ザ・グレート・展開予測ショー

君ともう一度出会えたら(12)


投稿者名:湖畔のスナフキン
投稿日時:(03/ 7/16)

『君ともう一度出会えたら』 −12−



「ヨコシマ、大丈夫? ケガはない?」
「ああ、何とか大丈夫だ」

 ギリギリのタイミングでルシオラに助けられた。
 もしベスパの攻撃を正面から受けていたら、その渾身の一撃を受けきるのはたぶん無理だっただろう。

「ベスパは?」
「心配ないわ。体を麻痺させただけだから、明日の朝には意識を回復すると思う」
「そうか」

 俺は意識を失ったベスパを、木の幹にもたれかかけさせた。

「ヨコシマ、ベスパと二人で何を話していたの?」
「……ベスパが俺にルシオラと別れろって。そう言ってきた」
「そう……うまく隠していたつもりだったんだけど、ベスパにはバレていたのね」
「ベスパはベスパなりに、ルシオラのことを気遣っていたんじゃないのかな」
「ヨコシマって、本当に優しいのね。さっきまで命を狙われていたっていうのに」

 そういうとルシオラは、来ていたパジャマのボタンを一つずつ外しはじめた。
 胸元が広がり、中に来ていたキャミソールがあらわになると、ルシオラは俺の胸にもたれかかる。

「私……おまえの思い出に残りたい……」

 だが俺は、俺の胸元にのびたルシオラの手をそっと抑えた。

「ダメだ。今はできない」
「なぜ!? 私、そんなに魅力ないの?」

 とんでもない。むらむらと煩悩が湧き上がり、いますぐにでもルシオラを押し倒そうとする衝動が俺を襲う。
 だが俺は必死で理性をかき集め、なんとか煩悩を抑え込んだ。

「違うんだ。今ルシオラを抱いたら、監視ウィルスが作動してしまうんだろ!?」
「ベスパから話を聞いたのね──」

 ルシオラが、そっと目を伏せた。

「でも前にも言ったよね。私、一年しか生きられないって」
「ああ」
「抱いてくれないなら、私を連れていって! どうせ死ぬなら、あなたの傍で死にたい……」

 ルシオラの言葉は悲痛さがこもっていた。俺はルシオラの肩を、ギュッと抱きしめる。

「いいのか、ルシオラ?」
「……かまわないわ」
「大丈夫。絶対にルシオラを死なせない──」

 ここで一歩踏み出せば、明らかに歴史の流れは変わってしまう。
 だが俺の腕の中で悲壮な覚悟を決めているルシオラを突き放すことは、今の俺にはできなかった。

「カネはあるか?」
「別荘に戻れば……。でもどうして?」
「俺に任せてくれ。うまくいけば助かるかもしれない。それからリミットは?」
「私の脱走を土偶羅様が確認してアシュ様に報告するまでは監視ウィルスは作動しないから、たぶん明日の朝までは大丈夫」
「わかった。俺たちの運命がどうなるか、明日の朝までが勝負だ!」




 十分後、俺とルシオラは東京に向かって飛行していた。
 今は首輪が外れているため、俺はルシオラにつかまって空を飛んでいた。
 地上数百メートルから眺める夜景の美しさは格別であるが、今はそれをじっくりと味わっている余裕はない。

「東京まで、どれくらいかかる?」
「このまま巡航速度で、1時間弱ってところね」
「十分だ。あとはドクターカオスを捕まえるのに、どれだけ時間がかかるかだ」

 一刻も時間を無駄にできない。俺とルシオラは、緊張した表情のまま飛行を続けた。




「カオスいるかー」

 ドンドン!

 俺はカオスの部屋のドアを叩いた。既に時刻は夜中の1時を回っている。

「なんじゃい、騒々しい」

 ガチャ

 カオスがドアを開けた。

「おっ、小僧ではないか。おぬし、人類を裏切って魔族の手下になったんじゃなかったのか? テレビで見てたぞ」
「そ、その話しはいいから、ちょっと頼みたいことが──」

 カオスが、俺の後ろにいたルシオラに気づいた。

「その女は小僧の知り合いか? 人間には見えんな。魔族か?」
「実は彼女のことで、込み入った話が……
「まあ中に入れ。話しを聞こうじゃないか」

 俺とルシオラは、カオスの部屋に入った。


「……ふむ、するとおぬしは、その女を連れて魔族たちから逃亡してきたということだな?」
「ああ。だが厄介なのは、彼女の霊体ゲノムに監視ウィルスが仕掛けられていて、それを明日の朝までに何とかしなければいけないということなんだ」
「それをワシにして欲しいと?」
「そういうことだ」
「だがここでは設備が無いぞ。それにワシは、明日もバイトがあるし……」

 すかさず俺はカオスの前に手をのばすと、指を一本立てた。

「報酬は家賃1年分!」
「な、なに? カネはあるんじゃろうな?」

 俺は懐から札束を出すと、テーブルの上にドンと置いた。

「……おぬし、まさか魔族の手下だけでは飽き足らず、犯罪にまで手を染めたか?」
「別に人から奪ったわけじゃないぞ」
「まあ、よいか。出所がどうあれ、ワシにとってはカネに代わりはないからな。だが設備はどうする?」
「あそこは使えないか? 以前にテレサを作った時に、厄珍堂の地下に研究室を作っただろう?」
「ふむ。すぐに使えるのは、あそこしかないだろうな」
「わかった。急いで厄珍に連絡をとってみる」
「しかし時間が厳しいな。ゲノムにまで踏み込んで調べるには、数日は時間が欲しいのだが……」
「無茶なのは百も承知なんだが、アンタしかいないんだ。ドクター・カオス」

 俺は両手をつくと、土下座して頼み込んだ。

「まあ、そこまでせんともよいわ。久しぶりの大仕事に、こちらも腕がなるわい」
「それじゃ!?」
「ああ、引き受けよう。マリア、出かけるぞ」
「イエス・ドクター・カオス!」




 俺はは厄珍のプライベートの携帯に電話をすると、就寝前の厄珍をつかまえて地下の研究室の使用許可をもらった。
 厄珍が口留め料を請求してきたが、厄珍から情報が漏れないために支払いを約束した。
 あいつも商人だから、カネを払う限りは約束をきちんと守っている。

 その後俺たちは、厄珍堂の地下の研究室へと向かった。
 到着したのは午前二時。あとは時間との勝負である。
 研究室につくと、ルシオラをかつてテレサが横たわっていた座椅子に座らせた。
 カオスとマリアがすぐさま分析装置を動かし、ルシオラのゲノムの調査に入る。
 手持ち無沙汰になった俺は、椅子をもってくるとルシオラの傍に座った。

「ヨコシマ、私は大丈夫。疲れているでしょう。少し眠って」
「気が高ぶって、とても目をつぶれないよ」
「……お願いがあるの」
「なんだい?」
「もし監視ウィルスの除去が間に合わなくて、活動を始めてしまった時は……、私が消えるまで手を握っていて」
「心配するなよ。カオスの腕は超一流さ」
「おだてたって、何にも出ないぞ、小僧」

 以前、カオスは監視ウィルスの除去に成功している。
 成功することは確信していたが、あとは限られた時間内で除去できるかどうかにかかっていた。


(続く)

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