ザ・グレート・展開予測ショー

#まりあん一周年記念『ヒト』(完結編3)


投稿者名:hazuki
投稿日時:(03/ 7/25)

だって、笑ってくれると自分もとても嬉しいから。
















村からすこしばかり外れた、丁度ジムたちの住む家の反対側の位置にある一軒の家。
そこが【彼】の家だった。
彼は、一番の仲よしでジムはとてもダイスキだったのだ。
彼の家の前にある、小麦色に広がっている畑をみてジムはふっと顔を緩ませる。
さわさわと風をうけて動く小麦は、彼のつくったものである。
鍬をふるい畑を耕し、種をまき育てる。
それがどんなに、大変なのか、ジムは知っている。
そしてそれが、この大変なことが、命を繋げる作物を─命を育てるのだと。
彼は、その大きな体を屈め麦をいとおしそうに触れへらっと笑って冗談まじりに言っていた。
自分にはジムのように、学はないけれどと、前置きしながらも
彼は自分の仕事に、誇りとそしてやりがいをもっていたのだ。

ジムはそんな彼がダイスキだった。
みんなそれが、当たり前だと思ってしているのにその仕事を自ら【選んで】している彼が。
汗を流し、何も無い畑に鍬をふるい作物を育てるのを、命を紡ぐ事を誇りにしている人が。




悲しかった。
彼と別れないといけない事が。
もう、話を聞けない。
もう、その鍬を振るう姿をみれない。
もちろん、カオスとマリアと離れるなんて論外なんだけれども。

それでも他のひとたちが─彼がジムの中でどうでもいい存在なのではない。
みんなとても大切だったのだ。

分かれなければいけないことに少しばかりの、理不尽さを感じてしまうほどに。

心のそこでは実の所よく、理解できてない。
自分がそうだからだろうか?
【人間でない】これだけが何が悪いのだろうか?
マリアはマリアだし、カオスはカオスだ。
そのあったかい手や、言葉やすべては、彼らが彼らだからくれたものなのに。



ジムは一瞬顔を曇らせるが、意を決したようにすうっとジムは息を吸いマリアを見る。
マリアはそんなジムのことがわかったのか、ぎゅっと少しだけジムの手のひらに込める

まるで励ましていてくれるかのように。


「有難う」
そういって、ジムはこんこんっと控えめにそのドアをノックした。







「ジム………」

それが彼の第一声であった。
顔は傍目にもわかるくらい、青白くそしてその表情は険しい。

「ベンク?」
きょとんっとジム。
具合でも悪いのではないだろうか?と思い声を掛けようとした瞬間─
ものすごい力で、腕を引っ張られた。

「ああっジムよかった無事かっ俺も今日あの化け物たちの話を聞いたんだっ!!酷い目にあってなかったか??大丈夫か?」

一瞬何をいっているのかわからなかった。
化け物と
誰を指していっているのか、わからなかったのだ。


それを理解した瞬間。
ずんっとこころの一番無防備な場所を傷つけられた。
「……何を…」

知らず胸をぐっと抑え言う。

そしてベンクはジムに笑顔すら浮かべながら言う。
「可哀相に、化け物なんかに育てられて、もう大丈夫だからなっ」
とジムを掴む腕に力をさらに込めて。
自分は、正しい事をしていると思っているのだろう。
蒼白な顔色だが表情は、自信にすら満ちている。




否定された気がした。
なぜだかわからないけれども、これまでカオスとマリアと居た大切な時間を

何故だろう。
何故こんなことを、ベンクは言うのだろう。


「オマエは人間なんだっ化け物なんぞといっしょで…辛かったろう」
シアワセだったのに。
自分は、いれてシアワセなのにそんなことを言う。



マリアは表情すら変えないその様子をみている。
が、その瞳が瞳に込められた光が

マリアが傷ついている事を、ジムに教えてくれた。


そう思い至ったと同時に、ばっとジムは初めてベンクを睨みつけ泣きそうなだけど、強い声で否定する。

「そんなことないっ!!!」

と。

誰でもない自分の言葉で。

「僕は、マリアもカオスも化け物だなんて思ってない!ベンクだって僕だって生きてるんだよ?カオスもマリアも生きてるよ?それだけじゃなんで駄目なの?」

なんで普通であることがそんなにも、大切なのだろうか?
そんなコトではない。
大切なのは、そんなことではないのにっ。

二人ともとても、優しいだけなのに。

だがベンクにはジムの気持ちはわからない。
いや、ジムの気持ちがわかる人間のほうが少ないのかもしれない。
普通、自分の隣に化け物─得たいのしれないものがいるといわれていい気持ちはしないだろう。
そんなこと関係ない。などと奇麗事を言えるのは自分に関わらない範囲でいられるときだけだ。
そして今日わかった化け物は、男のほうは、得たいのしれない知識を持ち、女のほうは体が鋼鉄でできているというのだ。
今は、いい。
何もしないけれども、では明日は?明後日は?
自分達と違う生き物だから、いつ何がきっかけで自分達を襲うかもしれない。
毎日そう思いながら暮らすのなど冗談ではない。
ならば【自分達が暮らすために邪魔なものを消してしまえばいい】
普通は、そう思うものなのだ。

そしてジムには、そんなベンクの気持ちが理解できない。



ベンクはゆっくりと左右に首を振る。
「違うんだよ…」

その手には、鍬がある。

「オマエは人間でそしてこの怪物は金属で、痛みもなにも感じないおぞましいものでできているんだぞっ」


ぐわっと
鍬を持ち上げ


ベンクはマリアへと、その鍬を振り落とした。






日ごろ農作業で培われている肉体は、驚くべき速さで鍬を振り落とす。




考える間もなく足が動いていた。


あの鍬は畑を、麦を作るために振るうものでマリアを傷つけるものでなくて



そんなことのために、この鍬が振るわれるのも、マリアが傷つくのも




嫌だ






だって、誰も気付かないみたいだけれども。
ベンクが言ってたようにマリアは怪我をしないからって、痛みを感じないからって
こころが豊かなんだ。
悲しいことを言われると傷つくし。
嬉しい事を言われると、笑うのに。
確かに顔の筋肉という点でいうならば、動かないだけであの綺麗な瞳はいろんなことを映し出すのに。





こころが痛がってるのに。













マリアには今の状況が理解できていなかった。
否、現状把握ということでならできている。
分からないのは、目の前でジムが血だらけで倒れている理由である。






『……ジム・なぜ・マリアかばってですか?』




つづく

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