ザ・グレート・展開予測ショー

おキヌと横島の青春日記(下)


投稿者名:湖畔のスナフキン
投稿日時:(03/ 7/21)

『おキヌと横島の青春日記』(下)



 間も無くすき焼きができあがった。
 おキヌが台所から、部屋の中央に置かれたちゃぶ台の上に移す。
 横島と雪之丞は、欠食児さながらにすき焼きの牛肉にかぶりついた。

「あっ、それは俺の肉だぞ、横島」
「取ったもんの勝ちじゃーっ!」
「じゃ俺はこれを!」
「あーっ! そのでかいの狙っていたのにー!」
「まだお肉は余ってますから、無くなったら言ってくださいね」

 二人の大きな子供を前にしながらも、おキヌはニコニコと笑顔を浮かべていた。


 三十分後、すき焼きの鍋の中はほとんど空になった。
 さすがの二人の欠食児の胃袋も、最後にご飯を鍋の中に入れたおじやを平らげたところで、満腹となった。

「そういや雪之丞、何か用事があるんじゃなかったのか?」
「いや。野暮用だから気にすんな」
「ま、いいけど」
「……横島はいいよな。おキヌみたいな女が彼女でよ」
(わ、私、彼女ですか!?)

 横でその話しを聞いていたおキヌが、かーっと頬を赤らめる。

「誤解すんなよ。おキヌちゃんは彼女じゃないぞ」
「自分の部屋に呼んでメシを作ってもらいながら彼女じゃないって。ふざけんな!」
「なに絡んでんだよ、雪之丞。……あー、わかった。お前、弓さんとケンカしたな?」

 横島が雪之丞の顔を見て、ニヤリと笑う。

「フ……フン! あんな女、彼女でも何でもねえ!」
「今度のケンカの原因はなんだ? ラーメン屋に入ろうとして嫌がられたか? 一緒に見る映画でもめたか?」
「あの女は鼻っ柱ばかり高くて、少しも素直じゃねえんだからな!」

 しばらくの間、横島とおキヌは雪之丞のグチを聞かされた。

「そんなにケンカばかりしているなら、いっそのこと別れてみたらどうなんだ?」
「でも……弓さんも、本当は雪之丞さんのことを嫌いじゃないと思うんですよ」
「えっ?」

 おキヌの発言に、雪之丞が意外そうな表情をした。

「弓さんが学校で週明けの日に機嫌がいい時って、たいてい週末にデートしていた時みたいなんですよ」
「えっ! 弓のヤツ、学校でそんなことまで話すのか?」
「はっきりと話さなくても、女の子どうしだからなんとなくわかるんです」
「そういうものなのか?」
「そういうもんなんですよ、雪之丞さん」

 おキヌがニコニコとしながら答えた。

「まんざらでもないって顔をしているな、えっ、雪之丞?」

 横島がツッコミを入れてきた。

「明日にでも弓さんから、話しを聞いてみますね」
「あ、ああ。悪いけど、頼むわ」




 そのあと雪之丞は、買ってきた缶ビールのフタを開ける
 横島もニ本、おキヌもグラスに一杯分だけもらった。
 雪之丞は立て続けに3本を空にしてしまうと、そのまま横になっていびきをかきながら眠ってしまった。

「まったく、はた迷惑なヤツだな。グチるだけグチったら、もう眠ってやがる」
「いいじゃないですか。横島さんを友達だと信じているんですよ……。あっ、そろそろ帰らないと」

 おキヌが腕時計で時間を確認した。

「それから、これ当座の生活費です。大事に使ってくださいね」

 おキヌがお金の入った封筒を横島に渡した。

「そんな……。悪いよ」
「大丈夫です。その代わりご飯はきちんと食べてくださいね。お金は美神さんに頼んで、給料から天引きしてもらいますから♪」
「……おキヌちゃん。じゃ俺、おキヌちゃんを送ってくよ」




 横島とおキヌは、最寄の駅まで歩いた。
 おキヌは駅まででいいといったが、横島は事務所まで送ると言って一緒に電車に乗った。

「横島さん、酔ってませんか?」
「酔ってないよ」

 ウソである。缶ビール二杯とはいえ、酒を飲みなれない横島はすでにほろ酔い気分であった。
 一方のおキヌも、頬をうっすらと紅くしていた。もともと酒に弱いせいもある。


 事務所の最寄の駅で下車すると、二人は事務所まで歩いていった。
 事務所のビルにつくと、入り口の前で横島がおキヌに話しかけた。

「今日はご馳走さん、おキヌちゃん」
「どういたしまして。横島さんさえよければ、また作りにいきますよ」
「あ、あのさ、おキヌちゃん。すごく聞きづらいんだけど、どうして俺のためにそこまで……」

 おキヌは両手を前に組むと、視線を少し下に向けギュッと唇を強く噛んだ。
 そして、おずおずと唇を開く。

「わ、私……、横島さんのことが……」

 横島がごくりとつばを飲んだその時──、




「せんせー! おキヌどの! ただいまでござる〜〜!」

 駅の方角からシロが駆け寄ってきた。その後ろにはタマモの姿も見える。

「今、人狼の里から、帰ってきたでござるよ」
「やだ、どうしたの二人とも。顔を真っ赤にしちゃってさ」

 タマモが真っ赤になっている二人の顔を、じろじろと見つめる。

「やーね。お酒のにおいがするわ」
「先生! 二十歳未満はお酒を飲んじゃいけないって、美神殿が言っていたでござるよ!」
「べ、別にいいだろ!」
「本当にお酒のせいだけかしらね〜」

 その場は酒のせいにしてごまかしたが、シロはともかくタマモの詮索は、それからしばらくの間続くはめとなってしまった。


(お・わ・り)

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