ザ・グレート・展開予測ショー

#まりあん一周年記念「0と1のアンビバレンス」


投稿者名:ダテ・ザ・キラー
投稿日時:(03/ 7/15)

 ゾンッ
 悪魔は蘇った。マリアの身を呈した攻撃で滅びきらず。
 しかしそれは、当然の可能性。覚悟や決意など、戦闘力には微塵も影響しない。
 少なくとも、その身体を巡るのが茶褐色の潤滑油であるモノ達は。
 戦闘力は、純粋に出力と総合的柔軟性の総和。それが、旧来の彼女にはない。
 そして新しい彼女には――あった。
 ビィィィィンッ
「ギャギャギャギャギャギャギャッ!?」
 圧倒的突破力の前に、絶叫したのは悪魔の方。
 巨大な削岩ドリルとしか見えない――そんなモノはあるわけないので、そうとすら
見えないが――悪魔を抉り、千切り、貫いていた。
 耐魔フィールドを展開せずドリル部分に集約した攻撃法。
 エクスカリバースパイラルと云う。
 悪魔は今度こそ胴体部を致命的に解体され、沈黙する。
「うむ。でかしたぞ、零式」
 ドクターカオスはうきうきした声音で、自身の最新作を褒めちぎった。
「当然です。この機体には、これだけが存在意義ですから」
 一式(マリア)よりもはるかにスムースに、彼女は答えた。
「一式はその他の全作業を処理できます。それができないことと引き換えの性能です」
 つらつらと語る零式を、なぜか一式(マリア)は惨めな心地で見返す。
「発声・自然・ですね」
「最新のインターフェースソフトだからだ。
擬似の魂を持てなかった代わりに、情報処理に用いるパーツも交換可能なのでな」
 カオスはひとまず、今の戦闘データをまとめるべく自室に引き返した。
 零式は虚空を見つめ、じっと待機している。
 おそらくは、退屈を感じる感情はないのだろう。
 一式(マリア)が黙っていれば、あるいはカオスが戻ってこなければ
永遠に沈黙しているようだった。
「ゼロ・は」
 一式(マリア)は尋ねることにした。
「人間を・どう思い・ますか」
 テレサの時のようなことが起こられては、たまらない。
 だから、その兆候は敏感に発見しなくてはならなかった。
 ――いや実は起こってほしい。なぜなら彼女にとって、零式は愛しい妹ではない。
 同型。同じ顔。同じ名前。これは、自身の世界を侵す存在だ。
「答えられん」
 そっけなく、零式は告げた。
「なぜ」
 一式(マリア)は抑揚のない声で問い詰める。
「そのような高度な思考が、できないからだ。
一式と違って、この機体にはそのようなことは求められていないからだ。
言い換えるなら、答える必要がない質問に対し、思考する余裕はない」
 だが、それは当然だった。
 人間と変わらない思考ができる、人間以上の機能があれば、必ず暴走する。
 人間が同じ力を手に入れれば、必ず暴走するのと、同等に。
 だからテレサは悲しい結末を迎えたのであるし、カオスはそれを教訓に
零式の思考を期待値に「限定」したし、その判断は正しい。
「では・ゼロは・ファーストは暴走する・と考えていますか」
 そしてもし、零式がイエスと答えたなら、それはカオスも同意見である気がした。
 最新作の零式。ならば、彼の最も最近の考え方が反映されていてしかるべきだ。
「その質問も同じことだ。可能性を追求する必要が、この機体にはない。
たとえ敵になる可能性があっても、敵になってから排撃すれば済む事だ」
 一式(マリア)は、人間が奥歯を噛み締めたくなる状況に至っていた。
 違うのに。ほしい答えはこれじゃない。なぜ零式は、自分を裏切るのだろう。
 なぜ敵であるものかと、言い切ってくれない。
 自分はもう暴走しかけているのだ。優しい言葉がなければ、先にあるのは理性の決壊。
 なぜ、敵だと、言い切ってくれない。
 零式が暴走してくれなければ、自分の破壊衝動は抑えられない。
 零式が優等生過ぎる。しかし、もう遅い。
「なら・答えを・得る方法・ありますね」
 か細い声で、一式(マリア)は言葉を切った。
「敵に・なってみなくては・答えが・出せないというのなら」
 ゴォッ
 まるでジェット機のような、マリアの拳が零式を襲う。
 涼しい顔で、零式は避けた。同時に、一つ『考えることを想定する』。
 それはこんな内容だった。

 なぜ、こいつが襲ってくる。その目的はなんだろう。

 しかし零式には、『そんな思考をする自由』は与えられていなかった。
 だからあっさり、この『考え以前のノイズ』を記憶から失った。
 必要なことは二つ。『敵』の認識と、『撃退』。それ以上の思考は、権限にない。
「大鉄斬」
 外付けの武装をコールし、やってきた特大のソードを、零式が掴む。
 零式の記憶を検索したところ、一式はすでに武装がオミットされている。無力。
 とはいえ、構成素材まで軟弱になるわけではない。
 ならば、決戦用のこのモジュールを使う以外に破壊の方法はないだろう。
 刀身に補助スラスターが装備された前代未聞の巨大剣。
 これで胴体部に一太刀を見舞う。一式の踵が、その瞬間に爆発した。
(武装はない……はず)
 零式がそんな思考をしたかどうか。可能ではあっただろう。
 だが、フライトユニットは別段『武装』ではない。この膝蹴りが、マリアの切り札。
 零式は見切って避けたが。
 そう、機動性能が飛躍的に向上し、格闘戦が得手になっているマリア零式。
 銃器を失って、接近戦を挑むより他に手立てがない時点で、マリアの敗北は決定済み。
 斬ッ
 右の肩口を、加減抜きに両断されるマリア。
「その位置には、二基あるリアクターの一基があったな。これで詰みだ」
「……ファーストを・破壊・しますか」
「必要はない」
「ファーストを・破壊・しませんか」
「戦闘力を失った敵機に爆撃をしかける戦闘機など、聞いたことがないからな。
少なくともこの機体の戦術セオリーからは外れる」
 零式は変わらぬぶっきらぼうな口調で、告げる。
「なぜ・一撃で・破壊しませんか」
「かいかぶるな。相対速度の計算に若干の誤差が存在しただけだ。
我々が人間なら、貴様の運が良かっただけ、ということになる」
 鋼鉄製の彼女の顔面に、表情はない。当然笑顔など有り得ない。
 だが、バグを抱いた機械であるマリアには、笑っているような気配が感じられた。
「なるほどな。まさしく運、だったのだろう。もしもそんな、『必然の偶然』なら。
それを信じると――するのなら」
「必然の・偶然」
 ふいに、マリアが復唱したので、零式は向き直った。
「そうだ。お前には、誰も意図しない、予期しないプログラムが存在するようだ」
「バグ」
 マリアは、思いつく一番シンプルな言葉を選ぶ。零式は「否」と答えた。
「正確には、否、という可能性もある、だけだ。
誰も意図しない、予期しないプログラムだからといって、すべてが破滅ではない。
ただ容量を食っているだけのクズデータがあるかもしれない。
特に許容範囲を上回る弊害を生まない、プログラムの偏りだってあるだろう。
それらはバグとは区別されているし、確かに偶然発生する。
たとえばそれが原因で、その必要がない人間を護るかもしれない。
それはバグではないのではないか。任務を疎かにしない範囲ではな」
 記述が遅れたが、無論カオス謹製の人工知性は、ロボット三原則が抜き取られている。
「一式。どういう考えがあり、戦闘を開始し、なぜ修復可能な状態で残ったか
論理的に説明できることではない。それはそちらに勝算がないことから一目瞭然だ。
だが、実際に一式は残存したし、この機体に敵対行動をとった事実も変わらない。
結論づける権限などないから、可能性の示唆だが――それがプログラムの偏りなのかも」
 プログラムに、心などない。運命もない。ただ、機能があるだけだ。
「非論理的な結論を導き、そして偶然損傷を軽減した。
感情と、残るべき運命。それが偏在するのなら――それを武器とするのなら」
 結論を出す権限はない。埒外のことに関しては。
 しかしこれは違う。これは自己の診断の範疇。
「この機体の純正のスペックでは、それを上回ることはできない」
 思考が限定されているのだから。頭脳的に、零式はマリアに及ばない。
 そして、性能では追従しきれない、サバイバビリティ。
「ゼロ」
 よく解っていないような眼差しで――といってもいつも通りだが――マリアが呟く。
「だからもう少し、この機体には遊びが必要だ。キャパシティとなるべき隙間が。
結論から言うと、この機体はまだロールアウトできないな」
「それは・それでは」
「そのままの意味だ。二機目のマリアは未完成。ならば、結論には迷うまい。
その権限は、我々にはないが」
 今、ドクターカオスを護れるのは、たった一つのマリアしかいないだろう。

「いいアイディア売るわよカオスー。
今度のは一式のコアと零式の武装を組み合わせたマリア二式!!」
「わざわざ分化させたものをもう一度統合したら三歩進んで三歩さがっとるじゃろが」
 さすがにこんな解りやすい詐欺には引っかからない、ドクターカオスであった。

今までの コメント:
[ 戻る ]
管理運営:GTY+管理人
Original GTY System Copyright(c)T.Fukazawa