ザ・グレート・展開予測ショー

魔人Y−54


投稿者名:NAVA
投稿日時:(03/ 7/22)




 そこはリグレットの部屋であった。簡素なベッドと、デスクと椅子。そして衣服を収めるクローゼット。それだけがある、生活感の無い空間。そこのベッドの上に、タマモとリグレットは腰を下ろしていた。


「――――とは言っても、待たせたのは横島なんだけどね。」

タマモの台詞は意味不明。

「何の話よ?」

「つまり、今の横島なら倒せるかも知れないってことよ。割と簡単にね。」

「?」

「今の横島は中級魔族程度の力しかないわ。この――――」

言いつつ、リグレットを見やるタマモ。それに視線を誘われる美神とシロ。

「このリグレットですら、上級魔族級の強さを誇るってのにね?」

「魔神じゃなくなったってこと?」

「魔神よ?でも、魔力がその程度まで下がったってこと。」

「弱ってるってこと?」

「微妙に違うわね。ほぼ当たってるけどさ。魔神の能力を持ちつつ、魔力のキャパシティが激減したのよ。」

「何故?」

「簡単よ。横島の真の計画であるところの、『連環』の発動準備が最終段階に入ったのよ。積層型立体魔方陣を構築し、それに魔力を注ぎ込む。簡単に言えば、魔力が消耗してるのよ。」

「………つまり………?」

「そ、お疲れ状態って奴?」

要するに弱っている横島をボコボコにしようと言っているのだ。タマモは。
シロはその考えに嫌悪感を持ったが、確かに今を逃したらどうしようも無いかも知れない。
美神と言えば、タマモだけならまだしも、リグレットがこの場にいるのが解せない。一度会っただけだが、彼女の横島至上主義はすぐに見て取れた。ついでに言えば、『連環』とは何なのか?疑問は尽きない。だが、美神がその疑問を呈する前に、タマモは更に言葉を続ける。

「あとね、ピートとカオスとマリア以外は全滅よ。GSチームも、横島サイドも。」

「…………………。」

ある意味、予測出来た事態だ。美神に悲しむ気持ちはあれど、驚く気持ちはない。

「で、どうする?今、ピートもこちらに向かってるわ。叩くなら――――今しかない。」






美神とシロには、頷くしか無かった。










 一方、同時刻。
タマモと美神の交渉を見ていた横島には、苦笑いしか浮かばない。
分かっていたのだ。タマモが裏切ってくれるくらいのことは。リグレットをタマモに任せたのは、こうなることを期待していたからでもある。中級魔族程度なら、彼女達が祓えることだろう。

箱庭システム『連環』の発動条件のひとつ――――時間移動能力者の生贄と、術者の死。
箱庭システム『連環』の干渉条件のひとつ――――時間移動能力者。

これで全ての条件は整った。

「さて、フィナーレは派手に行きたいもんだ。出来るだけ劇的に………ね?」

傍らの女性達に語りかける。
だが女性は黙して語らず。横島の言葉に何の感動も示さない。

やれやれ。そんな具合に肩を顰め、横島はピートと合流した美神達が玉座の間――――地下の積層型立体魔方陣の真上に位置する部屋――――に向かってくるのを今か今かと待ち受けていた。







バンッ!!!!



玉座の間のドアが、派手に音を立てて開いた。
即座にリグレットが飛び出し、横島の攻撃を警戒。その後にはシロとピートがサイドからの攻撃に備え、真ん中に美神を置いて守るようにして、ピートが殿を務める。

そしてそこに声がかかる。


「お久しぶりです、美神さん。」

彼女達の目には、いつもの見慣れた姿の横島が見える。
ゆっくりと玉座から立ち上がり、両手を開いて歓迎するように微笑む姿。

覚悟は決めていたのだ。必ず殺す。だが、デニムの上下にバンダナという見慣れた――――それこそ、かつての日常を思い浮かべさせる姿を見せられては、覚悟も鈍るというもの。出来れば化け物の姿で現れて欲しかった。そうすれば、横島は変わってしまったと己に言い聞かせることが容易であったから。

「………魔神横島。……GS美神が………極楽へ………」

ポツリ、ポツリとうめく様に呟く美神。悪霊に対する決め台詞。よもや横島相手に吐くことになろうとは想像もしていなかった。その言葉には力なく、項垂れそうな女の姿があった。

「良いんですよ、美神さん。今の俺は――――魔族です。人界を滅ぼさんとするね。遠慮なんていりませんよ。俺は………世界を否定する。世界を終らせる。そして………世界を愛します。エゴイスティックにね。」

微笑みながら、淡々と呟く言葉はどこか物悲しく感じる。それはシロや美神の贔屓目だろうか。
だが、そんなことを一顧だにしない存在も居た。言わずと知れた、ピート、タマモ、リグレットである。
タマモは、横島を倒すべき存在と完全に認識していた。全力で戦わねば、横島の持つ怖さに竦んで動けなくなることは必定。
リグレットと言えば、これは自我を確立するための通過儀礼と思い込もうとしている。しかし、親に逆らう恐怖感が無いわけではないし、慕う気持ちが無くなったわけでもない。迷えば何も出来なくなる。そうタマモに諭され、何も考えないようにしていた。
ピートと言えば、己の迷いが唐巣と西条を殺したと思い込んでいる。もはや悲劇の連鎖を止めるためには横島の死を見るしかない。例えそれが悲劇の連鎖に繋がる行為であったとしても、視野狭窄に陥った彼には関係ない。





「行くわよ!!!!!!!!!!!!!!!!!」




タマモの号令が下った。











 まずはタマモとリグレットがそれぞれに幻術を生み出す。相手の認識能力に干渉する幻術のタマモ。完全に視覚に訴える幻を作り出すリグレット。だが、横島は慌てず文珠『真実』を発動して幻を見通す。

その隙を突いて、ピートが、美神が襲い掛かる。戦闘が始まれば気持ちの切り替えは早い。それがプロのGSである、美神令子であった。ピートと連携を取って、横島を挟み込むように、正反対の方向から同時に攻撃をかける。



バシュッ!!!!



ピートと令子。
ふたりの攻撃はそれぞれに防がれた。
ピートは唐巣と西条によって。令子は美智恵によって。



「せ、先生?!!!!」
「ママ………?」



無表情に死者達は立ちはだかる。
師が、恩人が、母が、弟子の、娘の前に立ちはだかる。



「死者の霊魂を捕えて操る。俺が魔族になって手に入れた、たったひとつの能力です。」



令子の脳裏に浮かぶのは、六道女史の言葉。

『そうだったのね〜、あれはルシオラクローンの御霊だったのね〜。横島君に付き従ってたのよ〜。』

御霊がルシオラクローンだったのが良く無かった。霊となって尚、横島を慕うのかと嘆息したものだ。だが、真相は違ったのだ。横島が操っていたのだ。己の迂闊さに舌打ちすると同時に、激しい怒りが彼女を襲う。


「アンタも………アンタもGSでしょうが――――ッ?!!!!!!!」


GSとしてやってはならないことがある。その禁忌を破った横島に対して抱く純粋な怒りの叫び。令子は本気で激怒していた。己の弟子が、憎からず想っていた男が、目の前で最低のことを行っている。決して許せることでは無かった。
叫びの合間にも、美智恵の神通棍が鋭く令子を襲う。
GSとしては極限まで鍛えられた美智恵の攻撃は、業界トップと呼ばれる令子をすら凌ぐ。一撃、一撃が完全に捌ききれない。その事実がまた彼女の怒りの炎に油を注ぐ。

逆にピートは唐巣と西条をタマモから守るようにして戦っていた。

「何で邪魔するのよ!!!!」

タマモが苛立たしげに叫ぶ。

「駄目だ………。僕はもう………先生を失うことなんて考えられない!!!!」

唐巣と西条はただ黙って、突っ立っているだけ。ピートを攻撃するわけでもなく、援護するわけでもない。不毛な戦いが続く。



一方、リグレットは恐るべき相手と対戦を余儀なくされていた。

「…………クッ!!!!!」

ベスパとパピリオが同時にリグレットに襲い掛かる。傍から見れば、壮大な姉妹喧嘩に見えるかも知れない。ただし、リグレットではなく、ベスパ&パピリオvsルシオラの。

シロは横島を見据えていた。死者を操るなどという外道な所業を師が行うのが信じられなかった。見れば、横島の傍にはジーク、ワルキューレ、小竜姫、メドーサ、エミ、タイガー、雪之丞が付き従っている。シロひとりが突撃したところで、返り討ちは目に見えている。

何か………何か手は無いのか?!

立ちすくむシロ。
その時、横島の表情が動いた。

直後に響く、笛の旋律。聞き慣れた、だけれどいつでも心に染み入るような旋律。



〜〜〜〜♪〜〜〜〜♪〜〜〜〜♪〜〜〜〜♪



「予想しなかったわけじゃないが………あまり来て欲しくなかったな。」

横島が呟く。




振り向いたシロ達の目に映ったのは、涙を流しながら、ネクロマンサーの笛を吹き続ける一人の巫女の姿。

その旋律によって、動きが止まる者、動きが鈍る者、全く動じない者、逆に暴れだす者。

霊によって反応はそれぞれ異なるものの、確実に戦局に影響を与える彼女の名は――――――――




「「「おキヌちゃん!!!」」」








(そこまでする必要は無かったと思うがのう………。罪を罪として認識したいのか、あ奴は。)

玉座の間での出来事をリアルタイムで眺めながら、カオスは内心でごちる。

「何にせよ、ワシらは全員馬鹿ということか。出番が近いな。」

地下では、カオス、マリア、ドグラ・マグラの目の前の積層型立体魔方陣が放つ光、それがどんどん強くなっていた。










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