ザ・グレート・展開予測ショー

RAINY NIGHT −前編−


投稿者名:veld
投稿日時:(03/ 7/16)



 そう、彼女は友達だった。
 問答無用で、そう、友達。
 友達以上恋人未満。

 ・・・三行目の意味は自分でもよくは分からんけど。
 悪くは思われていないし、思ってもいない。
 人外に好かれる俺であるから、きっと、少なからずの好意は受けているのではなかろうか、という、微妙に可能性の低そうな因子も含めるとして。
 つまりは、そう。
 必然だった。

 帰りに出逢う彼女の姿は。
 人であって、人でなし、という、何ともおかしな姿だった。
 『アンドロイド』の彼女は。
 ただ、呆然とダンボールを眺めていた。

 『可愛がってください』

 名前は○○です。と、冒頭に書かれた、「ふざけんな」と蹴りでも入れたくなるような捨て主のエゴにまみれた張り紙と。
 中身のない、ダンボール。


 ・・・そう、必然だった。
 彼女がいつからそうしていたのかは定かではなく。
 あまり濡れている様子の見えないその服からは、さほどの時間が立っているようにも思えずに。

 「・・・だから余計に」

 俺は彼女を放って置けなかった。

 ジレンマ、っていうのが、アンドロイドにもあるらしい。
 連れ帰るべきか否か、という迷い。
 合理的とは言えない、迷い。

 「マリア!」

 声をかけた後で、いや、彼女が振り向いた後で、いや、その腕の中で眠る子犬を見つめた後で気付いた事は―――
 俺も、彼女の創造主と同じくらいに貧しいのだという現実だった。



 後悔は。
 「こんばんわ・横島さん」
 腰から折って礼をする、そんな彼女の言葉で瞬く間に失せたけれど。



 何とかなる―――そんな漠然とした予感を覚える事さえないままに。
 おうっ!と、空元気気味に返した言葉は自分でも信じられないくらいに後ろめたさがなかった。


 手の中にある感触は些かに寒々しく。
 降り注ぐ雨はやはり厳しく。
 俺と彼女をぬらす。
 そして、彼女の腕の中の命のぬくもりも。
 悲しくなるほどに早く―――奪っていく。

 ・・・急ごう。
 足を早める。
 澱んだ雲で真っ暗になった景色。
 行き交う人は傘を差してる。
 そう、俺のように―――肩を濡らす事も無く。
 彼女が濡れる事を意にも介さないことは知っている。
 防水加工でも施しているのだろうか、とにかく濡れてどうなるわけでもない。
 ただ、彼女の腕の中の命は―――







 去り行く背中を侘しく見つめるダンボール。
 可愛がってください、という汚い字で書かれた張り紙は色褪せていた。
 ビニール袋についた水滴が湿ったアスファルトの地面に染み込んでいく。
 振り返ればきっと。
 彼女のいたあの光景が見える。
 一瞬、もう一度見ようか?
 肩口に見つめようとして止める。
 何を思ったからでなく、何となく。
















 今日はついてない日だった。
 仕事でとちって殴られた。腹立たしげに切り上げた雇用主に事務所から蹴り出された。
 性格も良く器量良しの同僚に持たされた傘は一人用。
 二人用の傘なんてあるはずもないけれど。
 何にしても小さかった。
 二人入るには。

 性格も良く器量良しの弟子に持たされたドッグフードは一匹分。
 人間用のドッグフードなんてあるはずもないけれど。
 何にしても小さめだった。
 一人と一匹が食べるには。

 狐は何もくれなかった。っていうか、お揚げ食べながら冷めた目をして馬鹿とのたまった。項垂れる俺は何も言えずに弟子と狐の殴り合いを背に澱んだ雲の外界に飛び出した。






 そう、全てが重なって。
 俺は、肩を濡らしてる。






 六つ電信柱を越えて。
 見知った光景の中に、俺の住む場所が見えてくる。
 急がなきゃいけない。
 けれど、気になった。
 走りながら―――。

 「・・・なぁ、マリア」

 「何ですか・横島さん」

 「何であそこでじっと見つめてたんだ?」

 「?」

 「・・・いや、何でもない」

 誰かを待っていた、と言う事はないんだろう。
 さっきの考えのままに―――ジレンマから。
 そう、俺の帰路であることが関係にするのか?とか、そんなことを考えてしまった自分が恥ずかしかった。



 真夏なのに凍えるような夜。
 雨足は更に早くなって―――。
 まるで、俺達を追うかのように―――遠くの空が晴れ渡っていく。

 澱んだ雲は命を嘲笑うかのように付きまとう。

 神様を憎んだ事は数限りなくある。
 そのどれもがくだらない事で。
 本気で殺したいと思ったのは過去一度だけ。
 今回はどうだろう?
 考えて、止める。
 詮無き事。
 ただ、苦しくなるだけの事だった。



 水溜りを靴が跳ねる感覚が煩わしい。
 ただ、不思議なくらいに落ち着いていた。
 高揚している感覚もあった。
 幼い日々を思い出すかのようで。
 日常とは違う一面だから、そんな事を思うんだろうか。

 自己嫌悪。―――そう、隣の彼女に申し訳なかった。
 出来うる限り感情を抑えて―――。

 たどりついたボロアパート。





 続く。

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