とらぶら〜ず・くろっしんぐ(2)
投稿者名:逢川 桐至
投稿日時:(03/ 7/23)
とらぶら〜ず・くろっしんぐ ──その2──
ドライブインの周囲を囲む県警の群れの中、美神達一行は水元の案内に従って歩いていた。
「遅いで、水元はん」
そんな一行を出迎えたのは、どう見てもまだ小学生だろう、お揃いのベレー帽とブレザーとに身を包んだ少女達。 警官達が遠巻きに警戒している。
彼女達の中で真っ先に声を上げたのは、眼鏡を掛けたキツめの目付きの黒いセミロングの少女だった。
「無茶を言うなよ。
それより、どうだった?」
「あぁ、あかんあかん。
ウチのチカラも、あの向こうやと巧く働かへんわ」
大袈裟な身振り手振り混じり彼女に、同じく赤毛の少女が続いた。
「あたしも葵と一緒。 あいつら邪魔くせぇったら!」
ぷはぁーと手にしたスタミナドリンクを呷って、そう不満を吐き出す。
「そうか… って、アレは」
壁と化している幽霊達の向こう、建物のテラス部分に張り付いている一抱えはある大きな岩と、その手すりから生えている警官の物と思しき制服の上着。 自分の部下達が、どんな試し方をしたのか気付いて、思わず水元は頭を抱えた。
霊圧の高い場所に置ける超能力の発露は、常と異なる事が知られている。 アンチエスパーの阻害フィールド形成と違って、能力が発動しない訳ではない。 人によっては、チカラが増す事が有るくらいだ。
問題なのは、その際の精度が落ちる事。
今見えている状況が、それを示していた。
岩の引き摺られた跡は、酔っぱらいの様にふらふらしている。 手すりの木と一体化しているのは、考えたくないがテレポートの失敗だろう。
周囲の警官達が遠巻きにして、自分達に近付こうとすらしない訳だ。
そんな彼に、美神が不審げに尋ねる。
「水元さん? まさか、その子達が…」
「あ、すいません美神さん。
えぇ、こいつらがウチの特務エスパー…」
「あたしは明石薫。 ぴっちぴちの10歳だ」
連れてきた一行へ紹介しようとした彼の言葉を遮って、自己紹介したのは赤毛の少女。 スタミナドリンクのビンを、手を使わずにジャグリングしてみせながら、美神達へと挑発的な笑顔を向ける。
「なんでスタミナドリンク…」
思わず呟いた美神の横に、突然眼鏡の少女が出現した。
「ウチは野上葵や。
薫と同い年。 見た通りのテレポーターや」
あっけにとられた美神達に、残る一人がちょこちょこと近付くと、手近に居た荷物の山を背負った横島の腕にぴとっと縋り付く。
一瞬浮かんだ、美神とおキヌとシロの苛立ちは続く言葉に途切れた。
「もうちょっと大人だったら嬉しいけどガキじゃなーとか、失礼だと思うな、私。
この人、こんな事ならあなたの下着でも、持って来るんだったって」
慌てる横島をよそに、美神に向かってにこやかに宣言する。
「な… まさかテレパス?」
ずささっと音を立てて、美神の腰が引けた。
この場の面子の中で、最も秘匿しておきたい事項があるのが彼女である。
今回、当の誘拐犯がテレパスと言う事で、自分だけ妨害用のアイテムを身に着けてきたのだが、心の中だけで自身のその選択を誉めた。
「三宮紫穂。 二人と同じ10歳です」
無碍にしきれない横島に縋り付いたまま、そう自己紹介をした。
「なぁなぁ」
「あん?」
紫穂と反対の腕を引くと、小指を立てて薫がにやりと笑う。
「どれが兄ちゃんのコレなんだ?
あっちのコスプレ姉ちゃんかぁ? それともそっちの尻尾の姉ちゃんか金髪の方か? あっちのボディコンだと趣味が悪いぞ」
「こ、こら、薫っ」
正に『女の中に男が一人』状態である。 薫のみならず、葵も興味津々と窺っていた。
彼女らの不躾な視線に、おキヌとシロは照れ、タマモはそっぽを向き、美神がムッとする。
「そりゃあ、全…ぶっ!!」
横島の口を神通鞭が問答無用で塞いだ。
荷物を抱えたままの彼の体が、遠巻きにしていた警官を捲き込んですっ飛んで行くのを見て、薫がにやりと笑う。
美神も大人げなく、威嚇する様な笑みを見せた。
やばい組み合わせだと言う事実に気付いて、水元が再び頭を抱える。 その横で、一人紫穂だけが、人間ボーリングの惨状へと視線を向けていた。
・
・
・
「とにかく始めましょうか」
美神の一言で、おキヌはネクロマンサーの笛の準備を始めた。
荷物を下ろした横島とシロが正面に向かって彼女のガードに入り、タマモが距離を置いて万一に備える。 騒霊相手なら、基本的に組まれるこのシフト。 大量の御札を使うのを避けたい美神の都合もあって、ここ最近で定着したモノだ。
「では、よろしく」
そう言って、水元も部下の3人に突入の準備をさせる。
「それじゃ吹きます」
美神が頷くのを見て、おキヌが笛を吹き始めた。
甲高い音が、周囲の山々にまで響き渡る。
天へと昇り始める幽霊達に、周りに居る警官達からも安堵の溜め息が零れた。
「よし、行… えっ?!」
葵に転移の指示を出そうとして、水元は強ばった。
全てが昇天したと、笛からおキヌが口を放した瞬間、建物の周りを再び覆い始める騒霊の壁。
「一体、これは?」
尋ねられて美神も詰る。
「アレじゃない?」
タマモが一点を指差した。
追突した車のひしゃげたフロント部分。 衝撃でひしゃげた小さな祠がそこに在る。
丁度そのすぐ向こう……崖の上空から、今居る霊達は涌き出して来たのだ。
「まさか…」
「どうしたんですか?」
尋ねる水元を無視して、神通鞭を振り回して壁を掻き分けて祠へと向かう。
「どうしたんでござろう?」
「判らん。 判らんが… あんまりいい事じゃないのは確かだな」
配置のままの二人は、慌てた美神の様子に苦い顔を見せた。
経験から言って、特に横島はこう言う時、無理難題をふっかけられる場合が多い。
やがて戻ってきた美神の表情も、それを肯定していた。
・
・
・
「質から言って、楽な仕事だと思ったのに…」
呟く美神に、改めて水元が尋ねた。
「どうして戻ってしまったんですか?」
「戻ったんじゃなく、補充されたのよ」
「は?」
彼女の言葉に、一同ほとんどの顔に疑問符が浮かぶ。
「道が在ったのね?」
「そう」
ただ一人の例外……タマモの言葉に、美神は即座に頷いた。
「なんだよ、それ?」
薫の疑問は、二人以外の全員のモノでもある。 特にBABELの面々は、門外漢なだけに全く判らない。
「浮遊霊の通り道。
地脈やらなんやらの関係で、霊が流れ易い道が出来るトコが有るのよ。 丁度ここは右左後ろと3本の道が合流する三叉点で、4本目が繋がり易いんだけど…」
「でも、ここでこんな現象が以前から起きてたなんて、資料には有りませんよ?」
水元が言う。
それはそうだろう。 でなければ、寂れてるとは言え、ドライブインなど成り立つまい。
「抑え込まれていたの」
「抑えって… まさか?」
おキヌが口元を押さえて、祠へと振り返った。 流石に、オカルトが専門である。 残る横島やシロにも、ようやく理解が及んだ。
「どないなってるん? ウチらにも判る様に言うてや」
「つまりだな、あの祠が幽霊達が出てこない様に封印してたって事だよ。 それを壊したから…」
葵達に向かって、横島が苦笑混じりで答えた。
彼女達に対してではなく、この先の展開が読めたからの苦笑いである。
「それでは…」
水元の問い掛けに、美神は頷いて口を開いた。
「取れる手段は二つ。 あの封印を修復するか、そっちのお嬢ちゃん達と一緒に吶喊するか。
前者なら、時間は……そうね、道具を取り寄せたりなんだりで1日は余計に掛かるけど、霊自体は安全に祓えるわ。
後者だと、状況にも拠るけどそんなに時間は掛らないわ。 但し、その娘達の危険度が高い。
現状だと選択の余地は無い気もするけど、どちらにします?」
ぐっと、彼は息を呑み込んだ。
後一日となると、人質の衰弱が余りに不安だ。 だが、つい最近起きたハイジャク事件の事もあり、部下である少女達を危険に晒すのも心情的に肯んじ難い。
「なら、言うまでもないだろ」
薫の言葉に葵と紫穂も、揃って首を縦に振った。
「ウチらかて、金貰ぉてやってる仕事や」
「えぇ、私達が行く、でいいんじゃないかしら」
「お前ら…」
何とも言えない微妙な表情を浮かべて、しかし結局水元も頷いた。
守ってやるのは大人の務めだが、けして過保護になってはいけないのだ。 ましてや、10の子供とは言え、本人達が考えての選択だ。 彼女達をサポートし事件を解決するのが、彼の職務でもある。
「じゃ、そう言う事で…
で、分担だけど」
話は決まりと、美神が言葉を続けた。
【続く】
────────────────────
……ぽすとすくりぷつ……
ああ〜人数が多いっ!!(爆)
…えぇと、全く喋ってないヤツ居ないよな?(苦笑)
もうやだ、次回からシーン辺りの人数、減らすったら減らすっ!
進行が、基本的に美神と水元で進んでるのも欠点やね。 ガキんちょ共のアクの強さが巧く出せんで、書きながら呻いてます(泣)
このくらいの話だと、どのくらいのペースで公開するのがいいのかなぁ… って、書き上がらない事には、どうにもならんのだけど(^^;
手の遅さが恨めしい今日この頃。
今までの
コメント:
- 初めまして。
これだと、アンのおじいさんは、ピーター・カッシングになるのでしょうか(笑)
楽しかったです。 (YOSHINO)
- 面白くなりそうなカホリがムンムンとぉぉっ!
なんかサイコメトリ少女が真っ先に懐きそうな気配がしてますねぇ。
でも願わくば、九本尻尾お嬢様にもっとセリフを!活躍を!!
…いや、あるとは思ってますが、一応。 (YAM)
- なんだか面白くなりそうですね〜♪ やっぱり紫穂がやってくれましたか・・・美神の腰が引ける理由も頷けます。(笑)
今回はどちらかというとGS側寄りといった感じの仕事ですが、次回からは特務エスパー隊も活躍してくれそうですね。 どのような活躍をしてくれるのでしょう? 続きを楽しみにしています。 (ヴァージニア)
YOSHINOさん
はじめまして。 カッシングと言うと某スペオペな提督?(^^; …いえ、教授なのは判ってますが。
まだ見切りの上の序盤なんで先は長そうですが、宜しければこの話にもお付き合い下さい(__)
YAMさん
続けてのコメどうもです。 薫は水元らう゛で、葵は色気より金(^^; …と、脳内で勝手に補完されてしまった物だから、何気に紫〜ぽんの扱いが浮上しまして(笑)
出来れば次、さもなくば更に次辺りには、タマモも大きく取り上げたいと(苦笑)
ヴァージニアさん
この3人娘達は、やはり動いてなんぼですし、どんどん行動させたいのですが…(^^; なかなかソコに至れなくて(苦笑)
地道に続けますんで、暫しお待ち下さい。 夏の有明向けも有って、時間が…(泣) (逢川 桐至)
- うわ・・コメント遅れてしまってすいません。
3人娘がすごくいい感じです〜
何気にひどい目にあわされそうな横島も気になりますね。
逢川さんが入ればタマモ好きの人たち(オレとか)は安泰ですね〜(笑)
次回もよろしくお願いします。
投稿お疲れ様でした〜 (かぜあめ)
- 10歳の少女達の覚悟に一票。
言葉のあやかもしれないけど、プロ意識を持ってる彼女達が格好いいです(笑)
にして・・・・
>「あっちのボディコンだと趣味が悪いぞ」
よくボディコンなんて言葉知ってるな、薫(笑)
もう死語っぽいのにw (ユタ)
- 絶対可憐チルドレンとGSのクロスなのに全く違和感がないですね(^^)
読み切りで1話しか出てきていない
葵、紫穂、薫のキャラが生きててもぅ、脱帽です。
すっごく面白いっ!!次回にも期待が深まります♪ (ハルカ)
かぜあめさん
安泰って…(^^; まぁ、私からタマモとったら何が残る?って気はしますが(苦笑) 3人に限らず、もそっと巧く動かしたいです。
ユタさん
え? だって、薫ってばオヤジくさいしぃ…(笑)
背伸びにしても、プロ意識はちゃんとしっかりしてると、あの娘らは。 葵とか、金に汚そうだし……美神ほどじゃないと思うけど(^^;
ハルカさん
もう少しクロスなりのやり取りが出せたらと、後悔する事しきりです。 特にGS側(^^; 書き慣れてる方が動かんでどうする(苦笑) (逢川 桐至)
[ 戻る ]
管理運営:GTY+管理人
Original GTY System Copyright(c)T.Fukazawa