ザ・グレート・展開予測ショー

ひのめ奮闘記(その32)


投稿者名:ユタ
投稿日時:(03/ 7/14)



「・・・・・・・清算?くくく・・・・笑わせないで下さるかしら」

京華は不適な笑みを浮かべながら立ち上がると髪をかき上げながら言った。
先程までの錯乱した態度ではなく本来の自信の溢れた口調、
ひのめの突拍子もない言葉がむしろ冷静さを京華に与えた。

「その珍妙な霊具で何を見たかは知りませんが・・・
 あなたごときがわたくしをどうとでも出来ると思っていますの?」

「思ってるわよ!」

ひのめ凛とした言葉に京華はふんを嘲笑ってみるが・・・

「なめるんじゃないですわ!!」
「!?」

あっという間にひのめとの距離を詰めてみせた。

ここまで来て霊力、体力共にかなり消費しているはずなのに京華の動きはまるで鈍っていない。
ひのめは驚きつつも京華の修業の過酷さゆえかと納得してみるが、同時に自分も練習量は負けてないと言い聞かせた。

(右ストレート・・・これをガードして懐に飛び込む!)

京華にしては珍しい大振りのパンチを見てひのめが算段を立てる。
しかし、

ガッ!

「!?」

右拳が開き掌がひのめの左腕を掴んだ。
予想外の展開にひのめは慌ててその手を『切ろう』とするが・・・

「三世院流術式、五天陰殺(ごてんいんさつ)!」

その声と共に京華の指がずぶずぶとひのめの左腕沈んでいく。
かなり気味が悪い光景なのに不思議と痛みは感じない。

「このぉ!!」

余った右腕で京華に右フックを見舞ってみるがそれはバックステップで軽々とかわされてしまう。
だが、気を取り直して左腕の状態を確認してみる。
痛みはない、神経が麻痺して動かないなんてこともない・・・・まるで何事もないままだった。

「失敗だったみたいね!!」

はんっと笑みを浮かべるひのめ。
しかし京華もまた嘲笑似たものを浮かべると右ミドルキックをひのめに向かって放った。

「そんな見え見えの蹴りなんかぁ!!」
『ひのめ!受けるな!よけるわさ!!』
「へ!!?」

心眼の声に反応に思わず左腕を下ろすが急なことだったせいでその蹴りが左腕にかすった。
もちろん普通ならダメージは全然受けないのだが・・・

「いだあぁぁぁ────っ!!!」

まるで針を千本刺されてたような痛みと重い物をぶつけられたような痛みが左腕に走った。
苦痛に顔を歪め右手で左腕を押さえる。何でと言った表情で。

『ひのめ!霊力が、左腕に霊力がまわらないわさ!』
「な、なんですって」

驚きと苦痛で顔を歪ませるひのめに満足したような笑みを浮かべ京華が口を開いた。

「三世院流術式、五天陰殺。・・・五本の指に霊力を込めそれを相手に叩き込むことによって
 強制的に相手の霊脈を断つ『封技』の反転術・・・・ふふ、次はチャクラに打ち込んでみせましょうか?」

『守』、『封』、『治』・・・およそ攻撃に向かない能力を才とする三世院家。
それを応用し生み出された攻撃用霊術『三世院流術式』。・・・『五天陰殺』もまた相手の霊力を封じ滅するという技だった。

「つまり・・・もう左腕には霊的防御能力はないってこと・・・?」

『そういうことになるわさ・・・まともに霊力を込めた攻撃を喰らったら・・・簡単に骨が折れるわさ』

一生とまではいかないまでも少なくとも今の戦いにおいて無力と化した自分の左腕に苦笑いするしかないひのめ。
ただでさえ押されているのに左腕を失ってはほぼ勝機はないのだから・・・

「・・・・さあ、どうしましたの?・・・・全てを清算して下さるんじゃないの・・・」

両手を広げ一歩一歩迫ってくる京華にひのめはジリジリと後ずさった・・・・。

(考えろ・・・考えろひのめ・・・。まだ・・・まだ終わってない・・・!!)

自分に落ち着けと言い聞かし策をめぐらせる・・・・が

(ああああああああ!!!やっぱ思いつかない!!!
 くっ!私にお姉ちゃんくらいの卑怯さとママくらいの冷酷さがあれば何とかなりそうなのにぃぃ!!)

基本的に母と姉より正義感のあるひのめは少し混乱気味。
しかし、そんなとき頼りになるが相棒というものだろう。

『ひのめ・・・あんたどうしても負けたくない?』
「へ?当たり前じゃない」
『・・・・・・どんなことにあっても?』
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・どんなことにあっても」

心眼の言葉が真剣だと分かるとひのめもまた真剣に答えた。
霊力封印によって送ってきたコンプレックスの苦悩の日々・・・そして京華の苦しみ・・・
全てを片付けるためにここで負けるわけにはいかなかった。

『はぁ・・・・・・・・・・・・・・・やれやれ・・・じゃあ使ってみるかい?・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・発火能力』
「っ!!!?」

心眼の言葉にひのめの瞳が今日一番の驚きで丸くなった。






ヒュウゥゥ・・・・

夕焼けに照られる幸恵とかすみの間に一陣の風が吹きぬける。
幸恵が居合いの構えを取り、またかすみがトンファーを構えて2分が経過した。
2分といえば短く感じるかもしれないが、戦っている二人とっては永遠とも思える時間・・・

かすみは考える・・・

(隙がない・・・・)

右手を即席木剣の柄に添えたまま動かない幸恵の気にツーと汗が流れる。
だが、焦るな・・・と自分に言い聞かせると、得意の戦力解析を行う。

(この子は強い・・・・身体能力も霊力も私を上回ってる・・・・・・でも)

かすみはチラっと幸恵の武器に視線を向ける。

(武器は刀とは違って反りも鞘もないおよそ抜刀術に向かない木製のモップの柄(え)・・・・・・)

そして自分の武器を考える。

(強度と防御力の高い神通トンファー・・・・・・ ・・・・・・・・・ ・・・・・・・・勝てる!!)

かすみが勝算を生み出した瞬間!
両者の瞳がカっと見開いた。

ダッ!
ダッ!

同時に地面を蹴り地を駆ける!

「うおおおおおおおおっっ!!!」
「うああああああああっっ!!!」

同時に咆哮を挙げた瞬間!

幸恵の抜刀が先に煌いた。
それを洞察するように見つめるかすみ。
右足の踏み込み!腰の回転!体のこなし!右腕の振り!
幸恵の一挙一動をかすみの動体視力が見事に捉えた。

(狙いは・・・・)

幸恵の動きから即席木剣の軌道を予測する。

「右側頭部っ!!!」


ガアアアアアアアァァァ────ンっ!!!


凄まじい轟音と共に幸恵の抜刀術とかすみのトンファーが衝突した。
かすみは自分の予想が当たった事とその衝撃に驚くが・・・・・

「私達の・・・・勝ちだぁぁぁぁぁっ!!!」

残りの左手のトンファーがヒュンヒュンと風を斬り回転させる。
これで脳天を打って終わりだ!!とかすみが勝利を確信した瞬間・・・

ピシィ!ミシィ!ピシ・・・キシぃ・・・

何かが軋み砕ける音・・・
幸恵の技の威力と衝撃と霊力に耐えれず砕けるモップの柄・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・と神通トンファー。

「なっ!バカなっ!!」

目の前の光景に嘘でしょと驚きで目が丸くなるかすみ。
モップの柄はともかく神通トンファーが砕けるなんてと・・・


パアァァァ────ンっ!!!


甲高い音と共に弾け砕ける両者の武器。
その衝撃で思わずバランスを崩すかすみ・・・・・・・・・・・・・だが、
幸恵はその衝撃と抜刀の勢いを利用してさらに一回転をし遠心力を加える。

ギュンッ!!

右足を軸とした裏拳、それが幸恵最後の攻撃。
間合い、相手の隙、タイミング、全てが重なった瞬間・・・
かすみはその手の甲の動きがやたらゆっくりと見えるのだった。

(・・・・・・・・やられる)

静かに目をつむるかすみ、しかしその心は不思議と穏やかだった。
7年前、1年前・・・・京華が狂気にやかれ走っても何もしなかった自分・・・・。
その結果がこれなら・・・・・・・・・・・・・仕方がない・・・これでいい。
そんな気持ちだった・・・・

だが・・・









パンッ!!

「!!!?」

右頬に走った痛みに思わず目を開けパチクリさせる。
なぜなら・・・痛みの大きさ、質が違ったから・・・・そして・・・


・・・幸恵がポロポロと涙を流しているから・・・


1m程の距離を開け立ち尽くす二人・・・先に口を開いたのは・・・、幸恵のほうだった。

「もう嫌・・・・・」

「え?」

かすみはビンタでヒリヒリ痛む頬を押さえながら、袖でゴシゴシと涙を拭う幸恵を不思議そうに見つめた。
そのまま泣き出しそうになるのを幸恵は必死に堪えると鼻をすすりながら叫んだ。

「もう誰かが悲しんで傷つくのは嫌!戦うのは嫌!!
 何でこんなに辛い目にあってるのにぃ!!!
 ひーちゃんも三世院さんもあなたもこれ以上傷つかなくちゃいけないの・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・」

「三世院さんも・・・橘さんもずっとずっと傷ついて・・・・。
 もうやめようよ・・・こんなことしたって何も変わらない・・・
 誰かが止めてあげなきゃ・・・・何も変わらな・・・ぐす・・・いよ・・・」

緩む涙腺。
幸恵は本心を吐露するようにこぼした。
現実を知らない甘っちょろい戯言かもしれない・・・
でも・・・分かるから。心友のために何でもしてあげたいっていう気持ちは痛いほど分かるから・・・
感受性の高い・・・いや、人より少し臆病で気弱だった幸恵、
それがここまで明るくなったのもかけがいのない友人と出会ったから・・・だから・・・

「間に合うかな・・・・」

「え?」

「私でも・・・・今から京華を止めること・・・・出来るのかな」

かすみの言葉に少しだけホケっとする幸恵だが、やがてちょっとだけ涙を浮かべた目を緩ますと。

「うん!きっと出来るよ!」

と、笑顔で頷いた。
さっきまで闘っていた相手の笑みに少しだけ目を丸めつつも、
かすみも小さく頷いて笑って見せる。

「私も協力するから♪それから・・・・私のことは『幸恵』でいいよ」

そう言って差し出された右手にかすみは苦笑いをしつつ握手をする。
幸恵のほんわかとした人柄になぜか心が和む。
きっとこれが彼女の人間性なのだろう・・・・と思いつつ・・・・
















(あれっ?・・・戦えないって・・・・・・この子・・・・・さんざん突いて、叩いて、斬って、
 しまいにゃ飛(ピ────)流奥義もどきみたない抜刀術してたような・・・)

何か和やかな雰囲気に重大なことをごまかされているような気がしてたまらないかすみだった・・・・・・・・・





                              その33に続く

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