ザ・グレート・展開予測ショー

『キツネと仕事とウェディングと その3 前編 』


投稿者名:かぜあめ
投稿日時:(03/ 7/20)


「・・あいつ・・。どこまで飲み物買いに行ってんだ?」

9時20分。
ジェニファー(人形だが)とのキスも56回目に突入しようかという・・そんなころ。

いぶかしむような声とともに横島忠夫が顔を上げた。

タマモが部屋を出て行ってから、すでに30分近くが経過している。
はじめは寄り道でもしているのかと思ったが・・

よくよく考えれば、彼女が仕事中、そんな迂闊な真似をするはずがない。



「・・・・。」



では・・なぜタマモは戻らないのか?
その疑問へと至った時、横島の背筋に冷たいものが走った。

・・・。


・・そう・・迂闊だったのは・・自分のほうだ・・。



――・・窓越しの景色を支配するのは・・ゾクリとするほど質感を持った黒。

彼の第6感ともいうべきものが・・、心の端で警笛を鳴らす。

「・・少し・・甘く見すぎてたか・・・。」

吐き捨てるようにつぶやいた後、横島は部屋の外へと飛び出していた。


「おや?横島さん?どうかしたのですか?」

「タマモの姿が見えないです!少し外を探してきます!」

叫びながら、横島はそのまま入り口を目指す。


・・・だから見落としていた。

すれ違い様の依頼主の顔にわずかながら喜色が混じっていたことに・・・。


「やれやれ・・元気なことだ。」







〜『キツネと仕事とウェディングと その3 前編』 〜






「・・・ん・・・。」

闇。

その場所はまさに闇と形容するにふさわしい場所だった。

月光も・・人工の光すらも届かない空間で・・タマモは意識を覚醒させる。

「・・・ここは・・。」

頬に感じる、無機質で・・・それでいてイヤに冷たいコンクリートの感触。
その全身に伝播するような冷気から、ここが何かしらの建造物の・・地下であることがうかがえた。

自分以外の気配は・・・今のところない。・・・あくまで今のところは・・であるが・・。

・・・・。

「お目覚めかな?妖孤のお嬢さん・・。」

不意に聞こえた射抜くような声。
それにタマモは振り向いた。

「死んだように眠っていたから・・目を開けないかと心配したよ・・。」

揶揄するような「敵」の様子に、タマモはつまらなそうに瞳を向けて・・、

「・・ふ〜ん・・。やっぱり最後のあれは見間違いじゃなかったんだ・・。」

・・そう言った。


目の前に立っていたのは、緑の服を着込んだ・・自分たちの依頼人であるあの男。

「・・あんたの気配には気付いてたのにね・・。軽く会釈して通り過ぎようとしたらこの有り様。」


・・・・自分が・・敵の接近を許してしまうケースは・・
あまりに敵が強力な場合か・・、『接近してきた相手が・・敵だとは気付かない場合』・・。


・・。
嘆息しながら起き上がり、タマモは自分の甘さを呪った。

少し考えれば分かることだ。
厳重な警備を、誰にも気付かせずかいくぐるなど・・、内部の人間が手を染める以外あり得ない。

目の前に立つ男は下卑た笑みを浮かべて、自分の姿を見つめている。

「花嫁をさらった目的はなに?それにわざわざGSを呼んだ理由も知りたいわね・・。」
挑発的な口調とともに、タマモは男を睨めつけて・・、


「・・なかなか生意気な娘だね・・。君は。」

「・・よく言われるわ。」

お互いの視線が交錯した。

数秒なのか、数分なのか・・。
しばらくの間、膠着が続き・・、


・・・。

「・・いいだろう。君の質問に答えようじゃないか。」

やがて・・、男の方が根負けしたかのように息を吐き出した。

「・・ありがと。じゃあ、まずは最初の質問をお願いね。」


――・・・余裕の態度を崩してはならない。この男は隙を窺っている・・。


「答えてもいいが・・、多分君は軽蔑するだろうねぇ・・。」
男は大儀そうに肩をすくめた。

「・・軽蔑?」

「一言で言えば、女を囲うためだ。神の御前で誓いを交わした男女を引き裂き、糧にする。」
狂気じみた表情。
こちらを向いているのかすら判然としない。


「・・糧?どういう意味・・?」

「そう不思議がるな。地獄の中層階でなら、日常的に悪魔が行うことだぞ?」

「地獄」などと誇らしげに語る男を見つめ、タマモの額から汗が流れる。
なにより、この得体の知れない感覚は・・。


「・・なるほどね・・。あんたもただの人間じゃないってことか・・。」

「ご明察。・・で後半の質問だが・・、それは聞くだけ野暮というものだ。
 ただ単純に、君が気に入ったからお呼びしただけ・・。
・・余計な男がくっついてきて、引き離すのに随分手間がかかったがな・・。」

そのまま目を細めて、彼はタマモを見据え・・。


「・・要は地獄でハーレムを作ってそれに私も加えようってわけでしょ?呆れてものも言えないわ・・・。」

正直、驚いたとしか言いようがない。
あの善人そうな仮面の下でこんなドス黒いことを考えていたとは・・。

「・・まだまだ元気があるようだな。ここらで一度叩きのめしておくか・・。」

言って、男は低く姿勢を落とす。

「・・あんまり私をなめないことね。叩きのめされるのはそっちかもよ。」

対してタマモの周囲から、高熱の炎が渦巻き・・、


・・数瞬後、部屋に爆音が鳴り響いた。



                  ◇





「・・・・・地鳴り・・。」



遠いのか近いのかすらも判断できないが、
その時、横島の耳ははっきりと・・奇妙な音をとらえていた。


つられるように足を止め・・・

そこで・・目線の下に異質なものを確認する。

「・・?これは・・髪の毛か?」

式場の玄関で・・靴置き場に散らばる数本の金の筋。
横島はその一本を手で取って・・、光の下に透かしてみた。
人工の輝きに照らされても、その金色は・・色あせることなく・・、



自分が知っている限りでは、これほど見事なブロンドを持つ人物は一人しかいない。


屋外へと踊り出ようとしていた自分の体を、ゆっくり後ろの方へと向けて・・

「・・・外よりも内を・・ってか・・。」

彼はそうつぶやいた。



〜後編へ続きます〜


『あとがき』

今回の一つの目標は『救いようのない極悪な敵役を出す』・・なのですが・・
ひどい奴ですよね〜この人。よりにもよってタマモを・・・。

というわけで前編を読んでくださってありがとうございました〜
色々調べてみたのですが、地獄の第2層では本当に悪魔がハーレムを作ってるみたいです。
・・恐い・・(笑)

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