ザ・グレート・展開予測ショー

魔人Y−53b


投稿者名:NAVA
投稿日時:(03/ 7/21)



 西条がジークを道連れにした頃。メドーサは足元に倒れる雪之丞とタイガーをつまらなそうに眺めていた。
まだ死んではいない。しかし、死んではいないだけ。放っておけば勝手に死ぬ。呻き声だけが、静かな部屋に響き渡る。
そして、止めを刺そうかと悩んでいる彼女の目の前に、デミアンが姿を現す。


「何の用だい?」

メドーサの口調は冷たい。

「別に?美神令子の最後の戦いを観戦に来ただけさ。」

デミアンは軽い口調で答える。だがメドーサは苦笑を禁じえない。
彼は最悪のタイミングでここに現れたのだ。
ちょうどメドーサの目には、壁に仕込まれた文珠が光を放ち始める様子が見える。

「ま、特等席で見せてやるよ。」

意味深な台詞に疑問を持つ前に、デミアンは文珠の光に“二度”撃ち抜かれた。雪之丞やタイガーもその光に撃ちぬかれた。

そしてデミアンだけが悶え苦しんでいる。
雪之丞やタイガーはあっさりと死を迎えたにも関わらず、彼だけが苦しんでいる。
まるで彼ひとりだけ、襲った光が違うかのように。
彼の魂は、煉獄の光の炎で永遠に焼かれ続ける。
決して燃え尽きぬ炎と、燃え尽きぬようにされた魂。


彼は己の身に起きたことを自覚せぬまま、世界が閉じるまで苦しみ続ける。



「よ、よ、横島ぁっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」



その様を愉快気に笑うメドーサ。
そして最後の文珠の光がメドーサ目掛けて放たれる。



「さぁ!!!アタシを新たな世界へ導け!!!今度こそ!!!今度こそアタシは!!!!」








 確かに、ここまで進めてしまったら、システムを使うしかない。カオスをして、西条達の死は中々にショッキングなモノであった。だが、同時に思う。逆かも知れないと。システムを使うしかない状況に自分を追い詰めたかったのかも知れないと。横島は無言でそのシーンを見つめている。そう、目が離せないといった風に。

(これで横島の本音は知れた。同時に、ワシも追い詰められたわけか………。)

「………良かろう。協力しよう。」

「そうか。じゃあ、これから最後の作業に移る。」

「で、ワシは何をすれば良い?」

協力すると決めたからには、出来るだけの知識を吸収せねばなるまい。そう決め込んで、カオスは意気込む。

「まず、ドグラ・マグラとマリアの接続だ。マリアの演算能力を補助に回してくれ。その後は、ドグラと協力して、俺が『連環』を発動するまで維持しててくれ。」

「その間、お前は――――」

「――――美神さんと遭って来るよ。」

「…………………………………。」







「さてと。」

言いながら横島は目を瞑る。
次第に横島の身体が光を放ち始め、研究所で最初に変身した鎧武者のような鬼の姿に変身する。
その状態から更に光を放ち始め、その光は横島の身体を離れ、一ヶ所に集まり始める。
視界がホワイトアウトする程の強烈な光。
無音で広がるその光は、全てシステムに吸収される。
ほんの数十秒の後、眼を開いた一同が見たのは、システム干渉のための積層型立体魔方陣が、本格的に起動準備した様子。
そして、ただの魔族に成り下がった横島忠夫の姿。
その姿は人であった頃をそのまま模倣し、デニム生地の上下に赤いバンダナ。まさにただの横島忠夫であった。


「やっぱりか。」

己の姿を見ながら、横島は呟く。

「何がじゃ?」

すぐに作業に移ったカオスは、視線も向けずに質問する。

「大したことじゃないさ。かなり力を持っていかれた。下手するとリグレットより弱いな、今の俺は。」

「ふん、ここまで準備しておいて、直前に死亡なんぞ笑えんな。」

「最もだ。だけど、俺の力が弱くなることは予定通りだ。だから手も打ってあるさ。」

「なら良いがな。」

本当に、どうでも良さげに返事をするカオス。
もし横島が倒されたなら、その時は自分が発動させるだけだ。
横島はそれを期待して、自分を協力者として引き込んだのだろう。








「じゃ、そろそろ戻るわ。美神さん達が、リグレット達と遭遇したみたいだしな。」












 令子とシロだけは、他の面子と違って何時までも出口にたどり着けなかった。分岐の扉の先は、ひたすらに長い先の見えない廊下。そこを黙々と歩き続けるも、一向に出口は見当たらない。令子の脳裏に罠という言葉がよぎる。だが、それは百も承知で乗り込んだのではないか。頭を振って、歩き続けた。

「美神殿………これは拙者らを疲労させる罠でござろうか?」

さすがに不審を覚えたのだろう。シロが口を開く。

「だとしたらどうするのよ?今更引き返せないわよ?」

言って、振り向くふたり。後には真っ暗な光景が広がる。『一寸先は闇』を地で行くような、本当に闇以外に何も無い空間が背後に広がっていた。これでは令子の言う通りに引き返すことは叶うまい。

「これは………どういうことでござるか?」

「深く考えないで。空間が捻じ曲がってるのよ。まともな物理法則に囚われてちゃ駄目。そもそも、時間の概念すら定かじゃないんだから。私達は既に5分近く歩いている。だけれど、実際はほんの1〜2分しか歩いていないのかも知れない。ここはそういう場所だと思っておいた方が良いわ。」

正解であった。ただし逆である。彼女達は実際は30分近く歩いてた。彼女達の知らぬことではあるが、他の仲間たちの戦闘は既に終了している。

「それにしても………この先には誰が待ち受けているのでござろう。先生でござろうか?」

シロは気が逸っているようだ。だが、それを悪いことだとは思わない。

「どうかしら?ベスパをパピリオが待ち受けていたように、それなりに因縁のある人物が待ち受けている可能性が高いわ。横島君以外で私達に因縁の深い奴と言えば――――」

「?!!!」

ポッカリと急に登場したように、少し先に行き止まりが見える。
その行き止まりにはドアがある。

「――――着いたみたいね。」

「の、ようでござるな。」

ふたりはそれぞれに得物をしっかりと握る。
令子は愛用の神通棍を。
シロは八房の納まった鞘を。

そして目を合わせ、頷いた後、ふたりはゆっくりとドアを開いた。

果たして、その先にはタマモとリグレットが居た。







「待たせたわね。美神、馬鹿イヌ。」











その声はいつも通りの、まるで何かの企みがあるような声色だった。








今までの コメント:
[ 戻る ]
管理運営:GTY+管理人
Original GTY System Copyright(c)T.Fukazawa