ザ・グレート・展開予測ショー

『キツネと仕事とウェディングと その4 前編』


投稿者名:かぜあめ
投稿日時:(03/ 7/26)



〜『キツネと仕事とウェディングと その4 前編』〜



    

かつて男は楽園に居た。  
              

           
             ◇



殺風景な部屋。
そこで・・人影が2つ対峙していた。

一方はバンダナを巻いた青年で・・、
もう一方は人を模すことを忘れた漆黒の堕天使。

互いに微動だにしない・・、そんな状況が何分か続いている。

・・・・。

「・・さて、ただ闘うのも悪くないが、ここらで一つ趣向を変えてみないか?」
膠着を破って悪魔がつぶやく。

「趣向?」
反応するかのように横島が言って、しかしすぐさま首を振る。

「い・・いや・・。反対かな。普通にやろう普通に。お前みたいな悪役が提案することって大抵・・」

「大抵・・・なんだ?」

言い終わらぬうちに悪魔は掌を上へと向けて・・。



――ドォォォォォン!!

爆音が走る。

「っ!!」

天井を仰ぎ見た横島の視界には、穿たれた巨大な穴が映り・・、
次に襲ってきたのは地下全体を揺らすような強い振動。

言葉を失う横島に、男はただただ破顔して、

「・・降りてきたのなら知っているだろう?ここが式場の地下だということを・・。」

「てめぇ・・。何か細工しやがったな。」

歯噛みしながら吐き捨てる。

「構造を少しいじっただけだ。簡単な衝撃を加えただけで、この建物は地下もろとも崩壊する。」

まるで明日の天気でも予測するかのように・・こともなげに悪魔は言い・・、

・・・。

「オレたちと心中でもするつもりか?」

「残念なことに、あの世へ行くのは君たちだけだ。」

いざとなれば逃げ道などいくらでもある、男の瞳はそう語っていた。


――・・この野郎・・。

失態だ。全く自分という奴は・・いつまでたっても詰めが甘い。


「・・・どうした?顔色が悪いぞ横島クン・・。」

卑しく細められる悪魔の瞳。しかしそれは・・次の瞬間、大きく見開かれる。

「・・!?」

不意に腕から炎が逆巻き、驚愕した男は側面を向いた。



「・・・調子に・・・乗らないでよ・・。」

息も絶え絶えに言いながら・・、そこにはタマモがたたずんでいて・・・。

「・・タマモ・・。」
「・・・あんたなんかに・・。」

言いながら崩れ落ちる彼女のもとへ、横島は反射的に駆け寄っていた。



「・・アホ。大人しくしてろって言ったろ。」

「しょうがないじゃない。だって・・時間が無いんでしょ?」

肩で息をしながら、気丈に笑って、なおも彼女は立ち上がろうとする。

「・・あのなぁ・・。」

ビシッ!
少し苦笑を浮かべながら、横島はデコピンを一つ打ち込んだ。

「・・った!なにすんのよ・・。」

「さっき、ちらっと聞こえたぞ。『仲間がいるから』・・なんだろ?少しはオレを信用しろよ。」

子供に諭すように言ってから、横島はタマモを横たえる。
それっきり黙りこんだタマモは最後に小さく口を開いて・・。

「・・でも、花嫁たちはどうするの?・・早く助けないと・・。」

「ああ・・。そのことなら心配すんな。
 来る途中、牢屋を見つけたから、鍵はちゃんと外しておいたし・・・」

・・そこで・・横島は口をつぐんだ。
なにか思い出したくないような・・非常にイヤそうな顔をする。

「それに・・・。」

「それに?」
不思議そうに尋ねるタマモに、半眼のまま振り向いて・・、

「助っ人を頼んだんだよ。深夜でもバリバリ営業中の・・残業大好きな公務員をな・・。」

・・・・・かなり不本意だけど・・、頭をかきながらそう漏らした。


             ◇


「ハックション!!」


これでくしゃみは3度目だ。
あの男・・応援を頼んでおきながら、絶対、良からぬことを叫んでいるに違いない。

「・・一つ貸しだぞ。横島君。」

横島と非常によく似た様子で、やはり半眼のまま頭をかいて・・。

西条は・・ため息をつきながらそう一人ごちた。


「みなさん、こちらです。外でGメンが待機していますので指示に従ってください。」

女性を口説く時、そうするように・・西条は甘いマスクで(横島に言わせれば気味の悪い笑みを浮かべて)
7人の花嫁にそう呼びかけた。

「ああ・・やっと外に出れるのね・・。」

「待ってて、マイダーリン!!」

「ふしゅるるるるるる〜!!」
・・・なにか一部違う声も混ざっていたような気がするが、とりあえず話を先に進める。

「全員無事ですね?では・・・」

「・・あの!」

階段を駆け上がろうと西条が足を踏み出したその瞬間。
最後列にいた一人の花嫁が、戸惑うように声をあげる。

「?何でしょう?」

「・・私たちを・・最初に見つけてくれたあの人は・・大丈夫なんでしょうか?」

言って、彼女は右腕を見つめた。
そこには・・不器用に巻かれた包帯があって・・、

「奥に進む前に・・、彼が手当てしてくれたんです。ケガしたままじゃ危ないからって・・。」

頬を赤らめながらつぶやいた。

そんな彼女の様子に・・、西条は愕然とする。
いや、なんというか・・それはもう完全に恋しちゃってる乙女の表情であり・・、
オイオイ、花婿の方はいいのかよ?・・とか、
あんなののどこがいいんだ?・・とか、つっこみどころは計り知れないのだが・・。

・・。


「・・・全く・・鈍感なくせになんて罪作りな・・。」

「はい?」
ブチブチと文句をたれる西条に、怪訝そうな顔をする女性。
なにかまずいことでも聞いたのだろうかと・・、大変不安そうな顔をする。

――・・そういえば、横島君が大丈夫なのか聞かれたんだったな・・。

少しだけ逡巡した後、止めていた足を動かしながら言葉を選ぶ。


「彼なら心配要りませんよ・・断言できます。」

西条の顔に浮かんだのは・・してやられた、と言わんばかりの苦笑いで・・。

「・・そう・・なんですか?」

「ええ。心配してやるだけ損ってもんです。あの男だけは。」

・・。

激しく揺れる建造物。

楽観はできない状況だが・・、
奴のことだ。またケロッとした顔で戻ってくるに違いない。

                 
               ◇


「おおおおおお!!」

横島忠夫は叫んでいた。
敵の刺突をかわしながら懐の文殊を投げつけて・・、

「!?」

刹那、殊を中心に巨大な激流が渦巻く。

「ちぃ!!」
間髪入れずに飛び退った悪魔は・・先程まで自分のいた空間が、水柱に飲み込まれるのを目撃した。

・・・・。

「ククッ。いいぞ・・。あの妖狐とは比べものにならない。それでこそ倒しがいがあるというもの・・。」

湧き上がる水流を目にしながら、新しい遊びでも見つけたかのように男が笑い、

「ずいぶんオレのことを高く買ってるみたいだな・・。あんま経験ないから違和感があるぞ・・。」

構えをとかず横島が言う。

「何をバカな・・。知能のある悪魔なら貴様を知らぬ者などいない。」

飛び出してきた意外な言葉。
話が妙な方向へと進み始めたことに、横島は首をかしげる。

「は?なんで?」

「アシュタロスに単身で傷を負わせ・・、美神令子の力を借りたとはいえ、あの魔体に引導を渡した。
 自覚がないなら教えてやる。今、世界中で最も妖魔に怖れられているGSは・・お前だ、横島忠夫。」

・・なんて爆弾発言を言い放つ悪魔に、横島は心底驚いて・・。

「へぇ!?そうなの!?オレってばそんなに注目されてるのか!?」

「・・・とぼけた男だ・・・!!」

「ちょ・・ちょっと待て!冗談抜きでメチャメチャ驚いてんだけど・・・。」

苛立つように翼を広げ、悪魔は中空から突進する。
対して横島は霊波刀をかまえ、衝撃を受け止め・・、


―――キィィィン!!
金属同士がぶつかるような・・特有の甲高い音が鳴り響いた。


「じゃあ何故だ!!何故お前は、オレたちに仕事を依頼した!?
 タマモが欲しいとか・・そんな理由だけじゃ済まされねぇだろ!」

「・・フン!貴様を殺せばステイタスになる・・。それだけだ!!」

火花とともに、閃光がほとばしる。
霊的な爆発が辺りを包み・・・・・・、


―――・・!!


不意に横島の左肩に、強烈な痛みが走る。

「・・ぐっ!!」
衝撃に体が吹き飛ばされた。

――・・なんだ今のは?確かにかわしたはず・・。

そう思い、しかし何か思い当たったかのように横島は顔を上げた。

「なるほど・・。タマモもコレにやられたわけか。」

風圧で相手を切り裂く・・、特異としか言えない能力。
まさかこんな局面で使ってくるとは・・・・・。

「切り札は最後まで取っておくものだろう?」

着地しながら男が言い・・、
その手には、タマモを相手にした時と同様に禍々しい妖気が渦巻いている。


「――・・・決着だ。」

照準を合わせるかのように突き出された腕。
氷の空気が張り詰めて・・・、

その言葉は、酷薄な響きを持って部屋を突き抜けた。




〜後編へ続きます〜

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