズしてたら笑ってやってください(^^; )
さて、かぜあめさんの横島くんは抜かりが無いようですね。タマモが魅せられてしまっているようです。この事件の最後に、あの恋しちゃった花嫁さんは横島くんとタマモを見てしまうんでしょうねぇ。(違うかな?)
※ かぜあめさん、勝手に予想みたいな事をコメントに書いてますが、ご迷惑でしょうか? ご迷惑でなければ良いのですが・・・ (さわてぃ)
- >「ふしゅるるるるるる〜!!」
いや、きっとこの嫁さんはおキヌ並に優しくて思いやりがあって素晴らしい妻になると思いますよ(握拳)
この排気音(?)を出す女性は大抵いい性格してるはずです!!(笑) (ユタ)
- 花嫁を堕とす横島君って一体……。
ある意味エデンの園でイヴを唆した蛇並に厄介な男ですね。
にしても西条さんが微妙に格好いいです。うちの西条とは大違いだ……。 (華藍)
- 前回はコメントを忘れてしまいすいませんでした〜
眠気まなこで書いたせいで・・おかしな文章がちらほらありますね(汗
以下返信です〜
>さわてぃさん
そんな!迷惑なんてとんでもない!本当にありがとうございます〜。
これからもバシバシ予想をお願いします(笑)
でも・・さわてぃさんの予想ってメチャメチャ的を得てますね〜・・すごい・・(爆)
>ユタさん
これからひのめ奮闘記を読みにかかるところです(爆)
コメントありがとうございます〜。
排気音(笑)を出す人・・設定では女華姫の転生・・・ごふっごふっ
>華藍さん
ありがとうございます〜。
本当ですよね〜鈍感な分、蛇より厄介かもしれません(笑)
西条をかっこいいと言っていただいてありがたいです〜 (かぜあめ)
- 横島が凄くかっこいいじゃないですか〜! これはいろんな人に惚れられても仕方ありませんよね! そして「ふしゅるる」の人、いったい誰と結婚するつもりだったのでしょう? この声の人って、パワーがあっても結構優しい人が多いんですよね〜。 そして横島に恋した花嫁、このままいけば、横島はタマモとかなりいい雰囲気(すでに?)になりそうですが、2人の間に割って入って、引っ掻き回してくれたら面白いかも。 でもそしたら横島に恋した花嫁の花婿が可哀想かも・・・(汗) 気になる次回をお待ちしています。 (ヴァージニア)
- >ヴァージニアさん
読んでくださってありがとうございます〜
ふしゅるるる〜の人・・牢屋破壊できたんじゃ・・ごふっごふっ。
横島くんに恋をした花嫁さん・・・多分次回もちょっとだけ出てきます(笑
最終回・・がんばりますね。 (かぜあめ)
- お、追いついたよお〜。最初から読み始めて・・・♪
横島くんかっこいいよお!!次で最終回って言ってましたけど頑張ってくださいね (えび団子)
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