雨(その三)
投稿者名:NATO
投稿日時:(03/ 7/25)
グロリオーサという花がある。ユリ科の草で反り返った色鮮やかな赤い花びらが特徴であり式典などで彩を提供する。七月。ちょうど日本では梅雨の時期に花を咲かせる。
花言葉は・・・栄光。
ユリ科の花はたいていコルヒチンという毒を持ちこの花もまたしかり。
人が呑むと心臓麻痺や呼吸麻痺を起こし、薬用としては避妊に使われる。
生物の授業で記憶しているのではないだろうか。紡錘糸の形成を阻害し、染色体の分裂を止める。
栄光の花は変化と命を奪い新たなる誕生を阻害する。
右手の名にふさわしく栄光を手にした男は、それを捨てるために足掻く。
今ではその右手に冠する名前さえ忌み、憎む。
栄光の手。男はその右手に愛しき女の命を握りつぶした。
世界を救うという栄光と引き換えに。
栄光は代償に後悔することさえ許さない。
息を荒げ、走るだけ走り、タマモの腕をつかむ。
俺は振り返るタマモの顔を見、しばし声を失う。
それは悲しみをたたえるがゆえに美しく、
儚きが故に抱きしめたくなる。
そんな泣き顔。
傾国の美女。
そんな単語が当たり前のように感じる。
国一つ傾けても笑顔が見たい。
おそらく誰しも思うだろう。
俺は哀れむ。彼女に捕まった施政者を。
金などいくら積んでも本当の笑顔は見ることができないと知るがゆえに。
そして俺を憎む。彼女にこんな顔をさせたことを。
それを美しいと思ってしまうことを。
コイツの笑顔を見るためなら、命すら惜しくないと思ってしまうことを。
命をかけることで人を守るなど、絶対にできはしないのに。
捕まえてくれた。そう思ってしまう自分がいた。
捕まりたくも知られたくもなかった。
捕まれば話してしまうから。
知られれば恐れられるから。
もしそうなれば私は、涙を止められないから。
たとえ誰に殺されるにしても、弱みを見せたくは無かった。
できることなら、ヨコシマにも。
知れば背負ってしまうから。背負ってほしいと思ってしまうから。
頼りたいと思ってしまうから。頼れるかもしれないと思ったから。
裏切られずに死にたかった。またいつか生まれ変わるなら、一人くらい人間を信じていたかったから。
だから、知れば恐れられることは、隠しておきたいと思った。
そのときのヨコシマの顔を見たくないから。
それでも、捕まえてくれた。そう思う私がいた。
「そろそろ、話してくれないか?」
どこだかわからない山の中、方角もなにも滅茶苦茶に走って、捕まったのがここだった。
ヨコシマの言われるままに火を起こし、しばらく眺めて落ち着いて。逃げ出したのは夕暮れだったはずなのに、今はもう真っ暗で星も見えなくて。目の前にある火と人が、世界中で唯一私の灯りで。それも失うかもしれなくて。それでも私は言葉を止められなかった。
「えーっと、そろそろ教えてくれませんか?」
朝起きたらシロちゃんがいきなり飛び掛ってきて、タマモちゃんがいないと言った。
たったこれだけ。私がこれを伝えたら。横島さんはそのまま飛び出して行っちゃいました。
悔しい。多分私がそうなっても、同じことをしてくれるんだろうけど。それでも、悔しい。
シロちゃんも同じ目でドアを見ていました。
タマモちゃんがこういう時行くところなんて、誰にも心当たりなんてないし、きっと闇雲に探し回るんでしょう。
さて、私もタマモちゃんがどこにいるかは分からないけど美神さんが何か知ってるってくらいは分かります。今日の美神さん、どうにも様子がおかしいですから。
さっきの横島さんを殴る手だって、妙に上の空でしたから。
いつも見ている私にはお見通しです。横島さんが悪いなと思うときは、しばらく止めに入らないでいたりするんですからね。
「な、なんのことかしら?」
わざとらしい笑い。明らかに動揺した口調。ほら、やっぱり。シロちゃんも向き直って
美神さんを眼で問い詰めます。いつも喧嘩ばかりしてても、やっぱりお友達なんですね。
「とぼけたってだめです。タマモちゃんのこと、何か知ってるんでしょう?」
「教えてほしいでござる!!」
さすがにシロちゃんの目は欺けないと思ったんでしょう。美神さんはため息ついて。
「わかったわよ。でも、知った後で後悔したって知らないからね!」
そうして彼女は事務所に告げる。真実を映すことを。
数分後彼女たちは美神の矛盾した言葉の意味を知る。
殺気を感じて、少女・・タマモは目を覚ます。
立ち上がり、急いで着替えを済ませると、外に出る。
「お気をつけて」
ドアを閉めると同時に、事務所から声がかかる。
私はその声に返事もせず、五感を研ぎ澄ませる。
殺気は自分に向けられたものだと知り、ひとまず安堵する。同居人。彼女が気に入っている数少ない人たちに、危険は無いだろう。相手は一人、どうやらたいした強さじゃない。とはいえ、殺すつもりで向かってくる人間に油断はできない。明らかに格下であるのにもかかわらず、私は人間に二度も敗北している。
まあ、そのおかげでアイツにあえたのだが。あの馬鹿面の仮面をかぶったやさしさの権化の顔を思い浮かべ、私は小さく笑う。
私を心から笑わせられるものなど、アイツくらいのものだろう。
その責任はいつかとってもらうことにして、私は気配の隠し方も知らずに近づく人間のほうに目を向ける。
閃光。
私はとっさによけた。
麻酔や精霊石ではない。本物の鉛の玉。
「へえ、いい度胸してるじゃない。私を殺そうって言うの?」
暗闇でも私が敵を見るのに不自由は無い。相手もゴーグルのようなものをしている。
暗殺者。術士や霊能者ではない。道具と力で殺すための人間。
何でこんなやつが私を狙うのか。
考えている暇もなくまた閃光。
よける。相手も無駄玉を使うつもりは無いらしく狙って打ってくる。閃光。閃光。
先端の道具、サイレンサーとか言うものだとおキヌちゃんと見たドラマでやっていた。
音がしない以上人も集まらない。好都合だ。さっさと片付けてしまおう。
またアイツの顔がよぎる。私は一瞬心の奥で苦笑する。もうコイツは殺せない。
「運が良かったわね。」
一瞬で背後に回りこみ首筋に一撃を、のはずだった。
「!?」
消えた。気配も無い。私は辺りを見回す。殺気を撒き散らしていたのが罠だと気づくのと
私の胸が後ろから貫かれるのと同時だった。
とっさに体をひねり急所をはずす。
痛みと血があふれ出し私は理性を失った。
雨が体に当たり、私は意識を取り戻す。熱の無い私の炎はさっきまで生きていた命と体を黒い消し炭へと変えていた。辺りに立ち込める匂い。死の香り。
懐かしいその匂いをかいで私の意識はまた遠のいていく。さまざまな感情が渦巻く。
絶望、恐怖、憎悪、そして長い間忘れていた、アイツのおかげで忘れていることができていた真の獲物を屠ったときの歓喜。私はわけもわからず叫びだす。叫び続けながら、意識が段々遠のいていき、最後に消える瞬間、頭に浮かんだのは夕日を見つめて寂しそうに笑うアイツの横顔だった。
今までの
コメント:
- やっと本題前編!あんまり人気取れそうにないけど。 (NATO)
- う〜、怖い・・・。サスペンスなタッチで描かれていてタマモらしさが存分に出てました!これからの展開が全く予想できません、スリルとサスペンスの連続でしょうか?次回に期待です!!もしや次あたりはラブっすか?(謎) (えび団子)
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