ザ・グレート・展開予測ショー

折り鶴


投稿者名:ライス
投稿日時:(03/ 7/18)










 昔の話でござる。




























「三角に折って、今度はそれを開いて四角に……、ほら、反対も忘れずに折って?それじゃ、今度、そ

れをひし形に……、そうそう。」


 母上は折り紙が上手でござった。病弱で、いつも床に臥せっていたけれど、調子がいい時は拙者も、
母上に付きっ切りだったでござる。


「う〜ん、難しいでござるよぉ……?」


 拙者は、手先が不器用でござった。折り鶴の折り方を教えてもらった時でさえ、難しすぎたのか、途

中でぐしゃぐしゃになってしまったのを憶えているでござる。


「フフ……、シロは手先が不器用ねぇ。ホラ、こう折るのよ?」


 母上は慣れた手つきでパパッと折ってしまう。しかも折りあがった鶴はとても綺麗にだったでござる

。拙者はその美しさにただ驚くばかり。


「うわぁ、凄いでござる……!」

「こんなのは慣れれば、すぐにシロにも出来るわよ。要はたくさん折るの。」


 そういって、母上は拙者にその鶴を手渡してくれた。


「たくさん折れれば、拙者も母上のように上手くなれるでござるか?」

「そうね、きっとなれるわ。」


 ニッコリ微笑む母上。


「シ〜ぃ、ロ〜ぉ、ちゃ〜ん!!あ〜そ〜び〜ましょ〜!!」

「ほら、お友達が呼んでるわ、遊んでらっしゃい?」

「うん!!」


 拙者を軽く叩き、見送る母上。
 いつも見守ってくれている母上。


 拙者はそんな母上が大好きでござった……。


「遊びに行ったのか、シロは……」

「えぇ、元気にお友達と……ゴホッ、ゴホッ!?」

「だ、大丈夫か!?」

「えぇ。すみませんね、いつも迷惑ばかり……」

「何を言うのだ、そんな弱気なことを……。」

「………シロには元気に育って欲しいわ……。」

「大丈夫、案ずるな。現に元気に育ってるではないか?」

「……そうね、でも、元気に健やかに育って欲しい…。自分が病弱なせいもあるかもしれないけれど、
あの子には私の分も外を駆け巡れる位に……。」

「……そうだな。」

「でも、女の子なんだから、もう少しおしとやかになって欲しい気も……。」

「ハハハ……、そうではあるな。さ、もう横になっていろ。今、薬も持ってくるからな?」

「えぇ……」








 母上は病弱だ。
 拙者を生んだ時も、産後は長い間、生死の境を彷徨っていたそうでござる。
 でも、綺麗な人だったでござる。拙者が言うのもなんでござるが、
 若い頃は父上の他にも慕われていたそうで、
 父上と婚礼した時などは、むせび泣く声があちこちで聞こえたそうでござる。


 確かに、綺麗な姿でござった。特にその長く、美しい髪は拙者でもうっとりするほどでござった。


「………どうしたの?」

「いや、なんでもないでござるよ?」

「(クス)こっちへいらっしゃい?髪、梳かしてあげる。」

「え、い、いいでござるよ?」

「遠慮しないの。さ、いらっしゃい?」


 拙者は母上の鏡の前に座る。すると母上が後ろに来て、櫛で拙者の髪を梳いてくれる。


「私の髪そっくりね、シロの髪は。手入れをちゃんとすれば、とっても綺麗になるわ。」

「ホントでござるか?」

「えぇ、きっと美人になるわ……。」

「………でも、拙者、父上みたいに武士になりたいでござる。」

「まぁ。それじゃ、もっと頑張らないとね……。」

「拙者、父上のように強くなって、村を守れるような立派な武士になるんでござる!!」

「じゃ、稽古を沢山つけてもらわないとね。」


 母上は嬉しそうだった。でも時折、少し哀しそうにもしていた。
 それを見て、拙者はなにか胸がキュンと締め付けられるようになった。
 何かは分からなかったでござるが、そのあと、あることを思い出した。

 
「そうだ、母上に見せるものがあるんでござった。」


 拙者は服の中にあるものを探って、取り出した。


 それは拙者が自分で折った一羽の折り鶴。


「まぁ………。自分で折ったの?」

「そうでござる!!アレから頑張って、やっと一羽折れるようになったでござる。少々、不細工でござるけど……。」

「いいえ。最初は皆、そうよ。誰でも最初から上手く出来る人なんていないわ。よく出来てるわ……。」

「母上に上げるでござる。教えてくれたお礼でござる!」

「………ありがとう。大切にするわ……。」


 優しく微笑む母上は拙者の頭をそっと撫でてくれた。
 拙者も嬉しかったでござる。


 でも、母上は……。



 ある日のことでござる。
 拙者は父上に稽古をつけてもらっていた時のことでござった。
 いつものように母上は、床に臥していたのでござったが、
 その日は違っていたのでござる。



 それを聞いたのは、夕暮れでござった。


 拙者を父上は山奥での稽古を終えて、家に戻ろうとした矢先、
 父上のご同輩が走ってやってきたのでござる。


「ん?五郎ではないか、どうした?」

「ド、どうしたもこうしたもあるか!お前の奥さんが……!!」

「!? 母上に何かあったんでござるか?」

「あぁ、急に血を吐いてな……。今、長老が看病してるところだ……。」

「そうか……、急ぐぞ、シロ!!」


 拙者と父上は、急いで家へと戻る。床間では母上が眠っていた。横には長老。長老は父上の顔を見る

と、首を横に振る。それが何を意味するのか、子供の拙者にもそれは分かった。


「母上!!」


 拙者は母上の下に近付く。すると、母上は目を見開き、こちらを向いた。


「シロ………。あなた………。」

「母上!!」

「私の容態は……。」


 父上は母上の問いに首を振った。母上は悟りきった表情で納得している。


「そう………。」

「もう手遅れじゃ、お主の身体では病は乗り切れないじゃろう……。」


 長老が言う。


 嘘だ。信じたくない。
 嫌だ。
 拙者は心の中でそう言い続けていた。


「シロ……。」

「母上!!」

「シロ、母はもう行かなければなりません……。」

「そんなこと、言わないで、母上!!大丈夫、元気になれるでござるよ!!」

「……私はあなたという子を授かって、幸せでした……。これからは父上の言う事をちゃんと聞き、
武士道に精進しなさい……。」

「だけど、母上!!」

「あなた、シロをお願いします……」

「あぁ。安心しろ。シロは立派に育ててみせる。」

「シロ、分かりましたね?」

「はい、約束するでござる!!」

「………そうだ、シロ。折り鶴を折ってくれないかしら……?」


 拙者は頷くと急いで折り紙を持ってきて、折り鶴を折った。
 不格好だけど、初めて折った時よりは幾分、綺麗な鶴。
 それを母上の元へ持っていった。


「………綺麗。上手になったわね……、シロ……。」

「そんな事ないでござるよ……、まだ全然、母上の方が上手いでござる……」


 母上はニッコリ微笑んでいたけれど、苦しそうな表情ござった。
 それを見て、拙者は涙が溢れてきた。
 母上は泣きじゃくる拙者の頬に触れて、こう言った。


「そんなことないわ……、上手になったわ……エライわ、シロ……。」

「母上!?」

「シロ……、実はね、あなたにはもう少し女らし………」


 頬に触れていた手がゆっくりと地に着く。そして、母上は眠りに落ちたのでござった。


「!? 母上?母上……?母上ぇぇぇぇぇ!?」


 拙者は泣きに泣いた。
 大粒の涙がいくつも板張りの床に落ちる。
 父上は決して、涙を見せなかった。
 けれど、心中はかなり複雑なものだったでごろう……。




 その後、母上の喪も明けない内に、
 今度は拙者が病になってしまったのでござる……。
 父上は必死に拙者を看病してくれたござる。



 けれど、天狗殿の薬を取りに行ったせいで……、
 


 ………その父上ももいない。



 拙者は一人きりでござる。



 だけど、今は違う。


 タマモがいて、
 おキヌちゃんがいて、
 美神さんがいて、

 そして先生もいる……。


 みんな拙者の大事な人たちでござる。







「………何やってるの?シロ」

「……何って、折り鶴、折ってるんでござるが?」

「アンタが?……どこか頭でも打ったの?」

「ブツでござるよ?タマモ。拙者だって鶴ぐらい折れるでござる!」

「……どういう風の吹き回し?」

「なんとなくでござるよ……、ヨシ、出来たでござる!!」



 折りあがった鶴。
 大分綺麗に折れているとは、思うでござるが……、
 どうでござるか?母上……。



「シロォ〜、タマモォ〜?仕事よ〜、早く来なさ〜い?」



 美神さんの声。
 どうやら仕事のようでござる。
 拙者たちは、早速、部屋を出て行く。




「上手く出来たわね、シロ……。」

「?」




 母上の声が聞こえたような気がする。
 でも、振り向いてもあるのは拙者の折った鶴が机にあるだけ。
 それを見て、拙者はニッコリ笑う。



 そして今日もまた、いつもの様にみんなと楽しい一日を……。


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