ザ・グレート・展開予測ショー

『キツネと仕事とウェディングと その2 後編 』


投稿者名:かぜあめ
投稿日時:(03/ 7/16)



〜キツネと仕事とウェディングと その2 後編 〜


「あの〜なにかあったのですか?」

依頼主の男は焦っていた。
何故かは知らないが・・戻ってみればGSの2人組がお互い黙り込んでいて・・、

「・・いや・・その・・なんというか・・。」
言葉につまる青年と・・、
「・・別に・・何もなかったけど・・。」
トーンを落とした少女の声。

・・どう見ても数分前よりギクシャクしている。

差し入れのコーヒーを差し出しながら、機嫌を取るように男が言った。

「・・ところで、この後の式について打ち合わせをしたいんですが・・。」
そんな言葉に、一瞬、キョトンとした顔をして・・横島とタマモが顔を見合わせる。

「?打ち合わせ?誓いの言葉を言って・・指輪の交換をしてお終いじゃないの?」
不思議そうに口にするタマモを見て、横島もそれに同意した。

「そうだよな。特別問題になることなんて・・・・。
 ・・・・・あ・・・。」

言いながら、なにか思い当たることでもあったのか・・
カップを持った彼の手が、なにやらワナワナ震え出した。

「・・・・まさか・・・。」

「何よ?今更怖気づいたの?所詮こんなの子供だましでしょ?」

ドレスの裾をつまみながら言ってみるが・・やはり変わらない相方の様子。
本当にどうしたというのだろう?大概のことには動じないこの男が・・



「あの〜相談したいのは誓いの口づけのことなんですが・・・。」

ニコニコしながら依頼主が言って・・、
・・・。
・・・・・・。

ガッシャーーーーーーン!!
突然、食器が飛び散る音がした。

「!!!△○×□!?」

間髪入れずに言葉にならない叫びが飛び込んでくる。
「お・・落ち着け。タマモ・・。」

「落ち着いてる場合じゃないでしょ!?いくら依頼主だからって・・横暴よ!!
 これ以上私を追いつめて一体何を・・」

・・なんか無茶苦茶言ってるが、まあ・・とりあえずその憤りは分からなくもない。

「却下!!絶対却下だからね!!大体、式の直前に花嫁が消えるんでしょ!?
 打ち合わせなんて必要ないじゃない!」

頬を真っ赤に紅潮させて・・・、タマモの表情がここまで色々変わる日も珍しい。

「そ・・それは誤解だ!!式の後に花嫁が行方不明になったケースもあったのです。
 怪しまれないように念には念を押して・・、敵にラブラブっぷりを見せつけてください!!」

これは譲れないとばかりに豪語する依頼主。

「ラブラブっぷりって・・。あ〜・・もういいや、なるようになるだろ・・。」
もうどうにでもしてください的セリフを発しながらふて寝を始める横島を尻目に、

「全然良くないわよ!!ちょっと横島!何いびきなんてかいてるのよ!!ちょっと!!」
タマモの声だけが式場内に響いたわけで・・、

・・本当にこの依頼は成功するのだろうか?
                 
  

        ◇



「いい?フリだけだからね?その人工呼吸訓練用人形で・・たっぷり練習してから声をかけて。」

「・・その発言つっこみどころが多すぎるんだが・・、とりあえずどこから持ってきたんだこの人形?」

控え室。

そこには憮然としたまま直立するタマモと、部屋の隅の方で小さく座る横島がいた。
足元にころがる人工呼吸用人形のジェニファー(仮名)を凝視して、

「あのさ・・。よく小説とかには書いてあるけど・・キスのフリってどうやればいいんだ?
 知らんぞオレは・・・。」
半眼になりながらため息をつく。

「・・そ・・それは・・私も知らないけど。」

「だろ?もうめんどくさいしさ・・。ここはお互い覚悟を決めて一発ぶちゅっと・・・。」


・・・バキッ!!!

『ぶちゅっとやっちまおうぜ』のまを言いかけた辺りで問答無用の鉄拳が炸裂する。

「・・な・・なぜ殴る・・。」

「・・もういい・・。コメントするのが情けなくなってきた・・。」

ほとんど漫才のようなやりとりが展開して・・・、


しかし・・、

「なんだ・・?なんか嬉しそうじゃないか?お前。」
「・・別に。」

そんなやりとりにタマモは少しだけ胸を撫で下ろしていた。
先程までの・・少し重苦しい雰囲気が消え去ったことへの安堵・・。

・・・。

正直、不安がぬぐえないのだ。

先刻のように・・横島の過去に・・、いや、過去に根を下ろす深い傷跡に触れたとき、
彼がひどく遠くにいるような・・そんな錯覚を覚える。

もっと・・色々なことを知りたい。
自分でもなにか力になれるかもしれない。

そう思う反面、今ある自分たちの関係が簡単に崩れてしまうような気がして・・。


・・・・。


「じゃあ、そのジェニファーと濃厚なキスでも交わしてて。
 私・・外で飲み物買ってくるから。」

沈み込む気持ちを、わざと軽い口調でごまかした。


「へいへい・・。あ・・どうせ行くならオレの分も買ってきてくれ・・。」

「分かった。・・ブラックでいいの?」

・・いつもと変わらない会話。
いつもと変わらない何気ない言葉。

それでもいいと、タマモは思った。そう、今のまま関係でも・・自分には上等すぎる。

「ブラックかぁ〜。・・まあ今夜は徹夜になるかもしれないしな。」

「・・あんたと朝帰りなんて・・御免こうむりたいわね。」

ため息交じりにそう言いながら、お互いに少し笑いあって・・、


そして少女はドアのノブへと手をかけたのだ。
             

              
               ◇
               
                           
                

「♪〜」

タマモが自販機を後にしたころ、時計の針はすでに9時を回っていた。
特別気分がいいというわけではないが、帰路へつく足取りには自然と鼻歌が混じってしまう。

「これ以上長引くと本当に徹夜になりそうね・・。」

腕にコーヒーを2つ抱えながら、横島のセリフをなぞってみる。

冗談抜きで朝帰りなどしようものなら・・シロやおキヌ、そして美神に何を言われるか分かったものではない。

(きっと・・怒るんだろうなぁ・・。)

不機嫌そうな3人の様子が少し目に浮かんで・・、
タマモは軽く苦笑していた。

・・まあ、追求の手が伸びるのは主に横島なのだろうが・・
それはそれで、かわいそうな気がしなくもない。

「・・仕方ないわね・・。ちょっとは急いであげるか・・。」

ため息をついた後、タマモは小走りに駆け出していた。
本当に静かな闇の中、外には・・街灯の放つ薄明かりだけ・・。


・・・・。


・・その時だ。



不意にタマモは・・自分の体がぐらりと揺れるのを感じた。
首筋に鈍い痛みが走る。

(・・・!?)

何者かに背後から襲われたのだと・・、彼女が認識できたのはしばらく後のこと。

『油断しすぎた・・・』
一瞬だけそう考えて、しかしすぐさまかぶりを振る。

――・・・油断・・?・・バカな・・。

いくら気が緩んでいたとはいえ、妖孤である自分が・・こうも簡単に接近を許すはずがない。
考えられるとすれば敵がよほど強力なケースか・・・・、もしくは・・。

――・・・・。

(・・せめて・・顔だけでも確認しないと・・)
後に残された横島になにか手がかりを残せるかもしれない。

起き上がることはできなかったが、タマモはなんとか顔を上げて、

そこで・・・

「・・・なるほど・・・。そういう・・カラクリだったの・・・。」

悔しげに唇を噛んだ。








・・意識が遠のく。













――夜の帳が降りる中、得体の知れぬ哄笑だけが・・・その場に低く響いていた。




〜その3に続きます〜

今までの コメント:
[ 戻る ]
管理運営:GTY+管理人
Original GTY System Copyright(c)T.Fukazawa