ザ・グレート・展開予測ショー

魔人Y−53a


投稿者名:NAVA
投稿日時:(03/ 7/21)



 美神達がくぐった扉とは、要するにワープホールの入り口であった。つまり、それぞれがどこか別の場所に空間的に繋がっている。隣の部屋に繋がっているわけではないのだ。
扉をくぐったカオスとマリアを待ち受けていたのは、見たこともない魔法陣と装置であった。その姿に目を細め、じっくりと観察する。ほの暗い部屋の全体をマリアがスキャンし、特に生体反応が無いことを確認。


「ふむ。積層型立体魔方陣か………。」

 ヨーロッパの魔王をして、初めて見るモノ。カオスは実に物珍しげにマジマジと観察する。
彼とて、知識ではその存在を知っていたのだが、如何せん人間の霊力では構築が難しい。積層と言うくらいなのだ。複数の魔方陣を目に見えるほどに重ね合わせて作り上げる魔方陣、それが積層型と呼称される由縁である。ただの立体魔方陣とはレベルが違うのだ。

「誰か・来ます!!!」

 唐突にマリアが空間の歪曲を感知。カオスが銀の弾丸を込めた愛銃を構える!

ブーン!

 歪んだ空間が次第に色を帯び、その色が形を取り始める。

「よう、久しぶりだな。じーさん。」

 そして現れたのは――――横島忠夫とドグラ・マグラであった。





「元気そうじゃの。」

 カオスはラスボスのいきなりの登場に少しだけ目を丸くするが、やがて、横島に殺気がないことを感じ気軽に応じた。

「で、これが噂の計画の要か?」

「ああ、じーさんが昔、地獄炉を使ってさえエネルギー不足で断念した、“システム”に干渉するモノだ。」

「ほう………?」

横島の大暴露に目を細めるカオス。何故にそれを知っているかなどとは聞かない。どうして知ったのかという疑問よりは、知っているという事実の方が重要なのだから。何より、カオスにとって、システムは飽くまで仮説に過ぎない。そして魔神たる横島が実際にそのシステムを動かそうとしている。それは図らずも、カオスの立てた仮説のひとつの傍証となろう。

「俺が干渉を試みるのは、この箱庭のシステムのひとつ、『連環』だ。」

「なるほど、なるほど。小僧の企みが読めてきたぞ。だから美神を誘き寄せたのか。」

カオスが得心のいったように、問い掛ける。

「ああ、残る鍵は美神さんだけだ。他は全て押さえた。」

「エネルギーが足りまい?既に20%程度は充填しているようだが、それでは稼動しまい?」

「エネルギーならここにあるさ。」

言って、横島が自分の胸をドンッと叩く。カオスにはその意図が読めない。

「つまり、魔神としての力の結晶を使うって言ってるのさ。」

事も無げに言い放つ横島。

「それでは貴様は普通の魔族になってしまうではないか?」

「好きで魔神になったわけじゃないからな。それにシステムを発動させれば、魔神かどうかなんて関係なくなるさ。」

本当につまらない物を捨てるような口調で、横島は答えた。一方、カオスとしては頷く以外に方法は無い。『全く、人としても、魔族としても規格外の男じゃよ、お前は。』内心の呟きを表に出すことなく、カオスは更に質問を続ける。或いは、これが一番大事な質問かも知れない。

「で、ワシにそれを話すのは何故じゃ?冥土の土産という奴か?」

実は緊張しているのだが、それを表に出すのは彼のダンディズムに反する。彼は飄々とした様子で、己の命など大した物でもないとの態度を取る。

「いや、ヨーロッパの魔王、ドクター・カオス。かつて失敗した実験の行く末。見届けたくは無いか?それに再び携わりたくはないか?」





それは久々に知的好奇心の滾るカオスにとって、実に魅力的なお誘いだった。










 「ところで、他の連中はどうしとるんじゃ?」

横島の誘いに抗しきれない自分を自覚したカオスは、敢えて話題を横道に逸らす。

「他の連中か………。」

カオスの意図には気付いていたが、協力を要請するという立場を慮り、話題に乗ってみせる。ユーチャリスの中において、彼が分からないことは無い。
“知らない”ことはあるのだが。
簡単に言えば、録画をしていない監視カメラがあると考えて良いだろう。見てる最中のことは分かるが、見てない時間に起きたことは分からない。

「………小竜姫とワルキューレ、ベスパとパピリオは戦死だ。」

態々、文珠で始末したことなど知らせる必要も無い。どうせ、ただの話題逸らしだし、知らせるのは結果だけで良い。

「そうか………。まだ戦闘中の奴等も居るということか?」

「ああ、西条とピートがジークと。雪之丞とタイガーがメドーサと戦闘中だ。まあ、どちらも結果は見えているが。」

ジークはともかく、メドーサには超加速がある。その上、戦歴だけ見れば、雪之丞とタイガーが生まれる遥か前から戦い続ける女だ。ふたりの勝ち目は薄い。

「美神の嬢ちゃんは?」

「………タマモとリグレットが相手をしたがってたが。まだ彷徨ってるようだな。」

言いながら、横島は西条&ピートvsジークの場面を虚空に浮かべる。
その中では、西条とピートが満身創痍でジークと戦っていた。






『勝てそうも無い』

 それが西条の認識だった。思えば、地味なキャラであり、特別な能力など持ち合わせていない。それが目の前の魔族ジークであった。しかし、裏を返せば、全ての能力が満遍なく高いからこそでもある。軍人であり、実戦経験もある。剣術も齧っており、西条のジャスティスと平気で渡り合える程度には強い。また、無言で襲い掛かるピートには魔力砲を広域放射して接近を許さず。地味に、されど確実に。ジークは西条とピートの体力と霊力を削っていく。


もはや一発逆転にかけるしかないようだ。隙を窺って、一撃必殺とばかりに霊力を練る。

その最中に彼の目に映った光景。

強引過ぎた攻めをジークが上手く受け流し、体勢を崩されたがために無防備な背中を晒すピートの姿。

そのピートの背中に向けて、魔力を伴った手刀を構えるジーク。

そして彼の足は勝手に動き出す。













バスンッ!!





ダンボールの中に腕をつき通して穴を開けたような、そんな音がした。




ジークの腕を伝って流れる赤い液体。

呆然としているピートを捨て置き、西条は己の胸を突き通すジークの腕をしっかりと筋肉で締め上げ、そのまま己の胸にジャスティスを突き刺す。狙うは、密着状態にあるジーク。腕を深く突き刺していたジークは、突然、己の胸に突き刺さる霊力の篭った刃に対して、全く回避行動が取れなかった。







そしてジャスティスが爆発を起こす。






霊力によるオーバーロード。
ジャスティスの許容量を越える量の霊力を注ぎ込んで引き起こす、一撃限りの荒業。
当然、ジークだけではなく、西条も無事では済まない。













「ピート君………先へ行け。」

「な………何で………?」

西条の静かな口調は、全く責める様子はない。

身体から熱がどんどん消えていく。視界が暗くなっていく。
それを自覚しながら、西条は最後まで贖罪を果たす機会が無いことを悟る。

「………唐巣神父に加え、僕の分の命まで君は背負った。………行け。願わくば、君が横島君を止めんことを。」

既に事切れていたジークを背中に抱えたまま、西条は床に倒れこむ。贖罪が果たせぬなら、呪縛を強化してしまえと。

呆然とするピート。そして事態は彼を待つことはない。
ユーチャリスの柱に仕込まれた文珠。それが淡い光を帯び始めたかと思うと、唐突にジークと西条を撃ち抜く!!!
ピートには襲い掛かりもしなかったが。




「文………珠………?死者の魂をどうしようと?………………横島さん!!!!!!!!!!」







53bに続きます。

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