ザ・グレート・展開予測ショー

彼の大きさ(10−3)


投稿者名:AN
投稿日時:(03/ 7/14)

 そして、その空間の穴にあったのは―
「ちょっと・・・」
「マジか・・・」
「なに、あれ」
「・・・クズが」
 その別空間にあったのは、かつて、己の閉じ込められた魂の牢獄から抜け出そうと足掻いた、一人の魔神の片割れに酷似したものだった。
 その姿を見て、ある者はそれの持つ圧倒的力を、ある者はそれの招いた結末を、そしてある者はそれを倒すために散った者の姿を思った。
「猿真似か?」
 心底軽蔑した目でジャッカルを見ながら横島は口を開いた。
 彼にとってこれを見せられるのはあまり気持ちのいいものではないのだ。
 それを知っているので、周りの者は何も言わなかった。
 だが、何事にも例外はある。
「先生。あれは一体なんなんでござるか?」
「なに?みんな知ってるの?」
 あの事件に直接関わっていない二人は、純粋に自分の持つ疑問の答えを得ようとしていた。
「ちょ、シロちゃんにタマモちゃん」
 そんな二人を止めようとオキヌは声をかけようとした。
 今、そんなことを蒸し返すべきではない、と思い。
 だが―
「・・・運命なんて言葉は嫌いだけどな、その運命から逃れようと必死になったある男の纏った鎧に似ているんだよ」
 そう、横島は軽く、それでいて重い言葉で答えた。
「先生・・・」
「ヨコシマ・・・」
 今までにない横島の雰囲気で二人は黙った。
「で、なに猿真似をして威張ってるんだ?ジャッカルさんよう」
「猿真似?猿真似と言うんですか!君は!」
「だろ?現に俺達はそれと戦ったことがあるんだからな」
 横島の「猿真似」と言う言葉に異常な反応をジャッカルは示した。
 その反応に眉をひそめながら横島は会話を続けた。
 マントの下で指を動かしながら。
「ジャッカル」
「狂乱角さん・・・ふ〜。いや〜すいませんねえ。ちょっと取り乱してしまったようで」
「ちょっとか?」
「ははは。痛いところを突かれる。横島さんは」
 軽い横島のツッコミにも、ジャッカルはいつもの笑みで対応した。
「で、あんたは猿真似の作品を見せて、なに威張ってるんだ?」
「いやいや。まず、あなたがたの誤った認識を修正しなくてはいけませんねえ。猿真似と言うのはですね、あるものをそっくり真似た物のことなんですよ。
で、あなたがたは私のこれを見る前に似たものをご覧になられている。よって、私のを見たとき、これを猿真似のものだと言われる」
「実際そうなんだろ?」
「言ったでしょう。あなた方の誤った認識を修正すると。つまり、オリジナルの『究極の魔体』は私が創りあげたこれなのですよ!アシュタロスが作ったのは私のデータを元に作ったまさに二番煎じな、模造品なんですよ!!なのに―」
「その辺でよかろう。さっさと我らの目的を達成させるぞ」
「・・・狂乱角さん。なんか最近私に冷たくありません?二人で愛し合ったあの・・・なんてありません。戯言です。ごめんなさい」
 狂乱角に嫌味と共に文句を言おうとしたジャッカルだが、瞬時に首筋に当てられた刀を見て、平謝りをしていた。
「で、目的は?」
 狂乱角に言葉をかけながら、横島は二刀の内の紅い一刀―横島の持っている刀は、真紅の輝きを放つ刀身の刀と、全てを飲み込んでしまうような、それでいて穢れることのない美しさを持つ漆黒の刀身の刀だ―を鞘に収め腰から抜き、黒い一刀を腰に差しなおしていた。
「なに。先のアシュタロスの使用した模造品は、悔しいことにオリジナルとほぼ同じ能力だったのですよ。で、その模造品をあなた方は壊すことができた。
それを知ったときの私の気持ちわかります?」
「わかんねえ」
「・・・悔しかったですよ。私の模造品が先に衆人の目の前に出て、そして人間なんか、模造品とはいえ私の最高傑作が人間なんかに壊されたんですよ!」
「わるかったな。人間なんかで」
「そして私は誓いました!なら、アレよりもより高機能なものにすればいいと!!」
「向上心が旺盛なこって。で?おたくの実験とどう関係するんだ?」
「ですが、そう誓うと同時に新たな興味を持ったんですよ。模造品とはいえ、アレを壊した人間は一体どんな奴なんだ、って。で、資料を集めたら、より興味を持ちましたよ。世界一の人間のGSではなく、見習いのGSの人間が中心人物でアレを壊したっていうんですからね。しかもその人物は希少価値のある『文殊使い』なんですよ。一瞬で気に入りましたよ。横島さん」
「・・・悪い。俺、ノーマルだから」
「つれないですねえ。まあ、そんな愛しいあなたのことを知りたいと思って色々とさせて貰いました」
「・・・例えば?」
「そうですねえ〜。例えば、あなたの普段の仕事振りを観察したり、実験に協力していただいた神・魔族の方々をあなたの元に送ったり」
「・・・あれはあんたの差し金かい」
 ジャッカルの言葉に憮然として答える横島。
 そして、ジャッカルの言葉に怒りを覚えるものもいた。
「ええ。いや〜、でも、最初のほうは驚きましたよ。情報と違って弱かったんですから」
「もともと俺は弱くて、ずる賢いだけなんだけどな」
「またまた〜。で、何回目でしたっけ?横島さんの能力検査で、ついに終わりか?と思った瞬間にあなた、やっと本気になってくれたんですよねえ」
「いつでも俺は本気だけど?」
「いえいえ。あの時やっと出したじゃないですか。あの究極の文殊『太極文殊』を。いや〜、アレを見た瞬間感動しましたよ」
「あっそう」
「で、あなたが欲しくなったんですよねえ。そして、あなたの能力を私のアレに入れたら、と思うとたまらなかったんですよ。それであなたをお連れしようと思ったんですけど・・・」
「俺が拒否しちまったって言うんだ」
「ええ」
「ふ〜」
 ジャッカルの独白を聞き終え、横島は軽く首を回した。
 美神たちは顔に怒りの表情を浮べている。ジャッカルの物言いが気に入らなかったようだ。
「で、俺一人のために飛行機内で襲ったって言うのか」
「ええ、そうですよ」
「でも失敗した」
「まことに残念ながら。ですが、他の資料を読んでみると他にも面白い能力を持ってる方々が多いので、そちらを代用することにしたんですよ」
「なるほど」
「特に『時空転移能力』これはまたとても魅力的でした。他にも、『死霊使い』や『十二神将』なども興味深いですねえ。で、欲しく思ったので、ご招待したのですよ。大事に思っていた男を消した者と同じ姿であり、強大な力を少しもらし、なにより、大事な男の聖域を汚そうとすれば、勝手に鼻息も荒くやってくる、と予測しましてね」
「あんたはー!」
「てめええ!!」
 ジャッカルの言葉を聞き、美神たちは怒声を発した。満足に動かぬ己の身体を怨みながら。
「つまり、あんなガラクタのバージョンアップのためにこんなことになってる、と」
 一番怒りを表さねばおかしい横島は、一番冷静に立っていた。
 だが、周りが冷静ではないのでジャッカルはそのことに気付かなかった。
「少し問題発言もあったように思いましたが、その通りですよ」
「ふ〜。で?」
「・・・で、とは?」
「いや、くだらない話は終わりか、って聞いてんだよ」
「くだらないって―」
「ああ。終わりだ」
「だ〜か〜ら〜。狂乱角さん!」
「一つ言うぞ」
「?なんです?」
「あんたのアレは日の目を見ない。今ここで壊されるんだからな」
「無理ですよ。どうやってここにない物を壊すと?」
 ジャッカルは横島に向けて、見下す笑みを見せた。
 が、それは横島も同じで、軽蔑するような笑みを浮べていた。
「なんです?その笑みは?」
「あんたの真似」
「な?!」
「一つ忠告。自慢するならちゃんと防御手段も考えときな」
「何を―」
 ―言う。と、ジャッカルが続けようとした時、グシャ、ボト、と言う音が聞こえた。

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