ザ・グレート・展開予測ショー

また逢いましょう、何度でも (中)


投稿者名:迅
投稿日時:(03/ 7/15)


(前より)



 私が初めて彼と出会ったのはまるで偶然のようだった。結局必然だったんだけどね。
 少なくとも私の方では彼に興味も何もなかった。どんな思惑と過程にしろ、パピリオの思いつきで一緒に暮らす事になっても、だから?なんて。そもそも同じ思考を持つ人格とだって見てなかった。…やな女だったんだね。
 そう言えばあの頃の彼と言えば、愛想笑いと怯えた顔しか見せてくれなかったのに。

 馬鹿な男。そんな風に評価が上がったのは───誉め言葉じゃないって?ううん、ちょっと違う。確かに上がってる。他にもアホとか間抜けとかボケとか、何よりスケベ!とか。それまでの機械でも見るような私の目が、確かに意思を持つそれだって認めた最初だった。
 どんどん不名誉な代名詞が増えて、でも、やっぱりイイ奴だなって思うようになるのに、そう時間は掛からなくて。
 アレやってコレやって───いっぱい我が侭押し付けて。大変だった筈なのにいつもにこにこして、応じてくれる彼。私、そのときもうきっと、彼に頼るって事を覚えてたのね。

 忘れられない。彼と2人だけで観た美しい夕日。刹那輝き、後は沈み行くだけの───そんな風に、命を散らして行こうと思って眺めていたのを、彼は黙って付き合ってくれた。
 彼が足を掴んで、落ち行く私を助けてくれたとき、彼は照れたように言った。また、一緒に夕日を観ようって。何度でも───。
 馬鹿だね私、すごく嬉しかったのに、胸の中から湧き上がってくる気持ちが分からなくて逃げ出してしまった。逃げた先の扉の裏で、どきどきする胸の上に手を置いて。その理由がわからなくって。

 愛するって気持ち自体は学習してたのよ?例えば大切な妹のベスパやパピリオ、アシュ様に向けるような、穏やかな愛は…。なのに、知っていたのと全然違うんだもの。あんなのも恋する事だなんて、愛する事だなんて知らなかったんだもの。
 彼は私の心を掻き乱した。そして唯一無二の存在に駆け上るまで、どれだけの時間が必要だというの。
 私達は愛し合ってた。魔族と人間が何?男の思考と女の思考があれば、それで充分じゃない。認められなくたって、お互いが良ければそれで良いに決まってる。そんな風に。
 ただ、最高で、最悪のタイミングで彼と出会ってしまっただけ…。そうでしょう?

 食い違ってしまう事はあるにしても。
 彼が守りたいものと、私が守りたいものは、違った。

 此処から先はね、私、実はよく知らないの。ほら、私は幽霊ですら無いから、見届けられなかった。
 あとは全部、毎年───命日って言うのかな、私が消えた日に、彼が知らせてくれてる。もう何年くらい経つんだろう、毎年毎年、彼は私を忘れないでいてくれて、逢いに来てくれるのよ。本人は独り言みたいに思って報告してくれるんだけど。
 私には気付いてくれない、けどね………ああ、仕方が無い事なの、おまえは気にしないでいいんだから。ふふ、心配性の鴉なのね。
 それでも、嬉しいんだ。死ぬ事───彼を助ける事は、自分でも吃驚するくらい怖くなかった。覚悟が出来てたからかもしれない。ま、目の前に幸せがちらついてて、かなり惑わされたんだけど。
 何より怖かったのは、私の目の前で彼が消える事。想像しただけで血の気が下った。私が、彼が消えるという事を知覚するのは、許せなかった。
 次に怖いのはこんな風になってから知ったんだけど、忘れられてしまうこと。誰かのものになってもいい、そう思うけれど、彼の中に私の居場所が無くなる事は嫌で…一年に一度、彼がこの場所に花束を持って訪れるとき、言いようも無く幸せになれる。彼を待つ364日ぶんだけの不安が、残りの一日で帳消しにしてくれるなんて、ちょっと吃驚よね。でも、やっぱり…この間来てくれたばかりだからまた何ヶ月も待たなきゃなんて…。う、やっぱり寂しい。

 そうそう、私の生まれ変わりだって言う子がずばり、彼の子供として転生したんだけどね、私の命日がその子の誕生日なのよ、すごいでしょ?もう4歳なんだって。流石に恋人は望めないけど、幸せになれるといいなあ…将来までずっとね。今はもう間違いなく幸せよ、何たって私なんだもの。横島の傍にいる以上の幸せってある?
 いつか、もっと時間が経って、ずっと後になるかもしれないけど、何度転生してでも彼に出会うよ。今度は何の制約も無しに。
 なんて素敵な事、おまえもそう思うでしょ?


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