ザ・グレート・展開予測ショー

魔人Y−55


投稿者名:NAVA
投稿日時:(03/ 7/24)





正気を取り戻した――――わけではない。それは最早、本能と言って良かった。
まずは、リグレットを襲っていたベスパに変化が起きた。
動きが止まったと思ったら、急に引き返して横島を襲おうとする。
それを阻んだのはパピリオ。
こちらも本能と呼んで良かろう。ある意味、ベスパ・パピリオ・リグレットの中で、最も純粋に、無邪気に横島を慕っていた彼女は、死して尚、横島を守ろうとする。
同時に、小竜姫とワルキューレの戦いが再開され、ジークとメドーサのふたりは唐巣や西条、エミと言った、GS達を一度に相手取るように戦いを開始。
唯一、令子の前の美智恵だけは微動だにしない。

「美智恵さんだけはちょっと特別なんですよ。他の奴等とは違って、失うわけにはいかないんです。」

不審気な令子に申しわけ無さそうに話し掛ける横島。

(ママが特別?)

令子が疑問に囚われる間も、戦闘は続き、横島はおキヌを見据える。

「魔鈴さん………か?姿を隠したままかと思ってたよ。」

ネクロマンサーの笛は、本来、他者を操る能力ではない。
ベスパ達を解放する切っ掛けを作ればそれで良しとしたおキヌは、そっと笛から口を離す。

「はい、今頃は、カオスさんのところへ向かっていることでしょう。」

つまり、おキヌをユーチャリスまで導いたのは魔鈴と言うことか。だが特筆すべきは、横島が魔鈴の存在を感知出来ないほどに力が弱っているということ。その可能性に思い至った令子は、神通棍を静かに構える。
彼女の傍では、おキヌが、シロが、タマモが、そして――――リグレットが静かに横島を見据えている。


「年貢の納め時よ。ずっと魔鈴が姿を消したままだったのは、この時のためよ。」

半分本当で、半分は嘘である。令子達は魔鈴を探したのだが、見つけられなかったのだ。だが、聡明な彼女は機を見ているに違いない。その西条の言葉を信じて、隠し玉として期待していたのである。

「参ったね。完全に嵌められたか………。」

横島はポリポリと頭を掻きつつ、呟く。

「だけど――――カオスを倒せるかっていう問題もあるし、多分、カオスとの戦闘にはならない。魔鈴さんの聡明さが、彼女の行動を縛ることになると思うよ。」







事実、魔鈴は横島の思惑通りに動けないでいた。カオスの口から、横島の行おうという『連環』がどういったものかを説明されたからである。


「………それが事実だとするなら………真なる敵は横島さんではなく………?」

魔鈴が苦々しげに呟く。

「そうじゃ。敢えて定義するならば、本当の敵は神魔の最高指導者達ということになる。ただし、横島は彼らと戦うことは想定していない。彼らの思惑の上で行動しているだけじゃ。最善の一手ではなく、ある意味、最悪の一手じゃがの。それに………最高指導者達は基本的に観客じゃ。プレイヤーではない。」

「箱庭、魂の牢獄………この世界を色々呼ぶ魔神達の真意。彼らは真実を知っているからなのでしょうね。」

「実際に知っているのは、アシュタロスと、その知識を受け継いだ横島だけじゃよ。他の魔神達は薄々は感づいているじゃろうが、真実には達していまい。勘付いた者こそが行動を起こす。それがこの世界の慣わし。最高指導者の仲間入りへの道じゃ。」







「さて………こうなると、俺一人で相手しなきゃいけないんだろうなぁ。」

5対1。もはや魔神としてのフルパワーを発揮することも適わない。そんな状況でも尚、横島の飄々とした態度は変わらない。
その理由を知るタマモは、苦々しく舌打ちする。

「美神、気をつけて。横島にとって勝敗なんてどうでも良いの。」

言いながら、令子の幻を凄まじい勢いで作り始めるタマモとリグレット。

「隠れてて。『連環』には、美神美智恵と美神令子が必要なのよ。そして美神美智恵は横島に囚われている。」

反論しようと口を開きかけて、口を噤む。
令子はタマモの目を見てしまったから。その本気で言っている目を。

「………手はあるの?」

「封印。」

「???」

「もう遅いの。横島を殺したら、『連環』は発動してしまう。だから殺せない。横島の意思が反映されない『連環』は、何も起きないよりも尚、性質が悪い可能性が高い。だから殺さずに封印するのよ。」

「…………………。」

美神が黙り込んだのを見て、横島が口を開く。

「歴史は繰り返す………か。」

「そうね。でも、納得が行かないわ。世界は個人の占有物じゃない。大勢の人、神、魔で構成されている。例え、最高指導者達と言えども、勝手は許したくない。」

「何よ………一体、『連環』って何よ?!!」

ヒステリックとも呼べるような、令子の叫び。

「それは………。」

タマモが喋らなかったのには理由がある。『連環』の中心となるのは目の前の女――――美神令子。
横島と美智恵は『連環』発動の礎となり、全てを導くのは、究極的には美神令子の役目。
彼女がどんな反応を示すか分からない以上、喋ることは出来なかった。

それは――――世界の命運を握る行為だから。

そしてそれは横島も同様のこと。
簡単に知られてしまっては困るのだ。美神に全てを委ねる計画。本来なら、自分が全てを操りたいところだが、それは“術者”には不可能なのだ。だからこそ、“干渉者”たらんことを令子に任せるのだが………


「まだ知るのは早いんですよ。全ての終わりにこそ知る権利は生じる。俺が勝とうが、負けようがね。」


そして最後の戦闘が始まった。









「干渉者と術者。これは世界を変える行為者じゃ。じゃが、宇宙の反作用は生じない。何故なら、『連環』は宇宙に組み込まれた上位コマンドじゃからの。」

カオスと魔鈴の対話は続く。

「さて、ここで疑問なのが、何故に宇宙にはそのような矛盾したシステムが存在するのか。『反作用』と『連環』は対立するコマンドじゃ。じゃからこそ、優先順位が存在しておるのじゃが、何故に『反作用』が下位コマンドなのか。そこにはさきほども言った通り、最高指導者達の存在がキーになっておる。」

「待ってください。貴方の言い様は、まるでこの宇宙がひとつのPCのハードであり、反作用や連環はソフトの持つ基本システムのように感じられるのですが?」

「そうじゃよ?この宇宙はひとつの箱庭じゃ。パラレルワールドという概念は知っておるか?」

コクリと頷く魔鈴。

「では、話は早い。要するに、パラレルワールドは存在する。ただし、既存の概念とはかなり違う。世界は唯一無二の物であると同時に、簡単に再現可能な物なのじゃよ。」

「世界を再現?」

「つまり、神………便宜上、最高指導者達のことを神と呼ぶが、神にとって、着けてる下着の色や、ネクタイの色などどうでも良いのじゃよ。我々の住む箱庭を収めるスペースは無限ではないし、無限に広がる可能性全てを管理出来るほど暇でも無いということじゃ。」

「それと再現にどういう繋がりが?」

「考えても見ろ。ごく些細な違いがパラレルワールドの分岐になるというのが既存の概念じゃ。しかし、ワシの話を聞けば分かるじゃろうが、極些細な違いなど取るに足らぬことというのが、この世界に存在するパラレルワールドの概念、というより事実じゃ。つまり、極些細な違いで生じたパラレルワールドは、すぐに元の大きな流れへと統合され、結局はひとつの世界へとなるのじゃよ。」

「それが世界の再現ということですか。しかし………それでは何も………。」

「変わらんじゃろうな。しかし、横島の小僧は裏コマンドの入力を狙っておる。それがつまり干渉者。美神――――」

カオスの言葉が終らない内に、『連環』のシステムが真っ赤に染まる。

「な、何じゃ?!どうした、ドグラ?!」

「わ、分からん!このままでは――――いや、分かったぞ!ハッキングじゃ!!外部からハッキングを受けておる!誰かが、外部から積層型立体魔方陣の術式に手を加えておるんじゃ?!!!」

ドグラが答えを見出した瞬間には、既にシステムは正常に戻っていた。赤く染まっていた光も、通常に戻っている。

「こんなことが可能なのは………。」

ドグラ・マグラが呆然としたまま呟く。






「神――――最高指導者達じゃろうな。」









さすがの横島も、地下の異変を察知することは出来ずに美神達との戦闘に入っていた。
横島の武器は、ハンズ・オブ・グローリーによる霊波刀と文珠。
ある意味、全ての元凶と言っても良い文珠。手に入れた時は喜んだものだが、今となっては苦々しく思う。
そんな霊的アイテムを駆使して戦う横島は強かった。
戦うという行為に躊躇いが無かったからかも知れない。


「レヴァーティンだったか?使えよ?」

腰が引けた状態で戦うシロを叱咤してみる。
殺してはいけないと、どうしても全力で戦えないタマモを挑発してみる。

「「………………」」

使えるものなら使っている。だが使ってはならない。いくら横島でも、今の状態ではレヴァーティンに耐え切れまい。そしてその後で戦う仲間、仲間の霊魂、その全てを巻き込んで消滅させるなど、彼女達には出来なかった。
黙り込んだタマモとシロを見て、リグレットが一歩前に出る。
その表情は、決意と躊躇い。両者が混在している。聞くべきか。聞かざるべきか。迷いは彼女の口を閉ざさせる。
だが、タマモと視線が合った彼女は、勇気を振り絞る。


「マスター!!!ひとつだけ………ひとつだけ聞かせてください!!!貴方にとって………私は何なのですか?」


答え次第では………リグレットは再び敵に戻るかも知れない。それは通過儀礼であった。
彼女が横島に決別するための。


「……………………。」


どう答えるべきか。部下に引き戻す返事なら分かっている。だけれど、そうすることでリグレットは再び人形に戻る。
今はクールに徹している横島をして、その線引きは難しかった。
彼女だけは『連環』の恩恵を受けぬ存在。
だから、ここで希望を与えてどうする?同時に、絶望を与えたから何だと言うのだ?
世界は終る。今日、この場所で。

だから、横島は答えた。



「ルシオラの顔をしたダッチワイフだよ。」



と。


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