ザ・グレート・展開予測ショー

〜キツネと仕事とウェディングと〜


投稿者名:かぜあめ
投稿日時:(03/ 7/12)

「とにかく!!現在我々は危機に直面しているのです!!」


「「・・は・・はぁ・・。」」


語気を荒げる壮年の男に・・横島とタマモが相づちをうつ。
とある結婚式場の・・午後の応接室。

そこでは異様な光景が展開されていた。

なにが異様かといえば・・
2人が受けた依頼の主である目の前の男、
ひげ面に、全身を緑のデザインで包んだこの男が・・、

ものすごい剣幕で横島に顔を近づけて・・

(・・うわ・・もう現段階で最悪だわ・・この仕事)
横島は泣きそうな顔でため息をつく。


(「・・ちょ・・ちょっと!聞いてないわよ・・。私たちの担当はただの妖魔退治だって美神さんが・・」)

(「・・オレに言うなよ・・。・・一応書類上はそのはずだけど・・・。」)

そんなことをコソコソ話しながら、二人は件の依頼主へと目を向ける。

「NOォォォォォ!!冠婚葬祭・・年間行事の全てをとり行い早35年!!
 わが会社がようやく波に乗り始めたこの時期に!!よもや!!よもやこんなことに!!」

・・オーバーリアクションで部屋中を跳ねまわるその姿。
彼がこの会社の社長だというのだから笑ってしまう。
お前がNOだよというつっこみもあるが・・、とりあえず飲み込んで話を進める。


「お・・落ち着いてよ!!順を追って、何が起こったのか説明して。」

「時間が!!もう時間がないのです!!時間がぁぁ!!」

「・・聞いてないし・・。」

パニックに陥る依頼主に、頭を抱えるタマモ、

・・で・・「もういいや。くそっ今日はいい○も見逃したな〜タモさん元気かな〜」
・・なんてことをつぶやきながら、やる気なさげに窓を見上げる横島。

三者三様・・それぞれがてんでバラバラな行動を取り・・、はたから見れば割と平和な午後が流れていた。

・・・。

・・・が・・・、

「ええ〜い!!仕方ない!!今日あなた方を呼んだのは他でもない!!まずはコレに着替えていただこう!!」

そんなことを叫びながら、依頼人の男は洋服ダンスをあさりだして・・、
・・次の瞬間・・・平和な午後が凍りついた。

・・・。
・・・・・・。

「・・あの〜オレの見間違いじゃなければ・・これって・・タキシードとウェディングドレスっすよね・・。」

差し出された衣服を見て・・、おそるおそる横島が尋ねてみる。
対して壮年の男は・・、
「そう!!その通り!あなた方には・・今日一日、新郎新婦を演じてもらうと・・まあそういうことです。」

・・・なんてことを満面の笑みで答えたわけで・・・

・・・・・。

「「・・・・はい?」」
なぜか新郎新婦を演じることになった2人は絶句したまま固まっていた。





〜『キツネと仕事とウェディングと』 その1 〜





「「ちょっと待った(ってよ)!!」」

2つの声が重なった。

あまりといえばあまりな急展開。
・・考えるよりもまず口がでていた。

「ど・・どういうこと?どうして私とコイツが・・け・・け・・結婚!?なんで!!」

「・・い・・いや・・。お2人が驚くのも無理はない・・。しかしこれは仕方のない処置でして・・。」

・・半ばパニックを起こしかけるタマモに顔を引きつらせて・・
依頼主の男は汗を拭きながらそう言った。

年季の差なのか・・
一足早く立ち直った横島が、すかさず彼女にフォローを入れる。

「なあタマモ・・とりあえずここは話を聞いてみないか?」

「・・で・・でも・・。」

「・・・まあ、断るか断らないか決めるのは・・もうちょい後からでいいだろ?」
そう言ってぽんぽんと頭をたたく横島に・・なぜかタマモは急に黙り込んで・・、

(・・お?男の方はともかくお嬢ちゃんの方ははまんざらでもなさそうだな・・)

このパニックを作り出した張本人は全く悪びれもせずそんなことを考えている。


「・・で・・依頼の詳細教えていただきたいんですけど・・」

ため息をつき・・、仕切りなおしとばかりに横島がそう切り出した。
おちおち時間を無駄にもできない。真南にあった太陽が少しずつ西へと傾いている。

黙ったままに男がうなづき、数瞬の後、口を開く。

「半年ほど前のことです
 わが社が式をとり行ったカップルの間で・・妙な事件が起き始めまして・・。」

「・・妙な事件?」

「花嫁が消えた・・・と言ったら・・・あなた方は信じられますか?」                


                 ◇


式の最中に花嫁が消える。


サスペンスドラマの脚本としては、ありがちとしか言いようのないシナリオだが・・、
しかし現実にそれは起きてしまった。                                                                                                          
「わが社が設立してからちょうど1000組目のカップルでした。
 なにせ記念すべきことですから・・こちらも盛大に門出を祝おうと考えたのですが・・、」

「肝心の花嫁が忽然と消えた・・と・・。」

「はい。いざ2人の入場という時になって、新郎のかたが控え室をのぞくと・・。」

うめきながら話す依頼主に・・、横島は少し首を捻る。

・・どうにも腑に落ちないことが・・一つだけ・・

「・・ねぇ。それって単に新婦が逃げた・・とは考えられないの?
 聞いた限りではGSよりも警察向きの仕事だと思うんだけど・・。」

横からタマモが口を開いた。

・・そうなのだ。
話の途中なのだから当然なのかもしれないが・・依頼人の話からは霊の気配というものがいまいち見えてこない。
露骨に言えば結婚詐欺の一言で片付いてしまうような・・そうでなくても単なる失踪事件に落ち着くような内容だ。

「あなたのおっしゃることはもっともです。・・ただし事件が一回で済めばの話ですが・・。」

口に出すのも忌々しいとばかりに男の声のトーンが落ちていく。
ああ、なるほど・・と一瞬口にしようとしたが・・タマモはすんででそれをおさえた。

・・ようやく・・話のオチが見えてきた。

「・・つまり・・その後も事件は続いたってこと?」

「ええ。・・・というよりその事件以来まともに式がとり行えたことが一度もございません。
 2度目、3度目、4度目と・・、続けざまに花嫁が消え、その後3回は厳重な警備のもとで行われたのですが・・やはり」

「・・・ふむ。確かに普通じゃ考えられんわな。それで・・オレたちが8組目か・・。」

「・・若夫婦になりすまして・・犯人の目を欺く・・・理にかなってるわね・・。」

・・・。
・・・・・。

一通りのことを聞き終わり・・、2人もそれなりには納得した・・。
確かに理にはかなっているし・・筋もきちんと通っている。

・・・しかしである。

「・・ねぇ・・。本当にコイツと結婚の真似事なんてしなくちゃいけないの?」
タマモは本当にイヤだと言わんばかりの顔をする。

「・・だって本当にイヤなんだもん。」

・・言ってるし・・。

「まぁいいんだけどさ・・。こんなガキを花嫁にしようなんてさすがに厳しいじゃないか?」
横島も横島で半眼のままそう告げて・・、

「ガキとはなによ!!」

「人を煩悩の化身呼ばわりするお前に言われとーないわ!!」

・・・そのまま口喧嘩へと突入する2人に・・・
「あの〜それで仕事は・・。」
依頼主の男は・・冷や汗をかきながら尋ねたのだが・・、

「煩悩の化身を煩悩の化身って言ってなにが悪いのよ!」

「それならガキをガキって言っちゃまずいのかよ!!」

・・思いっきり無視されたのは言うまでもない。
口論は果てしなく続いていく。

(大丈夫なのか・・?この2人・・。)

窓の外はすでに日が暮れて・・アホウドリの鳴き声が聞こえていたという。


              ◇


微妙だ、と・・・廊下を歩く横島とタマモ心の底からそう思った。
事務所のメンバー中、やる気なさ度bPと2を争うこの2人でも・・一応、プロとしての自負はある。

第一、被害者が10人近く出ている以上見過ごすことなどできるはずもなく・・、

「・・どうする気?」

「・・さっき1回霊視してみたんだけどさ。手がかりらしい手がかりはなにもなし。
 やるしかないんじゃないか?・・結婚式・・。」

逃げ場なしとはこのことだ。少し眩暈を感じてしまう。


「・・一つ教えておくけど・・。あの依頼主・・多分まだなにか隠し事してるわよ。
 それも・・かなり重要なこと。」

しばしの沈黙のあと、ぽつりとタマモがつぶやいた。
そんな彼女に横島は視線を向けて・・、

「・・なんでそう思う?」

「・・勘・・っていったらそれまでだけど・・知ってるでしょ?犬神の勘は・・。」

「・・人間のそれとは違い、むしろ予知に近い・・か・・。」

横島自身体験ずみのことである。野生の血というやつだろうか・・。
実際、シロやタマモの「勘」には何度助けられたか分からない。

横島はあごに手をやった。

(隠し事・・・?あのヘンテコなおっさんが・・・?)

・・・。

「・・ふ〜ん。単純そうに見えて・・なかなか厄介そうな事件じゃねえか。」

感想を漏らす横島に、タマモは不敵な笑みを浮かべる。
「それも含めて・・どうするの?私としては花嫁をさらうなんていう悪趣味なやからには・・一つお灸を据えてあげたいけどね。」

大人びた口調。流石に金毛百面九尾の転生といったところだろうか。
少女の姿はしていても・・なかなか様になっている。

「・・・・。」
しかし・・そんな少し年不相応なタマモの様子を見ていると・・ちょっとからかってみたくなるのが人の常であり・・、

「へぇ・・。珍しくやる気だな・・。もしかして意外と楽しみなんじゃないだろうな?結婚式の真似事が・・。」
わざと意地悪く言ってみた。

「な・・なにバカなこと言ってるのよ!!そんなわけないでしょ!!」
さっきのクールな姿はどこへやら・・真っ赤になって否定する彼女に・・なぜか頬がゆるんでしまう。


やっぱりコイツにはこっちの方が似合うよな〜・・なんてのん気なことを考える横島は・・、
彼女がうろたえる理由など知る由もない。

横から聞こえる少し怒ったような・・それでいて澄んだ高い声。
ふいに感じた心地よさに目を閉じて・・、そのまま彼は廊下を歩いていくのだった。



〜(2)へ続きます〜


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