ザ・グレート・展開予測ショー

また逢いましょう、何度でも (後)


投稿者名:迅
投稿日時:(03/ 7/15)


(中より)


 彼女はただでさえ希薄な気配を儚げなものにして微笑した。話し終えてみれば、なんと短い話。御伽噺にも満たない。───真上にあった太陽が、ようやくビルの稜線に差し掛かり夕日になるまでの。
 唯一の聞き手である鴉は、その熱心な姿勢のまま彼女を見上げた。切なげな瞳の、切れ長な目を。縁取る長い、憂いた睫毛を。薄く笑みを刷いた赤い唇を。
 花束が風にはためいた。包装が夕日を反射して煌き、そして枯れた中身を抱いてなお美しく。
 鴉は彼女が口を噤んだのを見て取ると、やがてその傍を飛び立った。彼女に別れを告げるように旋回すると、やがて光の中へ消えていくのを、彼女は目を細めて見送った。
 またいつか、あの鴉が訪れるまで1人、街のノイズに身を任せる事のみが、彼女のする事。そう思って目を瞑ろうとするのを、彼女は逆にふっと目を見開いた。
 鴉が消えた光の先。何かが、彼女の胸中を揺さ振りかける。胸元に手を寄せ、ぐっと拳を作った。ああ、まさか。声にならずとも呟く。

 まさか。

 軽く、降り立つような音がした気がする。気がするだけ。実際に音がする筈が無い。彼女───ルシオラは、大きく目を見開くと声にならない声を上げて呼んだ。

 『ヨコシマ!』

 東京タワー、その最上に程近い足場に降り立った男───横島は、そんなルシオラの声には気付かず、ルシオラの足元にある枯れた花束を一瞥するとその横に立ち、動けないルシオラの傍とも知らず、穏やかな顔で夕日を見つめた。
 それはまるでいつかの日の再現のような。
 ルシオラは、伸ばしかけた手をそのまま差し伸べ、横島の腕に触れた。絡ませる事は出来ないため、やがてもどかしくなって抱き締めるように包み込む。
 横島はふと突然その服の上着に手を差し入れると、ふわふわした炎を3つ4つ解放して苦笑いした。ルシオラはその意図がわからず、首を傾げてその様子を眺めた。わかった事は1つ、彼は幽体離脱をしているわけでは無いと言う事。
 ルシオラはまず、彼が惨事に巻き込まれたのでは無いかと心配した。しかし、それを窺わせる様な様子は横島に無い。むしろ、清々しいばかりに笑んで、沈みゆく束の間の芸術を眺めている。折角の時間が勿体無いので、ルシオラはそれ以上考えるのを止めた。今が幸せならそれで───刹那的な時間に刹那的な思考。焦っても仕方が無い、横島の身体は、もうすでに透けかけているのを、ルシオラは見て取った。

 夕日が沈む。藍と橙のコントラストの比重が変わる。
 促されるように、もっときつく抱き締めた。
 すると、取り巻く蛍のような光。どこから?光源を探せば、それは何てこと無い。探すルシオラ自身から立ち上っている。手をみてももう原型は薄く、淡く発光していた。
 横島を包む蛍。いよいよ、彼の身体も透き通り、やがて夕日が消え───

 「またな、オレ」

 呟く言葉が、ルシオラにも聞こえた。


 『ええ、また。また逢いましょう』


 何度でも。



 呟く声が現世に言い置けたかどうか。







 終。

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 <あとがき>


 うう、一度に投稿しようと思ったのに長過ぎました…。かと言って2つに分けるのも間が悪いので、3つにしてみたら何だか読みにくいですね(涙)
 先日投稿した『また逢いましょう』(横島一人称)のB面。なんとルシオラ中心(苦笑)。普通美神だろって突っ込みは無しで。
 ちょっとある意味痛いのかもしれない。
 一部設定が間違っているところがありましたらすみませんです(汗)何せ原作のこの部分、入手していないので一度しか読んでないんですよ〜(涙)

 ところでコレを投稿したあと、コメントを付け足す場合は皆様、どうやっているのでしょう?左側に黒丸が付きますよね?賛成だと白丸だし、反対だと黒四角?
 ああどこから入力すればっ??!(汗)

 この5年間、六台目のチャリがパクられて沈む迅でした。6台目ぇぇ・・・!(涙)田舎なのに!

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