ザ・グレート・展開予測ショー

『キツネと仕事とウェディングと その2 前編』


投稿者名:かぜあめ
投稿日時:(03/ 7/16)



〜キツネと仕事とウェディングと その2 前編 〜



式場の片隅で・・青年が一人、やる気なさそうに腰掛けていた。
彼はなぜかその身を、似合わないタキシードで包んでいて・・。

「・・悪かったな・・。似合わなくて。
 あ〜もうやってらんねぇ・・。結局こうなっちまうんだからな・・・。」

頭をボリボリかきながら、なげやりにそう口にする。
ぼへ〜っとしたまま天井を見上げて・・・

「・・やっぱ・・気乗りはしねぇよな・・・。」
少しだけ顔を歪めながら、いつの間にかそう漏らしていた。





結婚式。


その単語から連想できる思い出は・・・・本当にいくらでもある。

昔、親父とお袋の馴れ初めからゴールインまでを延々と聞かされたことがあったし、
そういえば以前、小鳩ちゃん相手にこんな真似をしたことがあるような・・。・・それを言うなら美神さんともか・・。


・・・。




たった一つの言葉から・・たくさんの記憶がこぼれ落ち・・、
結局それは・・たった一つの思い出へと収束していく。






――『・・結婚ってどんな感じなのかな・・。』

ある日「彼女」は脈絡もなくそう言いだして・・、

『?なんだよ突然。魔族にだって結婚ぐらいあるだろ?』

気が付くと、自分は間抜けな答えを返していた。

『それはそうだけど・・。私が言ってるのはそういうことじゃなくて・・・・。
 その・・つまり・・ヨコシマと私が・・ってことよ。』


『・・う〜。金銭的な都合で今すぐってのは無理っぽいぞ。』

突然問われたことへの戸惑いと、何故か感じた気恥ずかしさから、冗談めかして伝える自分。

それに彼女は・・、

『ふふっ。分かってるわよ。・・いつかは・・ってこと。』
・・・彼女は・・
ひどく幸せそうに微笑んだのだ。




・・・・。

ああ、そうか・・・。
なにかひっかかると思ったら・・そういうことだったのか。


・・横島は少し背を起こして・・、気だるげに一つのびをした。



今ならば・・・あの時なにを言うべきだったのか・・、少しだけ分かる気がする。
アイツはきっと何を言っても微笑んでくれたのだろうが・・
・・それでも・・。



「・・・もう遅いか・・。」
嘆息する。

もう遅い・・彼女が命を落として以来、何度痛感させられたことだろう。

いくら探しても彼女の姿はどこにも見当たらない。
いくら呼んでも・・彼女の声は答えてくれない。

彼女は・・・




――「・・もう・・遅い?」

不意に聞こえた背後からの声・・自分でも呆れるほどに狼狽する。
横島は・・笑顔を貼り付けたまま振り向いていた。

聞こえてきた、よく見知った少女の声に・・いつもと同じ軽口を返そうとして・・、


「・・・・へぇ・・・。」

しかしそのまま固まってしまう。
視界の先にはタマモが白いドレス姿でたたずんでいて・・・、
その姿はいつもの少女のような彼女とは違う・・大人の魅力をたたえていた。

「・・化粧って恐いな・・。お前でもそんな風に化けるのか・・・。」

「し・・失礼ね。化粧なんて使ってないわよ。ただ着替えただけ。」

「む・・。そうなのか?じゃあなんだ?・・ああなるほど。
 たしかに胸の発育だけはもともとおキヌちゃんやシロより著しかったし・・そのせいか。」

なんだかセクハラ発言連発のセリフだが・・
そんな横島に・・タマモはいつものようにムキになって反発せず、

「ねぇ横島・・。もう遅いって・・なんのこと?」
少し沈んだ声でそんなことを尋ねてきた。

「・・・・。やっぱり・・ごまかせない?」
参ったと言わんばかりに横島は苦笑して・・、


・・・。
・・・・・。


・・いつもと同じだとタマモは思った。

目の前の青年は一見軽薄そうに見えて・・・自分が彼の「領域」へと入ることを決して許そうとしない。
そう・・会話を打ち切りたい時に・・彼は決まってこう言うのだ。




「・・・いつか話すよ・・。」


逸らされる瞳。
・・それは合図だった。
いつもの・・ただ軽口を言い合うだけの・・仲間同士に戻るための・・。

自分は彼について何も知らない。今のことも・・昔のことも・・。
本質的なことは何も変わっていないのだ・・初めてあったあの日から。

からかい半分の口論を交わしながら、そんなことを考えてしまう自分に・・

・・タマモは寂しげな笑みを浮かべていた。

                
         ◇

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