ザ・グレート・展開予測ショー

三つの願い叶えます


投稿者名:dry
投稿日時:(03/ 7/20)

     『サイキック・パワー売ります!!』より
もし、厄珍が渡した品が『カタストロフ−A』ではなく『猿の手』だったら…





 この日、横島はおキヌと共に、風邪をひいた美神の代理で、初めて厄珍堂にお使いに来ていた。
 総額十億もの品を受け取り帰ろうとしたが、店主の厄珍が引き止める。

「ところでボウズ、いいモノ欲しくないか?」

 そして渡されたのが、猿の干からびた右手。時価十五億はすると言うが、かなり胡散臭かった。
 いぶかしむ横島に厄珍は説明する。

「これは『猿の手』と言って、手に持って願い事を口にすると、その願いを三つ叶えてくれる呪的アイテムあるよ」

「『精霊(ジン)の壺』みたいなもんか?」

 あれも、三つの願いを叶えるアイテムである。

「そうある。ん?ボウズ、もしかして壺のことを知ってるか?」

「ああ、その、本で見たことがあるんだよ」

 いい思い出が無い品だし、燃えないゴミとして今ごろは埋立地にでも転がっているだろう。
 話を切り上げて早く猿の手の効果を試したい横島は、適当に誤魔化した。

「なんだ、持ってたら八億で買い取ろうと思ってたある」

(なにー!くそう、こっそり回収しとくんだった!)

 後悔先に立たずである。
 それにしても、時価二十億の品をさり気に半額以下で買い叩こうとしていた厄珍、流石は商売人といったところか。

「ありがたく頂いとくよ、厄珍のおっさん」

 気を取り直した横島は、品の入った風呂敷包みと猿の手を持って店を出た。

『待ってください、横島さーん!』

 それを追いかけるおキヌを見送りながら、厄珍は意味深なことを呟く。

「…まあ、複製だから、それほど酷い目には遭わないあるね」



 事務所に戻り、仕入れた道具を片付け終えると、早速二人は世界呪的アイテムカタログで、猿の手について調べようとしたが、

『やっぱり、美神さんじゃないと読めませんね』

 何語で書かれているかすら判らなかった。
 それでも、猿の手そっくりなイラストが載っていたので、厄珍の言っていたことは本当のようだ。

「イフリートみたいに曲解することは無いと思うけど、念の為だ。一つ目は無難なもので…」

 猿の手を掲げて叫ぶ。

「『美神さんの風邪を治してくれ』!」

 所長が復帰しないことにはバイト代が貰えないので、横島にとっては結構切実な願いだった。
 そんな思惑を知らないおキヌは、素直に喜んだ。

『これで美神さんが治るといいですね』

 一応、おキヌに電話で確認してもらう。

『もしもし、美神さん。身体の具合はどうですか?』

『心配してくれてありがとう。ちょうど今、熱が引いてきたところよ。明日の朝には治りそうね』

 これで効果があることは確実となった。
 取り敢えずおキヌは、一人では色々と不便だろうということで、美神の世話をしに彼女のマンションへ出掛けていった。
 いいコやなあと思いつつ、残った横島は猿の手を片手に持ち、次の願いを考える。

(残り二つだから、やはりここは、金と女か?)

 悩みながら事務所内を行ったり来たりする内に、受け取った品を包んでいた唐草模様の風呂敷が、目に止まった。

「あれで十億だもんな。『半分でもいいから、そんな大金を手にする機会はないもんかなあ』」

 思わず口にしてしまう横島。
 すると、いきなり電話が鳴り響いたので、受話器を取った。

「はいっ、美神除霊事務所。あ、生憎今日は美神さんは…。五億出す?いや、そういうことではなくて…」

 用件は除霊の依頼だった。
 相手はかなり切羽詰っているのか、相場を遥かに上回る金額を報酬として提示する。
 しかし予定に無かった依頼でもあるので、美神の病気を理由に断ろうとしたが、あることに気付いた。

(あっ、もしかして二つ目の願いって十億の半分、つまり五億をこの依頼で手に入れられるということか!?)

 あの呟きにも反応してしまったのだろう。願いが残り一つになったのは残念だが、せっかくのチャンスを生かさない手は無い。
 横島は自分が代わりに引き受ける旨を、受話器の向こうの依頼主に告げた。

「分かりました。このゴーストスイーパー横島忠夫が、ただちに片付けてみせます!」



 現場であるデパートでは、白骨化した武者の姿の悪霊が一体、暴れまわっていた。

「あいつです!理由は分からんのですが、今朝から売り場をぶった切ってまわってます!」

「ふっふっふ、任せなさい」

 そそくさと退散する依頼主とは対照的に、自身満々の横島。

(報酬を手に入れられる。即ち、あいつは俺でも除霊できるということだ)

 しかし、接近戦で倒せるとは思えないので、持って来た見鬼くんと霊視ゴーグルで調べる。
 破魔札もあるが、できれば使いたくない。
 使い減りしない前者二つと違って、使用した分だけ費用がかさむ。しかも、まともに扱う自信が無い。

(うーん、よく分からんが弱点は無さそうだ。…あれ?見鬼くんが妙なところを指してるな)

 あらぬ方を向いている見鬼くんが指し示す方向に目をやれば、「戦国時代の武器・甲冑展」の看板が。
 そこに書かれた開催期間を見ると、開始日が今日である。

(あれだっ!)

 悪霊に悟られないように、こっそりと移動する。
 やはり荒らされている展示会場に無事辿りつくと、見鬼くんが何に反応していたかが分かった。
 陳列ケースの一つに納められた、一振りの抜き身の刀とその鞘。ここだけが綺麗なままだった。

(鞘から抜かれたから、あいつが出てきたのか)

 脇にあるプレートに書かれた縁起からも、これの持ち主である武将が、敵味方を問わず多くの人を斬ったことが判る。
 その武将が悪霊化したので刀に封印したというのは、いかにもありそうな話だった。
 確認の為に霊視ゴーグルをかけると、鞘から霊気が漏れていた。
 方針は決まった。刀を鞘に戻せばあの鎧武者は消えるはずだ。
 そこまで考えたところで、異様な気配に気付く。
 振り向くと、いつの間にか近づいていた悪霊が、錆びた刀を振り下ろさんとしていた。

『キョエーーッ!!』

「のわあっ!!」

 紙一重でかわしたが、代わりに陳列ケースもろとも鞘が真っ二つにされていた。これで事実上、封印は不可能となった。
 しかも、展示会場の入口は一つだけで、そこに悪霊が陣取っている。逃げ道が無い。

「こうなったら仕方ない。破魔札で…って、ああっ!!」

 破魔札を入れたナップザックも斬られており、中身は悪霊の足元に散らばっていた。

「こんなんばっかりやがなーーっ!!」

 絶叫したところでどうしようもない。
 じりじりと迫ってくる鎧武者の悪霊。
 実力行使も無理な為、残された手段は一つしかなった。

(くそーっ!隙間無く美女で埋め尽くされたプールに、タキシード着て飛び込んでもみくちゃにされる願いは、諦めるしかないんかー!)

 余裕があるのか錯乱しているのか、微妙なこと考えている横島。
 血涙を流しながら、覚悟を決めた。命あっての物種である。
 懐から取り出した猿の手に、最後の願いを告げる。

「頼むっ!『この悪霊を倒してくれ』っ!!」

『ギィエエエーーーッ!!!』

 次の瞬間には、爆風と共に悪霊は消滅していた。

「た、助かった〜」

 気が抜ける横島だったが、安心するのはまだ早かった。

「よかったわね。横島クン?」

 この場にいないはずの人物の声が聞こえる。
 恐る恐る顔を上げれば、目の前で美神が神通棍を片手に、一見にこやかな表情をして立っていた。
 顔中から冷や汗を垂らしながら、横島は疑問を口にした。

「ど、どうして美神さんがここに…」

 美神の後ろから、おキヌが現れる。

『私が事務所に戻ったときに、ここの依頼主さんから連絡があったんです』

 彼女の話によると、横島と入れ違いに戻って来たらしい。
 美神はマンションに到着したおキヌに、事務所から書類を幾つか持ってくるよう頼んだ。
 具合が良くなってきたので、自宅で事務仕事をこなすつもりだったのだ。
 そして、おキヌが事務所の棚から目当ての書類を探していると、このデパートから電話が掛かってきた。

『「横島というGSの腕は確かなのでしょうか?」って』

 確固たる名声を築いている美神令子の助手とはいえ、見た目が高校生では不安になるのも仕方あるまい。

「で、おキヌちゃんを経由して事情を知ったという訳よ」

 依頼を受けた者が実は素人のアルバイトで、その上除霊に失敗したとなれば、美神除霊事務所の信用はがた落ちである。
 風邪が治りきっていない身体を押してでも、駆けつけなければならなかった。

「さて、何か言うことはある?」

 厳しい顔になる美神。

「勝手に依頼を受けて、すんませんでしたーーっ!!」

 横島は土下座して、何度も頭を下げた。最悪の場合、命を落としていたのだから、しばらくは大人しくしているだろう。

「まったく、猿の手なんかに頼るから、こうなるのよ」

 報酬の五億は手に入るし、横島が美神の回復を願ったことをおキヌから聞いていたので、あまり強くは叱らない美神であった。
 一つ目の願いの動機が不純なものだったことを、彼女は知らなかった。



 ちなみに、世界呪的アイテムカタログにはこう書かれていた。

「猿の手:見た目は猿の干からびた右手。持ち主の願いを三つまで叶えてくれる、奇跡のアイテム。しかし、その副作用は凄まじく、願い事と引き換えに必ず不幸が訪れる。取り扱いには細心の注意が必要」

 五億を手にする『機会』はあった。
 悪霊は美神によって滅ぼされた。
 そして、いい汗を流したおかげで、美神は風邪がすっかり治っていた。
 これだけの願いを叶えた副作用が「半月の間、バイト代が半額」ですんだのは、猿の手がオリジナルの品ではなかったおかげである。
 それでも、横島にとっては十分不幸だろうが。



 …そのころ厄珍堂では、

「次はこれなんか面白そうあるな。あのボウズは使えるよ」

 サイキック・パワーが宿る薬『カタストロフ−A』を見て、厄珍がほくそ笑んでいた。





     了

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